ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第七十三話です。どうぞ。


第七十三話「始動 501」

「芳佳ちゃん!」

「リーネちゃん!無事でよかった!」

 

ネウロイ撃墜後、ウィッチ達は次の第501統合戦闘航空団の基地となるロマーニャの遺跡のある島へと合流した。

戦闘後二式大艇で移動した宮藤は、基地に駆け上がるとまずリーネとの再会を分かち合った。

 

「うん、芳佳ちゃん来てくれたんだ!」

 

そして、二人は手を取り合う。その様子を、他のウィッチ達は微笑ましく見ていた。

 

「しっかし、まさか宮藤が来るとはなあ」

「それを言ったら、シャーリーさんはアフリカのはずじゃ?」

「へへ~ん。ロマーニャが心配で抜け出してきた!」

 

シャーリーは宮藤の登場に驚いた様子だったが、ペリーヌは本来アフリカに居るはずのシャーリー達が居ることに驚いている様子である。そのカラクリをルッキーニが説明するが、シュミットはそれでいいのかと内心思うのだった。

 

「えっと、私たちはスオムスに行くはずがさ…ちょっと乗り間違えてアドリア海に…」

「エイラの占いで、危ないって出てたから」

「さ、サーニャ~…」

 

と、サーニャがバッサリと真実を言ったためにエイラはドキリとしてサーニャを力なく見る。

その時、サーニャはあるものに目が行く。それは、シュミットの左頬に出来た傷跡だった。

 

「シュミットさん、それは…」

「ん?ああ、これ…」

 

サーニャに言われ、シュミットは自分の頬の傷を撫でる。その様子に、他のウィッチ達も気づいた。

 

「ん?シュミット、お前その頬はどうした?」

「前まで無かったよね?」

「これな…サーニャ達は知ってるだろうけど、502に配属されたんだ。その時に負傷して残っちゃったんだ」

 

皆が不思議がる中、シュミットは訳を説明する。エイラとサーニャは年越しの時に502に居たため配属先を知っているが、他の者には説明をしていなかったため知らず、全員が初めて聞いたと言う表情をする。

 

「502…あいつが居たな」

「あいつ?」

「クルピンスキーっていただろ?」

 

と、バルクホルンがある人物の名前を呼ぶ。

 

「居た。あのニセ伯爵か?」

「そうだ」

 

シュミットも思い当たりバルクホルンに聞くと、それは合っていた。そして、バルクホルンはシュミットに近づくと、小声で言った。

 

「ハルトマンだがな…そいつの影響を受けたんだ…」

「……え」

「あいつは元々真面目だったんだが、そんなハルトマンをああしたのが…」

「まさか…!」

「…そのまさかだ」

 

バルクホルンの説明にシュミットもまさかと思うが、彼女の真面目な言葉にその真実を受け止めた。そして、今度クルピンスキーに会ったらどうしようかとも心の中で考えるのだった。

そんな中、今まで静かに聞いていた宮藤が聞く。

 

「あの、大丈夫なんですか?」

「ん?ああ、大丈夫だ。怪我も無事に治ったし、後遺症なんかも無かったから」

 

そう言ってシュミットは周りに問題ないと説明する。しかし、その言葉に安心できない人が一人居た。

 

「っ!」

 

シュミットの説明を聞いて、サーニャは一歩前に出る。そして、なんとシュミットの頬の傷に手をかざした。思わぬ行動にシュミットも驚く。

 

「さ、サーニャ…?」

「…」

 

シュミットはサーニャの表情を見る。サーニャは、少し悲しそうな表情をしていた。彼女は、シュミットの傷ついた姿を見て、彼のことを案じたのだ。

そんなサーニャの気づかいをシュミットも察し、そしてサーニャに言った。

 

「サーニャ」

「シュミットさん…」

「大丈夫だよ。少し怪我しただけだから、命に別状は無いさ」

「でも…」

 

シュミットは言うが、それでもサーニャは心配である。そんなサーニャを、シュミットは自分の胸に抱き寄せた。

 

「大丈夫、サーニャを残して死ぬつもりは無い」

「本当?」

「…怪我はするかもしれない」

「もう…」

 

と、シュミットの少し頼りなさそうな言葉に、サーニャは僅かに膨れる。だが、サーニャはシュミットの言葉に安心をしたようで、そのままシュミットに思い切り抱き着いた。

 

「うわっ!?大胆…」

 

と、今の今まで忘れていたが、二人のそんな姿を周りも見ているわけであり、まず先にハルトマンが言う。その言葉にシュミットがドキリとしてみると、皆が二人のことを見ていた。

殆どが二人が相思相愛のことを知らないため、まさかこんな行動をするとは思わず、口をポカンと開きながら見ており、唯一知っていたエイラは複雑そうに見る。

シュミットの胸の中にいるサーニャは気付かなかったが、シュミットはそんな周りの様子に頬を赤くして、そして自分の左頬を指で掻くのだった。

そして、少し離れたところでは坂本とミーナが会話していた。

 

「凄い刀ね…」

「烈風丸、私が魔法力を込めて打った刀だ。刀身に術式が練りこんであり…要は刀自体が強力なシールドになっている」

 

ミーナは坂本の持つ刀を見て、それが只物でないと感じる。坂本はその烈風丸をミーナに見せ説明すると、それを背中の鞘に戻した。

しかし、ミーナはそんな坂本を心配した。

 

「それにしても、無茶しすぎじゃない?」

「私は飛びたいんだ。あいつのようにな」

 

そう言って、坂本は皆とじゃれ合っている宮藤を見る。

 

「やっぱり、降りるつもりはないわね」

「ああ」

 

その様子に、ミーナはいつもの坂本だと思うのだった。

そして、それぞれの再会を喜ぶウィッチ達を、ミーナは集めた。

 

「集合!」

 

ミーナの掛け声に、全員が横一列に並ぶ。戦闘隊長である坂本は、ミーナの横に立つ。

 

「では、連合軍総司令部からの命令を伝えます」

 

そして、ミーナが手に持つ命令書を読み上げる。

 

「旧501メンバーは現隊に復帰後、アドリア海にてロマーニャを侵攻する新型ネウロイを迎撃、これを撃滅せよ。尚、必要な機材・物資は追って送るが、それまでは現地司令官との協議の上調達すべし」

「はっはははは、流石に手際がいいな!」

「ガランド少将のお墨付きよ」

 

坂本は手際の良さに笑うが、ミーナは微笑み返す。

しかし、その言葉にハルトマンが後頭部で腕を組みながら言う。

 

「無理やりもらってきたんだよ」

「人聞きが悪いぞハルトマン。過程はどうあれ、命令は命令だ」

 

ハルトマンの言葉にバルクホルンが訂正を言うが、シュミットは「大丈夫かそれ?」と、思ったのだった。

 

「ねえねえリーネちゃん、つまりどういうこと?」

「えっと…」

「つまり、501再結成するってことだ」

 

宮藤はどういうことか分からずリーネに聞くが、シュミットが簡潔に説明した。

そして、ミーナは更に読み上げて行く。

 

「私、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐以下、坂本美緒少佐」

 

次に、戦闘隊長である坂本が呼ばれる。

 

「ゲルトルート・バルクホルン大尉。シャーロット・E・イェーガー大尉」

 

そして、階級が大尉のバルクホルンとシャーリーが呼ばれる。

 

「シュミット・リーフェンシュタール大尉」

 

そしてさらに、シュミットが大尉で呼ばれる。シュミットは501再編と共に、彼は大尉として着任することになったのだ。

 

「エーリカ・ハルトマン中尉。サーニャ・V・リトヴャク中尉。ペリーヌ・クロステルマン中尉。エイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉」

 

その後に、階級が中尉であるハルトマン、サーニャ、ペリーヌ、エイラが呼ばれる。エイラは以前会った時は少尉であったが、本国スオムスで正式に士官教育を受け中尉となった。

 

「フランチェスカ・ルッキーニ少尉」

 

そして、唯一少尉となった最年少、ルッキーニが呼ばれる。

 

「リネット・ビショップ曹長、宮藤芳佳軍曹」

 

そして、士官の次にさらに階級が下であるリーネと宮藤が呼ばれる。リーネはブリタニアでの功績により曹長へと昇格したが、宮藤は軍規違反による点から以前と階級はそのままである。

そして、ミーナは全員の名前を言い終わった後、周りを見回した。ウィッチ全員、ミーナの顔をじっと見ており、ミーナは確認を終えると真ん中を見て宣言した。

 

「ここに、第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』を再結成します!」

『了解!』

 

ミーナの宣言の言葉に、全員が大きく返事をしたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

501再結成から翌日。

 

「…明らかに体力不足ね」

「あの三人はブリタニアの戦いの後、軍から離れていたからな。実質半年以上のブランクだ」

 

ミーナの言葉に、坂本が付け加えて言う。彼女たちの目線の先には、疲れて息を切らして倒れている宮藤とリーネ、倒れてはいないが肩で呼吸をしているペリーヌの姿があった。

坂本の言う通り、宮藤とリーネとペリーヌは501の解散後、軍から離れていた。宮藤は扶桑に帰り元の生活に、リーネとペリーヌはガリア復興にそれぞれ当たっていたため、完全に軍から離れていた。

 

「午前中の飛行訓練でも、あの三人は問題が多かったぞ」

 

と、ミーナの横に来たバルクホルンが言う。そう、現在行われたフィジカル訓練は午後の部であり、午前は飛行訓練を行っていた。

しかし、午前の訓練でも三人の飛行は問題点が多かった。コントロールを失った宮藤は、回避のできなかったリーネに接触、そしてそのまま突っ込んでくる二人を避けることができなかったペリーヌも巻き込まれ、三人は空中で大衝突をしたのだった。

そして、その訓練を見てきたシュミットも言う。

 

「これじゃあ戦闘をまともにこなせそうに無いな…」

「少佐、今のままじゃ実戦に出すのは危険だぞ!」

「…そうだな」

 

バルクホルンが坂本に言うと、坂本も頷いた。

そして、坂本は歩いて三人のところへ向かった。残ったミーナとバルクホルンとシュミットは、その様子に困った表情をする。

その時、バルクホルンは思い出したようにシュミットに話しかけた。

 

「そういえばシュミット、以前のお前とは見違えるほど飛行が変わったな」

「突然なんだ?藪から棒に」

「そうね。トゥルーデに迫るシュミットさんの飛行は随分目を見張るものがあるわ」

 

バルクホルンに続いてミーナも言う。その言葉に、シュミットも少し照れた表情をする。

午前に行われた飛行訓練で、シュミットはバルクホルンの後ろを取る飛行を何度もした。以前のシュミットならここまでバルクホルンを追い詰めることは無かっただろう。これは、シュミットの成長の結果と言える。

そして、坂本は三人のもとにつく。

 

「起きろ、二人共」

「坂本さん」

「少佐」

 

坂本の言葉に倒れていた宮藤とリーネが起き上がる。そして、三人は坂本を見た。坂本は手に持った竹刀を叩くと、三人に言った。

 

「宮藤!リーネ!ペリーヌ!お前達は基礎からやり直しだ!」

『は、はい!』

 

坂本の気迫ある言葉に、三人は返事をすることしかできなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

坂本に烙印を押された三人は、ある目的地に向けて飛行していた。

 

「あそこですわ」

 

そう言って、地図を見ていたペリーヌが指差す。そこには、小さな孤島があった。

三人は降下をして孤島に下りると、周りを見渡した。

 

「本当にここが訓練所なんですか?」

「少佐に頂いた地図だと、ここで間違いありませんわね…」

 

周りを見渡しても人の気配がしないためリーネが聞くが、ペリーヌの持つ地図はここを指しているので、場所は間違いないようである。

宮藤も周りを見る。

 

「でも、誰も居ないよ?」

「あっ、芳佳ちゃん、上」

「え?」

 

と、リーネが何かに気づき空を指さす。それにつられてあとの二人も見ると、空から突然大きな何かが三人のもとに落ちてくるではないか。

 

「うわあ!?」

「きゃっ!?」

「ネウロイ!?」

 

三人はすぐさまその場を離れる。そしてペリーヌはいち早く機関銃を落下してきたものに向けた。しかし、そこにあったのは、只の大きなたらいであった。

 

「ネウロイ…じゃない」

「誰がネウロイだい!」

「うわっ!?喋った!?」

 

突然声がしたため、ペリーヌは思わずたらいが喋ったと驚く。しかし、声は続けて言う。

 

「こっちだよ!」

 

その言葉に、三人は声のする方向を辿って上を向く。すると、そこには箒に跨った一人の老婆の姿があった。

 

「挨拶も無しに家の庭に入って来るなんて、躾がなってないねぇ」

「あ、こ、こんにちは!」

「あの、もしかしてアンナ・フェラーラさんですか?」

 

老婆に言われて宮藤はすぐに挨拶をするが、リーネは何かに気づき老婆に聞く。

すると、アンナと呼ばれた老婆は少しだけ不機嫌そうに答えた。

 

「そうだよ」

「あの、私達坂本少佐の命令で訓練に来たんです!ここで合格貰うまでは絶対に帰るなって言われました!」

 

目の前の人物が坂本に言われたアンナだと分かると、宮藤は訳を話した。そう、彼女たちは坂本に言われ、アンナの下で訓練を受けるように言われたのだ。

 

「ふん…とりあえず、その履いてるもん脱ぎな」

 

そう言って、アンナは三人の履いているストライカーユニットを脱ぐように言う。その言葉に三人はユニットを脱ぐと、アンナは三人にあるものを渡した。

 

「…バケツ?」

「じゃあまずあんたたちには、今晩の食事とお風呂の為に水を汲んできてもらおうかね」

「水汲みですか?」

「え~っと」

 

宮藤は周りを見回す。しかし、彼女の見える範囲に井戸は無かった。

 

「井戸ならあっちだよ」

 

その時、アンナが井戸の位置を示す。しかし、示した先は島を大陸と繋ぐ橋の向こう側、丘の上にあった。

 

「ええっ!?あんな遠く…」

「うわあ…」

「ここは海の上だからね、水が出るのはあそこだけさ」

 

しかし、ここでリーネは考え付く。

 

「あっ、でもストライカーを履けば!」

「そっか!」

「ストライカーで飛んでいけばあっという間ですわ」

 

そう言って、ペリーヌはユニットのところに歩き始める。しかし、その道をアンナが前に立ち塞ぐ。

 

「誰がそんなの使っていいって言ったんだい!?」

 

そう言って、アンナは三人にあるものを渡した。それは、先ほどアンナが乗っていたものと同じ形の箒だった。

 

「ほら、これを使うんだよ」

「まさか…」

「箒?」

 

アンナから渡されたそれを見て、三人は顔を見合わせきょとんとしたんだった。




う~ん、さり気なく熱くなったかな?
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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