ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第九十一話です。ついにあの機体が登場します。どうぞ!


第九十一話「芳佳の新たな翼」

「ふぅ…そうか、全員無事で済んだか」

 

宮藤が負傷した兵士を治療した後、大和の艦橋では一人の老兵が報告を聞き、一息ついていた。大和艦長である杉田淳三郎だ。彼は、以前赤城の艦長をしていた人物であり、ブリタニアでストライクウィッチーズともかかわりのある人物であった。

その横に並ぶ大和の副長、樽宮は杉田と同じ赤城からの乗組員であり、杉田に話しかけた。

 

「あれほどの規模で…奇跡です」

「またしても宮藤さんに救われたな」

 

樽宮の言葉に杉田も言う。普通なら誰かが殉職してもおかしくない状況であったのに、宮藤とリーネの力によって全員が無事で済んだのだ。

 

「今度のお礼は何にしましょうか?」

「ハハッ、確か前回は陸軍の扶桑人形だったな」

 

樽宮の言葉に、杉田は次は何を送ろうかと考えるのだった。

その時だった。艦橋内に警報音が鳴り響き、その音に杉田と樽宮は反応する。その音は、電探室からの非常電であった。

 

「電探室より報告!方位340、距離6万に大型ネウロイの反応アリ!」

 

兵士が報告をする。しかし、その内容に杉田はありえないと言った様子であった。

 

「バカな!?ここは安全圏のはずだぞ!」

「艦長!」

「くっ…全艦戦闘準備急げ!」

 

杉田はすぐさま司令を出し、艦内には警報音が鳴り響くのだった。

その音に、治療を終えた宮藤とリーネも反応した。

 

「ネウロイ!?」

「行こう!リーネちゃん!」

「うん!」

 

宮藤の言葉にリーネも頷き、二人は大和の後部格納庫に向かうのだった。

そしてさらに、501の基地のレーダーにも反応が現れた。

 

「ネウロイ出現!」

「場所は?」

 

レーダーを見たミーナの言葉に坂本が聞く。その言葉に、横に居たハルトマンが答えた。

 

「グリットD15、進路方位165」

「待って、その海域って…!」

「っ!大和!」

 

ミーナと坂本はネウロイの出現した海域を聞き驚く。その場所には、ロマーニャに向かっている大和が現在居る海域であったのだ。

 

「そんな!?ネウロイの巣があるヴェネツィアから、沖合いに500キロは離れてるわ!」

「ああ、今までそんな遠くに出現した例は無い!」

 

ミーナと坂本はありえないと言った様子だった。周辺にあるネウロイの巣は最も近くてヴェネツィアである。そこから扶桑艦隊の位置までは直線距離で500キロもあり、これまでのネウロイの最大行動範囲を軽く超えているのだ。

 

「でも出てるよ、ほら。扶桑艦隊に向かってる」

 

ハルトマンが指差す。レーダーはネウロイが扶桑艦隊に向かっているのが現在も確認できた。

 

「くそっ…出撃準備!」

 

坂本はすぐさま基地に警報を鳴らすのだった。

その頃、扶桑艦隊では空母により艦載機発艦が行われていた。50機以上の艦載機は艦隊に向けて接近するネウロイに向かっていた。しかし、艦載機は巨大なネウロイから放たれた薙ぎ払いのビームを喰らい、次々と墜とされていく。

 

「全艦対空戦闘準備!主砲、発射用意!」

「主砲、発射用意!目標、右70度、300!」

「面舵!」

 

艦橋内では次々と司令が行われ、それに伴い艦隊も陣形を整えていく。

 

「ネウロイめ…大和の46センチ主砲の威力を見せてやる!」

 

杉田はネウロイを睨みながら言う。

 

「測距、250!発射準備よし!」

「撃ち方始め!」

 

観測員の言葉を聞き、杉田が号令をかけた。大和の全主砲塔から放たれた砲弾は、周りの空気を大きく震わせた。そのエネルギーは、これまでどの戦艦も出したことのない凄まじいものだった。

そして、放たれた砲弾はそのまま巨大ネウロイに向けて飛翔、そして着弾した。主砲のエネルギーは、ネウロイの体を大きく削った。

 

「見たか!これが大和の力だ…!」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「大丈夫?リーネちゃん」

「うん…何?今の音」

 

大和の艦内では、宮藤とリーネが耳を塞ぎながらしゃがんでいた。先ほどの大和の砲撃音に驚き、二人は急いで伏せたのだ。

 

「凄かったね…立てる?」

「大丈夫」

 

宮藤が心配しリーネに聞く。リーネは無事と返事をし、立ち上がった。

 

「急ごう!」

「うん!」

 

そして、二人は大和の後部格納庫に到着した。そして二人は武器を持ち、ユニットに足を入れた。

 

「あれ?」

 

しかし、ここで問題が発生した。リーネは魔導エンジンを回し、離陸準備を終えた。だが、宮藤がまだだった。彼女のユニットの魔導エンジンは、最初こそ順調に回転していたが、急に停止した。

宮藤はもう一度再始動をし、魔導エンジンを回す。しかし、魔導エンジンは少し動き、再び停止した。

 

「なんで…どうして動かないの…?」

 

宮藤はユニットを見ながら呟く。そこには、絶望を感じている顔があった。

リーネは宮藤がまだ離陸準備を整えていないのに気づき声を掛ける。

 

「芳佳ちゃん?」

「ちょ、ちょっと待ってね…!」

 

リーネの言葉に宮藤は慌てて答え、そしてもう一度魔導エンジンを回した。しかし、今度は魔導エンジンすら回ることが無かった。

 

(お願い…動いて!)

 

宮藤は懸命に魔導エンジンを回す。その時、艦内に振動が伝わる。

 

『巡洋艦高雄大破!』

 

そして、艦内放送が流れる。それは、扶桑艦隊が損害を受けているという現実を突きつけられた。

 

「芳佳ちゃん、私先行くね」

「あっ!リーネちゃん!」

 

リーネは芳佳を心配するが、外では扶桑艦隊がネウロイとの劣勢な戦いを強いられている。この状況を変えるには、すぐにでもウィッチが出るしかできなかった。

 

「待って!待って!リーネちゃん!」

 

芳佳はリーネを止めに掛かるが、リーネは大和から飛翔していく。

 

「いかん!高雄の行き足が止まる!」

「このままでは高雄が的にされます…あっ、駄目だ!やられる!」

 

艦橋内では杉田が双眼鏡を見ながら歯を食いしばる。先ほどのネウロイの攻撃を受けて大破状態になった高雄は速度を失った。そして、その高雄にネウロイのビームが今まさにとどめを刺さんと伸びていく。

しかし、その攻撃が高雄に当たることは無かった。ビームはなんと高雄の目の前で逸れ、横の海に落ちた。リーネが高雄とビームの間に入ってシールドを張り、高雄を攻撃から守ったのだ。

 

『皆さん聞こえますか!私が攻撃を防いでいる間に避難してください!』

「リーネちゃん…何言ってるの…!」

 

リーネの言葉に、外で見ていた芳佳はありえないと言った様子でリーネを見た。

 

「来るべき作戦の為に、大和をここで失うわけにはいかん…」

 

リーネの言葉に杉田は目を瞑り、顔を顰める。しかし、連合軍が次の作戦に必要としているのは大和であり、これを失っては元も子もない。杉田は苦渋の決断をした。

 

「両舷全速!取り舵一杯!全艦急速離脱!」

 

杉田の命令により艦隊は離脱を開始する。その艦隊に向けてネウロイはビームを放つが、リーネが懸命にシールドを張り防ぐ。

 

「リーネちゃん…っ!」

 

芳佳はシールドで懸命に艦隊を守っているリーネを見て、すぐに格納庫に戻った。そして、ユニットを履きもう一度魔法力を流す。

 

「お願い…お願い動いて!私を飛ばして!」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『艦隊は進路を変更した模様』

 

ミーナの声が無線から聞こえ、出撃した全員が耳を傾ける。

坂本は扶桑艦隊が単独でネウロイから回避できるはずがないと理解しており、何故回避ができたのかを聞いた。

 

「回避できたのか!?一体どうやって?」

『それが…リーネさんがおとりになったみたい』

「えっ!?」

 

ミーナの言葉に真っ先に驚いたのはペリーヌだった。そしてシュミットは何故リーネだけなのか気になりミーナに聞いた。

 

「リーネだけ?宮藤は居ないのか!?」

『それが…リーネさんが単独で飛行しているらしく、宮藤さんは飛んでないみたいなの…』

「なにっ!?」

 

ミーナに言われた衝撃の言葉に、全員が驚く。そして、シュミットは自分も同行すればとここで判断を誤ったと悟った。

 

「このままではリーネが危険だ!急ぐべきだ!」

 

シュミットは戦闘隊長である坂本に言った。坂本も頷き、ウィッチ達は先ほどよりも速いペースで艦隊に向かうのだった。

その頃大和の格納庫内では、芳佳がへたり込んでいた。

 

「どうして飛ばせてくれないの…」

 

芳佳は、自分が戦えないことに涙を流した。外では大切な親友が決死の覚悟で戦っているのに、自分は戦うことができないだけでなく、飛ぶことすら満足にできない。

 

「ごめんなさいお父さん…私約束守れない…もう飛べない…もう誰も守れない…」

 

芳佳は涙をボロボロと流しながら、亡き父である宮藤一郎に謝罪する。父に言われた言葉「祖父や母に負けない立派な力(魔法力)で皆を守るような立派な人」になるようにと言われた言葉を、芳佳は胸にしっかりと約束した。しかし、今の芳佳はユニットも満足に飛ばせず、ただの無力な少女になってしまった。

 

「リーネちゃん…」

 

芳佳は、一人で戦っている親友(リーネ)に申し訳なくなり、さらに涙を流す。その時だった。

 

(泣くんじゃない芳佳。お前は飛べなくなったわけじゃない)

「え?」

 

芳佳は一瞬、幻聴を聞いたと思った。しかし、彼女は聞き間違えるはずがなかった。

 

「…お父さん?」

 

彼女には今、亡き父宮藤一郎の声が聞こえた気がした。

 

(これが、お前の()()()()だ)

 

そして、その言葉と同時に大和格納庫の床が一部開く。そして、下から現れたものは、今まで見たことのないストライカーユニットだった。

 

「ストライカーユニット…」

 

芳佳は、涙を拭きそのユニットを見た。

 

「ネウロイとの距離、約三海里。射程圏外に出ます」

 

その頃艦橋では、樽宮が双眼鏡を覗きながらネウロイを見る。大和以下扶桑艦隊は、ネウロイの射程圏外に到達した。

 

「大和を守る為とはいえ、ウィッチ一人を残して戦線を離脱…扶桑皇国軍として、心より恥じる…」

 

しかし杉田は、ウィッチ一人を身代わりに自分たちが離脱をしたことに不甲斐なさを感じていた。だが、主砲はネウロイに効かず、逆にネウロイに返り討ちに合っていた彼らには、逆に戻ることは足を引っ張ることであった。

 

「艦長、後部格納庫が開いています!」

「なに?」

 

その時、艦橋員の一人が大和後部に気づく。杉田も急いで後部を見ると、そこにはユニットを履いたウィッチの姿があった。芳佳だった。

 

「あ!あの機体は試作型の…!」

「宮藤さん危険だ!その機体は試験飛行も済んでいない!」

 

樽宮は芳佳の履いているユニットに気づく。杉田も急いで芳佳を止めようとするが、芳佳は大和のカタパルトにユニットを固定した。

芳佳はユニットに魔法力を流す。すると、足元に半径50メートルはあるだろうという魔法陣が現れた。

 

「発進!」

 

そして、芳佳はカタパルトを発進した。体に衝撃が加わるが、芳佳は大和から離れて離陸をしていく。水面をすれすれで飛んでいく芳佳。

 

「リーネちゃん…!」

 

芳佳は懸命にリーネの元へ向かう。その飛行は、今まで不調だった様子がまるで嘘のように快調だった。

その頃リーネは、苦しい戦いを強いられていた。リーネの持つ対装甲ライフルは、修復の早いネウロイの装甲の前では連射力で不利であり、ネウロイの攻撃によって撃つチャンスも大きく失っていた。

 

(芳佳ちゃんたち…ちゃんと逃げられたかな…)

 

そんな中でも、リーネは扶桑艦隊と芳佳の心配をしていた。しかし、彼女の魔法力は既に限界に近づいていた。

しかし、ネウロイは待ってくれない。無慈悲に行われた攻撃をリーネはシールドを懸命に張り防ぐ。しかし、ついにシールドが崩壊し、リーネは大きくバランスを崩し高度が下がっていく。

 

(芳佳ちゃん…)

 

リーネは意識が薄れて行きながら、最後に芳佳の無事を願った。

 

「リーネちゃん!」

 

その時だった。芳佳がものすごい勢いでやって来た。そして、今まさに海に落ちそうになっていたリーネの体を捕まえた。

 

「芳佳ちゃん…」

「リーネちゃん、遅れてごめんね!」

 

リーネは芳佳に気づく。芳佳はリーネに謝罪し、そして聞く。

 

「大丈夫?飛べる?」

「うん…」

 

芳佳の言葉に、リーネは頷き離れる。

 

「よくも…よくもリーネちゃんをおお!!」

 

そして芳佳は、今までリーネに攻撃を加えていたネウロイに向き直ると、激しく吠えた。

今、彼女の中で目の前の存在は大切な親友を負傷させた『敵』となった。芳佳は巨大ネウロイを睨むと、背中にかけていた機関銃を構える。

ネウロイはそうはさせまいと攻撃を仕掛けた。しかし、その攻撃は芳佳の強大なシールドの前には無力であり、貫通することができなかった。

 

「うおおおおおおお!!」

 

芳佳は雄叫びをあげながらネウロイに突っ込んでいく。そして、自身の前面にシールドを張る。それにより、芳佳は完全に守られる。

ネウロイは再び攻撃を加えるが、やはり防がれる。そして芳佳はシールドを張った体制のままネウロイの体に突撃をした。

 

「やあああああああ!!」

 

芳佳は、ネウロイの体を突き破りながら機関銃の引き金を引く。放たれた弾丸はネウロイの体を次々と破壊していき、そしてコアを露出させた。そして、芳佳の弾丸はついにネウロイのコアをも粉砕、ネウロイの体は完全に消滅したのだった。

 

「芳佳ちゃーん!」

「リーネちゃん」

 

芳佳の元に、リーネが飛んでやって来る。そしてそのまま、芳佳の体をホールドした。

そして、二人は顔を合わせる。

 

「やった、やったね芳佳ちゃん!」

「うん!」

 

リーネは芳佳が飛べるようになったことを心から祝福した。その言葉に、芳佳も笑顔になる。

 

(ありがとう、お父さん)

 

そして、芳佳は父一郎の事を思う。あの時、自分を救ってくれたのは間違いなくお父さんであると、芳佳は心の中で思っていたのだった。

そしてその様子を、離れたところで見ている集団があった。501ウィッチーズだ。

 

「あの光はネウロイの破片か!」

「ああ、ネウロイは消滅したようだ」

 

バルクホルンは前方で見える光の破片に気づき、坂本も状況を理解した。

 

「少佐!二人は…」

「心配するな。二人とも無事だ」

 

ペリーヌは芳佳とリーネのことを不安に思うが、坂本が無事であることを言いホッとする。その様子に横に居たシュミットは微笑むが、芳佳とリーネの姿を確認しあるものに気づく。

 

「ん?何だあれ?見たことない機体だ」

「なに?」

 

シュミットの言葉に坂本も気づき、芳佳のユニットを見た。

 

()()!完成していたのか」

 

坂本は驚いた様子で、芳佳のユニットを見たのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「これが扶桑の新型機?」

 

その晩、格納庫内でミーナが坂本に問う。その様子を、夜間哨戒に出ようとしていたシュミットも耳を傾けて聞いていた。

 

「J7W1震電。一時は開発が頓挫したと聞いたが、宮藤博士の手紙によって完成したそうだ」

「ほう」

「博士の?まるで宮藤さんの専用機みたいな話ね」

 

坂本の言葉にシュミットは関心を示し、ミーナはどこかおかしく思いながらも言った。

 

「で、お手柄の二人は?」

「帰ってきてすぐに寝たよ。魔法力を限界まで使ったんだ、ムリは無い」

 

ミーナの言葉に坂本が答える。扶桑の艦隊を大型ネウロイから守ったリーネと、そのリーネを助けて大型ネウロイを撃破した芳佳は、現在二人揃ってベッドで眠っているのだった。

 

「でも凄いわね。前のストライカーでは強くなりすぎた宮藤さんの魔法力を受け止めきれなかったって事でしょ?」

「ああ。魔導エンジンの損傷を防ぐためにリミッターが働いていたようだ。だがこの震電なら、シュミットのユニット同様、宮藤の力を全開で引き出せる。それにしても、シュミットは最初から気づいていたのか?」

「え?まぁ…同じ経験者でしたから」

 

坂本の言葉にシュミットは頬を掻きながら言った。彼も自分の経験が無ければ気付くことは無かっただろう。

 

「もうひよっこ卒業かしら?」

「新人と思っていた宮藤も、気が付きゃ立派なパイロットの一人だとは…早いものだな」

 

ミーナの言葉にシュミットも同感した。しかし坂本は、それを喜ばしく思いながらも少し寂しくも感じていたのだった。




という訳で登場、震電(某ゲームでもお世話になっています)。そして、新人という殻から抜けた芳佳ちゃん。地味に話の途中から「宮藤」から「芳佳」に変わっているんです。気づきました?
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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