本業は研究者なんだけど   作:NANSAN

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EP11 黒き帝王

 贖罪の街へと辿り着いた第一部隊のメンバーは、教会の隣にある広場で待機していた。シスイがコンピューターを利用して予測演算した結果、ターゲットはこの場所に現れることになっている。現在もリンドウの腕輪反応はレーダーで検知しており、今のところは予測通りに移動していた。

 

 

「なぁなぁユウ。本当にここに来るのか?」

「シスイの計算ではそうらしいね」

 

 

 コウタが暇を持て余してユウへと尋ねる。

 この辺りに居た小型アラガミは、既に掃討済みだ。満を持して待ち構えることが出来ている。静かに待つことが苦手なコウタは、この沈黙に耐え切れずにいたのだ。

 シスイは侵入予測地点をジッと眺め、サクヤはどこか上の空となっている。ソーマはいつも通り目を閉じて時が来るのを待っているし、アリサはリンドウを閉じ込めてしまった教会の方を眺めていた。

 そんな時、インカムが繋がり、ヒバリの声が聞こえてくる。

 

 

『気を付けてください。まもなく、目的のアラガミが侵入します。侵入予測地点に変わりはありません。これは……速い!』

 

 

 オペレーターが『間もなく』と言ったとき、基本的には十秒から三十秒ほどの余裕があると考えて良い。だが、そのアラガミは早すぎた。

 

 

「皆! 来たよ!」

「え? もう!?」

「早すぎます……」

 

 

 ユウがそう叫ぶと、コウタは驚き、アリサも目を見開いた。ベテランであるサクヤとソーマはすぐに迎え撃つ陣形を整え、目的のアラガミを見据える。

 ビルの合間を縫って広場へと現れたそれは、黒く、大きかった。

 

 

「そんな……まさかっ!」

 

 

 アリサが動揺して一歩後ろへと下がる。

 ヴァジュラに近い四足歩行、人間にも似た顔……自分の両親を喰らったアラガミだった。感応現象によってそれを知っているユウは、咄嗟にアリサをかばうようにして立ち位置を変える。そして真っすぐにそのアラガミを睨みつつ、声を張り上げた。

 

 

「落ち着いてアリサ!」

「で、でも……っ!」

 

 

 動揺するアリサを見て、サクヤも思い出す。目の前の黒いアラガミは、病室でユウに教えてもらったアリサの両親の仇と特徴が一致していたのだ。

 更に追い打ちをかけるようにヒバリからの通信が入る。

 

 

『リンドウさんの腕輪反応はそのアラガミから出ています。データベースを参照……接触禁忌種ディアウス・ピターです。強力なオラクル反応を放っています。気を付けてください!』

 

 

 流石にこの短期間で完全なアラガミ化までは進行しない。

 つまり、このアラガミはリンドウを喰らったということになる。

 

 

「アレがリンドウの仇……」

 

 

 サクヤは身を固くして銃を構える。

 かつて一度、ロシアで街を壊滅させた第一種接触禁忌種ディアウス・ピター。

 新しい獲物を見つけたピターは凄まじい咆哮を上げた。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 

 通常のアラガミとは一線を画す接触禁忌種に、ユウ、サクヤ、コウタ、アリサは動けない。特務で接触禁忌種にも慣れているシスイとソーマだけは、すぐに動くことが出来た。

 

 

「アイツの仇だ!」

「僕も行く!」

 

 

 空気を裂くようにしてバスターブレードを薙ぎ、身を低くしてピターへと走り寄るソーマ。シスイも同様にヴァリアントサイズを構えつつ、ソーマと挟撃できるように近寄り始めた。

 それを見てユウもワンテンポ遅れつつ走り出し、サクヤとコウタは銃を構える。アリサは初めこそ動揺していたが、既にトラウマは乗り越えている。いや、心の傷はそのままだが、今は共に戦える仲間もいるのだ。それ故に落ち着きを取り戻し、アサルトを構えた。

 

 

「死ね」

 

 

 ソーマが大きく振りかぶったバスターを振り下ろす。中型種なら一撃で真っ二つになる威力だが、ピターは余裕の表情でそれを受け止めた。

 高い金属音がしてソーマの攻撃が弾かれる。

 驚愕の表情を浮かべつつ体勢を崩したソーマに、ピターの爪が凶刃となって振り下ろされた。

 

 

「ごはっ……」

 

 

 咄嗟に背後へ跳ぼうとしたが、体勢を崩した状態では少し足りない。ソーマの体は切り裂かれ、血を撒き散らしながら大きく吹き飛ばされた。

 神機こそ手放さなかったが、地面を大きく転がってようやく止まる。

 

 

「ソーマ!」

「余所見しないでコウタ!」

 

 

 焦るコウタにサクヤは冷静なまま答える。ゴッドイーターの中でも破格の回復力を持つソーマならば、あの程度の傷で倒れたりはしないと分かっているからだ。

 それよりも、今はピターと正面から戦っている残り二人を援護しなければならない。

 ソーマを吹き飛ばしたことでシスイに背後を取られたピターは、バーティカルファングによって伸ばした咬刃を叩き付けられた。

 だが、やはり高い金属音がして弾かれる。

 

 

「硬すぎる。ユウ君も気を付けて!」

「分かった」

 

 

 シスイとソーマの攻撃で、ディアウス・ピターは背中が堅いと分かった。ならばと考え、多くのアラガミで共通の弱点である顔を狙う。

 

 

「はあああああっ!」

 

 

 振るわれたユウのロングブレードがピターの顔を切り裂くと思われたが、ピターは素早い動作で後ろへと跳び下がり、見事回避する。実力を付けたユウの速度を上まわって回避したことに、誰もが頬を引き攣らせた。

 それでもとサクヤは援護射撃をするが、そのどれもがピターに回避される。

 ヴァジュラと比べて格段に上の機動力を持つが、何よりもその反応速度が厄介だった。バレットを見てから避けるなど、信じられない動きをしているのである。

 

 

「くそぉっ!」

「やあああああ!」

 

 

 コウタとアリサもアサルトによる連射を行うが、威力が足りずに全て弾かれる。

 ディアウス・ピターは速さも恐ろしいが、その堅さも異常だった。

 

 

「皆落ち着いて。前衛で足止めをするからサクヤさんはスナイパーの用意を。ソーマも動ける?」

「問題ねぇよ!」

「なら、俺とシスイで足止めする。サクヤさんの狙撃後にソーマがトドメを! コウタとアリサは適宜牽制して注意を分散させてくれ!」

『了解』

 

 

 第一部隊の隊長らしく、ユウが作戦指示を出す。ディアウス・ピターの強烈な反応のせいか、周囲に別のアラガミがいないことは救いだった。

 

 

「行くぞシスイ」

「ヴァジュラ近親種なら雷に注意だね」

「分かっているよ」

 

 

 コウタとアリサのアサルト弾を鬱陶しそうにしているピターの前に、ユウが立ち塞がる。そして神機を小さく振りながら防御に徹するようにしてピターの攻撃を受け始めた。勿論、シスイはその間にピターを横から攻めていく。背中は堅いと分かっているので、後ろ脚を大きく切り裂いた。

 

 

「グオオッ!?」

 

 

 足を切り裂かれてバランスを崩したピターは的でしかない。サクヤはその一瞬を見逃すことなく、シスイが作り出した超長距離狙撃弾を使って顔を穿った。空気中のオラクルを吸収しながら飛ぶので、距離が離れるほどに威力を増すという物理法則を無視した弾丸である。それを弱点の顔に打ち込まれたのだから、流石のピターも仰け反ってしまった。

 それをソーマは見逃さない。

 

 

「終わりだ!」

 

 

 既にチャージを終えたバスターを振りかぶって空中から現れる。ユウはソーマの邪魔にならないようにと跳び下がっており、連携は完璧だ。黒いオラクルを纏った一撃がディアウス・ピターの頭部に振り下ろされ、その巨体が吹き飛んだのだった。

 

 

「気を抜くんじゃねぇっ! 奴はまだ生きているぞ!」

 

 

 バスターを肩に担いでソーマは声を張り上げる。

 一瞬気を抜きかけた全員は、それを聞いて再び気を引き締め直していた。

 ソーマの言った通り、ピターは吹き飛ばされつつも綺麗に着地して咆哮を上げる。アレだけの一撃だったにもかかわらず、ピターの顔には小さな傷しかついていなかった。

 

 

「嘘だろ!? ソーマの全力だぞ!? 普通のヴァジュラなら真っ二つなのに!」

「煩いですコウタ。叫んでいる暇があったら集中してください」

「わ、分かったよ」

 

 

 いちいちリアクションが大きいのは変わらないが、コウタも第一部隊として成長している。特に遠距離支援という分野においては、コウタはかなりの腕を持っていた。偶に防衛班の任務にも参加しているので、その際に身に付けられたスキルを存分に発揮していたのである。

 つまり、コウタはいちいち叫びつつもアサルトによる援護は欠かしていなかった。

 ピターは的確に顔や前足を撃たれることを鬱陶しいと感じたのか、標的をコウタに変える。だが、シスイとユウがそれを許さなかった。

 

 

「お前の相手は」

「俺たちだ!」

 

 

 コウタに目が向いている隙に、シスイとユウは左右からピターの前足を狙う。擦れ違うように二人は走り抜け、ピターの両前足を綺麗に切り裂いたのだった。

 再びバランスを崩したピターにサクヤが無言で超長距離弾を放つ。

 熟練の腕によって弾丸は顔に直撃した。

 

 

「もう一度喰らえ!」

 

 

 ステップで素早く近寄ったソーマが、再びチャージクラッシュを叩き込む。ピターはまた吹き飛ばされ、シスイとユウが追撃に走った。

 だが、ピターもやられるだけではない。

 遂に、ヴァジュラ種としての力を使い始める。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 

 活性化したピターは激しい電撃を纏い、広範囲に放電した。ヴァジュラとは比べ物にならない範囲であり、走り寄っていたシスイとユウは吹き飛ばされる。

 

 

「ユウ! シスイ! くそ!」

 

 

 コウタが援護のために弾丸を放つが、活性化によって更に早くなったピターはそれすらも避ける。コウタの射線からあっという間に逃れ、二度も大きなダメージを与えて来たソーマへと突進した。

 白い電撃を纏った突進を避けることが出来ず、ソーマは装甲を展開して受け止める。

 しかし、幾ら強いゴッドイーターであるソーマでも、質量の差が大きすぎた。

 

 

「ぐ、おおおおおっ!」

 

 

 一瞬だけ耐えたが、ソーマも遠くまで吹き飛ばされる。

 そしてピターは次に遠距離組を標的とした。睨まれたコウタ、アリサ、サクヤは身を固くして構える。そしてこの中で唯一、近接戦闘も可能なアリサは咄嗟に刀剣形態へと変えた。

 ユウ、ソーマという強力な前衛がいるお陰で、アリサはあまり近接戦闘をしたことがない。シスイが開発したオラクル回収弾のお陰で、恒久的にアサルトで攻撃できるようになったから余計にだ。だから、剣を構えたアリサはこれ以上に無いくらい緊張していた。

 両親の、そしてリンドウの仇だからということもあるだろう。

 だが、アリサはそれを振り切って飛び出した。

 

 

「アリサ!」

「コウタとサクヤさんは援護を!」

 

 

 コウタは止めようとするが、それでもアリサは飛び出していく。

 仕方なくサクヤがピターに狙いをつけ、コウタはアサルト弾で牽制を始めた。雷による麻痺でシスイ、ユウ、ソーマは動けない。いや、装甲でガードしていたソーマなら少し早く復帰できる程度か。

 

 

「やああああ!」

 

 

 ピターはアリサの攻撃を軽く避け、雷球を幾つも作って放つ。咄嗟に回避したアリサだが、雷球はそれだけで終わらなかった。次々と雷が放たれ、回避一択を迫られる。

 コウタとサクヤも援護するが、ピターは片手間で回避していた。

 焦れるアリサは遂にミスを犯す。強引に近寄ったアリサに対し、ピターは身体を横回転させて迎撃した。装甲を展開する暇もなくアリサは直撃を受け、コウタとサクヤの近くまで吹き飛ばされた。

 

 

「う……」

「アリサ、大丈夫か!?」

「コウタ集中して! 奴が来るわ!」

「く、くっそおおおおおおおっ!」

 

 

 強すぎる。

 それがサクヤのディアウス・ピターに対する感想だった。

 コウタの放つアサルト弾を意にも介さず弾き返し、悠々と歩み寄っているのだ。

 まさに帝王。

 そう呼ぶのに相応しい。

 だが、その余裕がピターにとっては油断だった。

 

 

「余所見してんじゃねぇぞ黒猫がァッ!」

 

 

 復帰したソーマがバスターを横向きに薙ぎ払い。ピターを吹き飛ばした。流石の身体能力である。

 

 

「手間かけたな。アリサにはこれを使え!」

「ちょ、ソーマ!」

 

 

 ソーマは自分の回復錠を投げ渡し、すぐにピターへと向かって行く。仕方なくサクヤは回復錠をアリサに飲ませ、回復させたのだった。

 そしてその間にシスイとユウも復活し、果敢にピターを攻め始める。

 

 

「削れろ!」

 

 

 シスイはクリーヴファングによってピターの背中を削り取る。ダメージとしては薄いが、押さえつけることによってピターの動きを遅くすることは出来ていた。その間にユウは正面からロングブレードを振るい、時折ソーマが入れ替わってチャージクラッシュを叩き込む。

 ディアウス・ピターも、慣れてしまえば少し速いヴァジュラだ。パターンは読めている。

 

 

「ユウ君。前足を集中して壊すよ」

「オーケー!」

 

 

 シスイはここで結合崩壊を優先させることにする。堅い奴ほど、結合崩壊させたときは柔らかい。その経験則から来る判断だ。隊長であるユウもその案には賛成で、二人はピターの前足を狙うことにした。

 

 

「所詮は黒猫だね」

「極東を舐めるなよ!」

「グオオオオッ!」

 

 

 ピターも必至に前足を振るい、牙を使って二人を攻撃しようとする。だが、シスイとユウはそれを綺麗に躱しつつ、流れるような動作で前足を攻撃し続けた。更に隙を突いて捕喰し、バースト化までする。

 ユウは一旦下がってソーマと入れ替わり、アラガミバレットをリンクバーストとして射出した。これによってシスイとソーマはバーストレベル3になり、更に強くなる。

 極東最強部隊は伊達ではないのだ。

 

 

「猫は大人しくねっ!」

「左足は貰っていく!」

「終わりだ!」

 

 

 シスイ、ユウ、ソーマの連撃によって、ディアウス・ピターの両前足と顔が結合崩壊する。流石に三か所同時に結合崩壊したことで、ピターはダウンしてしまった。

 

 

「チャンスだ!」

 

 

 アリサもユウの言葉を逃さず、刀剣形態にして捕食をする。さらにリンクバーストでユウのバースト状態をレベル3に引き上げ、再び後退して銃形態に戻した。

 

 

「助かるアリサ!」

「これぐらいは問題ありません。それよりもピターはもうすぐ起き上がります!」

 

 

 ダウンしている隙にこれでもかというほど攻撃を浴びせ、可能な限りダメージを与える。シスイ、ユウ、ソーマだけでなく、コウタ、アリサ、サクヤも高威力のバレットを叩き込んでいた。そして三人が再び距離を取る頃には、ディアウス・ピターにかなりのダメージを与えることが出来ていた。

 もうすぐ勝てる。

 そんな思いが第一部隊の中に現れるが、それは幻想だったと知ることになる。

 

 

『っ!? 皆さん気を付けてください! ディアウス・ピターのオラクル反応が変質しています!』

 

 

 インカムからヒバリの声が聞こえると同時に、ディアウス・ピターが変化を起こした。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

「くっ」

「うわっ」

「ちっ……」

「おわぁっ!?」

「きゃあっ!」

「何よこれっ!?」

 

 

 これまでにない、空気を震わすような咆哮が贖罪の街で響き渡る。

 それと同時にディアウス・ピターが深紅の雷を纏い、さらに背中から黒い翼が生えた。それは鳥のような羽毛ではなく、骨格だけの硬い翼だ。

 

 

『ディアウス・ピター活性化! これまでと比べ物になりません!』

 

 

 ヒバリの悲鳴すらも翼を生やしたピターの威容のせいで耳に入らない。これまでとはまるで違う、恐ろしいほどの攻撃性をビシビシと放っていた。

 

 

「ちっ! そんな程度で調子に乗ってんじゃねぇっ!」

 

 

 一番に動き出したソーマがバスターを構えつつ突っ込み、それに続いてシスイとユウも距離を詰める。

 だが、赤い雷を纏ったピターはこれまで以上に早かった。

 ピターはその場で旋回しつつ、背中の翼を横薙ぎに振るう。

 

 

「ちょ……」

「うわっ!?」

「なっ……」

 

 

 翼が出来たことで範囲が上がり、三人は大きく吹き飛ばされた。咄嗟に装甲を展開しなければ、今頃は上下真っ二つになっていたかもしれない。

 

 

「攻撃力と速度、範囲も上がっているわ! 三人とも気を付けて!」

 

 

 サクヤはそう叫びつつ援護射撃を放ち、三人が復帰する時間を稼ぐ。活性化が進んだことでコウタとアリサのアサルト弾は通じにくくなり、本当に気を散らす程度しか意味が無くなってしまった。

 この先、更に隙は少なくなることだろう。

 ユウはそれを承知で叫んだ。

 

 

「作戦に変更はなしだ。俺とシスイで奴を止める。ソーマはデカい一撃を用意してくれ! 翼が生えたところで、飛べない猫はただの猫だ!」

『了解』

 

 

 ピターが咆哮と共に深紅の雷を放つが、シスイはそれを回避しながら接近する。ユウに至っては神機で雷を弾きながら迫っていた。ピターの雷はオラクルによるものなので、理論上は神機でも弾くことが出来る。だが、実際にそれを出来るかと言えば怪しいだろう。いつの間にか人外じみた戦闘技能を身に着けていたようである。

 

 

「グオオオオ!」

「甘いよ!」

「その程度では止められるものか!」

 

 

 ピターが放った翼による突き。

 鋭い骨のような形状であるため、直撃すれば一溜まりも無いだろう。だが、それは直撃すればの話だ。シスイはヴァリアントサイズの曲面を使って器用に受け流し、ユウはスライディングしながらインパルスエッジを放って翼を弾き返した。

 翼の片方が受け流され、片方は弾かれる。

 真逆の運動方向を与えられたことでピターは大きくバランスを崩してしまった。

 

 

「食事だよ!」

「喰らえ!」

 

 

 二人はピターと擦れ違うようにして捕喰し、後ろまで走り抜けて二人同時に尻尾を切りつけた。一歩速かったシスイの攻撃で結合崩壊を引き起こし、二度目になるユウの攻撃で完全に切断する。

 これによってピターは絶叫を上げ、呻きながら大きな隙を晒した。

 ソーマはそれを逃さない。

 

 

「……消えろ!」

 

 

 大きく跳び上がり、重力を乗せたチャージクラッシュを叩き込む。元から結合崩壊している顔が更にグチャリと変形し、ピターは視界を大きく削られた。

 

 

「ギガアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 

 のたうち回るピターは無差別に深紅の雷撃を放つ。

 雷球が四方八方に撃ちだされ、放電によって空気が震える。さらに赤い雷が天地を結びながらピターの周囲を走り回った。

 シスイ、ユウ、ソーマはこれに当たらないよう回避を続け、遠距離組はチャンスとばかりにバレットをこれでもかと撃ち込んでいく。

 そして活性化したオラクルを使い切ったのか、途端に雷が止んで大人しくなった。

 シスイはこれを逃さない。

 

 

「捕えた!」

 

 

 咬刃を伸ばし、バーティカルファングでサイズを上から叩き付ける。弱ったピターは遠心力と重力が乗ったバーティカルファングの威力に耐え切れず、地面へと倒れ伏した。

 それと同時にシスイはユウに向かって叫ぶ。

 

 

「ユウ君!」

「分かってる!」

 

 

 シスイが押さえつけている間にユウがピターへと接近し、かなり潰れた顔にインパルスエッジをオラクルの続く限り撃ち込んだ。至近距離からの爆撃でピターは呻くが、アラガミ化した両腕を持つシスイが押さえつけている以上、動くことが出来ない。

 

 

「チェンジだソーマ」

「任せろ!」

 

 

 ユウの言葉を待っていたソーマは、渾身の力を込めてチャージクラッシュを叩き込んだ。ユウのインパルスエッジで顔の結合が緩くなっていたのか、このソーマの一撃によって遂に吹き飛ぶ。

 流石のディアウス・ピターも頭が消し飛ばされれば生きていられない。

 押さえつけていたシスイも手応えの消失を感じ取り、伸ばした咬刃を元に戻した。

 ズンッと音がして、ディアウス・ピターが倒れこむ。

 少しの沈黙の後、ユウが口を開いた。

 

 

「倒した……のか?」

『こちらでもディアウス・ピターの沈黙を確認。討伐しました!』

「や、やったーっ!」

「やりましたよ……パパ、ママ」

「仇は取ったわリンドウ」

「……ふん」

 

 

 コウタはその場で跳ねて喜び、アリサは座り込んで胸に手を当てる。サクヤは構えた神機を降ろしながら愛する人の名前を呼んだ。ソーマも神機を肩に担いて鼻を鳴らす。

 そんな中、シスイはディアウス・ピターの死体へと近寄り、ヒバリに連絡を取り始めた。

 

 

「ヒバリさん。リンドウさんの腕輪反応はあるかな?」

『はい……確かに検知されていますね』

「ありがとう。……ユウ」

「分かった」

 

 

 シスイとユウは神機を捕食形態に変え、ピターの体内を探る。

 二人が神機を引き抜くと、シスイの神機はリンドウの腕輪を、そしてユウの神機はリンドウの神機を咥えていたのだった。

 

 

「当たりだね」

「嫌な当たりだ」

 

 

 シスイは捕喰形態の神機が咥える腕輪を手に取り、サクヤへと見せた。

 それを見たサクヤは急いで駆け寄り、恐る恐ると言った様子でシスイから受け取る。そしてただ胸に抱えてその場で崩れ、静かに涙を流した。

 第一部隊元隊長、雨宮リンドウ。

 ディアウス・ピターの討伐、そして腕輪発見によりKIA認定される。

 第一部隊の悲しみは、ただ青い空に溶けていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




黒猫さんはリザレクションverです。

取りあえずシスイ、ユウ、ソーマが強すぎてディアウス・ピターも黒猫扱い。

あとバタフライエフェクトにより時系列が変化しています。本来はシオを発見してからディアウス・ピター戦ですが、シスイの解析能力が高いためにさっさとディアウス・ピターを発見しました。
こんな感じでちょいちょい原作解離します。

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