ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第九十五話です。少しだけ前半部分は戦闘が入ります。どうぞ!


第九十五話「アフリカの星」

ネウロイが姿を現し、シュミットとサーニャは武器を構えた。

 

「お出ましか…こちらシュミット!501、応答を願う!」

 

シュミットはそう言ってネウロイにMG151を向けながらインカムで基地に連絡を取る。しかし、インカムからは雑音がしており、何も聞こえなかった。

 

「501!?…くっ、故障か?」

 

シュミットは再度聞くが、雑音が晴れないためインカムが故障したと感じた。

 

「仕方ない、二人で倒すしか無いな…サーニャ、援護を頼む!私は前に出る!」

「うん!」

 

シュミットがすぐさま強化を掛けてユニットを回す。そしてそのままネウロイに急降下をすると、機関砲の引き金を引いた。

 

「喰らえ!」

 

弾丸はネウロイの体を大きく削る。さらに、ネウロイが反撃をしてこない様子を見るからに向こう側がこっちに気づいていないとシュミットは理解した。

その間にも、冷静にネウロイをシュミットは分析していく。

 

(こいつの装甲は並みのネウロイと変わらない…とすると)

 

シュミットはゼロの領域に入る。すると、すぐさま次の光景が頭に入ってきた。

 

「来た!」

 

すぐさま回避行動をとるシュミット。すると、先ほどまでいた位置に今まで見たことのない巨大な赤い線が通り過ぎて行った。

しかし、ネウロイはシュミットに気を取られた分、別方向からくる攻撃に疎かになっていた。シュミットのいる位置と真反対の方向から数発のロケット弾が飛翔してくると、その全てがネウロイに着弾した。サーニャのフリーガーハマーによる攻撃だった。

ネウロイは今度はサーニャに気づくと、そちらに向けてビームを放つ。サーニャは回避をするが、今度も放たれたビームは先ほど同様、過去に類のないほど巨大な物であった。

 

「サーニャ!このネウロイは攻撃の手数が少ない分、一発でも掠めたら致命傷になる!立ち止まらずに攪乱するぞ!」

「ええ!」

 

シュミットの言葉にサーニャも返事をした。そう、このネウロイは一発の火力を極端に上げたネウロイであり、一発の火力であれば今まで戦ってきたネウロイの中でも一番と言える大火力を持っている。その反面、次の攻撃に移る時間が空くため、手数が極端に少ないのだ。

シュミットはネウロイの特性を知るやいなや、その対策として互いの動きを常に動かす戦法に出た。こうすることによって、ネウロイは動き回る両方の目標の内片方だけを狙わなくてはいけなくなる。手数の少ないネウロイからしたら、もう片方は完全にフリーとなる。

 

(…今だ!)

 

シュミットはゼロの領域でネウロイの攻撃を予測していた。前衛に出ているシュミットはネウロイが真っ先に攻撃をしてくる。その為、シュミットのゼロの領域は攻撃回避に最適であり、尚且つ後方で援護を行うサーニャは安全に援護が行える状況となっていた。

しかし、シュミットは戦っているうちにある違和感を感じていた。

 

(…何だろう…特に考えてもいないのに()()()()()()()が分かる?)

 

シュミットは戦いながら、自分があまりサーニャを意識していないのに気づいた。しかし、その動きはまるでサーニャが何処に居るのかが的確にわかっているかのように無駄が無いことに気づいた。

 

(…どうして?シュミットさんが行く先が分かる?)

 

同じ頃、サーニャも違和感を感じていた。サーニャはシュミットが次に動く位置がまるで手に取るように分かった。しかし二人現在、先ほどの会話を除いて特に合図などを出していない。それなのに、まるでこう動くというのが分かるのだ。

そして暫く攻撃を加えていった時、ネウロイの表面が大きく削れた。

 

「っ!コアだ!」

 

装甲の剥がれた地点にコアを確認したシュミットは、コアに向けて火力を集中させた。サーニャも同じくコアを確認したため、フリーガーハマーの照準をコアに向けた。

 

((っ!?))

 

その時だった。突然二人は更なる違和感を感じた。まるで体が別の何かによって浮いたかのように感じた。しかしそれは、居心地の悪いものでは無かった。()()()()()()()()()()()()と、二人は感じた。

その間にも、ネウロイのコアに飛翔していった弾丸とロケット弾は着弾し、ネウロイの体は光の破片へと変わったのだった。

 

「今のは…いや、どこかで感じた…」

 

しかし、シュミットはネウロイ撃破よりも先ほど感じた違和感が気になっていた。そして、その違和感を()()()()に感じたことがある気がした。

 

『…こちら501基地、シュミットさん何があったの!?』

 

その時、インカムの向こう側の雑音が晴れ、ミーナの声が聞こえてくる。シュミットは慌てて返事をした。

 

「あ、はい…こちらシュミット。えと…ネウロイと交戦状態になりました」

『ネウロイと!?位置は?』

「いや、戦闘終了して今は破片に変わっています」

 

ミーナが慌てた様子でシュミットに聞くが、ネウロイは既にサーニャと二人で撃破したため居なかった。

 

『そう…シュミット大尉、帰投したら報告をお願いします』

「了解…」

 

ミーナはそう言って通信を終えたが、シュミットはそれよりも気になることがありサーニャの方を見た。

そのサーニャも、何かを感じた様子で困惑した顔をしており、シュミットは先ほどの現象が自分とサーニャの二人に起こったものだと理解したのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

シュミットとサーニャが謎の現象を感じた日から数日が経った頃、芳佳とリーネは外で洗濯物を干していた。

 

「あ、輸送機だ」

 

ふと、芳佳は航空機の音が聞こえたので空を見上げた。そこには、青空の中を突っ切るように一機の輸送機が飛行していた。

 

「あれはJu52…ミーナ中佐が帰ってきたみたい」

 

リーネは輸送機の機種を識別し、連合軍司令部へと出ていたミーナが帰ってきたんだと言った。

その時だった。基地の上空を飛行していた輸送機から突如、一つの影が離れた。

 

「え?」

 

芳佳は一瞬何が輸送機から離れたのかと思い目を凝らす。すると、それはなんと女性の人影ではないか。

 

「ええっ!?」

「飛んだ!?」

 

リーネと芳佳は突然輸送機から人が飛び降りたのでビックリする。その間にも、飛び降りた女性は使い魔を出すと空中で姿勢を整え、そして何事もなかったかのように地面に着地をした。

 

「わー…!」

「凄い…!」

 

二人は揃ってその光景に見とれていた。そして目の前に降り立った女性の姿を見る。女性は掛けていたゴーグルを外すと二人の方を向いた。

 

「やあ、初めまして子猫ちゃんたち」

「子猫?」

「わぁ~…!」

 

女性からの自己紹介の言葉にリーネは一瞬呆気にとられるが、芳佳は先ほどのダイブとそのルックスから、女性のことを目を輝かせながら見ていた。

 

「フッ…悪いけど、サインはしない主義なんだ」

「へ?」

「はわぁ~!」

 

と、突然の告白にリーネはさらにポカンとするが、芳佳はその言葉も女性の決め台詞のように聞こえたのか更に目を輝かせた。

 

「ところで君たち…」

「マルセイユ!」

 

女性が二人に何かを言おうとしたその時、横から大声が聞こえる。マルセイユと呼ばれた女性が振り向くと、そこには訓練途中であったバルクホルンとハルトマンが居た。

しかし、バルクホルンはマルセイユのことを睨みながら続けて言った。

 

「何しに来た!お前はアフリカに居るはずだろ!」

「おっ!ひっさしぶりだなハルトマン!」

 

しかし、そんなバルクホルンなど眼中に無いかのように、マルセイユはハルトマンの元へ駆け寄った。そしてマルセイユはハルトマンに合えたことをまるで心から喜んでいるかのように言った。

 

「航空学校以来か?…いや違うな、JG52の第四中隊だ!そうだよ!覚えてるか?同じ中隊に居た融通の利かない上官の…えっと、なんて言ったっけ――?」

「バルクホルンだ!」

「おー、そうだった」

 

マルセイユの露骨な視線にバルクホルンが言う。その言葉を聞きマルセイユは手を差し出した。

 

「久しぶりだな、バルクホルン!元気だったか?」

「…大いに元気だ!」

 

バルクホルンもその手を取り握手を返す。

 

「あのかっこいい人、バルクホルンさんの友達なのかな?」

「そ、そうは見えないけど…」

 

芳佳は二人の握手する姿を見てそう感想するが、リーネは二人から出ている謎のオーラを感じ、とても仲のいい様子には見えなかった。その様子を見ていたハルトマンも、げんなりとした様子だった。

 

(ああ…面倒なのが来たな~…)

 

と、完全に厄介ごとが増えたと言わんばかりの顔をした。

そして、滑走路に着陸した輸送機内では、その光景を見てミーナが溜息を一つ零したのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「あっ!さっきの人だ」

 

その後、ミーナにブリーフィングルームに集まるように言われた芳佳達は、本の中に先ほど出会ったマルセイユの写真を見つけた。

 

「凄い…本に載ってるんだ」

「えっと…ハンナ・マルセイユ、カールスラント大尉、第31飛行隊『ストームウィッチーズ』所属で、200機撃墜のスーパーエース…!」

「200機…凄い!」

 

芳佳はマルセイユの撃墜数を聞いてその数が遠い存在に感じる。シュミットも離れたところで芳佳達の話を黙って聞いていた。

 

(マルセイユ…マルセイユ…あ、そういえばそんな名前のパイロットが居たな)

 

と、シュミットは前世での記憶を思い出しながら思っていた。

 

「しかも容姿端麗でカールスラントに留まらず世界中にファンが多数。通称『アフリカの星』だって」

「アフリカの星!かっこいい!」

(アフリカの星…偶然…なのか?)

 

リーネが続けて読んでいき、芳佳はマルセイユの二つ名を聞いて目をキラキラさせた。しかしシュミットは先ほど考えていたパイロットの二つ名と同じであることに、これが偶然なのかどうか疑わしくなってきた。

 

(…てか、初めてハルトマンやバルクホルンと会った時もそんなこと思ったな)

 

しかし、初めてバルクホルン達と会った時も前世のエースと何か関係あると感じたため、今更かと特に深く考えるのはやめるのだった。

 

「サインほしいな~」

「あいつサインはしないよ」

 

と、芳佳の言葉に横で聞いていたシャーリーが言った。

 

「え?シャーリーさんマルセイユさんのこと知ってるんですか?」

「ルッキーニとあたしはここに来る前ちょっとアフリカに居たからな」

「いた~!」

 

と、シャーリーの言葉に続けてルッキーニが言う。

 

「どんな人なんですか?」

「噂ならいっぱい聞いたけど…あいつの事なら同じカールスラントの連中が詳しいだろ」

 

芳佳の言葉にシャーリーはハルトマンとバルクホルンの方を向きながら言った。ハルトマンは机に伏しており、バルクホルンは腕を組みながら黙っていた。

 

「そういえば、同じ部隊だったって…」

「…カールスラントで私とハルトマン、マルセイユは同じ飛行中隊に居た」

 

芳佳の言葉に今まで黙っていたバルクホルンが口を開いた。しかし、バルクホルンはどこか不機嫌そうであった。

 

「やっぱり!友達なんですね」

「友達じゃない!あんなチャラチャラしたやつ…」

 

芳佳の言葉にバルクホルンが頑なりと否定した。

その時、今までいなかったミーナと坂本が入って来る。その後ろにはマルセイユも来ていた。

 

「静粛に」

 

ミーナがそう言って、私語をしていた者たちを黙らせる。そして、坂本が説明を開始した。

今回ブリーフィングルームに全員が集められたのは、マルタ島を占拠しているネウロイを倒すためだ。

 

「――ここで選ばれたウィッチ二名が突入、護衛のネウロイを倒しコアを破壊する。以上だ」

「…たった二人ですか?」

 

坂本が作戦を伝え、最後に重要な部分を強調する形で言った。その言葉に芳佳が聞き返す。

 

「この作戦では移動に扶桑の潜水艦を使う。格納、射出できるユニットは二機までだ」

 

そう、この作戦には潜水空母である扶桑の伊400型潜水艦を使う。その伊号潜水艦から射出できるのは二機までであり、今回の作戦は海中から敵占拠エリアに侵入するため、それ以上の援軍は送れない。

そして、今度はミーナが横のハンナを見ながら説明した。

 

「では、突入部隊のウィッチを発表します。まず、今回の作戦の援軍として参加することになった第31飛行隊のハンナ・マルセイユ大尉」

「っ!どういうことだ中佐!突入部隊は私とハルトマンのはずだ!」

 

衝撃の言葉にバルクホルンが立ち上がった。今回の作戦は元々501のトップエース2人――つまりバルクホルンとハルトマンが突入することになっていたのだ。

しかし、ミーナはそんなバルクホルンに言った。

 

「上層部からの指示です」

「なるほど…そういうことか」

 

ミーナの言葉に真っ先に理解したシュミット。しかし芳佳はどういうことか分からずシュミットに聞く。

 

「どういうことですか?」

「つまり、この作戦はプロパガンダの意味があるんだ」

 

シュミットは芳佳に説明した。アフリカの星と言われる彼女は容姿端麗、つまり軍の戦意高揚の広告塔として今回の作戦に参加するのだ。

 

「我が501から作戦に参加するのは一人のみ。バルクホルン大尉、貴方です」

「無理だ」

 

そしてミーナが続けて501からの参加メンバーを発表した。しかし今度はマルセイユがキッパリと言った。その言葉にバルクホルンが睨む。

 

「バルクホルン、あんたじゃ私のパートナーは務まらない」

「…何が言いたいんだマルセイユ」

「言葉通りさ、あんたの力量じゃ私と一緒に戦うのは無理だって言ってるんだ」

 

マルセイユは挑発的な態度でバルクホルンに言った。バルクホルンはそんなマルセイユにさらに怒りを燃やすが、マルセイユはどこ吹く風といった様子で今度はハルトマンを見る。

 

「私の力量と釣り合うのは…」

「何処を見てるんだマルセイユ、カールスラント防衛線の頃から、お前の『上官を上官と思わない』その態度!」

 

そう言ってバルクホルンはマルセイユの元に歩いていく。既に内部では怒りが爆発したのか、バルクホルンは使い魔を出して臨戦態勢になっていた。

 

「フッ、今は同じ階級だ」

 

そう言って、マルセイユも使い魔を出す。そして二人は互いの手を合わせる。

 

「ぐぬぬ!」

「ぬうう!」

 

二人の魔力がぶつかり合い、周囲の空気を変えた。その魔法力はブリーフィングルームの石床に罅を入れ、そして風を起こした。

 

「ストーップ!!」

 

その時、別のところから声が聞こえ二人は争いを中断する。声のした方向を見ると、ハルトマンが立ち上がって二人の方を見ていた。

 

「私がマルセイユのパートナーをやるよ!それでいいだろ!」

「ハ、ハルトマン…」

「ハルトマン中尉…」

 

ハルトマンの言葉にその場にいたものは全員ポカンとした。しかし、マルセイユだけがハルトマンを見てニヤリとした。

 

「フッ、楽しみだなハルトマン」

 

そう言って、マルセイユは納得した様子でハルトマンに言った。その言葉に、ハルトマンはまるで面倒なことになったと言わんばかりに溜息を吐いたのだった。




んー、シュミット君またなんか変な出来事に巻き込まれてるな~。今度はサーニャも込みですが。
そしてマルセイユの登場。ここまでは特に変わった点はありません。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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