「アンナさん大変です!ネウロイがこっちに来ます!」
宮藤たちは箒を降りると、急いでネウロイのことを報告した。丁度アンナは501からの連絡を受けていた直後であり、手に持っていた受話器を電話機に戻した。
「今あんた達の基地から連絡があったよ」
「誰か出撃してくれたんですか?」
リーネが聞く。しかし、アンナは首を横に振った。
「基地からの部隊は今から出撃しても間に合わないそうだ…この家はあきらめるしか無いね」
「そんな!」
アンナの諦めたような言葉に、宮藤たちはショックを受ける。その時だった。
「アンナさん!ネウロイがすぐに迫って来てる!」
「えっ!?」
アリシアがやって来て、アンナに言う。その言葉に、宮藤たちが急いで外に向かう。すると、島の外の方で大きな水柱が上がる。全員が見てみると、水柱の奥にはネウロイが迫って来ていた。ネウロイが威嚇に海面を撃ったのだ。
「真っ直ぐこっちに向かってきてる!」
「このままじゃ、島も橋も…」
「確実にやられますわね…」
「そんな…」
宮藤たちの言葉に、アリシアはショックを受ける。その時、後ろからアンナがやって来る。
「あんた達何してるんだい!さっさと逃げるんだよ!」
「ここを見捨てるなんてできません!」
「家族が帰ってくるお家なんですよね」
「それに、この橋が無くなってしまったら、お孫さんたちが帰ってきた時の目印が無くなってしまいますわ」
しかし、アンナの言葉に宮藤とリーネ、ペリーヌが言う。そんな三人の言葉に、アンナも思わず思いとどまる。ヴェネツィアから避難してくる家族の為にも、この島と橋が無くては意味がない。
そして、宮藤たち三人は急いでストライカーユニットのところに向かい、ユニットに足を入れた。そして、機関銃を手に持つと、魔法力を流した。
「発進!」
そして、三人は出撃する。アンナとアリシアは、その様子を下から眺める。彼女たちが現在出来る事は、出撃した三人を見送ることだけだ。
「皆…」
「アリシア、よく見ておきな」
「え?」
アリシアは心配する中、アンナは突然アリシアに言った。その言葉にアリシアは疑問に思うと、アンナは続けて説明した。
「あんたが目指してるウィッチの姿を。そして、あんたが探している答えを」
「…はい!」
アンナに言われて、アリシアは一瞬ハッとし、そして返事をした。彼女は、今戦っている三人を見る。
上空では、三人が編隊を組んでネウロイに向かっていた。
「私とリーネさんが編隊で攻撃、宮藤さんが援護して」
『了解!』
三人の中で一番階級が高いペリーヌが宮藤とリーネに指示を出し、二人は大きく返事をする。
そして、彼女達の機関銃の射程範囲内にネウロイが来る。
「攻撃開始!」
ペリーヌの合図と共に、三人がネウロイに向かう。ネウロイは三人に向けて攻撃を行うが、それぞれ華麗にビームを回避していく。
まずペリーヌが機関銃をネウロイに向けて撃つ。ネウロイはペリーヌに向けてビームを放とうとするが、宮藤が援護で射撃を行い、ネウロイは宮藤側に攻撃を加えて行く。
しかし、二人が撃ってもネウロイの装甲はあまり削れない。そこで、リーネが一発ネウロイに向けて狙撃を加える。すると、ネウロイの装甲は削れる。しかし、すぐさま削れた部位をネウロイは修復した。
「硬い!」
「火力を上げないと破壊できないよ!」
ペリーヌとリーネはその硬さに驚く。今まで戦ってきたネウロイとは全く違うその特性は、彼女達を困らせた。
「三人で同時に攻撃しよう!」
「でも、三人で編隊攻撃なんて高度なこと…」
宮藤が提案するが、リーネは自分たちにそれは難しいと言う。世界的に見ても、ケッテ戦術はタイミングを合わせるのが難しく、熟練のウィッチぐらいしか使うことが無い。
「出来るよ!この三人なら絶対できる!」
しかし、宮藤は堂々と言う。一緒に訓練をしてきた三人なら、息を合わせることは出来るはずだと。
その言葉に、最初に頷いたのはペリーヌだった。
「行きますわよ!」
彼女は、宮藤の提案に乗った。どちらにしても、火力をあげないとネウロイは倒せない。それなら、宮藤の言葉を信じることにした。
「はい!」
そして、リーネもその姿に乗った。この三人ならできると、彼女もどこか確信したのだ。
三人は再びネウロイに向かっていく。ネウロイは今までより激しく攻撃を加えて行くが、三人はその攻撃を回避していき、そしてネウロイの下から上昇して攻撃を加える。
「皆の動きが見える!」
「ビームを躱せますわ!」
「箒のおかげだ!」
ネウロイの攻撃を避けながら、三人は驚く。501で飛行訓練をしてきた時のような衝突も起きない。それどころか、お互いが動く位置までも読めるようになった。これも全て、アンナの箒の特訓のおかげだった。
その様子は、下から見ていたアリシアも驚いていた。
「凄い…」
アリシアは、あんなにもスイスイと飛んでいく三人を見て、そう呟く。そして、あのように空を飛べる姿に憧れる。
そして、ネウロイのコアが露出した。
「コアが見えた!」
リーネが先にコアを確認する。しかし、コアは再生を始めていた。
「もう再生が始まってますわ!」
「早くコアを壊さないと!」
「私がやります!」
リーネがそう言って射撃姿勢を整えると、ネウロイのコアに向けて対装甲ライフルの引き金を引く。しかし、弾丸はコアの僅か横の場所に命中し、リーネは外してしまう。
その時、ネウロイがリーネに向けてビームを放つ。
「危ない!」
宮藤が言うが、リーネは静止状態の為回避に移れない。そして、ネウロイの攻撃はリーネの左足のユニット下部を掠る。それにより、リーネのユニットが片方壊れる。
「きゃああ!」
「リーネちゃん!」
バランスを崩して落ちて行くリーネの元に、宮藤が追いかけて行く。そして、海面すれすれのところで宮藤はキャッチをする。
そして、宮藤はリーネの足の間に自分の体を入れると、リーネの体を支える。ブリタニアで初めて一緒に出撃したときにした、あの体制だ。
「嘘ッ!?」
「合体した!?」
そのフォーメーションを知らないアリシアとペリーヌは、思わぬ行動に驚く。しかし、宮藤とリーネは互いを信じながらネウロイに向かう。
「私のシールドでギリギリまで近づくから、リーネちゃんはコアを狙って!」
「了解!」
そして、二人はそのままの体制でネウロイに向かっていく。
「もうすぐ島ですわ、急いで!私も援護しますわ!」
そう言って、ペリーヌが今度は援護側に向かう。宮藤たちが受ける攻撃を半分、自分の方に持っていく。
そして、リーネを抱えた宮藤とペリーヌがネウロイのコアの位置に攻撃を加えて行く。それにより、再びコアが露出する。
「今ですわ!」
「リーネちゃん!」
「はい!」
ペリーヌと宮藤の言葉に、リーネが返事をする。そして、リーネの放った弾丸はネウロイに進んでいくと、ネウロイのコアを貫いた。それにより、ネウロイの姿は光の破片へと変わるのだった。
「やりましたわ!」
「やったあ!」
「うん!アンナさんの家も橋も守れたね!」
上空では、宮藤たち三人が喜ぶ。アンナの家と橋を守る為に力を合わせて倒したネウロイだ。嬉しさも数倍ある。
その様子を、地上で見ていたアリシアは感激を受けていた。自分の目指すウィッチの姿が、あんなにも羨ましく思えた。
「凄い…あれがウィッチ…」
「三人とも合格だよ…」
アリシアの横では、アンナが上空で喜びを分かち合う三人に微笑みながら合格を言ったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その夜501、ミーナの執務室に居た坂本は、アンナと電話をしていた。部屋には、ミーナの書類仕事を可能な限り手伝っているシュミットもいた。
「坂本です。この度はお世話になりました」
『ああ、ぜーんぜん大変じゃなかったよ。誰かさんと違って、ベッドで泣いてたりしなかったしね。へっへっへっ』
電話の向こうでは、アンナが笑いながら言う。無論、ベッドで泣いていた誰かさんとは坂本のことであり、坂本は「クソババア…」と、心の中で思ったのだった。
電話の向こうでは子供達の声がしており、アンナの困った声がする。そんなアンナに、坂本は負けじという。
「私は泣いてませんよ!アッハッハッハ!」
『静かにおし!聞こえないよ!』
しかし、アンナは子供達に手を焼いており、坂本の言葉は聞こえなかった。アンナの声は、机に座っているミーナとシュミットにも聞こえた。
『とにかくあれだね』
「はい?」
『中々見込みがあるよ、あの子たちは』
電話の向こうのアンナの声に、坂本も微かに笑う。
その時、アンナは何かを思い出したらしく、坂本に言った。
『おや、忘れるところだった。あんたの所に男のウィッチがいるだろう』
「え?はい、シュミットのことですね」
アンナが言った男のウィッチは、ウィザードのことであり、シュミットだ。坂本は何故そんなことを聞いてきたのかと思った。
『そいつと電話を替わってくれないかい?』
「は、はあ…」
アンナはそう言って、シュミットに替わるように言った。坂本は訳が分からず、シュミットを呼ぶ。
「シュミット」
「ん?はい?」
「お前に変わってほしいそうだ」
「え?私に?」
シュミットも自分が呼ばれるとは思わず、坂本に聞き返す。しかし、坂本はうなずくだけであり、それ以上は分かった様子でなかった。
そして、シュミットは受話器を受け取る。
「はい、シュミットです」
『おや、あんたかい。丁度来たところだよ。ほれ』
そう言って、アンナは誰かに受話器を渡した。シュミットは何のことかと思うが、次に受話器から聞こえた声には、彼の目を大きく開かせるものだった。
『お兄ちゃん』
「っ!?」
受話器から聞こえた声に、シュミットは固まる。そして、彼は信じられないと言った様子で口をパクパクとさせる。
その様子の変化に、シュミットは動揺した。
「お、おまえは…」
『私だよお兄ちゃん。忘れたの?』
「ち、違う…」
「どうしたの?シュミットさん」
ミーナも様子がおかしいと感じる。
『アリシアだよ』
「っ!?まさか…!?」
シュミットは、尚更ありえないと言った顔をする。そして、恐る恐る聞いた。
「本当に…アリシアなのか?」
『そうだよ、お兄ちゃん』
「あっ…ああ…」
電話の向こうからするアリシアの言葉に、シュミットは崩れる。その様子に、その場にいた者たちは驚く。
「シュミット!?」
「シュミットさん!?」
急いでシュミットの元に行くが、シュミットは受話器を握ったままへたり込んでいた。
「本当に…アリシアなんだよな…」
『もう、そう言ってるじゃん…』
再び確認を取るが、受話器の向こうでは呆れたような声がする。しかし、その声はシュミットが聞き間違えるものでは無かった。
そして、シュミットは目から涙をボタボタと流し始める。
「アリシア…よかった…アリシアが生きてる…」
懸命にシュミットは涙を噛みしめる。しかし、目から零れ落ちる涙は部屋の床を濡らす。
『お兄ちゃん…うぅ…大丈夫?』
電話の向こうでは、アリシアが心配した様子である。しかし、電話の向こうのアリシアも、涙を流している様子であり、嗚咽するような声がする。
『お兄ちゃん…明日、会える?』
「アリシア…」
『お兄ちゃんに会いたい…会って直接、話がしたい…』
その言葉に、シュミットは受話器を外してからミーナを見る。ミーナは、困った様子で見ていた。
「電話の相手は一体…」
「アリシア…私の妹です」
「なんですって!?」
「バカな!?」
シュミットの言葉に、ミーナと坂本は信じられないと言った様子である。別世界から来たシュミット、妹はすでに死んでいることも聞いていたミーナは、尚更信じられなかった。
「間違いありません…妹の声…疑った時に怒った声も…妹の物だ…」
しかし、シュミットが涙を流しながら、凄く嬉しそうにしている。その姿に、彼女は疑うことはあれど、電話の相手がシュミットの妹なのだと、どこか感じた。
「中佐…明日、宮藤たちの元に行かせてください。そして…妹に…」
「わ、分かったわ…」
シュミットが懸命にミーナに聞く。その様子に、ミーナも了承した。死んだと思われていた妹が生きている。それだけでも、彼が会いに行く理由になっていた。
「アリシア…」
『うん…』
「明日…お前のところに行く」
『本当…?』
「ああ…本当だ…」
そう言って、シュミットは涙を流しながら言う。その言葉に、電話の向こうのアリシアも微かに笑った声を出す。
『クスッ…じゃあ、明日ね。約束だよ…』
「ああ…約束だ…絶対に会いに行く…」
そうして、シュミットは電話を切った。そして、ミーナと坂本の方を向いた。坂本は微笑み、ミーナは優しくシュミットを見る。
「中佐…」
「…妹さんによろしく伝えてね?」
「はい…うぅ…」
ミーナの言葉に、シュミットは返事をし、そして涙をボロボロと流す。今までこらえてきたものが、彼から溢れた。
そんな様子のシュミットに、ミーナが両腕を広げる。そのミーナに、シュミットは抱き着いた。
「うっ…あっ…うあっ…うわああああああああん!!」
ミーナに抱かれながら、シュミット大声では泣いた。今まで人前で大泣きなどしなかったシュミットが、今大声で泣いている。妹を失った時の涙は、今こうして嬉しさの涙に変わった。彼の心の中はグチャグチャだった。しかし、ただ一つはっきりしていたのは嬉しさだった。
そんなシュミットに、ミーナは優しく頭を撫でてあげるのだった。
アリシアとシュミット、電話で涙の再会。そして、今まで人前で見せたことのなかった大粒の涙。それを受け止めてあげるミーナ。
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