ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第八十九話です。どうぞ!


第八十九話「宮藤の不調」

「ふぁ~…」

 

夜間哨戒を終えたシュミットは欠伸をしながら基地に帰って来る。今日はサーニャは居ない。

シュミットの体内時間は以前に比べて夜間哨戒をしていく内に夜行型へと変わって来ていた。しかし、それでも早朝は眠いため、欠伸はよく出てくる。

 

「ん?」

 

ふと、シュミットは基地のはずれのところに居る人影を見つけた。それは坂本の姿だった。坂本は、海に向けて手に持っていた刀を振るうと、そこから海面が大きく揺れ、そして基地から地中海に向けて一直線のビームのように波が広がっていく。

 

「なんだありゃ…?」

 

シュミットはそんなことを思っていた時、新たに人影が一つ増える。なんとそれは宮藤の姿だった。

 

「あれは宮藤か…?扶桑の人って随分早起きなんだな…」

 

シュミットはこんな早い時間に宮藤の姿があることに少し珍しそうに思いながら、基地に帰投していくのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

シュミットは眠い体を懸命に引きずりながら食堂へ行く。

 

「お~う、シュミット!」

「おっはよ~!シュミット!」

 

食堂へ入ると、シャーリーとルッキーニがシュミットの方を向いて挨拶をする。

 

「あれ?今日はシャーリーとルッキーニが当番?」

「そだよー!今日のメニューはズッパ・ディ・パーネとボンゴレビアンコだよ!」

 

シュミットが聞くとルッキーニが答える。シュミットが厨房の方を覗くと、そこにはパンのスープと二枚貝を使用したパスタがあった。

 

「へぇ~…こっちはどうやって作るんだ?」

 

そう言って、シュミットはルッキーニ達に作り方を聞く。その間に、他のメンバーも続々と食堂へとやって来る。

そして、集まった人たちが食事をとり始めた頃、遅れて宮藤が食堂へやって来た。シュミットが声を掛ける。

 

「おはよう宮藤、早起きだったのに来るの遅かったな」

「え?」

「基地の外に居たのを朝見たぞ」

 

宮藤は驚く中、シュミットは基地の外に居たのをしっかりと見ていたため、遅かったことに意外だと思っていたのだ。

そして食事は進んでいくが、宮藤は下を向いて何か考え事をしていたのか、小さく返事を返した。

 

「うん…」

「?」

 

その反応に全員が不思議に思う。代表してリーネが聞く。

 

「どうしたの、芳佳ちゃん?具合でも悪いの?」

「え?ううん、大丈夫。どこも悪くないよ」

 

リーネの言葉に宮藤は顔を笑顔にして返事をする。

 

「だったら食え、たとえ腹が減ってなくてもだ。エネルギーを摂取しない奴が有事の際、まともな戦闘ができると思うか?」

「は、はい…」

 

バルクホルンの言葉に宮藤は肩を小さくしながら返事をする。

 

「エネルギーって…」

「あー、もう。朝っぱらから軍人の説教なんて聞きたくないよ~」

 

そんなバルクホルンの言葉に厨房に居たシャーリーは苦笑いをし、バルクホルンの横に座っていたハルトマンはうんざりしたような顔をする。

 

「おいハルトマン!それがカールスラント軍人の言葉(セリフ)か?」

「また始まった…」

「いいか?ここはブリタニアと違って戦力が全然足りないんだ。我々の任務は今まで以上に重いんだぞ!」

 

ハルトマンは耳にタコができるようであるが、バルクホルンの言っていることも正しい。ロマーニャの軍隊は他国の軍隊に対して練度の低さが露見しており、ブリタニアに比べると圧倒的に戦力不足が否めない。そのため、ウィッチ一人一人の責任は以前より重いのだ。

しかし、シュミットはそんなバルクホルンに言った。

 

「…なあバルクホルン、それは分かるが前にも聞いたぞ」

「いいやシュミット、これは大事なことだ」

「だがな、何度も言っていたらうんざりして逆効果になるぞ」

 

シュミットとバルクホルンが言い合いになる。基本中立立場のシュミットは仲裁役などを行う立場であるので、珍しい姿でもあった。

 

「頂きます!」

 

その時、二人が言い合いをしている向かい側で大きな声がする。見ると、宮藤が目の前のボンゴレビアンコを食べ始めていた。その表情は、先ほどの暗いのから一転して今度はなにか明確な目標が生まれたようでもあった。

その様子を見て、それぞれポカンとしたり、安心したように笑顔になったりなど様々な顔をしたのだった。

そして、食事を終えた者たちはそれぞれの仕事に移る。宮藤は、リーネとペリーヌと共に空戦訓練を行っていた。

まず初めに、宮藤とペリーヌが訓練を行う。この二人の性質は完全に異なっていた。ユニットは加速と格闘戦に優れた零式と、高速域の性能が高いVG.39bis。

 

(速い…あの子、前より速くなってる)

 

ペリーヌは飛行しながら、宮藤の変化に気づく。加速をしていく宮藤の動きが以前よりも速く感じたのだ。零式は元々加速にそれは、宮藤が以前よりも魔法のコントロールが上手くなり、ユニットの使い方を熟知した証拠であった。

 

「でも、スピードなら私の方が上ですわ」

 

そう言って、ペリーヌは手に持っていた模擬戦用機関銃を構える。いくらパイロットの技量が上がっても、ユニットの差は変わらない。そのため、ペリーヌは徐々に宮藤との距離を詰めていく。

 

「貰った!」

 

ペリーヌは宮藤を完全に照準器内に捉え、そして引き金を引こうとした。

その時、宮藤の姿が突然照準器内から消えた。ペリーヌは一瞬だけ驚くが、左後方を瞬時に見る。見ると、そこにはペリーヌの後ろに回り込もうとしていた宮藤の姿があった。

左捻り込み、坂本が得意とし以前宮藤もブリタニアで行った空戦技術である。宮藤は感覚で、この技を自分の物にしていた。

 

「でも、まだまだですわ!」

 

ペリーヌはそう言って、離脱にかかる。しかし、宮藤の零式は旋回性能と加速に優れているため、ペリーヌの後ろについて照準するだけの余裕が生まれた。宮藤が完全にペリーヌを模擬戦用機関銃の照準器に捉え、そして引き金を引くだけになった。

 

「うわっ!?」

 

宮藤は引き金を引いた。それは、驚きの声と共にだった。そして、宮藤から放たれたペイント団は回避軌道をするペリーヌから離れたところを飛んでいった。

 

(外した?この距離で?)

 

ペリーヌは思わず驚く。距離にして200メートルも無く、ペリーヌを照準器に捉えていたのにもかかわらず宮藤は外した。はっきり言って、殆どあり得ないことであった。そして宮藤は、何故かバランスを崩していた。

しかし、ペリーヌはそのチャンスを逃さなかった。すぐさま宮藤の後ろに回ると、照準をしっかりと定める。

 

「もらいますわ!」

「うわっ!?」

 

ペリーヌの放ったペイント弾は正確に宮藤に飛んでいき、宮藤のユニットに直撃、ユニットをオレンジ色に染めた。

その瞬間、リーネが手に持っていた笛を吹く。

 

「勝負あり!ペリーヌさんの勝ち!」

「まあ、このくらい当然の結果ですわね」

 

リーネの言葉にペリーヌが堂々と言う。しかし、内心で宮藤に後ろを取られたことに関しては僅かに気にしている様子であった。

 

(変だな…?急に力が抜けたみたい…)

 

一方宮藤は、先程のことについて不思議に思っていた。先程たしかにペリーヌを捉えたのに、彼女は急に力が抜けたかのような感覚に襲われたのだ。

 

「宮藤さん!」

「は、はい!」

突然ペリーヌに呼ばれて宮藤は意識を慌てて戻す。

 

「何をぼさっとしていますの?後二戦行きますわよ」

 

そう言って、二人の模擬戦は再開した。

しかし、残る二つの試合も宮藤はペリーヌに敗北した。いつもの宮藤なら負けるにしても、ペリーヌにある程度肉薄する戦いをするようになっていた。だが、今日に限っては肉薄どころか動きそのものが不安定であった。

 

(なんでだろう…上手く飛べない…)

 

宮藤は内心焦っていた。アンナとの特訓で飛行は明らかに成長していた。しかし、ここ一番で全然思い通りの飛行をしてくれない。

 

「三戦全敗…芳佳ちゃんらしくないよ…」

「ちょっと宮藤さん、訓練だからって手を抜かないでくださる?それとも私では本気を出せないと?」

 

リーネは純粋に宮藤の様子を心配し、ペリーヌは宮藤に問う。しかし、宮藤も意図して手を抜くことなどしていないとわかると、目を細めてペリーヌは地上へ降下していった。

その様子を、基地から見ていた坂本は変だと思いながら見ていたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「そうか、ペリーヌもそう感じたか」

「はい。今日の宮藤さんの動きは絶対変でした。いつものキレが無いというか…」

 

坂本はペリーヌの言葉に同意するように言った。ペリーヌはあの後、訓練から離脱したわけではなく、坂本に訳を説明しに行ったのだった。すると、坂本も地上で見ており、宮藤の様子をおかしいと感じていた。

 

「わかった、報告してくれてよかった」

「え?いえ、私は…その、戦力低下につながる要因は一つでも排除しなくてはと思っただけで…」

 

坂本に礼を言われてペリーヌは少しタジタジになりながら答える。しかし、ペリーヌもなんだかんだ言いながら宮藤の様子を心配していたのだった。

そして、坂本は整備班に宮藤のユニットの点検を行うように指令する。空中で見ている限りでは、宮藤の履いている零式が原因であると思った。

 

「異常なしだと?」

 

しかし坂本は、整備兵からの言葉に聞き返すことになった。

 

「はい。全ての項目をチェックしましたが、異常はありませんでした」

「魔道エンジンもきちんとオーバーホールしています。一応、念のためにオイルとプラグは新品に替えましたが」

 

整備班からの報告では異常なし。つまり、ユニットに対して特に問題点が無いのだ。

 

(となると、問題は宮藤自身か…)

 

坂本はそう考える。ユニットに問題が無いのであれば、次に来るのは使用者のほうである。すぐさま坂本は、宮藤を呼び、そして健康診断を行った。

医務室では、宮藤が女医から聴診器を当てられていた。その後ろでは、坂本が様子を見る形で立って見ている。

 

「はい、服着ていいですよ」

 

そして、女医は聴診器を離すと、宮藤に言う。宮藤はそれに従って制服を着た。

 

「至って健康ですね」

「そうですか」

 

告げられた言葉は、ある意味予想外だった。ユニットが原因でなければ宮藤に問題があってもおかしくないはずであるが、異常なしであるからだ。

そんな中、宮藤は坂本に聞く。

 

「急に健康診断何てどうしたんですか?」

「いや、定期的に部下の健康状態を把握するのも上官の役目だからな」

「でも、どこも異常無いんですよね?」

 

坂本は宮藤に悟らせないようにわざと別の理由を言う。尤も、その考え方も大事であるため宮藤は特に不思議に思わなかった。しかし、宮藤は疑問に思いながら女医に聞く。

女医は笑顔で答えた。

 

「ええ。全く何処にも異常はりません。理想的な健康体ですね」

「えへへ。実は私、今まで風邪ひいた事が無いのが唯一の自慢なんです」

 

女医に言われて宮藤は照れながら言う。基本的にウィッチは魔法力によって風邪など引きにくい、その上宮藤の魔法力は人並み以上のため、滅多なことでは風邪などひかないのである。

 

「おい、そこで何をやっている?」

 

ふと、坂本は宮藤から視線を外すと、横に向けて声を掛ける。その方向を見ると、リーネとペリーヌが居た。

 

「…すみません」

「あ、リーネちゃん。ペリーヌさん!」

 

二人は謝りながら宮藤の前に来る。宮藤は、二人が居たことに気づいていない様子であったが、宮藤のことを心配して見に来てくれていたのだ。

 

「芳佳ちゃん、どこか悪いの?」

「ううん、ただの健康診断。全然なんとも無いよ」

「よかった~」

 

宮藤の言葉にリーネは安心したように言う。

 

「なんとも無いなら尚更不安だな」

「わっ!?」

「バルクホルン!どこに居たんだ?」

 

しかし、突然聞こえた新たな声に全員が驚きながら、声のした方向を見る。そこには、いつの間にか入ってきていたバルクホルンの姿があった。突然現れたその姿には流石の坂本も驚く。

そして、バルクホルンは言った。

 

「お前がまともに飛べていないのは確認が取れている。その原因がわからない以上、お前を実践に出すわけにはいかん」

「本当?芳佳ちゃん。うまく飛べないの?」

 

バルクホルンの言葉を聞いてリーネは宮藤のことを心配しながら見る。宮藤は、思い当たることがあるらしく、下を向いた。

 

「不調の原因が明らかになるまで、基地待機を命じる」

「っ!?嫌です!」

 

そして、バルクホルンの衝撃の言葉は宮藤を驚かせ、そして反発させた。宮藤からしたら、まだ飛ぶことができる、不調なだけでいつかは元に戻ると思っていた。

 

「これは上官命令だ」

「命令…」

 

バルクホルンの言葉に、宮藤は怯む。以前命令を違反した結果、何が起きたかを身をもって体感し、そしてもうこりごりに思っていたのだ。しかし、宮藤はまだ心の中で飛びたいと思っていた。

しかし、希望はさらに打ち砕かれる。

 

「そうだな。その方がいいだろう」

「そんなっ!?」

 

バルクホルンの言葉に、坂本も同意した。彼女自身も、今の宮藤ではいつ何が起きるのか分かったものではない。そのためには、基地待機にしたほうがいいと考えた。

そして宮藤は、坂本とバルクホルンの二人に言われ、顔を下に向けながらショックを受けるのだった。




少し忙しい日々に入ってしまい、小説の投稿が遅れて申し訳ありませんでした。次回の話も、おそらく少し間が空くと思いますので、ご了承ください。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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