ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第八十八話です。シュミットの災難とは?どうぞ!


第八十八話「モゾモゾする事件」

シュミットとミーナが執務室で書類仕事をしている頃、基地に新設された浴場の更衣室では、ある事件が起きていた。

 

「全く…何かと思ったらたかが虫ぐらいで」

 

坂本はそう言ってあきれた表情をする。そんな坂本の目の前ではペリーヌが下にかがんで泣いていた。理由はズボンの中に入った虫を追い出そうとした時、坂本に見られたからと言うものであった。

 

「でもさ、ズボンの中にその虫が入ってさ…モゾモゾって…」

「そうですわ!あの性悪虫のせいで私がこんな目に!絶対に許しませんわよ!」

「あたしの虫だからね!」

 

エイラの言葉にペリーヌが立ち上がって怒る。彼女からしたらあれほどの屈辱を味わせた虫を意地でも許すことなどしなかった。そんなペリーヌにルッキーニが自分のものだと言う。

 

「よし、皆で捕まえよう」

「えぇ~…」

 

そして、宮藤がその虫を捕まえようと言うが、リーネはどこか乗り気では無い。第一、その虫の最初の被害者がリーネであったからである。

こうして、宮藤たちによる虫捜索が始まったのだった。全員で周辺を捜索しながら、基地中を探し回る。

 

「見つけた!あっち行った!」

「もうやめようよ~…」

「おのれどこに~!」

 

宮藤が逃げる虫を発見して追いかける。それに続いてルッキーニ、リーネは乗り気じゃない様子であるが宮藤たちについていく。そしてペリーヌは虫に対して完全に怒っている様子であり、周辺を懸命に探している。

その時、廊下の扉が開く。

 

「何を騒いでいるんだ!」

「バルクホルンさん」

 

部屋から出てきたのは先ほどまでハルトマンを起こしていたバルクホルンだった。バルクホルンは廊下で騒いでいる宮藤たちに言う。

 

「お前達、宿舎の廊下で騒ぐのは軍規違反だ」

 

宮藤たちに厳しく言うバルクホルン。しかし、そんなバルクホルンの後ろを虫が飛んでいく。

 

「あっ!いた!」

「虫!」

 

宮藤とルッキーニが気付き反応する。しかし、虫に反応している二人にバルクホルンは再び小言を並べようとした。

 

「虫?虫がどうしたんだ?大隊こんな騒ぎをだれがあああ…!?」

「あ、大尉のズボンに入ったナ」

 

バルクホルンの反応がおかしくなったのに、エイラが気付く。先ほど追いかけていた虫が、バルクホルンのズボンの中に侵入したのだ。

 

「バルクホルンさん…!」

「鎮まれい!」

 

宮藤は心配してバルクホルンの様子を伺うが、突然バルクホルンが大声を出す。その大声に、虫を追いかけていた者たちは思わず全員直立した。

 

「戦場では常に冷静な判断力が生死を左右する…こういう場合は…まず…!」

 

バルクホルンはそう言うと、自分のズボンに手を掛けた。

 

「こうだあ!」

「えええっ!?」

 

そうして、なんと全員の目の前でズボンを思い切り下ろした。あまりにも予想外の行動に目の前にいた宮藤が驚く。

 

「貰ったあ!」

「ぎゃう!?」

 

その時、後ろの部屋からハルトマンが現れると、思い切りバルクホルンのお尻を叩いた。あまりにも突然なことと痛さに、バルクホルンは変な声を出す。

しかし、ハルトマンの甲斐空しく虫は生きており、そのまま逃亡。後に残ったのは、バルクホルンの尻に残った紅葉のような手を叩いた跡だった。

 

「あ!逃げた!」

「虫~!」

「待ちなさい!」

 

宮藤たちは再びその虫を追いかけるのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「は~。取り合えず、今日の分は終わったわ」

「お疲れ様、中佐。はい」

 

ミーナは肩を叩きながら解放されたように言う。そんなミーナに、シュミットは両手に持っていたコーヒーのカップを一つミーナに渡した。

 

「ありがとう、シュミットさん。シュミットさんのおかげで捗ったわ」

「いえいえ」

 

ミーナのお礼の言葉にシュミットは少し嬉しそうにしながらコーヒーを啜る。

 

「そういえば、美緒がお風呂に入って温まるといいって言ってたわね」

「あ~、そんなこと言ってましたね~」

 

ミーナが思い出したように言う。シュミットも、そういえばそんなことあったなと思いながら気の抜けた声で言う。書類仕事による疲れの反動か、いつもよりも緩くなっていた。

 

「中佐、入ってきたらどうです?英気を養う目的で」

「そうね…そうしようかしら」

 

シュミットの言葉にミーナは少し考え、そして決めた。

 

「じゃあ、私はもう部屋に戻ります」

「ええ。ありがとう、シュミットさん」

 

そして、シュミットは部隊長室から出て行った。そして、基地の廊下を歩いていく。

 

「本当にのどかだな…」

 

基地の外に見える海を見ながら、シュミットはそんなことを思う。休日の501にしては随分と静かだと思いながらシュミットは廊下を歩いていき、そして自分の部屋に入る。

 

「う~ん…まだ寝てるな」

 

シュミットは部屋の中で寝ているサーニャを見ながら言う。サーニャは帰ってきた時と殆ど同じ様子であり、起きた様子は無かった。その証拠に、部屋に畳んであるサーニャの服にも変化はない。

 

「…起こすべきかな?」

 

シュミットは流石にお昼を回っているので、そろそろサーニャを起こそうかと思った。

そうしてシュミットはサーニャの寝ているベッドに行く。しかし、そこにあった寝顔を見て躊躇う。サーニャがあまりにも気持ちよさそうにしているので、シュミットはここは起こすべきではないと考えた。

 

「…このままでも、いいかな」

 

そう言って、シュミットは部屋の明かりをつけようとした。

 

「あれ?」

 

しかし、照明のスイッチを押しても電気がつかない。もう一度押しても同じだった。

 

「停電か?」

 

シュミットはそう思い、そして困った表情をする。暗くては手紙を書くにも見ずらいので、どうしたものかと思っていた。

そして、シュミットは諦めて部屋の外に出た。

 

「はあ…ん?」

 

シュミットは溜息を一つ吐く。その時、廊下からエイラが手に何かを持って現れた。

 

「エイラ…なに持ってるんだ?」

「ダウジングだ」

 

さも当たり前のように答えるエイラにシュミットは訳が分からなくなる。何故エイラはダウジングをもって歩いているのか。

その時、エイラはシュミットの部屋の方を見る。

 

「こっちダナ」

「私の部屋?居るのはサーニャだけだぞ」

「な、なんでサーニャがオマエの部屋に!?」

 

シュミットの言葉にエイラが驚いたように反応する。そして、シュミットの顔に詰め寄る。

 

「いや、サーニャが寝ぼけて入っただけだ…」

「とにかく入らせてもらうぞ」

「あ、おい…なんなんだ?」

 

シュミットが止める間もなく、エイラはシュミットの部屋に入っていく。そして、部屋の中でダウジングを構える。

 

「…こっちだ」

 

そう言って、エイラはベッドの方に向く。そこには、サーニャが眠っていた。

 

「さ、サーニャ?いや…サーニャのもっと向こう…」

 

エイラは違うと思いながら、サーニャに迫っていく。そして、ダウジングは思わぬところで止まった。

 

「なっ!?違うよな…絶対に違う…よな…?」

 

エイラはその反応に驚く。なんと、ダウジングが指した場所はサーニャのズボンの位置だったのだ。しかし、ネウロイ探索で頼っているダウジングが、嘘をつくとは思えなかった。

そして、エイラは口の中の唾を一つ飲み込む。そして、サーニャのズボンに手を掛けた。

 

「エイラ、一体何なんだ?なんで急に私の部屋に…」

「っ!?」

 

その時、外で突っ立って固まっていたシュミットが、エイラの様子が気になり部屋に入ってきた。突然部屋にシュミットが入ってきたためエイラは驚いてしまい、そしてサーニャのズボンにかけていた手を思い切り引いてしまった。その結果、エイラはサーニャのズボンを思い切り下してしまった。

そして、それに気づかないサーニャでは無かった。エイラの行動にサーニャは目を覚まし、そして首を動かしてエイラを見る。

 

「ち、違うこれは…!」

「エイラ…」

 

エイラは懸命にサーニャに弁解をしようとする。しかし、サーニャはエイラの方を見ると頬を赤くしながら目を細めて見る。

そして、悲劇は連鎖する。

 

「どうしたエイ…ラ…」

「み、見るな!」

 

エイラの様子がおかしいことに気づき、シュミットが来てしまった。その結果、シュミットは完全に見てしまった。エイラが懸命に隠そうとするが、もう遅かった。

 

「っ!」

 

サーニャはシュミットに気づき、急いで隠す。シュミットも、急いで体を横に向け、顔を逸らした。

 

「…」

 

サーニャは、シュミットを羞恥の表情でシュミットを見る。

 

「…すまない、サーニャ」

 

そしてシュミット、あっさりと謝った。この言葉から、シュミットは全部見てしまったと白状したのだ。しかし、これは逆効果だった。

サーニャはエイラの脱がしたズボンを履き直すと、立ち上がってシュミットの方に歩み寄っていく。

そして、部屋の中に一つ、乾いた音が響き渡った。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「と、とにかく!サーニャがネウロイの気配を感じたらしいんだ!」

 

その後、シュミットとエイラ、そしてサーニャは宮藤たちと合流し、エイラが全員に説明する。因みにそのエイラは頭にタンコブを一つ付けており、横にはサーニャが顔を赤くしながら膨れっ面をしていた。そしてさらに横にシュミットが右頬に赤い紅葉を作りながら立っていた。

そして、サーニャが続けて言う。

 

「まだはっきりしないけど、基地の上空と、それから建物の中」

「建物の中!?」

「まさか、あの虫がネウロイ!?」

 

バルクホルンの言葉に、事情を知っている者全員が驚く。

 

「虫?」

「はい。基地の中を変な虫が飛んでいるんです」

 

シュミットは訳が分からないため聞く。その質問を宮藤が答える。

 

「エイラ、サーニャ、シュミット、お前たちは協力して建物の中を探してくれ」

『了解』

 

坂本の命令に三人が返事をする。虫型ネウロイが基地の中に居る可能性を考え、戦力の分散を図った。

 

「バルクホルンとハルトマンは上空の迎撃準備」

『了解』

 

そして、バルクホルンとハルトマンにも命令をする。二人はサーニャの言っていた基地上空に居るネウロイの迎撃を行う準備を行う。

坂本は宮藤を連れて行く。宮藤はミーナに連絡、坂本は屋上でネウロイの確認だ。

 

「…あれだな」

 

そして、坂本がネウロイを確認する。その時、宮藤が後ろから走ってやってくる。

 

「坂本さん!ミーナ隊長が部屋に居ません!」

「なにっ!?仕方ない、緊急警報だ!」

 

坂本は屋上に設置されている緊急警報を押す。しかし、基地に警報音は鳴らない。電気系統が既にネウロイによって麻痺したのだ。

 

「基地の電気系統までやられたのか!?宮藤、ハンガーのハルトマンとバルクホルンに伝令だ!」

「はい!」

 

坂本はすぐさま宮藤に命令をする。連絡が取れないのであれば、直接取るしか他に方法は無い。

そして、宮藤は走って格納庫に行くと、バルクホルンとハルトマンに坂本からの命令を伝えた。

 

「坂本少佐から伝令です。上空のネウロイにコアは確認できないが、このまま放置はできない。二人には早急に迎撃してほしいとのこと」

『了解!』

「尚、基地内には電気系統を麻痺させる飛行物体が存在します。十分注意されたし、とのことです」

 

そして、宮藤は続けて補足を言う。

 

「あのズボンに入ってくる変な虫のことだな」

「ちょうど対策を話し合っていたところだ」

 

そう言って、バルクホルンとハルトマンは揃ってズボンを下ろした。

 

「ええっ!?」

「行くぞ、ハルトマン!」

「スースーする!」

 

宮藤は驚く中、二人はユニットを履いてそのまま離陸してしまった。残された宮藤は、顔を赤くしながら出撃した二人を見送った。

 

「あっ!そうだ忘れてた!」

 

呆けていた宮藤は突然、思い出したかのように走り出す。伝令を伝えただけでなく、この後に坂本に伝え返すのも大切である。

そして、宮藤は急いで坂本の居る場所へ戻ってきた。

 

「さ、坂本さん!バルクホルンさんとハルトマンさんが出撃しました!」

「よし」

 

宮藤の言葉に坂本が返事をし、そして右目の眼帯を開き魔眼を使ってネウロイの反応を感じ取る。

 

「…こっちだ!」

 

そう言って、坂本達も基地内のネウロイを捜索しだしたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「はあ、確かに美緒の言う通り、疲れが取れた気がするわ」

 

その頃、ミーナはネウロイが接近していることは知らずに、基地に新設されたお風呂を堪能していた。ミーナ自身はあまりお風呂を好んで入るわけではないが、坂本の言った通り疲れが取れた気がしたので満足していた。

そして、ミーナは更衣室に置いていた自分の服を着始める。

 

「あそこです!」

「あそこだ!」

「そこか!」

 

ミーナが上着を着て、ズボンを履いた時だった。突然入口の方から声がする。ミーナが振り返って見てみると、そこには出撃したバルクホルンとハルトマン、外で待機しているシュミット以外の全員が居た。

 

「ちょ、ちょっと?えっ?」

「今ですわ!」

 

ミーナは全員がそろって自分の方を見ていたので何のことか分からずに怯む。その時、ペリーヌが思い切りダイブをして、ミーナのズボンに手を掛ける。そして、そのズボンを思い切り下におろした。

 

「見えた!」

 

そして、坂本が魔眼でネウロイの姿を捉えた。しかし、ミーナは坂本がズボンを下ろした瞬間にそんなことを言ったので完全に勘違いをし、顔を赤くする。

 

「きゃあああああああ!!」

 

そして、ペリーヌが下ろしたズボンを今度は思い切り引っ張り上げた。

その結果、ズボンの中に潜んでいたコア持ちの虫型ネウロイは、ミーナによって完全に潰され、そして破壊された。

 

「あっ」

「あれ?」

 

それと同時に、サーニャの魔導針、エイラのダウジングロッドの反応が消えた。

 

「見事だ、ミーナ」

「流石ですわ!」

「うわーん!私の虫~!」

 

坂本はネウロイを倒したミーナに称賛、他の皆もルッキーニ以外がミーナを見て流石と言う。

 

「な、何なの一体!?」

 

しかし、訳の分からないミーナは皆が一体何をしているのか分からず、顔を赤くしながら聞き返すのだった。

そして、基地の上空では、接近していたネウロイが突然粉砕した。

 

「ネウロイが」

「何もしてないのに消えた?」

 

バルクホルンとハルトマンは突然の光景に驚く。自分たちは攻撃をしていないのに突然その姿を光の破片に変えたのだから尚更だ。

その時、二人の耳に付けたインカムに声が流れてくる。

 

『坂本だ。コアはこちらで破壊した。上空の物は本体では無い。基地に帰投せよ』

「へ~…」

「了解、任務を終了する」

 

坂本の言葉にハルトマンは驚き、バルクホルンは任務終了を言った。これで、ネウロイの危機は完全に去った。

 

『ハックション!』

 

しかし、二人は肌寒さのあまりくしゃみを同時にするのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「これ、書類です…」

「ありがとう、シュミットさん」

 

モゾモゾするネウロイの事件から数日後、シュミットは部隊長室に提出書類を出していた。ミーナはそれを何事もなく受け取るが、シュミットは部隊長室に新しく飾られたあるものに目が行った。

 

(あの形…パ…いや、ズボン?)

 

シュミットが見ていたものは、勲章だった。それは、昨日のネウロイをミーナが撃墜したとき、200機目であったことを称えられて送られた特別な勲章だった。

しかし、シュミットはその勲章の形に何か悪意を感じるのだった。それは、どう見てもズボンの形をした勲章であり、明らかに狙ったとしか言いようのない代物であったからであった。




なんというラッキースケベシュミット。そしてあの勲章の悪意ある形。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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