ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第八十話です。タイトルが全くと言っていいほど思いつかなかった回です。どうぞ!


第八十話「堅物なウィッチ」

翌日、自室待機を命じられたバルクホルンの部屋に来た宮藤とリーネは、目の前の光景を見て驚いた。

 

「あ、あの、バルクホルンさん?」

「何してるんですか…?」

 

バルクホルンとハルトマンの部屋は、ハルトマン側のスペースはごみの山となっており、バルクホルン側は整頓された綺麗ないものとなっていた。そんな中、バルクホルンはなんと自分のスペースの所にある天井の柱に片手で掴まり、なんと懸垂をしているではないか。

そして、質問されたバルクホルンは二人に言った。

 

「トレーニングだ。私が落ちたのは、ジェットストライカーのせいではない。私の力が、足りなかったからだ…」

「えっ!?またあれで飛ぶつもりですか?」

 

衝撃の告白に宮藤が驚く。しかし、バルクホルンはまるで当たり前と言わんばかりに答えた。

 

「当然だ。あのストライカーを使いこなすことができれば、戦局は変わる」

「無駄だ、諦めろ」

 

しかし、そんなバルクホルンの言葉に対して否定した声が聞こえる。宮藤達が部屋の入り口を見ると、そこにはシャーリーが立っていた。

 

「シャーリーさん」

「私を笑いに来たのか、リベリアン…魔法力切れで墜落など、まるで新兵だからな」

 

バルクホルンは、シャーリーがいつものようにからかいに来たのだと思い言った。しかし、シャーリーの表情はいつものような笑顔ではなく、真剣な眼差しでバルクホルンを見ていた。

そして、シャーリーは言った。

 

「隊長やシュミットが言ってただろ!あのストライカーはホントにやばいんだ、飛べなくなるだけじゃ済まないぞ」

「その通りだ」

「あっ、シュミットさん」

 

シャーリーの言葉に同調して、シュミットも現れた。シュミット自身も、あのジェットストライカーがいかに危険なものかを肌で感じていたからこそ、使うことを止めるように言ったのだ。

しかし、バルクホルンはその忠告に折れなかった。

 

「ジェットストライカーの戦闘能力の高さは、お前達だって十分分かっているはずだ。このくらいの危険など…」

「だったら死んでもいいのか!」

 

シャーリーが大声を出して言う。その雰囲気の変化には、宮藤やリーネも思わずビクリとするほど驚いた。

しかし、バルクホルンはトレーニングの手を止めない。

 

「私は、もっと強くならねばならんのだ」

「このわからずやっ!…シュミット?」

 

ついにシャーリーの堪忍袋の緒が切れそうになった。その時、シュミットがシャーリーの横を通り、バルクホルンに向かっていく。

シャーリー達はシュミットの様子を窺う。するとシュミットは、トレーニングで懸垂していたバルクホルンの足をいきなり掴み、そしてバルクホルンを引きずり落した。

 

「なっ!?」

 

突然のことにバルクホルンは手を滑らせ、そして地面に落ちる。そしてシュミットは、バルクホルンが次の行動を起こす前に彼女のシャツを左手で掴んだ。

 

「何をする!」

「ふざけるな!!」

「っ!」

 

シュミットのことを怒鳴りながら見るバルクホルン。しかし、彼から放たれた怒気の言葉は、彼女も思わず固まる。

そしてシュミットは、空いた右手を振りかぶると、そこに拳を作る。宮藤とリーネはシュミットがバルクホルンを殴ると思い、目を伏せる。

しかし、シュミットは振りかぶったその拳を、振り下ろすことは無かった。代わりに、彼は歯を食いしばりながらバルクホルンを見ており、その手は震えていた。

 

「俺に殴らすようなことをさせんじゃねえよ…!」

 

シュミットは震える声で、バルクホルンに言った。彼はバルクホルンを殴ろうとした拳を懸命に理性で止めているのだ。

その時、基地全体にけたたましい音が鳴り響く。ネウロイ発見の警報だ。

 

「あっ、ネウロイだ…」

「ハルトマンさん!?」

「居たんですか!?」

 

なんと、部屋の反対側のゴミの山にハルトマンが寝ていたのだ。そのことに気づかなかったリーネと宮藤は驚くが、ハルトマンは上着を着ると走り出した。

 

「お先!」

 

そう言って、ハルトマンは部屋から出た。

 

「私たちも行くぞ」

「…」

 

それに続いて、ネウロイに意識を切り替えたシュミットが出て行き、その次にシャーリーが一瞬バルクホルンの方を見た後、無言で走っていく。

 

「ちょ、ちょっとシャーリーさん!」

「芳佳ちゃん!私たちは司令室で待機だよ!?」

 

慌ててその後ろを宮藤が付いていこうとするが、リーネが場所が違うと宮藤に言う。

そして、部屋の中はバルクホルン一人だけになった。彼女は、シュミットの表情を見てから、下を向いて気の弱そうな顔をしていた。

 

「隙ありっ!」

「わっ!?」

 

その時、後ろからハルトマンが現れ、バルクホルンの耳に何かをはめた。バルクホルンは驚いてハルトマンを見るが、彼女は扉の方に両腕を広げながら走り去っていった。

 

「忘れものだよ~」

「…インカム?」

 

バルクホルンは、自分の耳にはめてあるものを確認する。それは、戦闘時にウィッチ達がつけるインカムだった。

そして、待機以外のメンバーは基地を出発してネウロイ迎撃に向かう。

 

『目標はローマ方面を目指して南下中。ただし、徐々に加速している模様。交戦予想地点を修正、およそ…』

「大丈夫だ。こちらも捕捉した」

 

レーダーを見ていたミーナが坂本達に修正地点を言おうとするが、先に坂本達がネウロイを肉眼で確認した。ネウロイは、複数のパーツで構成された弾丸のような形状をしており、徐々に坂本達に急接近していた。その時だった。

 

「なにっ!?」

『分裂した!?』

 

なんとネウロイが分裂をしたのだ。その数は5。ネウロイは数を利用してウィッチーズの壁を突破する気のようだ。5対5、数の差はこれで消えた。

 

「各自散開、各個撃破!ここから先へ行かすな!」

『了解!』

「シャーリー!」

 

坂本はすぐさま命令をし、各自がそれに返事をする。そんな中、坂本はシャーリーを呼んだ。

 

「どうした少佐?」

「コアがあるのはあの真ん中の奴だ、かなり速い。お前に任せた」

 

坂本は魔眼でコアの位置を事前に察知していた。その中でコアのあるネウロイは、一番速い速度で動いていた。そのため、部隊最速であるシャーリーにコア付きネウロイを頼んだのだ。

 

「了解」

 

その言葉にシャーリーも顔色を変え、そしてネウロイに向かった。高速で移動するネウロイの背後に回り込む。するとネウロイは、自分の後ろについている推進部分の勢いを強くした。

 

「逃がすか!」

 

しかしシャーリーも負けていない。高速移動するネウロイに向けて懸命に食らいつきながら、機関銃の引き金を引く。しかし、ネウロイはその攻撃を軽々と避けて行く。そして、次は自分の番だと言わんばかりにターンをし、そして頭をシャーリーに向ける。

 

「おっ、やる気か!」

 

その行動にシャーリーも迎撃態勢をとる。しかし、ネウロイから放たれたビームは凄まじく、シャーリーは回避とネウロイの捕捉、そして攻撃の三つを同時にこなさなくてはならない状況になる。

 

「じっとしてろよ…くそっ…」

 

その様子を見て、坂本が基地に連絡する。

 

『こちら坂本、シャーリーが苦戦してるようだがこちらも手が足りない。至急増援を頼む!』

「了解!リーネさん!宮藤さん!」

『了解!』

 

連絡を受けたミーナは、後ろに立つ宮藤とリーネを呼ぶ。二人も無線で聞いていたため、用件はすぐ理解していたので返事をする。

そして、二人は格納庫に向かってユニットを履き、魔法力を流す。その時だった。

 

「え?バルクホルンさん!?」

 

二人の目の前に突然、バルクホルンが現れるではないか。彼女は飛行禁止を受けて自室待機を命じられているはずだったからだ。

 

「お前たちの足では間に合わん!」

 

しかし、バルクホルンは二人に言うと、走り出した。向かった先にあったのは、鎖で縛られて使用禁止にされたジェットストライカーMe262があった。

バルクホルンはその鎖を掴むと、『怪力』を使って鎖を引きちぎった。そして、解放されたジェットストライカーに足を入れると、魔法力を流す。

 

「命令違反です、大尉!」

「今あいつを助けるには、これしか無いんだ!」

 

リーネが懸命にバルクホルンを止めるが、彼女は止まらなかった。ハルトマンにインカムを渡されて聞いていたバルクホルンは、戦場で苦戦するシャーリーの声を聞き、急いで向かおうとしたのだ。

 

「でも、まだ体力がっきゃあ!?」

 

宮藤求めにかかるが、バルクホルンは50ミリカノン砲を手に取ると緊急発進してしまった。

 

『トゥルーデ!?』

「すまんミーナ、罰は後で受ける。今は…」

 

その様子を見ていたミーナは無線でバルクホルンに呼びかける。しかしバルクホルンはミーナに謝りながら突き進んでいく。

 

『5分だ』

 

その時、無線で新たな声がする。それはシュミットの物だった。

 

『5分以内にケリをつけろ…罰はそれからだ』

「フッ…5分で十分!」

 

何とシュミットがバルクホルンに言った。その言葉を聞きバルクホルンは微かに笑うと、全速力でシャーリーのところに向かった。

その頃シャーリーは、ネウロイの速さに苦戦をしながらも、その後ろを取っていた。

 

「そこだ!」

 

シャーリーはチャンスを作りだし、そして引き金を引く。しかし、機関銃から弾は撃ちだされなかった。シャーリーの機関銃が弾詰まりを起こしたのだ。

 

「ジャムった!?」

 

シャーリーは思わず驚く。その一瞬の隙を突き、ネウロイは更に二つに分かれる。そして、二つに分かれた個体はシャーリーを挟み撃ちにした。

 

「やばい、挟まれた…!」

 

シャーリーはもう体力的にもかなり来ていた。たとえ片方の攻撃を防いでも、もう片方が後ろから攻撃をしかねない。万事休すと思われた次の瞬間、シャーリーの後方に居たネウロイが突然爆ぜた。

 

「えっ!?」

 

何事かと思ったシャーリーが見ると、バルクホルンが50ミリカノン砲を構えていた。彼女が放った弾丸が、シャーリーを挟撃していたネウロイを粉砕したのだ。

そしてバルクホルンは更にカノン砲を3発撃つ。

 

「バルクホルン!?」

 

シャーリーはバルクホルンが居ることに驚くが、バルクホルンの放った弾丸はシャーリーに向かっていた残ったネウロイに2発直撃。そして露出したコアに3発目が命中し、コアは粉砕される。

コアが破壊されたことにより、各場所に分散していたネウロイは全て光の破片に変わった。

 

「ジ、ジェットストライカーは使用禁止のはずでは…?」

「バルクホルンめ、無茶し寄って…」

「しっしっし」

 

ペリーヌは使用禁止になっているはずのジェットを使っているバルクホルンに驚くが、坂本は無茶をするバルクホルンに対して言った。そしてハルトマンは「やっぱりな」と言わん顔で笑っていた。

 

「やったぞバルクホルン!…おい?バルクホルン?」

 

シャーリーはネウロイを撃墜したバルクホルンの元へ向かおうとする。しかし、バルクホルンは直進したまま振り返らない。

シャーリーはそんなバルクホルンの様子がだんだんおかしいことに気づく。

 

「…どうなってんだ?バルクホルンのスピードが落ちないぞ!」

「いかん!ジェットストライカーが暴走してるんだ!このままだと魔法力を吸い尽くされるぞ!」

 

坂本がバルクホルンの身に起こっていることに気づいた。なんとジェットストライカーの暴走が起きており、バルクホルンの魔法力をまるでポンプのように吸い尽くして言っていたのだ。ウィッチの魔法力をすべて吸い尽くされては、二度とと魔法を使う事が出来なくなってしまう可能性が高い。

 

『シャーリーさん!』

「了解!」

 

ミーナは切羽詰まった声でシャーリーのことを呼ぶ。シャーリーも、自分がバルクホルンが止めようと返事をしながら向かっていく。この状況下でバルクホルンを捕まえることができる可能性があるのは、最速のシャーリーだけだ。

シャーリーは懸命にバルクホルンについていく。魔導エンジンを高速で回しながらバルクホルンに迫る。しかし、ジェットストライカーの方が直線の伸びが違った。シャーリーの最高速度を振り切る形で、バルクホルンの体は遠ざかっていく。

 

「くっそったれええ!!」

 

シャーリーは大声でそう言うと、ありったけの力を振り絞ってフルパワーを出した。魔導エンジンが焼き切れんばかりに回り、シャーリーの速度はぐんぐんと加速する。その加速によって、シャーリーはソニックブームを出した。

シャーリーは音速の壁を超えてバルクホルンに迫ると、ついにバルクホルンの体を捕まえた。

 

「止まれえええ!!」

 

そしてシャーリーは、ジェットストライカーについていた緊急停止装置のレバーを引っ張る。それにより、ジェットストライカーは黒煙を吐き出すと、バルクホルンの足から離れたのだった。

離れたジェットストライカーは海面に水没していく。しかしシャーリーは、バルクホルンの体を懸命に抱きかかえた。

 

「はぁ…んっ?」

 

シャーリーはようやく止まったことに溜息を吐く。その時、自分の胸に新たな感触を感じた。顔を下ろしてみてみると、バルクホルンが気持ちよさそうにシャーリーの胸に顔を埋めていた。他の人から見て、先ほどまで自分のウィッチ生命が危ぶまれる状況にあったなどと誰が思うかというほどに、幸せそうだった。

 

「ああーっ!!それあたしの!」

 

ルッキーニがバルクホルンに指差して抗議するが、バルクホルンは起きなかった。シャーリーはバルクホルンを抱えながら、そんなルッキーニの方を笑いながら見るのだった。




いいなぁ、バルクホルン…(遠い目をしながら)。それとシュミット君、女の子に手を出すのはいけませんよ(殴ってなかったからは禁止!)
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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