芳佳が震電の力によって復活してから少しの時が経ったある日、ウィッチ達はネウロイ発見の報告を受け出撃していた。
「ネウロイ発見!」
坂本がネウロイを視認する。周辺には大きな橋と大陸が見える。報告が遅れたためネウロイは既にロマーニャに接近していた。
「各自、戦闘態勢!」
『了解!』
坂本の言葉に全員が散開をし、ロッテを組む。ネウロイはウィッチ達に攻撃を仕掛けるが、それぞれ回避軌道を取り攻撃を避けて行く。
芳佳は、誰よりも早くネウロイの元へ向かった。
「くっ…なんて上昇ですの!?」
ロッテを組むペリーヌは思わず驚く。今までの芳佳の上昇力では見られなかった、空を切り裂くような凄い速さだった。これも、新たに芳佳のユニットになった震電の恐るべき潜在能力であった。しかし、ペリーヌも負けじと芳佳の後ろを付いていき、ネウロイに向かう。
そして芳佳はネウロイの正面に来て、ヘッドオンを仕掛ける。機関銃からばら撒かれた銃弾はネウロイに命中し、ネウロイは目標を芳佳に定めた。芳佳はそれをシールドで防ぐ。
「くっ」
「前に出すぎでしてよ」
ペリーヌはそう言って、機関銃の引き金を引く。これで攻撃はペリーヌの方へも向かい、芳佳にかかる負担の軽減になった。
その時、ネウロイの体を貫く一発の弾丸が通った。芳佳達が下を見ると、下方からリーネが対装甲ライフルで狙いを定めていた。
しかし、ネウロイも一発の火力が高いリーネに警戒を強め、今度は逆にリーネを攻撃した。
「きゃっ!」
リーネは慌てて避ける。しかし、ネウロイから放たれたビームはリーネの後方にあった橋の上部を掠めた。
「橋が…!」
「被害は僅かだ。陣形を崩すな」
ペリーヌはそう言って橋を見るが、坂本が言う。幸いにも橋の上部を掠めただけであり、崩れることは無かった。
しかし、その光景を見てペリーヌはネウロイを睨み返す。そして、先ほど芳佳を止めたことを忘れ、今度は自分がネウロイに突撃をしていく。
「ペリーヌ!?」
「橋に…なんてことするんですの!!」
ペリーヌはネウロイの攻撃を掻い潜りながら攻撃を加えて行く。鬼気迫る攻撃は、ネウロイの体を大きく削る。
「ペリーヌさん凄い…」
「チャンスだ!全機攻撃!」
『了解!』
坂本の号令により、他のウィッチ達もネウロイに攻撃を加えて行く。ネウロイは四方八方から飽和攻撃を受け、完全に対応ができなくなった。
そして、ついにネウロイのコアが露出した。
「コアが見えた!」
「よくも橋をおおおお!」
そして、ネウロイのコアに向けて真っ先にペリーヌが接近した。そして機関銃から弾丸を放つ。そしてコアの粉砕により、ネウロイは光の破片へと変わった。
「ペリーヌさん!」
「やりましたね!」
芳佳とリーネは今回のネウロイを倒したペリーヌの元へ行く。
「…」
しかし、ペリーヌはネウロイの事よりも、先ほど攻撃を受けた橋の方が気になる様子だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「皆さん、ご苦労様」
「全員よくやった。宮藤もだいぶ震電に慣れたな」
任務終了後、ミーナと坂本は出撃したメンバーに今日の戦闘に対する労いの言葉をかけた。
「はい、もっと訓練して完璧に扱えるようになりたいです」
「良し!その意気だ!」
芳佳の言葉に坂本は嬉しそうに言う。そして、今度はペリーヌの方を向いた。
「ペリーヌ」
「…」
坂本はペリーヌを呼ぶが、ペリーヌは反応しない。坂本がよく見ると、彼女は下を向きながらどこか沈んだ表情をしていた。
「…ペリーヌ?」
「…あっ、はい」
もう一度呼ぶと、今度は慌てながらも反応した。先ほどの言葉は聞こえていない様子だった。
「今日は大活躍だったな」
「はい…ありがとうございます…」
そして坂本がペリーヌを褒めた。しかし、ペリーヌはお礼を言ったらすぐに基地の言ってしまった。
それに続き、坂本とミーナも基地に入っていくが、他のメンバーは先ほどのペリーヌの様子を見て怪しく思う。
「…なんか変だな」
「だね!」
「どうかした?」
シャーリーの言葉にルッキーニが間髪入れずに言う。その言葉に芳佳は訳が分からず聞くが、ルッキーニはシャーリーの胸に体を預けると言った。
「だって、少佐に褒められたいつものペリーヌだったらさ~、『あら少佐~、そんなことありますわ~!』」
「『も~っと、ほめてくださいまし!』とかさ」
「そ、そうかな…?」
ルッキーニがペリーヌの真似をして言う。それに続きシャーリーもルッキーニみたいにペリーヌの真似をした。その様子にリーネと芳佳は苦笑いをしながら見るが、シャーリーとルッキーニは大笑いをするのだった。
その晩、彼女たちの気持ちとは裏腹にペリーヌは部屋で少し顔色が優れなかった。
「我がクロステルマン家に代々伝えられてきた数々の家宝も、今や残っているのはこのレイピアだけ…」
ペリーヌは手に一つの立派なレイピアを持ちながら言う。
「…でも、これを売れば
ペリーヌはそう言って考える。
事の始まりは、ペリーヌが祖国復興をしている時だった。ペリーヌはウィッチとして稼いだお金と共に、家に残されていた家宝を売りそれを全てガリア復興に回してきた。しかし、ある日ペリーヌは子供に連れられて衝撃の光景を見てしまった。
(「橋が…」)
子供に連れられて来たところは、住宅街と学校を繋ぐ石橋だった。しかし、その石橋は中央がネウロイの攻撃によって崩されてしまったのだ。この状態では、沢山の子供が学校へ行くことができない。次世代を担う大切な子供達だ。
しかし、ペリーヌはそのレイピアを見て考えながら、レイピアを抱きしめた。
(お父様…お母様…私はどうしたらいいのでしょう…)
これを売れば、橋を作り直すことができる。しかし、ペリーヌは貴族である家系を誇りに思っており、最後の家宝となったレイピアを手放すことは出来ない。それは家宝であると同時に、ペリーヌの亡き両親との繋がりともいえる形見であるからだ。
ペリーヌは、どうしたらいいのか分からず、レイピアを抱きながら答えの見つからない問いを続けるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いやっほーう!」
「やっほーう!」
翌日、シャーリーとルッキーニは大はしゃぎをしながら海へと走っていく。二人の格好は水着姿である。
「ほら行くよ!」
「ちょ、ちょっと待て!準備体操ぐらいしろ~!」
ハルトマンがバルクホルンの手を取って海に向かう。バルクホルンはハルトマンに準備運動をしてから入ろうと言うが、彼女の力に負けそのまま海に連れてかれる。勿論、二人の格好も水着だ。
何故全員水着姿なのか。それは今日が海での訓練の日であったためだ。ブリタニアでも行われた通り、今回は全員水着姿である。
「いいか、訓練だからと言って絶対に気を抜いてはいかんぞ!」
「久しぶりだから気を付けてね」
そして海沿いの岩場上では坂本とミーナの言葉に、芳佳、リーネ、ペリーヌの三人は足元を見る。
「この訓練だったんだ…」
「またやるんですか…」
「何故私まで…」
芳佳とリーネは以前行ったこの特訓で溺れそうになった経験があり、その後の自由時間でも体力を使い果たして遊ぶことが出来なかったりと、あまりいい思いでが無かった。そして何故かペリーヌも同じ訓練をすることになったため、彼女はどこか不服そうだった。
「さっさと飛び込め!」
そして坂本の号令と共に三人は海へ飛び込むのだった。その様子を、エイラとサーニャは砂浜で揃って見ているのだった。
「またあの訓練をしてるのか…」
と、そんな声が聞こえながら二人の座っているところが日陰になる。二人が見ると、訓練を終えたシュミットが以前のように二人の為に日傘を用意したのだった。
「暑くないか?」
「暑い…」
「だろうね。ほら」
シュミットの言葉にサーニャが答えた。その様子を見て、シュミットは二人にあるものを渡した。
「何だコレ?」
「日焼け止めオイルらしいんだ。効果は分からないが、少なくとも塗らないよりはマシかもしれないと思ってな」
エイラの言葉にシュミットは説明をする。彼が二人に差しだしたのは、ロマーニャで買ってきた日焼け止めオイルだった。ロマーニャに買い物に行ったときに見つけた日焼け止めオイルを見つけ、以前二人がブリタニアの太陽に肌が負けていることを思い出した。そこで、今回の訓練の為に買ってきたのだった。
「…オマエ、これを使ってサーニャに変な事するんじゃねーだろうな?」
「エ、エイラ…」
「な、そんなわけないだろ!」
突然エイラに言われてサーニャとシュミットは驚く。そしてシュミットは反論するが、頬を少し赤くしたためエイラはそんなシュミットを睨む。
「ぐぬぬ…ん?そういえば今日は上着着てないんダナ」
「え?ああ、まあね」
ふと、エイラは気付いた様子でシュミットの体を見る。彼の体は以前と違い今回は上着を着ておらず、上半身をさらけ出していた。その為、彼の体は火傷の痕が完全に周りにも見えていた。
だが、シュミットは今回特に隠す必要を感じていなかった。
「まぁもう皆知っているし、今更隠しても意味ないと思ってな…ふぁ~」
そう言って、シュミットは日傘の下で寝転ぶのだった。前日の夜間哨戒もあり、彼は泳ぐ元気よりもまず睡眠を欲しがっていた。今はゆっくりと休養を取ることにしたのだった。
その頃、海に入ったペリーヌが顔を出した。
「おっ、流石だなペリーヌ!」
「はい…日頃のご指導の賜物です。いつも一生懸めっきゃ!?」
坂本は真っ先に上がってきたペリーヌを見て褒める。その言葉にペリーヌは少し頬を赤くして言うが、突然自分の髪を引っ張られてもう一度海に沈む。
何が起きたかと言うと、同じように訓練をしていた芳佳とリーネが助けを求めペリーヌに抱き着いたのだ。その結果、ペリーヌは二人の分の重量が加わり自力で浮くことができずに沈んだのだった。
そして、三人はそのまま海の中へ沈むのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「訓練終了!」
坂本の号令と共に、全員が訓練を終了した。
「ふぅ、疲れたね」
「うん。久しぶりだったからね」
リーネと芳佳は訓練を終え、揃って岩場で座る。二人は疲れこそしたが、以前のように動けないほど体が疲れていなかった。これも、日ごろ坂本と行ってきた訓練の賜物と言えるだろう。
「ペリーヌさんが居て助かりました」
「おかげで私まで溺れるところでしたわ!」
リーネは芳佳の向こう側に座るペリーヌに言うが、彼女は自分まで巻き添えを食らったため少し怒っていた。
「…立派な橋」
「ペリーヌさん?」
ペリーヌが小さくつぶやいた言葉にリーネは不思議に思い見る。彼女の視線の先には501ロマーニャ基地と大陸を結ぶ橋があった。
ペリーヌは祖国の壊れた橋のことを思い出し、あのような立派な橋が少し羨ましくも感じていた。
「うにゃあ!」
「ルッキーニちゃん!」
その時、三人の居た岩場の目の前の海面からルッキーニが現れた。ルッキーニは何かを見つけた様子であり、周りをきょろきょろとしている。
「何してるの?」
「あのねあのね!海の底に箱があった!」
「え?箱?」
芳佳が聞くと、ルッキーニは両腕を大きく広げて海底にあった箱を示す。
「うん!おっきくってね、鍵がついててね、なんか宝箱みたいなやつ!」
「宝箱!?」
「宝箱ですって!?」
ルッキーニの言葉に全員が喰いつく。その中でも、ペリーヌが誰よりも喰いついた。
「確かに…このアドリア海は昔から海上貿易が盛んなところ…宝箱の一つや二つ海の底へ沈んでいてもおかしくは無いですわね…」
「そうなんだ!面白そうだねリーネちゃん!行ってみよう!」
「うん!」
そう言って、芳佳とリーネは海にダイブをする。
「お、お待ちなさい!」
その様子を見てペリーヌも後を追う。そして、ルッキーニを混ぜた四人は海中を潜っていく。
(でも、本当に宝箱なんて…)
しかし、ペリーヌは内心半信半疑であった。いくら交易が盛んであったからと言って、宝箱であるといった確証は無いわけである。
そして、四人は海中深くに潜っていく。すると、四人の前方に開けた空間が生まれ、その中央に一つの箱が現れたのだった。
海中に宝箱があったとしても、その中のものが金以外とかだと錆びつきそうですね。
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