ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第七十七話です。どうぞ。


第七十七話「再会」

翌日、501基地の食堂。

 

「あ!おはようございます、バルクホルンさん!」

「おはよう、宮藤」

 

最初に来たバルクホルンに、宮藤が挨拶をする。一番早く起きた宮藤が、朝食の準備をしていた。

そして、バルクホルンは出来上がった朝食を受け取っていく。それに続いて、他のウィッチ達も食堂にやって来る。

 

「おはよう」

「おっはよ~、芳佳!」

 

シャーリーとルッキーニが揃ってやって来る。

しかし、全員が席に集まる中、そこにシュミットの姿は無かった。

 

「あれ?シュミットは?」

 

ルッキーニが気になり疑問に思う。それに続いて、他のウィッチもシュミットの席を見る。

 

「そういえば、居ないな」

「いつもは早く起きてくるのにね」

 

皆口々に言う。いつもは食堂の席に居るシュミットが居ないのだ。居ないイメージがあまりなかった。

 

「シュミットさんなら、朝早くから出かけてますよ」

 

しかし、訳を知っている宮藤が言う。

 

「出かけてる?どこに?」

「妹さんのところにです」

「そうか、妹か…」

「妹の所なら…」

 

宮藤が言うので、全員サラッと納得したような反応をする。しかし、しばらくしてから何かがおかしいことに気づく。そして、全員が同じタイミングで衝撃を受けたのだった。

 

『いもうと!!?』

「わっ!?」

 

突然大声を出す皆に、宮藤は驚くのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ここか…」

 

その頃シュミットは、昨日宮藤達が来ていたアンナの島に来ていた。そしてシュミットは走りながら、石橋を渡っていく。目的の人物に会うために。

 

「はぁ…はぁ…」

 

息を切らしながら、シュミットは島にある一軒の家の前に付く。

 

「誰だい!」

 

その時、シュミットの後ろから声がする。シュミットが振り返ると、そこには一人の老婆が箒に乗っていた。

シュミットはあることに気づき、老婆に聞く。

 

「もしかして、アンナ・フェラーラさんですか?」

「そうだよ…おまえさんかい、シュミットって言うのは」

「はい。シュミット・リーフェンシュタールです」

 

シュミットはアンナだと気づくと、自己紹介をする。その様子に、アンナはフンと反応する。

 

「この前来た子らより礼儀がなっとるね」

 

そう言って、アンナは箒から降りる。シュミットは、アンナに聞いた。

 

「あの…アリシアが居るって…」

「ああ、あの子かい。それなら、あんたの後ろにいるよ」

「え?」

 

アンナに言われて、シュミットは思い切り振り返る。そして、目を大きく開いた。

ブロンドの髪に深紫の瞳。線の細い体をした少女は右目には火傷の跡があるが、シュミットはその人物を見間違えることは無かった。

少女は、シュミットの姿を見て信じられないと言った表情をし、そして次に目に涙を浮かべ始めた。

 

「あ…アリシア…」

「お兄ちゃん…」

 

震える声で、互いの名前を呼ぶ。そして、二人は目の前の人物が本物だと悟った。

 

「アリシア!!」

「お兄ちゃん!!」

 

シュミットは走り出した。アリシアも走り出す。互いが無我夢中に相手に向かっていく。

そして、両社は互いの距離の中央で抱き合った。しかし、アリシアのパワーにシュミットは押し倒される。

 

「お兄ちゃん!!お兄ちゃん…!!」

 

アリシアは、シュミットの胸に顔を埋めながら呼ぶ。懸命に涙をこらえるように、アリシアはシュミットを呼ぶ。

 

「アリシア…!!」

 

シュミットも、アリシアをしっかりと抱きしめながら名前を呼ぶ。目からは涙が次々と流れ落ち、地面を濡らしていく。

二人は延々と泣く。シュミットは永遠の別れとなった妹との、奇跡の再会を。アリシアは、別れを告げた兄との願いの再会を。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「気が済んだかい」

「はい。すみません…お見苦しいところを」

「いいってこったい」

 

あの後、長い間泣いていた二人は、そのままほったらかしにしていたアンナの事を思い出し、シュミットは謝罪した。アンナからしたら、突然来た男がアリシアの前で大泣きしているのだから。しかし、アンナはそのことについてとやかく言うことなどなかった。

するとアンナは、そういえばと思いシュミットに話し始めた。

 

「そういえば、あんたは魔法力を持っとったね」

「え?ええ…」

 

そう言って、アンナは箒をシュミットに向けて投げつけた。シュミットはそれを受け取ると、箒を見た後アンナを見た。

 

「これは…」

「ついでだ、あんたの飛行を見せてもらおうじゃないか」

 

そう言って、アンナは腕を組む。シュミットは何のことかと思うが、アリシアが補足する。

 

「箒に跨って、それで飛ぶんだよお兄ちゃん」

「ま、跨る…?」

 

アリシアに説明を受けるが、シュミットは箒をもう一度見る。これで本当に飛べるのかと言うのを考えるが、先ほどアンナに遭った時は箒に乗っていることを思い出した。

シュミットは覚悟を決め、そして箒に跨る。そして、魔法力を内部でコントロールすると、箒と飛ぶ姿をイメージした。

それにより、シュミットは体を僅かに浮かせる。

 

「ほえ~…」

 

アリシアはその姿に感心する。自分が初めて飛んだ時に比べたら、明らかにレベルが違った。しかし、シュミットはこれまで1年以上戦闘をしてきたウィザードだ。これぐらいはまだできて当然である。

 

「ここからだね」

 

そう言って、アンナはシュミットを見る。宮藤たちが来たときは、箒に体重が掛かり負担を掛けていた。その状態では、安定した飛行などできないからだ。

しかし、シュミットはいい意味で期待を裏切った。

 

「よっと」

 

そのまま垂直上昇すると、上空を飛行し始めた。

 

「お兄ちゃん凄い…」

 

アリシアはその姿に驚く。自分でも苦労した飛行を、シュミットは一発でやってのけたのだ。

上空を飛行しながら、シュミットは思う。

 

「ユニットの音がしない分、空気の音が違う…」

 

シュミットは、箒で飛ぶイメージを感じ取りながら、声に出す。いつもは戦闘機やユニットによって飛行していたため、エンジンの音などでここまで鮮明に空気を切り裂く音を感じることは無かった。そのため、この体験はなかなか新鮮だった。

そして、シュミットはあることを頭の中に思い出した。

 

(そうだ!これが出来るなら()()()()

 

その様子を、下からアリシアは見ていた。

 

「凄い…あんなに自由に動けるなんて」

 

シュミットの飛行を見ながら、ずっと同じようなことを言うアリシア。しかし、アンナは何かに気づいた。

 

「…何かやるようだね」

「え?あっ!?」

 

アンナの言葉に何のことかと思うアリシアだが、その光景に思わず声を出す。

なんと、シュミットは今まで跨っていた箒から手を離すと、なんと箒の上に両足を乗せた。そして、そのままの状態から立ち上がる。

余りにも予想外の光景に固まるアリシアだが、シュミットはそのまま立った状態で飛行をする。まるで、箒と一つになったかのように。

そして、シュミットは島の上を周回する。そして、再び地上に戻ってきた。アリシアは、シュミットの下に行く。

 

「ふう、どうだった?」

「どうもこうも、なによあれ!?」

 

アリシアはあり得ないといった様子でシュミットに問う。初めて箒に乗った人が、いきなり立ち乗りなど行うこと自体があり得ないことであった。

シュミットはシュミットで、自分が昔読んだ本に出てきた魔法使いがしていた飛び方をやろうと思い、そして成功させただけである。しかし、内心ではシュミットも失敗するんじゃないかと冷や冷やしていたのだった。

 

「驚いたね。あんたは随分コントロールとバランスが良いようだね」

 

アンナもあそこまでシュミットが自由自在に飛べると思わず、驚いた様子だった。

 

「合格ですか?」

「文句なしだよ、あんたは」

「お兄ちゃん凄い!」

 

シュミットが聞くと、アンナは合格を言い渡した。誰が見ても、先ほどの飛行は合格をくれていただろう。そして、別の声がする。

シュミットが声の下方向を見ると、そこには子供が居た。それは、アンナの下に避難してきた娘の子――つまりアンナの孫だった。どうやら先ほどの飛行をこの事たちは見ていたようだ。子供たちは目を輝かしてシュミットを見る。そんな子供達に、シュミットは照れたように頬を掻く。

そんな中、アリシアは少ししょんぼりとした様子だった。

 

「凄いなあ…私もお兄ちゃんみたいになれるかなぁ…」

「ん?」

 

アリシアの言葉が気になり、シュミットは反応する。

 

「兄ちゃんみたいにか?」

「うん…」

「どういう意味だ?」

 

もう一度聞くと、アリシアは返事をする。シュミットはどういう訳か分からずにアリシアに聞く。すると、アリシアはどこか言いずらそうな複雑な表情をした。

そんなアリシアに、シュミットが聞く。

 

「…言えないことなのか?」

「えーと、その…」

 

シュミットが聞くが、アリシアは言いずらそうにする。

そんなアリシアを見て、シュミットは優しく微笑むと言った。

 

「言いずらいなら、無理に言わなくていい。だけど、悩み事とかなら、一人じゃなくて誰かにも相談を受けることも大切だ。思いはしっかりぶつけないと伝わらない」

「え?」

「兄ちゃんは信用できない?」

「そんなんじゃない!」

 

シュミットの言葉に、アリシアは全力で否定する。その言葉に、アリシアは決心した。

 

「その…私がウィッチになるって言ったら、お兄ちゃんは怒る?」

「…」

 

アリシアは、シュミットに聞く。ウィッチになるということは、命を懸けて戦うという意味と同義でもある。

シュミットはアリシアの言葉を聞くと、黙ったままになる。周りの空気は静かになり、アリシアもそんな空気に居心地が悪くなる。

 

「何故、ウィッチになりたいんだ?」

「それは…」

 

シュミットの言葉に、アリシアも僅かに言いずらくする。しかし、思いはぶつけないと伝わらないと言ったのはシュミットだ。彼女は意を決して言った。

 

「私は、自分の持つ力を使って救える命を救いたい。私を助けてくれたウィッチやアンナさんの為にも、このままじっと守られる側じゃなく、守る側に立って皆を守りたいの!お兄ちゃんが戦うみたいに!」

「…」

 

アリシアは大声で、シュミットに主張した。そんなアリシアをシュミットはじっと睨んだまま、腕を組み静かにしている。

数秒の時が流れた。そして、シュミットは息を一つ吐くと、アリシアに言う。

 

「ウィッチになることは簡単じゃない。お兄ちゃんだってそうだったし、何回も命を落とす場面に遭遇した。それでも、お前の決心は変わらないか?」

「…危険なことは分かってる。でも、それを覚悟の上で私はウィッチになる!」

「そうか…」

 

そう言って、シュミットは振り返り、少し歩く。そして、アリシアに背を向けたまま言った。

 

「…ノイエ・カールスラント」

「え?」

「お前が技術を磨きたいなら、まずは基礎から整えることが大切だ。誰だって最初は、基本が肝心だ。ウィッチになりたいなら、基礎をしっかりと学んで来い。支援は私がやってやる」

 

シュミットの言葉に、アリシアは目を見開いて驚く。危険なウィッチになることに、シュミットが反対するんじゃないかと思っていたからだ。

そして、シュミットは背を向けた状態から振り返り、アリシアの方を見る。そこには、優しくアリシアの方を見ているシュミットの姿があった。

 

「兄ちゃんだって、アリシアが心配だ。心配で心配で…命を落とすようなことに、あまり首を突っ込んでほしくないとも思ってる。だけど、アリシアが決意して決めたことなら、兄ちゃんはそれを否定などしない」

「お兄ちゃん…」

「ちゃんと決意したんだ。違うか?」

「ううん。違わない」

「だったら、その決意をしっかり通して、そして兄ちゃんに示してくれ。いいな?」

 

そう言って、シュミットはアリシアの頭を撫でた。撫でられたアリシアは、シュミットの方を見て、しっかりと返事をした。

 

「うん!お兄ちゃん!」

「よし!いい返事だ」

 

アリシアの返事に、シュミットも納得したように微笑む。もうアリシアに、迷いなどは無かった。彼女は、夢の為に完全に決意を固めたのだった。

そうだ、とアリシアは思い出したようにシュミットに行った。

 

「そう言えばお兄ちゃん。恋人さんがいるんだって?」

「え?」

 

突然の言葉に、シュミットは思わず固まる。そして、誰から聞いたかをアリシアに聞いた。

 

「だ、誰から聞いた…?」

「宮藤さん」

「は、ははは…」

 

宮藤から聞いたというアリシアの言葉に、シュミットは顔を赤くしながら頬を掻いて照れるのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「んで、シュミットは妹の夢を後押ししたんだ」

「ああ」

 

ハルトマンの言葉に、シュミットが返事をする。

夕方に帰ってきたシュミットを待っていたのは、事情を知らないメンバーによる質問攻めだった。シュミットはそれを一人一人に説明をしていくと、気が付けば時刻は夜になっていた。

 

「しっかし妹に再会するなんて、お前の親友のことといい、ここはお前達にとってのあの世なのか?」

「あの世って…」

 

シャーリーの言葉にシュミットは思わず苦笑いするしかできなかった。確かにシャーリーの言葉も間違っていないのだから、反論もできない。

 

「今度、その妹さんに会ってもいいですか?」

「ああ、アリシアも会いたいと言ってた」

「さ、サーニャが行くなら私も行くぞ!」

 

サーニャは一度アリシアに会いたいようだ。サーニャの言葉に、エイラも会いに行くという。尤も、彼女はサーニャについていく形のようだが。

その様子を離れて見ていた、ミーナと坂本。

 

「…変わったわね」

「何がだ?ミーナ」

 

突然のミーナの言葉に、坂本が聞いてくる。その言葉にミーナはため息を一つ吐くと、説明した。

 

「シュミットさんがよく笑うようになったってことよ」

 

そう言って、ミーナはシュミットを見る。シュミットはみんなと会話しながら、ずっと笑顔だった。日常的な会話で、あそこまで笑っているシュミットの姿など無かった。アリシアとの再会が、彼の心の奥底に眠っていた鎖を解いたようだ。

しかし、ここで思わぬことが起きた。

 

「アリシアは、世界で一番自慢の妹だ」

 

と、シュミットが言った。今までそういったことを言わなかったシュミットが、まさかそんな事を言うとは思わなかったため、周りは驚く。

しかし、ここで()()という言葉に反応した人が居た。

 

「何を言うかと思えば、一番自慢の妹はクリスに決まってる」

 

と、バルクホルンが言った。ハルトマンとミーナはまただといった様子であるが、その言葉にシュミットが反応した。

 

「いや、一番はアリシアだ。これは譲らない」

「何を言う!一番はクリスだ!」

「アリシアだ」

「クリスだ!」

 

と、言いあってるうちにいつの間にか睨み合いになっていた。その様子に周りのみんなはオドオドするが、ハルトマンだけが違った。

 

「うわあ…妹自慢がま~た増えたよ…」

 

予想外の伏兵にハルトマンはそう感想を零すのだった。




昨日は用事があり投稿できませんでした。アリシアとの再会。シュミットの心情は複雑ですが、二十七話で言ってたように、相手が決意したことならちゃんと考えてあげるんです。そして、やっぱりシスコンになりましたね。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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