「ということで、臨時補給を実施することになりました」
ジェットストライカーの騒動が起きた数日後、基地のブリーフィングルームでミーナの声が響く。
事の始まりは、朝食の食堂で起きた。宮藤たちが朝ご飯を作ろうとした時、お米が無いことに気づいた。予定であれば次々とバラバラに集まってくるはずのメンバーが、いっぺんに来たことによる誤算によるものだった。
そこで、ミーナがそのことを聞き、臨時補給を行うことにしたのだ。
「臨時補給か…」
と、シュミットはそのことに少し嫌な顔をする。初めてこの世界に来た時にすぐ臨時補給が行われたが、その時はシャーリーの運転する暴走トラックによって揺さぶられ、補給実施先で暴走列車を止めた。こうも色んな事が続けてあれば、あまりいい思い出とは感じなかった。
「大型トラックが運転できるシャーリーさんと、ロマーニャの土地勘があるルッキーニさんはまず決定とします」
「偶には基地の外に出たかったから、こんな任務は大歓迎だよ」
と、ミーナがやはり言ってきた。運転はやはりシャーリーであり、ロマーニャが故郷のルッキーニが街を案内する意味ではこれは当然だった。シャーリーもその任務を喜んで受けるようだ。横に入るルッキーニは年相応に飛び跳ねてはしゃいでいる。
「他に、宮藤さんとリーネさんも同行します」
「あの…私はやっぱり待機で…」
さらにミーナは、街に送り出すメンバーとして宮藤とリーネを指名する。しかし、リーネはすこし言いずらそうにではあるが、手を上げで自分は待機をすると言った。
宮藤はどうしてと思うが、ミーナはそれを了承した。
「わかりました。では、宮藤さんお願いね」
「中佐、リーネが行かないなら私が行きます。物資は重いので力仕事もありますから」
「いいわ。では、シュミットさんもお願い」
「了解」
と、リーネの空いた枠にシュミットが入る。そして、シュミットはシャーリーに言った。
「シャーリー」
「ん?なんだ?」
「安全運転で頼むぞ。いいな?」
と、シュミットはシャーリーに念を押すように言う。以前のような暴走運転はもうごめんだと思っていたからだ。
「おう!」
しかし、シャーリーは本当にわかっているのかと思う顔で返事をした。シュミットは僅かに不安になるが、返事をしたのだから多分大丈夫だろうと今は思ったのだった。
「宮藤、任務中はシャーリーかシュミットの指示に従うようにな」
「はい!」
「では、欲しいものがある人は言ってください」
そして坂本は、宮藤に命令をしっかり守るようにと言う。そして、ミーナは全員に何か欲しいものが無いかを聞いた。
「欲しいものか…新しい訓練器具とか…」
「はいはい…そういうのじゃなくて、皆の休養に必要な物よ」
坂本の言う欲しいものが完全にトレーニング系の物であったため、ミーナがそうじゃないと説明する。
「休養か…訓練をしっかりしてしっかり休む、重要だな」
「うーん、それなら訓練の後に士気を保つには風呂が必要だな」
「それ、バスタブを買えって事ですか…?」
バルクホルンが休養と言う言葉に共感し、そして坂本が風呂が必要であると言う。しかしシュミットは、坂本がまるでバスタブを買ってこいと言っているようにしか聞こえず苦笑いをする。
そしてミーナは溜息を吐く。
「はぁ~…貴方達の頭って訓練しかないの?誰かもうちょっとまともなものを――」
「あの、私は紅茶が欲しいです」
ミーナが周りに助けを求めた時、リーネが手をあげて意見を出す。今まで出た物の中からは一番まともだった。
その言葉に続いて、ミーナも意見を出す。
「そうね、ティータイムは必要ね。それじゃあ私はラジオをお願いしていいかしら?」
「カールスラント製の立派な通信機があるじゃないか?」
「ここに置くラジオよ。皆で音楽やニュースが聞けるといいでしょう?」
と、ミーナはラジオを注文する。確かに隊の中での娯楽は重要なので、その意見には誰もが賛成した。
「紅茶とラジオ、それから…」
「ピアノ!ピアノを頼む!」
と、宮藤がメモを取っているとき、エイラが宮藤に言う。しかし、シュミットは流石にそれはとエイラに言う。
「サーニャのピアノが聞きたいのは解るが、流石にピアノは運べないぞ…」
「ちぇっ、サーニャのピアノが聞きたかったのに…なあサーニャ、欲しいもの無いカ?」
「エイラ、自分の欲しいものを頼んだら?」
そう言って、エイラはサーニャに欲しいものは無いかと聞くが、サーニャはエイラ自身が欲しいものを頼めばいいんじゃないかと思いエイラに優しく言う。
「バルクホルンさんは欲しいものありますか?」
「私か…特に無いな…」
「じゃあ、クリスさんへのお土産とか」
宮藤はバルクホルンに聞くが、バルクホルン自身は特にほしいものが無いようだ。しかし、宮藤はなら妹さんにあげるプレゼントとかはと、名案を出す。
「ク、クリスか…そうだな…か、可愛い服を…」
「え?」
「服を頼む!」
そう言って、バルクホルンは妹へのプレゼントとして服を頼んだのだった。
「ふむ…私も何かアリシアに送るか…」
と、それを聞いていたシュミットも妹へのプレゼントを考えた。
そして宮藤は、ペリーヌにも聞く。
「ペリーヌさんは?」
「あ、私は別にいりませんわ」
「え、でも、せっかくだし…」
「いらないって言ってるでしょ」
そう言ってペリーヌは、ブリーフィングルームから出て行った。宮藤はどうしてか分からずに突っ立ったままになるが、ここに来る前にペリーヌと共に行動していたリーネが説明をした。
「実はペリーヌさん、頂いたお給料と貯金をガリア復興財団に寄付してて…」
「そうなんだ…」
と、リーネの説明を聞いて宮藤もハッとした。ペリーヌは現在ガリアが解放された後も復興の為に戦っていた。そのため、自分の自由に使えるお金が無い状態だったのだ。
そしてリーネは、あることを思いついた。
「そうだ芳佳ちゃん、紅茶の他に花の種をお願いしていい?」
「うん。えっと~…あとはハルトマンさん…」
「ん?ハルトマンの奴、まだ寝ているな」
宮藤はハルトマンを探すが、周りにその姿が無かった。バルクホルンは思い当たることがあるらしく、ハルトマンの部屋に向かった。
「起きろ、ハルトマン!」
「う~ん…後90分…」
「兵は神速を貴ぶのだ。さっさと起きろ!」
と、いつものやり取りをする二人。そこに、宮藤がハルトマンに質問する。
「あの~、買い物に行くんですけど、何か欲しいものありますか?」
「お菓子!」
「お前に必要なのは目覚まし時計だ!」
宮藤の質問にハルトマンはすぐさま起き上がり答えるが、バルクホルンは違うだろうとハルトマンに言う。それでも駄々をこねたので、バルクホルンは宮藤と共に部屋を出た。
「…という訳で、目覚まし時計を頼む」
「あ、はい…」
と、バルクホルンが言うので宮藤も返事をし、そしてメモを取った。
その時、廊下を走ってエイラがやって来る。
「宮藤!」
「えっ!?」
「枕だ!」
「枕?」
突然のエイラの言葉に宮藤は何のことかと思う。しかし、エイラは続けて注文内容を言った。
「色は黒で、赤のワンポイントがあるといい。素材はベルベットで、無かったら手触りのいいやつ…」
「エイラさん、いっぺんに言われても分かんないですよ…」
エイラがあまりにも高速で注文内容を言うので、宮藤の頭の中はこんがらがってくる。
その様子を見てエイラはハアと息を吐くと、宮藤の持っていたメモ帳とペンを取った。
「仕方ないナ~、書いてやっから、間違えんなヨ!」
そう言って、エイラはメモに内容を書き記す。
「いいか宮藤、絶対忘れんなヨ!絶対だゾ!」
「はぁ~…」
そう言って、エイラは宮藤の手にメモ帳を戻したのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「うぇ~…気持ち悪い…」
「駄目…だったか…」
宮藤はトラックの中でお腹を抱えながら言う。その横ではシュミットが後悔した様子でグッタリとしていた。
基地を出発したトラックは、最初こそ普通に走行していた。しかし、シャーリーが前方に対向車が居ないと確認すると、突然スピードを上げだした。そしていつも通りの暴走状態になったのだ。そして現在に至る。
「芳佳、芳佳!ローマの街だよ!」
「え?」
ルッキーニが宮藤を起こす。宮藤はルッキーニの言葉に窓の外を見ると、そこにはロマーニャの綺麗な街並みが広がっていた。
「わあ~すごい!」
「あれ?芳佳ローマ初めて?」
「うん!」
宮藤は初めて来たローマの街に興味津々だった。そして宮藤が気になった建物などはルッキーニが一つ一つ説明する。
「あははは、芳佳子供みたい!」
「扶桑の建物は基本木造って聞くから、こういう石造りの街が珍しんだな」
「ローマは歴史ある街だからな」
「へへ~ん。そうでしょそうでしょ!」
ルッキーニは先ほどから目を輝かせてばかりの宮藤を見て笑う。シュミットは宮藤が珍しく見る理由を言い、シャーリーも、宮藤がこんなに驚くのも街を見ながら納得するので、ルッキーニは自慢げになる。
「ホント素敵な街だね!ルッキーニちゃんの生まれた街なんでしょ?」
「ふふ~ん、まあね!」
「アフリカでも、ローマの自慢ばっかりしてたからな~」
シャーリーの言葉に「だって」と膨れるルッキーニ。その様子から、シュミットはルッキーニがとても故郷を愛している優しい人間なんだと思った。
「ここでいいのか?」
「うん、ここは大抵のものは揃ってるんだ」
そして、ルッキーニが案内した場所にトラックを止める。そこには雑貨屋があり、ここで皆の注文した欲しいものを買うのだ。
中に入ると、そこには食器や家具、衣類や食品などありとあらゆるものがあった。
「おお、似合ってるな宮藤」
「どれどれ?…いいな」
シャーリーは宮藤が自分のサイズに合うかを図っている洋服を見てそう感想する。シュミットもアリシアにあげる洋服を探しながら、宮藤の服を見る。
「いえ、これはバルクホルンさんに頼まれたやつです」
「えええ!?これ、あいつが…!?」
しかし、宮藤の説明を聞いてシャーリーは服を見ながらあり得ないと言った顔をする。そして、何を思ったのか突然お腹を抱えて笑い出した。
「あっははははは!いっひひひひひ!」
「違いますよ!これは妹のクリスさんが着るんです!」
「はっははははは!」
宮藤は懸命に言うが、シャーリーは相当ツボにはまったようだ。彼女の頭の中では、宮藤が今手に持っている服を着ているバルクホルンの姿が頭にあった。
「はぁ~…宮藤、メモを貸してくれ」
「あっ、はい!どうぞ」
シュミットはそう息を吐くと、宮藤からメモを貰う。そして、他に必要なものは何かを確認して店内を見る。
「枕…枕…これか?えっと…赤ズボン隊…なんだそりゃ?」
そして、シュミットはメモにやたら詳細に書かれていた注文品を見つけて籠に入れる。
「後は…おっ」
他に必要なものは何かと探しているとき、シュミットの目にある物が止まった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ルッキーニは現在、退屈していた。理由は、自分が集めるものは集め終わったため、残りの人達が終えるのを待たされていたからだ。
「ふぁ~…ん?」
ルッキーニは欠伸を一つして、窓の外を見た。その時、ルッキーニの目にある光景が止まった。
それは、黒服でサングラスを掛けた男二人が、赤髪の少女の手を取って車に入れようとしている姿だ。よく見ると、少女は抵抗しているではないか。
ルッキーニはすぐさま店を出て、少女の元へ向かった。
「放してください!」
少女は抵抗をしている。しかし、黒服たちは少女を車に引っ張ろうとした。
「スーパールッキーニキーック!!」
その時、店から飛んでやって来たルッキーニが、男たちに向けてジャンプ蹴りをした。男はその蹴りを顔に食らい吹っ飛ばされ、そしてもう一人の男を巻き込んで倒れた。
「あああ、あの…」
「へへ~ん。いこ?」
「え?えええええ!?」
少女は倒れた男たちを見てアワアワする。しかし、ルッキーニが手を取って少女を懸命に男たちから放そうとする。しかし、少女はいきなりすぎて何のことか分からずに大声を出したのだった。
「ま、待て…ぐっ」
そして、ルッキーニによって倒された男たちは手を伸ばすが、力尽きてその場に気絶をしたのだった。
ついに来ました、鬼門回。なんて言いますか、この回は作者としてもどう書いたらいいのか分からない回ですね。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!