ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第七十四話です。オリジナルキャラが登場します。ではどうぞ!


第七十四話「芳佳と一人の少女」

「痛い…」

「食い込む…」

「ぐぅ…」

 

宮藤、リーネ、ペリーヌは悲痛な声を出す。

アンナから渡された箒にバケツを掛けて跨った三人は、箒に乗りながら浮き上がる。しかし、自身にかかる負荷により三人は浮きあがることしかできず、その場で立ち止まったままである。

 

「うわっ!?」

「うわあ!」

 

そして、宮藤とリーネは大きくバランスを崩す。ペリーヌだけが唯一体制を維持しているが、彼女もその状態から動くことができない。

 

「いつまで地面をうろうろしてるんだい!さっさと飛んでいかないと、晩御飯に間に合わないよ」

 

ハンナはそう言って、手を一回たたく。すると、全員の箒は動き出す。

宮藤とリーネはその場でぐるぐると回転をし、宮藤はそのまま上に飛んでいく。リーネは回転に耐えられずに振り落とされる。ペリーヌは前に後ろに流されるように動き、制御が効かずに落ちた。

そんな三人の姿を見て、ハンナは溜息を一つ吐いた。

 

「はあ…全く情けない。これで魔女とは片腹痛いね…」

 

そう言って、リーネに近づくアンナ。

 

「あんたは無駄にでかいものつけてるから、バランスが取れないんだよ」

「きゃあ!」

 

アンナはそう言ってリーネの胸を掴む。その行動にリーネは思わず驚き顔を赤くする。

上空に打ち上げられた宮藤は、箒に懸命に掴まりながらぐるぐると回される。

 

「うわああああ!」

「いつまで回ってんだい?」

「箒に聞いてください!」

 

そんな宮藤にアンナは聞くが、宮藤は振り回されたまま言う。そして彼女は目を回してしまい、手を放して地面に落ちた。

そんな中、ペリーヌは懸命に姿勢制御を行っていた。

 

「ほお、中々やるね」

「こ、これくらい…ウィッチとして当然…ら、楽勝…ですわ…」

 

アンナに答えるペリーヌだが、その表情は強張り、声は上ずっていた。

そんな中、アンナはまるで意地悪く言う。

 

「そうかいそうかい」

 

そう言って、彼女は箒をつんと触る。すると、姿勢を懸命に整えていたペリーヌはバランスを崩す。

 

「ぐぅ…う…す、擦れる…」

 

そう言って、ペリーヌも箒から脱落したのだった。

三人の無様な様子に、アンナは溜息を吐く。

 

「アンナさん」

 

その時、アンナの名前を呼ぶ声がする。それは三人の物では無かった。

アンナは声のした方向を振り返った。そこには、箒に跨りながら水入りバケツを運ぶ少女の姿があった。その少女は右目元に火傷の痕のようなものがあった。

 

「おや、お帰り」

「水汲み終わりました。あの。その人たちは?」

「ご苦労さん。出来の悪い教え子たちだよ」

 

そう言って、アンナは倒れている三人のところに行く。

 

「あんた達には永遠に合格がやれそうにないね」

「そ、そんな…」

「いまどき!ウィッチの修行に箒だなんて時代遅れにもほどがありますわ!」

 

そう言って、ペリーヌは箒を投げ捨てた。

 

「おや?もう音を上げたのかい」

「ペリーヌさん…」

「アンナさん!」

 

リーネはそんなペリーヌに困った顔をするが、宮藤は違った。彼女はアンナの名前を呼ぶと質問した。

 

「あの、私も知りたいです。こんな修行で本当に強くなれるんですか!?」

「あんた、強くなりたいのか?」

「はい!」

「何故だ?」

 

宮藤の言葉に、何故強くなるのかアンナは問う。宮藤は、アンナの問いに答えた。

 

「私!強くなってこの世界を守りたいんです!強くなって、ネウロイからこの世界を守りたいんです!困っている人達を守りたいんです!」

「芳佳ちゃん…」

 

宮藤の言葉に、他の皆も釘付けになる。彼女の真剣な眼差しは、その答えに嘘偽りが無いと言う証拠だった。

そんな宮藤を、誰よりも見ていた人が居た。先ほどアンナに呼ばれた少女だった。彼女は宮藤のことを、どこか驚いたように見ていた。

そして、今まで黙っていたアンナは口を開いた。

 

「悪いけど、もう一回水を汲んでおいで」

「わかりました、アンナさん」

 

そう言って、先ほどの少女は箒に跨り、大空へと飛び立つ。

 

「えっ?」

「行っちゃった」

 

全員がその姿を見て、ポカンと待っていた時だった。箒に跨った少女は戻ってきた。箒には、並々と水が入れられたたらいがあった。

 

「うわあ!?こんなにいっぱい!」

「これを一人で!?」

「凄いです…!」

 

三人はその光景に驚く。自分たちではうまく飛べなかった飛行を、彼女は軽々と行ったことに。

 

「でも、これで本当に強くなれるんですか?」

「信じられないかい?あんた達の教官だって、ここで訓練して一人前の魔女になったんだよ」

「え?」

 

とんでもない言葉に、三人は思わず口をポカンとする。アンナの言った教官と言う言葉に。

 

「教官って…」

「坂本少佐が!?」

「ああ!あの子は素直でね、最初から私のことを尊敬して、一生懸命練習してたもんさ。おかげで見事な魔女に成長したってもんさ」

 

アンナは坂本のことを自慢しながら言う。三人はその言葉に感激を受けるが、ただ一人だけその言葉に苦笑いをしていたのには気づかなかった。

 

「坂本さんがこの訓練を!」

「あの…坂本少佐が使われていた箒って…」

「さっきあんたが投げた奴だよ」

「ええっ!?」

 

と、アンナの言葉にペリーヌは驚いた顔をする。自分のあこがれる坂本の使っていた箒を、まさか投げてしまっていたとは思わずに。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「……うん?」

 

宮藤は、真夜中に目を覚ます。宮藤たちは一つの大きなベッドに三人で眠っており、横からはリーネとペリーヌの寝息が聞こえる。

宮藤はそのまま、外へ出る。目が覚めてしまい、すぐには眠れそうになかった。

 

「あれ?」

 

その時、外に人影を見つけて宮藤は驚く。その人は、昼間に水を運んできた少女だった。

 

「あの…」

「ん?」

 

宮藤は恐る恐る呼びかける。相手の名前が分からなかったため、声掛けしかできなかった。しかし、少女はその声に気づき振り返る。右目元の火傷の痕を持った少女は、宮藤を見て話しかけた。

 

「眠れないの?」

「うん…少し…」

「私もなんだ」

 

そう言って少し笑う少女に、宮藤はふと思う。

 

(あれ?今の…)

 

宮藤は、彼女の仕草を見て考える。今の表情を、自分はどこかで見たことがあるかもしれないと思ったのだ。

そんな中、少女は話し始めた。

 

「そういえば、貴方の名前は?」

「え?あ、宮藤芳佳です」

「芳佳って言うんだ」

 

宮藤の名前を聞いて、少女は微笑む。

 

「私はアリシア」

「アリシアちゃんか。いい名前だね」

 

彼女の自己紹介に、宮藤はそう感想する。アリシアは、その言葉を聞いて少し顔を赤くした。

その時、宮藤は再び何かに引っかかる。

 

(あれ?どこかで聞いたような…どこだっけ?)

 

宮藤は考える。以前彼女の名前を聞いたことがあるはずなのだ、どうしても思い出せなかった。

その時、アリシアは宮藤の方を見て話し始めた。

 

「宮藤さんは凄いね」

「え?」

 

突然の言葉に、宮藤は何のことか疑問に思いアリシアを見る。アリシアは、少し下を向きながら続けて話し始めた。

 

「困っている人達を守りたくて、強くなりたいなんて」

「アリシアちゃんだって凄いよ!あんなに箒に上手く乗れるなんて」

 

宮藤はアリシアにフォローする。宮藤からしたら、あんなに箒を自由自在に操れる彼女の方が凄く感じる。

しかし、アリシアは言った。

 

「でも、分からないの…」

「え?」

「私は、宮藤さんみたいな目標が分からないの。だから、私の力を何のために使うのかを答えれないの…」

 

そう言って、アリシアは少し悲しそうな顔をする。

だが、そんなアリシアに宮藤は言った。

 

「そんなこと無い!アリシアちゃんにだって出来る事があるよ!」

「え?」

「アリシアちゃんにだって出来る事がある。私やリーネちゃん、ペリーヌさんだってアリシアちゃんより箒はうまく飛べないけど、皆出来る事がある。だから、アリシアちゃんだって必ず…」

 

そんな宮藤の言葉に、アリシアは僅かに笑顔になる。

 

「ありがとう、宮藤さん」

「え、えへへ…」

 

ありがとうと言われ、宮藤は僅かに照れるのだった。

そして、少しの会話をした後、宮藤はベッドに戻った。

 

「あれ?」

 

ベッドで再び寝ようとした宮藤だが、そこにある物が目に入った。

それは、ベッドに書かれていた文字だった。様々な国の言葉で書かれていたその言葉は、宮藤には意味が分からないものだった。しかし一つだけ、宮藤にもわかるものがあった。

 

「く、クソババ…」

 

扶桑語で書かれているその言葉に宮藤は思わず頬を引きつらせる。しかし、その字を見てあることに気づいた。

 

「これ…坂本さんの字だ」

 

それは、宮藤が以前見た坂本の字にそっくりだった。そこから、これを書いたのが坂本だと芳佳は理解した。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「きゃあ!?」

 

リーネは思わず悲鳴を上げる。そして、箒からずり落ちると、石橋の淵に摑まったままぶら下がりになる。

 

「うわーん!」

 

リーネは助けを懸命に求める。

 

「いっ…きゃっ…あっ…」

 

ペリーヌは箒が上下に動き、体がそれにガクガクと揺さぶられる。二人は昨日からあまり変わった様子が無かった。

 

「やれやれ…」

 

アンナはそう言って溜息を吐いた後、もう一人のウィッチを見た。

 

「…!」

 

リーネとペリーヌが箒に遊ばれている中、宮藤は懸命にバランスをとると、ゆっくりとだが飛行をしていく。

その様子には、アンナも少し感心した。

 

「おや、随分良くなったじゃないか」

「あ、ありがとうございます…!」

 

アンナの言葉に宮藤は答えるが、それでもまだ余裕がなかった。

何故宮藤は急に上手くなったのか。それは昨夜にあった。

 

 

 

「箒と共に?」

「う~ん、なんていうかね。箒に跨って乗るんじゃなくて、箒と一緒に飛ぶイメージかな」

 

宮藤は疑問に思う中、アリシアが説明する。

 

「皆は箒に跨って浮くイメージがあるけど、そうじゃなくて箒と一緒に飛ぶの。箒だけじゃなくて、自分も飛ぶイメージで」

 

そう説明するアリシアに、宮藤は考える。確かにあの時は、宮藤は箒に跨って、箒だけが飛ぶイメージがあった。

 

「わかった、明日やってみる!」

 

宮藤がそういうと、アリシアは微笑み返したのだった。

 

 

 

「ちょっと来なさい」

 

そう言って、アンナは全員を呼ぶ。

 

「あんた達全員、魔法力は足りているんだ。足りないのはコントロール。今までは機械がしてくれたものを、自分でコントロールしなくちゃ駄目なんだよ」

 

そう言って、アンナはリーネとペリーヌの箒を持ち上げる。

 

「ひゃっ!?」

「いっ!?」

「痛いのは、箒に体重が掛かってるからだよ。あの子なんか、もうコツを掴み始めてるよ」

 

そう言って、ハンナは宮藤を見る。

 

「いいかい?あんた達はストライカーユニットって機械にずーっと頼ってた。まずそれを忘れて箒と一体化するんだ」

「箒と一体化?」

 

アンナの言葉に、リーネが考える。

 

「箒に乗ろうとするんじゃなく、箒を体の一部だと感じるんだよ」

「体の一部…ですの?」

 

ペリーヌも考える。

 

「そして、自分の足で一歩前に踏み出す。そんなイメージで魔法を込めるんだ。ちゃんとした魔女なら、簡単な事さ」

 

そう言って、アンナは堂々と言う。

その言葉に、リーネとペリーヌ、そしてコツを掴み掛けていた宮藤が考える。すると、三人の魔法力は箒と共に一つとなる。

 

「一歩前へ…」

 

そして、全員が一歩を踏み出した。すると、

 

「やった!飛べた~!」

「私も飛べた!」

「飛べましたわ!」

 

宮藤は先ほどまで掴み掛けていたイメージを完全に掴んだ。他の二人も、今までまともに飛べなかった状態から、こんどはしっかりとイメージを持って飛べるようになる。

三人がちゃんと飛べたことに感激する中、アンナはその様子をしたから見て納得したように微笑んだ。

 

「アンナさん」

「おや、アリシア。もう終わったのかい?」

「はい」

 

アンナの言葉に返事をしながら、アリシアは足元のバケツを見せる。そこには、満載にされた水バケツがあった。

そして、アリシアは空を見る。

 

「皆飛べましたね」

「やっと一人前だよ…全く、あんたに比べたらよっぽど手のかかる子だよ」

 

そう言って、アンナは箒に跨り三人の下へ行った。

 

「いつまで遊んでんだい?さっさと水汲みに行かんと、日が暮れちまうよ!」

「い、言われなくても行きますわ!」

『行ってきまーす!』

 

そう言って、三人は水汲みに向かった。

その様子を見ていたアンナの下に、アリシアが箒に乗ってやって来た。

 

「昨日と全然違いますね」

「あんただろう。あの扶桑の若いのに何か助言したのは」

「駄目ですか?」

 

アンナの質問に特に悪いと思った様子に思わないのか、アリシアは聞き返す。そんなアリシアの様子に、アンナは一つ溜息を吐いてから、井戸に向かった三人の方を再び見る。

その後、三人はアンナから今日のノルマを認められたのだった。




アニメを見ていましたが、あのシーンはなんていいシーンだ、と思いました。そして登場した謎のキャラクター、アリシア。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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