ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第七十五話です。少女の事実が明らかに。


第七十五話「衝撃の事実」

「気持ちいい…」

 

宮藤はそう言う。夕食をとった三人はアンナに言われ、集めた水を入れたお風呂に入っていた。一日の訓練を終えて入る風呂は、心の癒しであった。

 

「でも、もう少しお湯が欲しいね」

「そうだね」

 

宮藤の言葉に、リーネが同調する。お湯は二人の腰当たりまでしかなく、体全体を温めるほどの量は無かった。

その時、宮藤はまだお風呂に入らずに海を見ていたペリーヌに気づく。

 

「あれ?ペリーヌさん入らないの?」

「え?も、勿論入りますわ」

 

宮藤に言われて、ペリーヌもお風呂に入る。しかし、その声はどこか上ずっていた。

 

「ひゃあ!?」

「うわあっ!?」

 

そして、ペリーヌはお風呂に入るが、突然驚きながら思い切りお風呂から出る。その声に宮藤たちも驚いてみると、ペリーヌは股のところを抑えていた。

 

「し、しみる~…」

 

ペリーヌは初日と二日目の最初に箒に股が擦れてしまい、その場所が赤くなっていた。そこにお湯が触れ、彼女に刺激を与えていたのだ。

その様子に、宮藤たちも驚いた様子で見る。

 

「び、びっくりした…」

「大丈夫?ペリーヌさん…」

 

宮藤は純粋に驚き、リーネは心配した様子で見る。

 

「大丈夫?」

 

その時、三人の後ろから声がする。振り返ると、そこには体にタオルを巻いたアリシアが居た。

 

「あ、アリシアちゃん」

 

芳佳がアリシアの名前を呼ぶと、アリシアもお風呂に入る。しかし、リーネとペリーヌは驚いたように見ていた。

アリシアは目元だけでなく、体にも大火傷をしたような痕が残っていたからだ。

アリシアはお風呂に入ると、リーネとペリーヌの方を向いた。

 

「そういえば、まだ宮藤さんのお友達に自己紹介してなかった。私はアリシア」

「えっと、リネット・ビショップです」

「ペリーヌ・クロステルマンですわ」

 

アリシア言葉に、リーネとペリーヌが自己紹介する。

 

「ビショップさんに、クロステルマンさん。よし、覚えた」

「あ、出来ればリーネって呼んでほしいかな…」

「私も、ペリーヌでよろしいですわ」

「分かった、リーネさん、ペリーヌさん」

 

そう言って、アリシアは二人の名前を呼ぶ。しかし、苗字で読んだためリーネとペリーヌは名前でいいと言い、その言葉にアリシアも頷いて返事をした。

そして、リーネはアリシアの体を見ながら聞いた。。

 

「アリシアちゃん、それは…」

「ん?あ、これ?これは…」

 

そう言って、アリシアは自分の火傷の痕を見た。しかし、言いずらいのか少し困ったような表情をして頬を掻く。

リーネとペリーヌはその仕草に、どこか既視感を感じる。しかし、リーネは慌てて両手を振る。

 

「い、いいの。言いずらいなら言わなくても…」

「ううん、大丈夫…ちょっと昔大火傷しちゃってね。その時に血液を殆ど変えるほどの大けがを負っちゃったんだ」

「血液の殆どって…」

 

リーネの謝罪に、アリシアもためらったことを謝り説明した。しかし、その中であまりにも大事なことをサラッと言ったので、三人は驚く。宮藤は医者の生まれであるため、誰よりも衝撃を受けた。

 

「大丈夫、今はほら、この通り」

 

しかし、アリシアはそういうと体を大きく動かす。その様子から、とても不調と言う言葉は似合わなかった。

アリシアの様子を見て、三人も安心したように笑った。その笑顔に、アリシアも笑うのだった。

 

「そういえば、アリシアちゃんの使い魔って鳥?」

「うん、シュヴァルベなんだ」

「シュヴァルベ?」

 

リーネの言葉にアリシアは自慢するように言う。鳥類を使い魔に持つウィッチは航空ウィッチとして比較的優秀になる傾向がある。アリシアの箒の飛行の腕も、それに準ずるものと言える点もある。

しかし、芳香は聞きなれない単語に疑問を浮かべる。そんな宮藤に、アリシアが説明する。

 

「宮藤さんは扶桑出身だよね。扶桑ならツバメって言うかな」

「へ~、燕か~」

 

燕という説明を聞いて、宮藤が理解した。

そして、四人はお風呂から出ると、島と大陸を繋ぐ石橋に来た。橋からは、遠くまで海が広がり、空には地平線の彼方まで星が鏤められていた。

石橋に立っている四人は、夜の優しい風に身を任せる。

 

「いい風…」

「うん。ストライカーが出来る前のウィッチって、皆箒で飛んでたんでしょ?」

「私のお母さんも、昔は箒を使ってたって言ってたよ」

「そうなんだ。私は逆に箒ばかりだったから、ウィッチの使うユニットの方が珍しく感じるな~」

 

芳佳の言葉にリーネが答える。彼女たちにとっては、箒を使うのは珍しいことである。対するアリシアは箒ばかりだった為、ストライカーユニットの方が珍しく感じるのだった。

 

「でも、箒で飛んだくらいでホントに強くなるのかしら…」

 

しかし、ペリーヌはまだ箒で飛ぶことで強くなると言うのに疑問を持っているようだった。

 

「疑り深いねぇ」

 

その時、四人の後ろから声がする。振り返ると、アンナが立っていた。

 

「明日も早いってのに、こんなところで何してんだい」

「橋を見てたんです」

「橋?橋がどうかしたのかい?」

 

宮藤の言葉に、アンナはどういうことだと思う。

しかし、宮藤は一つ気になることがありアンナに質問した。

 

「あの、アンナさんはあんなに上手く箒で飛べるんだから、橋なんかいらないんじゃないかなって」

 

宮藤の言葉に、アンナは少しだけ下を向くと、今度は橋を見て説明をした。

 

「あたしの娘は、魔法が使えなくてね」

「え、娘さん?」

「随分前に嫁に行っちまったけど、年に数回孫を連れて会いに来るんだ…この橋を渡ってね」

 

そう言って、アンナは端に向けていた視線を大陸に変えた。

宮藤はその娘さんが何処に居るのか気になり、アンナに聞いた。

 

「娘さんは何処に居るんですか?」

「ヴェネツィアさ」

 

アンナからの衝撃の告白に、アリシアを除く三人は驚く。ヴェネツィアは現在、ロマーニャ上空に出来た新たな巣によって占領されており、丁度501が任務にあたっている地域であったからだ。

 

「ヴェネツィア…!」

「ネウロイに占領された…!」

「大丈夫だよ。家族全員無事に逃げたって連絡があった。今はこっちに帰って来る途中だよ」

 

しかし、アンナの言葉に三人は安心した表情をする。

 

「良かった…」

「…では、アリシアさんは何故魔法が使えるんですの?」

 

しかし、ペリーヌは一つ疑問が浮かんだ。魔法の使えない母親から生まれた子供は本来魔法が使えない。しかし、アンナの孫にあたるはずのアリシアは魔法を使えるではないか。

 

「おや、聞かなかったのかい?」

「私は、アンナさんの孫じゃないよ」

 

しかし、アンナはアリシアが話していると考え、意外そうな表情をする。そして、アリシアが訳を説明した。

その言葉に、三人はまた驚かされる。

 

「え?じゃあ、なんで…」

「アリシアは少し前、この島で倒れているところを私が助けたんだ。その時は思い切り衰弱していたから、病院まで送るのには苦労したよ…」

「それで、助けてもらったお礼に、私はアンナさんに恩返しとして働いてるの」

 

そう、アリシアはアンナの孫でなく、アンナがこの島で拾ってきた少女だったのだ。衰弱していた彼女を病院まで送り、現地のウィッチの力によって命を繋げた。その恩返しとして、アリシアはアンナの下で共に暮らし、そして手伝いなどをしているのだ。

そして、アリシアは三人の方を向くと謝った。

 

「ごめんね…」

「え?どうして?」

 

突然の謝罪に、宮藤は驚く。しかし、アリシアは続けて訳を言った。

 

「501の人が来るって聞いて、私はあまり自分のことを言わないようにしてたの…」

「え、なんで?」

 

どうしてそんなことをしたのか分からず、リーネが続けて聞く。

しかし、アリシアから放たれた告白は、三人に衝撃を与えるにはとても大きな物だった。

 

「だって…あそこには()()()()()が居るって聞いてたから…」

「お兄ちゃん…えっ?」

「それって!?」

「まさか!?」

 

三人は動揺する。そして宮藤は、アリシアの名前を聞いて、どこかで聞いたことがあると思った。リーネとペリーヌも、彼女の仕草をどこかで見たことがあると感じた。それが今、頭の中ですべてつながった。

 

「私は()()()()()()()()()()()()()()()…お兄ちゃんの名前は、シュミット・リーフェンシュタール」

『っ!!』

 

三人は、まるで頭を思い切り殴られたかのような衝撃を受けた。

 

「シュミットさんの…」

「妹…」

「まさか…ありえませんわ…」

 

三人は動揺する。彼女達には、シュミットの妹がこの世界に居るなんて想像がつかなかった。

しかし、宮藤だけはすぐに彼女がシュミットの妹だと納得できた。

 

「そうだ…思い出した」

「え?」

「前にシュミットさんに聞いたの…前の世界の空襲で、大事な妹を失ったって。その空襲で血液を殆ど変えたことも…その時の名前も、アリシアだった…」

「じゃあ…本当にシュミットさんの妹ですの?」

 

宮藤の言葉に、ペリーヌは信じられないと言った。しかし、彼女が見てきたアリシアの日常的な仕草は、兄であるシュミットとよく似ている部分もあった。そして、先ほど見た体の火傷痕は、空襲で火傷したと考えれば辻褄が合うものだった。

四人の間に、気まずい雰囲気が流れる。宮藤たちは、アリシアに対してどう接したらいいか分からなくなってしまった。

 

「明日は朝から修行だよ。さっさと寝なさい」

 

しかし、その雰囲気を解くように、アンナが全員に言った。その言葉に、四人は解散して、宮藤たちはベッドに入る。しかし、彼女たちはあまりの衝撃になかなか眠ることができなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「初めからこの方法で運べばよかったんだ」

「うん、そうだね」

 

宮藤の言葉に、リーネも頷く。三人は現在、箒に乗りながら協力して水入りたらいを運んでいる。前日に行ったバケツで運ぶ方法よりも、この方が効率的だった。

 

「今日こそはお風呂をいっぱいにしようね」

「うん。肩までつかろうね。ね?ペリーヌさん」

「わ、私はどちらでもいいんですけど…」

 

宮藤は昨日腰までしかなかったお風呂の水に、今日こそは肩まで浸かれるようにしようと張り切っていた。その言葉にリーネは同調しペリーヌに聞くが、ペリーヌは少し答えに困ったように言う。彼女は昨日のことを思うと、あまりお風呂に楽しく入れる様子では無かった。

しかし、三人は昨日のことを思い出す。

 

「でも、ちょっとビックリしたね…」

「え?」

「アリシアちゃんのこと…」

「うん…」

 

宮藤の言葉に、リーネも言う。前の世界で亡くなったはずのシュミットの妹が、この世界に流れてやって来たのだ。それだけでも衝撃的であるが、このことをもし兄であるシュミットが知ったらどうなるだろうか。

 

「…」

 

そして、アリシアも三人の様子を地上から見ていた。昨日のことから、アリシアはどうも三人に接しずらくなっていた。

 

「なにをぼうっとしてるんだい?」

「アンナさん…」

 

アリシアが振り返ると、そこにはアンナが居た。アンナは呆れた様子でアリシアに言った。

 

「そんなに迷ってるなら、行ってきたらどうだい」

「でも…」

 

アリシアの様子に、アンナは501の兄の元へ行けばいいと言う。しかし、アリシアはシュミットに会うのを迷っていた。それは、アリシアの夢にも関係していた。

アリシアは、ウィッチになりたいと思っている。しかし、シュミットが自分の為に軍に志願したことも知っている。そんな兄に、最前線で戦うウィッチになると言ったら、間違いなく止めると考えていたのだ。

再会をしたくても、懸命にその気持ちを抑えるアリシアに、アンナはまた溜息を一つ吐いた。この子はなぜここ一番の決断に欠けるのかと。

アリシアがそんなことを思っている頃、ペリーヌが遠方に光る何かに気づいた。

 

「何あれ?」

 

ペリーヌの声に、リーネと宮藤も見る。

 

「まさか…」

「ネウロイ!」

 

そう、彼女達が見つけたのは、島の方向に向かって飛行するネウロイだった。




というわけで、新たに登場したアリシアは、シュミットの妹でした。え?もう知ってる?何処で漏れたのだ(すっとぼけ)
誤字、脱字報告お待ちしております。

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