ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第七十九話です。前回が丁度80話目だったんですね。ではどうぞ!


第七十九話「邪悪なユニット」

「てい」

「あっ!」

「へへ~ん、勝った勝った」

「負けた腹いせか?みっともないぞ大尉」

 

バルクホルンが取ろうとしていたじゃがいもをフォークで横取りしながらシャーリーが挑発する。しかしバルクホルンはそれが負けた腹いせかといった様子で別のじゃがいもをフォークで刺す。

 

「シャーリー、次は頑張ってね!」

「おう!任せとけって!」

 

そんなシャーリーにルッキーニが応援をし、シャーリーが応える。上昇力テストで負けたシャーリーのことを思って、ルッキーニはシャーリーに頑張ってもらおうと思っていた。

そして、午後の部で再び二人はユニットを履いた。

 

「そんなにいっぱい持って飛べるんですか?」

 

次の勝負を行うシャーリーの格好を見て、宮藤が聞く。現在のシャーリーは手にM1918を持ち、体にはその予備弾倉を10個以上ぶら下げている。いつもより明らかに多い量の弾薬を持っていた。

しかし、シャーリーは宮藤の方を見ると笑いながら言った。

 

「私のP-51は万能ユニットだからな、いざとなればどんな状況にだって対応できるんだ」

 

シャーリーの言う通り、ノースリベリオンのP-51はマーリンエンジンを搭載した高性能機である。そしてシャーリーの使うD型は、その中でも使用目的に合わせたセットアップが即座に出来る万能型であった。

 

「今度は何ですの?」

「搭載量勝負だそうです。重いものをどれだけ持てるかを競うんです」

 

ペリーヌが再び聞き、リーネが答える。次の勝負内容は搭載量を競い合うものであり、いかにどれだけの物を持ち、そして性能を落とさずに目標を撃ち落とせるかといったものだ。

しかし、ペリーヌはシャーリーに向けて言う。

 

「それよりシャーリーさんは、胸の搭載量を減らした方がよろしいんじゃなくって?」

 

と、ペリーヌが皮肉る。その言葉にはシャーリーではなく、何故か宮藤とリーネが反応した。

 

「待たせたな」

 

その時、反対方向からバルクホルンの声がする。見てみると、ジェットストライカーを履きながら武装を持っていた。しかし、両手にMk108機関砲4門を持ち、なんと背中には50ミリカノン砲を背負っているではないか。これだけでも、シャーリーとの搭載量の違いを見せつけていた。

 

「だ、大丈夫ですかバルクホルンさん!?」

「フッ、問題ない」

「おいおい、そんなんで飛べるわけないだろ」

 

宮藤が驚きながらバルクホルンに聞くが、バルクホルンは問題ないと言う。しかし、シャーリーからしてみても武装が多く、ジェットの力があろうと飛べるわけがないと言う。

 

「嘘だろ…」

 

しかし、現実は違った。離陸をすると余りにも多い搭載量をもろともせずにバルクホルンは飛んでいくではないか。圧倒的な速さで飛んでいくその姿にはシャーリーも度肝を抜かれた。

 

「目標を確認!」

 

そしてバルクホルンは浮いているバルーンを見つけると、30ミリ機関砲を構える。そこから放たれた弾丸は、一瞬にしてバルーンを爆発させた。今までの機関銃とは圧倒的に違った火力だった。

 

(凄い…凄いぞこのジェットストライカーは!)

 

バルクホルンはジェットストライカーの底力に顔を輝かせる。今まで履いたどののユニットよりも素晴らしいと感じたのだ。

 

「マジかよ…」

 

その様子を、シャーリーはただ茫然と見ていることしかできなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ん~、私は料理のことはよくわからないけど、宮藤の作る料理は美味いな」

 

と、シャーリーが言う。一通りのテストを終えた一同は、宮藤たちが作った肉じゃがを食べていた。シャーリーの向かい側ではルッキーニが美味しそうに口を動かしている。

 

「これ、魚のダシか?」

「カツオです。ありがとうございます!」

「うん、美味…」

「美味しい…」

 

シャーリーが聞くと、宮藤が答える。肉じゃがはカツオだしを使って作ったようであり、皆に好評だった。

しかし、ペリーヌは一つ不満な点があった。

 

「それにしても…どうしてこんな油臭いところで食事することになるのかしら…」

「食べながら文句言うナ」

 

ペリーヌの言葉をエイラが注意する。そう、現在食事を取っているところはハンガーであり、食堂では無かった。

しかし、これには理由があった。

 

「芳香ちゃん、バルクホルンさんとシャーリーさんが心配なんですよ」

「私にできることはこのぐらいだから」

 

そう、ここで食べようと考えたのは宮藤だった。宮藤は勝負をするバルクホルンとシャーリーのことが心配になり、自分ができることは何か無いかと考えた結果、ここで食事することになった。

 

「ほら!お腹がすくと怒りっぽくなるって言うじゃないですか」

「そうでしたっけ?」

「そう言えば、前に誰かが『腹が減っては戦は出来ない』って言ってたな」

 

宮藤の言葉にペリーヌは疑問に思うが、シュミットはなんとなく納得した。

しかしそんな中、夕食に手を付けてないものがいた。

 

「あの、バルクホルンさんもお疲れじゃないですか?」

「あ、ああ…そこに置いといてくれ…今は、少し休みたいんだ…」

 

宮藤はユニットの固定台の所に座っているバルクホルンに食事を持っていく。しかし、バルクホルンは宮藤に置いといてくれと、力なく言った。よく見ると、顔もどこか疲れた表情をしていた。

 

「…」

「ん?どうした?」

「…いや」

 

シュミットはそんなバルクホルンの様子が気になり見る。しかし、シャーリーがそんなシュミットに聞いてきたので、彼ははぐらかしながら再び肉じゃがを食べた。

 

(…気のせい、か?)

 

しかし、彼の中ではまだ疑問な点があったのだった。

そして、食事を取ったシャーリー達はお風呂に入る。

 

「いやー、ドラム缶が風呂になるなんて大発見だなぁ」

「坂本さんがリバウに居た頃はよく使ったそうですよ」

 

シャーリーがドラム缶風呂に入りながら言う。基地の風呂はまだ完成しておらず、シャワーのみである。そこで、ドラム缶に水を入れて下から火を焚き、ドラム缶風呂を使って湯浴みをしていたのだ。

その時、ルッキーニが宮藤の入っていたドラム缶風呂に飛び込んだ。

 

「うりゃー!」

「うわっ!?ルッキーニちゃん、定員オーバーって、うわっ!?」

「あっははは!こっちは私一人でいっぱいだからな」

 

じゃれるルッキーニと慌てる宮藤の姿を見ながら、シャーリーは自分の胸を揺らして言う。

そしてしばらくゆっくりと入っているとき、宮藤は一つ思うことがあった。

 

「バルクホルンさんも入ればいいのに…」

「ほっときゃいいさ」

「なんだか、今日はいつもより疲れていたみたいですよね…」

 

宮藤はバルクホルンもお風呂に入ればいいのにと思う。シャーリーはあんな奴ほっとけといった様子で言うが、宮藤はバルクホルンの表情が凄く疲れているように見えたため、お風呂に入れば疲れもとれるのではと思っていた。

 

「きっとあいつのせいだよ!」

 

そんな中、宮藤と一緒に入っていたルッキーニが言う。しかし、宮藤は何のことを言っているのか分からずにルッキーニに聞く。

 

「え、誰?」

「あのガアーッ!ってやつ!」

「え?ジェットストライカーのこと?」

「そう!」

 

宮藤の言葉にルッキーニがそれだと言う。しかし、宮藤はジェットストライカーが原因だとはあまりピンとこなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

翌日、上空ではシャーリーとバルクホルンが横一列に並びながらホバリングしている。

 

「位置について…」

 

さらにその横では、ルッキーニが手に旗を持ちながら構える。

 

「よーい、どーん!」

 

そして、旗を思い切り振り下ろした。それと同時に、シャーリーが加速をしていく。

今日行われたテストは、加速力と最高速度のテストであり、同時にスタートをしてどれだけの速度を出せるかを競うものである。

 

「あれ?バルクホルン?どーん!どーんだってば!」

 

しかし勢いよくスタートしたシャーリーに対し、バルクホルンは目を瞑ったままスタートしない。ルッキーニは再びバルクホルンに向けて聞こえるように旗を振った。

しかし、バルクホルンはジェットストライカーの魔道エンジンの回転数が上がった瞬間、まるでカタパルトから打ち出されたかの如きスピードでスタートした。

 

「ひぎゃあ!?」

 

バルクホルンの起こした爆風はそばにいたルッキーニを吹き飛ばした。しかし、バルクホルンはそのことを気にせずにシャーリーに接近していく。

 

「なっ!?」

 

そして、あっさりとシャーリーを追い抜いた。

 

(凄いぞ…まるで天使に後押しされているみたいだ!)

 

バルクホルンは飛行しながら、今の現状を思った。ジェットストライカーの力は、今までバルクホルンの感じたことのないほど魅力的なものだった。

 

「あ、あたしがスピードで負けるなんて…」

 

一方シャーリーは、今起きたことが夢かと感じた。部隊最速、世界で見ても最速と自負するシャーリーが、スピード勝負で負けたのだ。自分の前を許したことのないシャーリーからしたら、このような経験は初めてだった。

 

「ん?なんだ?」

 

しかし、前方に通り過ぎていったバルクホルンを見ていたシャーリーはふと、様子がおかしいことに気づいた。バルクホルンの飛行が突然、不規則になったのだ。突然上昇しては降下し、右へ左へ飛んでいる。そしてついには、彼女は海面に墜落した。

 

「あっ!?」

「落ちた…!?」

「バルクホルンさん!」

 

それを見ていた者たちは、ただ驚くしかできなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

海から引き揚げられたバルクホルンは、医務室に運ばれる。メンバーはバルクホルンのことが心配になり、全員が医務室に来ていた。ただ一人、シュミットを除いて。

そして、気絶していたバルクホルンは目を薄っすらと明けた。

 

「あ、起きた」

 

最初に気づいたのはハルトマンだった。ハルトマンの言葉につられ、他のウィッチ達もバルクホルンを見る。バルクホルンの顔は、疲労したようにやつれていた。

しかし、バルクホルンは、なぜみんなが自分を見ているのか気になり質問した。

 

「どうした皆…私の顔に、何かついてるのか…?」

「バルクホルンさん!よかった…」

 

最初に安堵の声を漏らしたのは宮藤だった。しかし、バルクホルンは何のことかわからない様子だった。

 

「一体、何が…」

「トゥルーデ、海に落っこちたんだよ」

「私が…落ちただと…?」

 

ハルトマンの衝撃の告白に、バルクホルンは重い瞼を開く。なぜ自分が落ちたのか分からず、ハルトマンの言葉が信じられなかったのだ。

 

「魔法力を完全に使い果たして、気を失ったのよ…覚えてないの?」

「バカな…!?私がそんな初歩的なミスをするはずが無い…」

 

しかし、ミーナが続けて説明すると、バルクホルンはますますあり得ないといった顔でミーナを見た。

だが、坂本はそんな大尉に首を横に振って言った。

 

「大尉のせいじゃない。恐らく原因はジェットストライカーにある」

「はっきりとはわからないけど、魔法力を著しく消耗させてるんじゃないかしら…今、シュミットさんが履いて確認を行っているわ」

 

ミーナが言う通り、今シュミットはバルクホルンの代わりにジェットストライカーを履いていた。彼は今回の原因がジェットにあると考え、原因究明を買って出たのだ。

しかし、バルクホルンは二人の言葉に対して、自分の信念を曲げなかった。

 

「試作機に問題は付き物だ…あのストライカーは素晴らしい。実戦配備するために、まだまだテストを続けなければ…」

「駄目だ」

 

しかし、バルクホルンの言葉は医務室の入り口から聞こえた声に遮られた。全員が見ると、そこにはテストを終えて帰ってきたシュミットが居た。よく見ると、彼は疲弊したような顔をしていた。

 

「どうだった?」

「どうもこうも無いですよ、はっきり言って駄目です。バルクホルン、あのユニットは、飛行中に人を殺しかねない代物だった…」

「何だと…だが…」

「駄目よ」

 

シュミットの言葉にバルクホルンが何かを言おうとする。しかし、そのバルクホルンをミーナは手を握りながら止めた。

 

「貴方の身を危険に晒すわけにはいかないわ。バルクホルン大尉、貴方には当分の間飛行停止の上、自室待機を命じ上げます」

「ミ、ミーナ…」

「これは命令です」

「…了解」

 

ミーナに命令と言われ、バルクホルンはベッドに倒れこみ、そして返事をした。しかし、彼女の表情は弱っていても、どこか諦めきれてない様子だった。

 

「シュミット大尉、貴方も身の安全を考え、バルクホルン大尉と同じ飛行停止にします」

「了解…」

 

ミーナは続けて、ジェットストライカーを使ったシュミットにも同じように命令をする。それに対してシュミットは、バルクホルンのように躊躇うことなく素直に従った。彼からしても、命を削るようなことは御免だった。

そして、ミーナは医務室に居たウィッチ全員に新たな命令をした。

 

「現時刻をもって、ジェットストライカーの使用を禁止します!」




空飛ぶ棺桶と化したMe262。そして、身を削ってまで原因を追求するシュミット。無論彼もバルクホルンと同じように飛行禁止になりました。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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