ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第八十五話です。久しぶりに文章が少ないです。どうぞ!


第八十五話「仲違い」

翌日、基地上空。

 

「あの~…本当にいいんですか?」

 

リーネは対装甲ライフルをエイラに向けながら聞く。弾はペイント弾では無く、実弾だ。

 

「構いませんわ。おやりになって」

「で、でも…」

 

リーネの質問に答えたのはエイラ…では無く、エイラの後ろに居るペリーヌだった。しかしリーネは、どこか撃ちずらそうな反応をしていた。

そして、ペリーヌは前に並ぶエイラに言った。

 

「さ、エイラさん。私をサーニャさんと思って守ってくださいまし」

「え~…オマエがサーニャ?」

 

ペリーヌに言われてエイラは露骨に変な反応をする。

そもそも何故、このような事になっているのか。それはエイラがペリーヌに協力を求めたことから始まった。宮藤に代わって自分がサーニャの盾役になる為に、シールドを張る訓練を頼んだのだ。因みに、何故ペリーヌに頼んだのかと言うと、エイラのイメージから宮藤といつも揉めているから、「敵の敵は味方」という理由だった。

しかし、エイラが露骨な反応をしたのでペリーヌは怒った。

 

「真面目におやりなさい!」

「は、はい!」

 

しかし、その声に驚いて反応したのはリーネだった。そして、リーネは罪悪感を感じながらも対装甲ライフルの引き金を引いた。

 

「あ、ひょい!」

「ひっ!?」

 

しかし、エイラは後ろを向きながらも未来予知によって弾丸の位置を知り、体を本能的にわずかに逸らす。そして、本来エイラがシールドで止めるはずだった弾丸は後ろに居たペリーヌのところへ飛んでいき、ペリーヌはギリギリのところで弾丸を止めた。なんと弾丸の位置は自分の顔だったではないか。

その様子を見てリーネが心配そうに聞く。

 

「だ、大丈夫ですか~…」

「何で避けるんですか!避けたら訓練になりませんでしょ!?」

「ワリイワリイ…けど、お前じゃ本気になれなくてサ…」

 

ペリーヌはエイラに詰め寄って聞く。エイラはエイラで、ペリーヌではサーニャのようにいかないようでどうやらシールドを張れないようだ。

しかし、そんなエイラの態度にペリーヌが爆発した。

 

「誰の為に私が体を張ってると思いまして!?リーネさん!いいからじゃんじゃんお撃ちになって!」

「で、でも…」

「いいから!!」

「は、はい~…!」

 

ペリーヌに半ば脅される形でリーネは引き金を引く。

 

「よっ!」

 

しかし、エイラはエイラで再び固有魔法で弾丸の位置を未来視してしまい、すべて避けてしまう。そのため、弾丸は全部ペリーヌの元へ飛んでいく。

地上で見ている者たちも、その光景を見ていた。

 

「うわ~…あんなの私にも出来ないよ…」

「その才能が仇になるとはな…」

「…」

 

ハルトマンはとんでもない光景に驚きながら、バルクホルンはエイラの才能の弱点である点を見ながら呟く。一方シュミットは、その光景をじっと見ながら黙っていた。

 

「エイラさん!何度言ったらわかるんですの!!」

「ご、ごめんなさ~い!」

 

上空ではペリーヌがエイラに大声で怒鳴り、特に悪いことなどしていないリーネが何故か謝ると言う不思議な光景が繰り広げられるのだった。

結局シールドを張れなかったエイラは、自分とサーニャの共用の部屋に戻る。

 

「あれ?」

 

エイラは部屋に入ったとき、ソファーに掛かっていた物に目が行く。そして、それを手に取ってみた。

 

「これは…」

「エイラのコートでしょ?」

 

エイラの言葉にサーニャが答える。サーニャは、部屋のクローゼットの中で何かを探している様子であり、顔だけを出しながらエイラに言った。

 

「成層圏は寒いから」

「そっか!そういやこれも久しぶりだな!」

 

エイラはそう言って自分のコートを見る。エイラ自身も寒さに慣れている点からコートを着る機会があまりなかったため新鮮な気分だった。

 

「で、どうだったの?」

「え?」

 

突然サーニャに聞かれてエイラは何のことか分からず聞き返す。しかし、次に帰ってきた言葉はエイラを動揺させた。

 

「ペリーヌさんの特訓」

「な、なんだ…知ってたのか」

 

エイラはサーニャに秘密で特訓をしていたつもりだったが、サーニャはエイラがペリーヌと共にシールドを張る特訓をしていることを知っていた。

 

「上手くできた?」

 

そして、サーニャはエイラがシールドを張ることができたかを聞く。しかし、サーニャに帰ってきた言葉は簡潔だった。

 

「ムリ、駄目だった」

「そう…」

 

その答えは少し予想外だったためか、サーニャはしょんぼりしたように反応した。

その様子に気づかず、エイラはサーニャの方を見る。そして、サーニャが手に沢山のマフラーを持っているのに気づいた。

 

「あれ?マフラーそんなに持ってくのカ?」

「うん、これ?」

 

エイラに言われてサーニャは視線を手元に向ける。

 

「エイラと私と芳佳ちゃん、それからシュミットさんのだよ」

「宮藤?」

 

エイラは芳佳と言う単語に驚く。シュミットにはサーニャが貸してあげることを知っていたが、宮藤に貸してあげることは聞いていなかったからだ。

 

「芳佳ちゃん、扶桑からなんも用意をしないで来ちゃったから、貸してあげようと思って」

 

サーニャは説明をして、そして少し下を向く。

 

「でも、エイラも張れるようになるといいね。シールド」

「無理だよ…」

「え?」

 

しかし、エイラから帰ってきた言葉はサーニャの予想外の物だった。

 

「やっぱり、慣れないことはするもんじゃないな」

 

エイラは僅かに弱く、そう言った。しかし、サーニャはそんなエイラに聞いた。

 

「エイラ、諦めるの?」

「出来ないことをいくら頑張ったって、仕方ないじゃないか…」

 

エイラはそう言って、サーニャから目を背ける。これでは、エイラはまるで逃げているだけである。

そんなエイラに、サーニャは言った。

 

「出来ないからって、諦めちゃダメ!」

「なっ」

「諦めちゃうから…出来ないのよ」

 

サーニャはエイラに言う。諦めるからこそ、逃げているからこそシールドを張ることができないのではないかと。

しかし、エイラはそんなサーニャの言葉に癇癪を起こしてしまった。

 

「じゃあ最初からできる宮藤に守ってもらえばいいだろ!」

 

エイラはこの時、カッとなってしまった。そして、サーニャに強く当たる。自分の力では無く、最初からシールドを張ることができる宮藤に頼めばいいだろと。

 

「エイラのバカ!」

「サーニャの分からずや!」

 

サーニャの大声に、エイラも言い返した。その時、エイラは未来予知であることに気づく。

目の前に、何かが飛んできてエイラに直撃する。それは、サーニャが愛用していたクッションだった。そしてエイラは、自分に当たったクッションなど気にせず、サーニャを見た。

サーニャは、懸命にエイラの方を見ていた。今にも泣きそうな表情をしているサーニャに、エイラは何も言えなかった。

そして、サーニャは走り出すと、黙って部屋を出て行ってしまった。

 

「あ…」

 

残されたエイラは、どうすることもできずに部屋の中で立ったままになるのだった。

その時、サーニャの出ていったドアから新たな声がする。

 

「何があった、エイラ?」

「シ、シュミット…お前には関係無い事ダ…」

 

突然現れたシュミットにエイラは驚く。しかし、エイラはシュミットには関係の無いことだと言って説明しない。

 

「…サーニャ、泣いてたぞ」

「っ!」

 

その一言で、エイラは動揺する。自分がサーニャを泣かせてしまったと言う事実に。

 

「お前がシールドを張れないのは仕方ない…だが、お前が頑張って守ろうと思うサーニャに、癇癪をぶつけてどうする?」

「だ、だけど…」

 

シュミットの言葉にエイラは尻すぼみになる。その様子を見て、シュミットは溜息を一つ吐くとエイラに背を向け、そして話し始めた。

 

「…正直な話、出来る事なら私がサーニャを守りたいとだって思ってる。だが、私はそれが出来ない。正直に言うと、まだチャンスのあるエイラが羨ましいと思う」

「…」

「私は、自分の為すべきことをしてサーニャを守ろうと思う。エイラ…お前はサーニャの力になりたくないのか?」

「違う!」

 

シュミットの言葉に、エイラは思い切り否定した。その言葉に、シュミットは顔を見せないが微かに微笑む。

 

「なら、サーニャを守ってくれ」

 

そう言って、シュミットは部屋から出て行ったのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

その夜、サーニャは基地の外の湖で水浴びをしていた。

 

「…」

 

サーニャは黙ったまま、空に見える月を眺めて水に浮いていた。考え事をしているサーニャの周りで音を立てるのは、水の音だけだった。

 

「サーニャアアアアン!!」

 

その時、突然そんな声がしたのでサーニャは体を起こして声のした方向を見る。

そこには、ハルトマンが湖に思い切りダイブをし、高い水しぶきをあげた。

 

「いったぁ~…」

 

思い切りダイブをしたハルトマンは、あまりにも高くジャンプをして水に打ち付けられたので痛そうな反応をする。その様子を、サーニャはキョトンとしながら見ていた。

そして、二人は基地に残された遺跡の石に座って、話をする。こう見えても、二人は仲がいい。

ハルトマンは、サーニャが何か悩んでいると踏んで話を聞いていた。

 

「にゃはは、そんなことがあったんだ」

「笑い事じゃありません…」

 

ハルトマンが笑いながら言うが、サーニャにとっては笑えない。今までウィッチーズの中では一番と言っていいほど関りのあったエイラと喧嘩をしたのだから、当然である。

 

「で、サーニャはどうしたいんだい?」

「…私?」

 

ハルトマンに言われてサーニャは顔をあげてみる。すると、月を見ていたハルトマンは少し意地悪くサーニャを向いて言う。

 

「やっぱり、本当はシュミットに守ってもらいたかったりする?」

 

その言葉に、サーニャは顔を赤くする。その様子を見てハルトマンは少し面白そうな反応をするが、再び視線を月に向けた。

 

「でも、任務じゃ仕方ないか…」

 

シュミットに助けてもらいたいという思いはサーニャにもある。しかし、彼も彼で作戦の重要な部分を担っているのだ。

サーニャは、複雑な思いで水面を見るのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「本日未明に、ロマーニャの艦隊と航空部隊が接触したそうよ」

 

翌日、基地の部隊長室でミーナが坂本に届いた伝令を話していた。

今回のネウロイ撃退は、ウィッチーズだけでなく、ロマーニャ軍も作戦に加わっていた。尤も、ウィッチ達が作戦を組み直している間、ロマーニャ軍がネウロイを引き受ける形であったが。ロマーニャ軍も、ウィッチーズだけに戦果を取られるのを焦っていたのだ。

 

「結果は?」

 

坂本がミーナに聞くが、ミーナは首を横に振って説明した。

 

「返り討ちに遭って、重巡洋艦ザラとポーラが航行不能、それから航空兵力も損失したわ」

 

ロマーニャ軍はネウロイに対して、戦闘機による機銃攻撃、巡洋艦艦隊による艦砲射撃、爆撃機による反跳爆撃によって、例の超巨大ネウロイに攻撃を加えた。

しかし、ロマーニャ軍の攻撃はネウロイの進行を低下させることができず、逆にネウロイの攻撃によって戦力を喪失する羽目になってしまった。

 

「…我々の出番だな」

 

坂本はそう言って、座っていたソファーから立ち上がるのだった。




本音を言えばサーニャを守りたいシュミット。だが、彼の役目はそうさせてくれないので、逆に今はエイラを羨ましく思っていたりする。そして、エイラにサーニャを守ってくれと頼んだのですね。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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