ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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続けて投稿します。少し時間がずれました。どうぞ!


第七十八話「ジェットストライカー Me262」

501の格納庫内に爆音が響き渡る。その音は基地の外にも聞こえるほど巨大なものだった。

格納庫内では現在、その爆音とともに強風も吹き荒れていた。風により照明は揺れ、室内の塵などは風に舞い上がっていた。

そして、その原因となる人物が格納庫の中央に居た。

 

「よーしよし!今日も絶好調だな、私のマーリンエンジンは」

 

シャーリーはそう言って、自分の履いているユニットP-51を見る。彼女のユニットは高回転でエンジンを回すと同時に、周囲に轟音と暴風を噴き荒らしていた。

 

「シャーロット・イェーガー大尉!」

「ん?」

 

その時、シャーリーを呼ぶ声がする。声の下方向を見ると、そこにはバルクホルンが両腕を腰に当てて立っていた。

 

「そんな恰好で何をやっている」

「何って…エンジンテストだけど?」

 

バルクホルンが聞くが、シャーリーは見たまんまだと言わんばかりに答える。しかし、シャーリーの今の格好は下着のみである。その恰好をバルクホルンが許せなかった。

 

「そうじゃない!今は戦闘待機中だぞ。ネウロイが来たらどうするつもりだ」

「だって、ハンガーの中でエンジン回すと熱いじゃん。ほら、あっちも」

 

そう言ってシャーリーは指差す。バルクホルンがその方向を見ると、格納庫の鉄骨の上に眠るルッキーニが居た。彼女もまた、シャーリーと同様に下着姿である。

 

「あちい…」

「全く、お前たちはいつもいつも…」

 

その様子に、バルクホルンは小言を言う。しかし、シャーリーは何かを見つけると顔をにやけさせ、バルクホルンに言った。

 

「へぇ~、カールスラント人は規則に厳しいってか?どうなんだ、ハルトマン?」

「あっつ~…」

 

シャーリーが言うと、バルクホルンの後ろで声がする。バルクホルンが振り返ると、そこにはハルトマンが居た。しかし、彼女の姿もシャーリーのように、最低限の物しかなかった。

その様子にバルクホルンが驚きながら言う。

 

「ハルトマン!?お前まで!?くぅ~…それでもカールスラント軍人か!」

「え?そうだけど?」

「あっはははははは!」

 

ハルトマンは当たり前だといった様子で言うので、バルクホルンはそんなハルトマンを睨む。その様子を見て、シャーリーは大声で笑うのだった。

 

「暑いな…」

 

その時、シュミットも格納庫に入って来る。彼は格好こそまともであるが、格納庫内にこもった熱にうんざりとした様子だった。

バルクホルンはちょうどいいといった様子でシュミットに言う。

 

「シュミット!」

「ん?」

「こいつらにも何か言ってやってくれ。隊の規律が乱れて仕方がない」

 

そう言って、シャーリー達の方を見るバルクホルン。それにつられてシュミットも見ると、納得をした様子だった。

 

「暑いから服を脱いだ…ってことかシャーリー?」

「おうシュミット、この堅物軍人に何か言ってやれ。この暑さで服なんか着てたら、それでこそいざというときに動けなくなる」

「規律を守れと言ってるんだ!もしこの時にネウロイが来たらどうするつもりだ?」

 

と、シャーリーとバルクホルンはヒートアップしていく。その様子を、シュミットは「またか…」といった様子で見ることしかできなかった。どちらの言うことも正しいから、彼はこの場は時の流れに任せることにしたのだ。

その時、格納庫の入り口から数名の兵士たちが入って来る。彼らは何か荷物を持ってきた様子で運んでいる。それと同時に、ミーナと坂本も入って来る。

そして、兵士たちの運んできたものは、ユニットの固定台に乗っていた。

 

「ほう…これがカールスラントの最新型か」

「正確には試作機ね」

 

坂本はそこに固定されたユニットを見て言い、ミーナが補足する。そこには、全体を赤く塗られたユニットがあった。

そして、ミーナは手元の資料を読みながら続けて説明した。

 

「Me262V1、ジェットストライカーよ」

「ジェット?」

「ハルトマン中尉」

「どうしたんだ?その恰好」

 

ジェットという言葉に、ハルトマンが反応する。しかし、ミーナと坂本はハルトマンの格好を見て驚く。

 

「こら、ハルトマン!服を着ろ服を…ん?」

 

と、バルクホルンがハルトマンに注意をするが、バルクホルンも目の前に固定されたジェットストライカーに気づく。

 

「なんだこれは?」

「ジェットストライカーだって」

「ジェット!?研究中だったあれか!?」

 

ハルトマンの説明に、バルクホルンは思い当たるものがあるようで反応した。シュミットもユニットを見る。

ユニットは、通常エンジンのある位置とは違い、翼の部分に魔導ジェットエンジンが搭載されていた。その姿を見て「シュヴァルベと同じ形状なんだな…」とシュミットは思った。

 

「今朝、ノイエ・カールスラントから届いたの。エンジン出力はレシプロストライカーの数倍、最高速度は時速950キロ以上、とあるわ」

「950!?凄いじゃないか!」

 

ミーナの説明に、シャーリーが反応した。950キロなどという速度は、今まで使われてきたレシプロストライカーでなかなか出すことのできなかった速度だ。

 

「んで、そっちのは何だ?」

 

シュミットは横に並べてあるものが気になり聞く。そこには4つの大型機関砲と、戦車砲のようなものが置かれていた。

 

「ジェットストライカー専用に開発された武装よ。50ミリカノン砲一門、他に30ミリ機関砲四門」

「凄い!」

「そんなに持って、本当に飛べるのか?」

 

ミーナの説明にバルクホルンが目を輝かせるが、坂本はそんな武装を実際に持っていけるのかと疑問に思う。

その時、シャーリーがジェットストライカーの前に立ちながらミーナに話しかけた。

 

「なあなあ!これ私に履かせてくれよ!」

「いいや、私が履こう!」

 

しかし、そのシャーリーの言葉に待ったをかけたようにバルクホルンが言った。

 

「なんだよ、お前のじゃないだろ?」

「何を言っている。カールスラント製のこの機体は、私が履くべきだ」

「国なんか関係ないだろ。950キロだぞ?超音速の世界を知っている私が履くべきだ」

「お前の頭の中はスピードのことしかないのか?」

 

シャーリーとバルクホルンの言い合いはヒートアップしていく。その様子を、ミーナたちは呆れたように見る。

 

「また始まったわ…」

「しょうもない奴だ…」

「喧嘩好きだね全く…」

 

と、それぞれが言う。しかし、ミーナはシュミットに聞いた。

 

「シュミットさんはどう?」

「え?」

「履いてみたいとは思わないの?一応前の世界でもジェット戦闘機を見たことがあるのでしょう?」

 

ミーナに聞かれるシュミットだが、彼は特にジェットに対しての頓着が無かった。

 

「前の世界でもジェットは見たことないんですよね…それに、私はDo335のテストパイロットですから、そっちを放り出すわけにはいかないですから」

 

と、シュミットは特に乗る気は無いようだ。

その時、鉄骨の上で寝ていたルッキーニが飛び出した。

 

「いっちばーん!」

「あっ、おい!」

「ずるいぞルッキーニ!」

 

ルッキーニは上空を舞うと、今まさに二人が取り合いをしていたジェットストライカーに足を入れた。その様子にはシャーリーとバルクホルンも驚くが、ルッキーニはそのまま魔道エンジンに魔法力を流し始めた。

 

「へへーん、早い者勝ちだも~ん!」

 

そう言いながら、ユニットのエンジンは回転数を増していく。格納庫内に先ほど以上の轟音が響き渡るその様子を、全員が見守っていた。

 

「ぴぎゃー!?」

 

しかし、突然ルッキーニが跳ね上がった。彼女はユニットから足を離すと、そのまま固定台に体をぶつける。しかし、ルッキーニはそんな事を気にしていないのか、突然なりふり構わず走り出した。そして、ルッキーニはシャーリーのユニットの固定台の裏に隠れる。

 

「ルッキーニ!?どうしたんだよ?」

 

シャーリーがルッキーニの下に行くと、ルッキーニは震えていた。

 

「なんかビビビッて来た!」

「ビビビ?」

「あれ嫌い…シャーリー、履かないで…」

 

そう言って、ルッキーニはシャーリーを見る。シャーリーはルッキーニが怯えながら目で何かを訴えかけているように見えた。

 

「やっぱ私はパスするよ」

「何?」

「考えてみたら、まだレシプロでやり残したことがあるしさ。ジェットを履くのはそれからでも遅くはないさ」

「フッ、怖気づいたな。まあ見ていろ…」

 

シャーリーの言葉にバルクホルンが自慢げに言う。

 

「私が履く」

 

そして、バルクホルンはジェットストライカーに足を入れた。そして、魔法力を流し始める。

 

「凄い…」

 

一瞬にして、バルクホルンはジェットストライカーの力を感じる。けたたましい音の中に感じる不思議なエネルギーは、バルクホルンを納得させるに十分だった。

その様子を格納庫に居たものが全員見るが、ルッキーニだけが嫌そうに見ていた。そして、バルクホルンは言った。

 

「どうだ?今までのレシプロストライカーでこいつに勝てると思うか?」

「なんだと!?」

 

バルクホルンの煽りにシャーリーが反応する。

 

「みなさーん!こんなところに居たんですか…あれ?」

「朝ごはんの支度が出来ましたよ~…?」

 

と、朝食の支度を終えた宮藤とリーネがやって来る。しかし、どうも様子がおかしいということに二人は気づく。

 

「いい年してはしゃぐなよ。新しいおもちゃを買ってもらった子供みたいだぞ」

「負け惜しみか?みっともないぞ」

「気が変わっただけだ。私はこれでいいんだよ」

「勝手気ままなリベリアンめ!」

「なんだと!?この堅物軍人バカ!」

 

その間にも、シャーリーとバルクホルンの言い合いはヒートアップしていく。

この場をどうにかして押さえないといけないと思い、シュミットはある名案が浮かぶ。

 

「そこまで言うんだったら、勝負したらどうだ」

「なに?」

「勝負?」

 

突拍子もない案に二人は止まるが、シュミットが続けて言う。

 

「バルクホルンはジェットで、シャーリーがレシプロで戦えばいい。そうすれば、白黒はっきりするはずだ。ついでに、ジェットの性能を図ることもできる」

「面白い」

「いいだろう」

 

シュミットの説明にどうやら納得したようだ。これなら揉めているのも白黒はっきりとするし、ジェットストライカーの性能テストにだって出来る。

そして、二人は勝負を始めるのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

格納庫内に二つのエンジン音が響き渡る。一つはバルクホルンの履いているジェットストライカーの物、もう一

つはシャーリーが履いているレシプロストライカーの音だ。

そして、二人は同時に固定台からユニットを離すと、離陸をした。

 

「一体何の騒ぎですの?」

 

騒ぎを聞きつけてきたペリーヌが宮藤たちに聞く。ペリーヌからしたら謎のユニットを履いたバルクホルンが離陸をしていき、それをシャーリーが追いかけているようにしか見えていた。

 

「バルクホルンさんとシャーリーさんが勝負してるんです」

「最初は上昇勝負だよ!頑張れ、シャーリー!」

 

そんなペリーヌにリーネが説明をし、そしてルッキーニが続けて言う。最初に行うのは上昇力のテスト、どちらのユニットがより早く、より高く上がれるかを競うのだ。

 

「そりゃああああ!」

「ぐう…!」

 

バルクホルンは雄たけびを上げながら上昇していく。一方のシャーリーも上昇速度では負けておらず、バルクホルンに並んで登っていく。

しかし、高度12000メートルに差し掛かった時、シャーリーのユニットが息を吹いた。

 

「くっ…!」

 

シャーリーはユニットを見た後、今度は上を見る。そこには、グイグイと高度を上げていくバルクホルンの姿があった。

 

「シャーリーさん、12000メートルで上昇が止まりました。バルクホルンさん、まだ登ってます。凄い…」

「ありがとう、サーニャ」

「ほぇ~…」

 

その様子をサーニャが報告をし、シュミットがお礼を言って手元にある紙に書いていく。サーニャの魔導針であれば正確な高度が測れると思い、シュミットが頼んだのだ。そして横にいるエイラはずっと上昇をしていくバルクホルンを見て気の抜けた声を出す。

上昇力テストの結果、シャーリーのP-51は12000メートル、バルクホルンのMe262は高度13000メートルまで上昇し、バルクホルンの白星となったのだった。




Me262の高度は、シャーリーより上昇したという点から13000メートルにしました。史実とは違いますがご了承ください。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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