ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第七十一話です。少しだけシュミット君にある人物との会話があります。どうぞ!


第七十一話「緊急事態」

シュミットは現在、501への途中中継で寄った第504統合戦闘航空団『アルダーウィッチーズ』の基地についていた。

第504統合戦闘航空団は、アルプス南方からの欧州反攻作戦を目的とした部隊である。

 

「貴方がシュミット・リーフェンシュタール中尉ね」

 

と、シュミットは基地の格納庫の外に立っていると、横から声がしたので振り向く。そこには、扶桑海軍の白い士官服を来ているウィッチが立っていた。顔を見てみると、そこには温厚そうな雰囲気をしていた。

 

「貴方は?」

「504統合戦闘航空団戦闘隊長の竹井醇子、階級は大尉よ」

 

シュミットに聞かれ、竹井は自己紹介をする。シュミットは竹井の階級が大尉であると聞くと、すぐさまカールスラント式の敬礼をする。彼からしたら年は同じぐらいでも、上官であるからだ。

その時、シュミットはふと疑問に思った。

 

「そういえば大尉」

「なにかしら」

「どうして、501がロマーニャに再結成されたんです?」

 

シュミットは、自分がこれから行く501が何故ロマーニャに再結成されたのかを出発前に知らされていない。そのため、ロマーニャに2つも統合戦闘航空団を持つ経緯を知らないのだ。

その言葉に、竹井は順番に説明していった。

 

「…人型ネウロイですか!?」

「ええ、そうよ」

 

竹井から聞かされた言葉に、シュミットは驚く。なんとヴェネツィア上空のネウロイの巣に、以前501で確認された人型ネウロイが現れたと言う情報が出たのだ。

そして、アルダーウィッチーズはその人型ネウロイとのコミュニケーションを試みた。しかしそれは叶わず、人型ネウロイは上空からの突然の攻撃に消滅。さらにネウロイの巣の上から新たな巣が現れ、元の巣を飲み込み、そしてヴェネツィアは陥落したのだった。

 

「そんなことが…」

「504は事実上壊滅、その任務を引き継ぐ形で501が再結成されることになったの」

 

その時だった。基地全体に、警報が鳴り響く。

 

『監視班よりネウロイ発見との報告!』

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

時間は少し前に遡る。

 

「現在アドリア海上空。間もなく目的のロマーニャ軍北部方面基地に到着します」

 

アドリア海上空では、扶桑皇国の巨大飛行艇、二式大艇が飛行していた。中にはパイロットの他に、ウィッチの坂本美緒、坂本の従兵である土方圭助、そしてついこの間に横須賀第四女子中学校を卒業した宮藤芳佳だった。

 

「うむ」

「う~、やっと降りられる」

「なまったな、宮藤」

 

土方の報告を聞いた宮藤は疲れた様子で一息する。そんな宮藤に坂本は気が緩んでいるぞと言った様子で言い、宮藤は思わずドキリとする。

実際問題、宮藤は501解散後は予備役扱いとなっていた。しかし、本当のことを言うとネウロイとの接触をした際の軍規違反が祟り不名誉除隊となったのだが、坂本はそのことを宮藤に言っていないため表向きにはそうなっているのだ。そしてその間の宮藤は、501に行く前の暮らしに殆ど戻っており、訓練などをしていなかったのだ。では何故、今回宮藤は坂本と共に居るのか。

その時、宮藤はあることを思い出し坂本に聞く。

 

「あ、そうだ。お父さんからの手紙、なんだかわかりましたか?」

 

そう、元々宮藤が自分から坂本を訪ねたのは、父親である宮藤一郎の手紙が発端だった。彼女の元に届いた手紙を坂本に渡したのだ。

しかし、坂本は宮藤の言葉に首をわずかに横に振った。

 

「いや…だが、宮藤博士の研究に関するものかもしれない。技術班に渡して置いた」

 

坂本は手紙の内容は分からなかったが、宮藤一郎は魔導エンジンの権威であり、宮藤理論確立者でもあった。その為、彼の手紙は技術面におけるものと考え、扶桑海軍の技術班送りになったのだった。

 

「遅れて付いたのは、検閲によるトラブルだろう」

「またですか…」

 

そして、宮藤のもう一つの希望であった父の生存の可能性は、検閲による遅延という形で薄れたのだった。

 

「電探に反応あり、急速接近中」

「なに?」

 

コックピットからの連絡に坂本が反応する。その時だった。

二式大艇のすぐ横を、赤い光線が3つ走り抜けた。至近距離を通ったそれは、飛行艇に振動を与える。

 

「きゃああああ!」

「なんだ!?うわっ!?」

 

突然の衝撃に宮藤と土方は座っていた椅子から飛ばされる。坂本は椅子をつかみなんとか耐えると、コックピットに聞いた。

 

「くっ、どうした!」

「未確認機からの攻撃です!第一エンジン被弾!」

「なにっ!?」

 

先ほどの衝撃は、二式大艇のエンジンに被弾したときの衝撃だった。

そして、コックピットの先では、未確認機が急速接近していた。

 

「まさか…!」

「ネウロイ…」

 

そう、未確認機の正体はネウロイだった。

そして坂本は、すぐさま立ち上がると二式大艇の窓から前方を魔眼で見た。彼女の魔眼には、今まさに次の攻撃を加えようとしているネウロイの姿が映った。

 

「ネウロイ確認!距離約12000!奴らめ、もうこんなところまで来ていたのか…!」

「っ!」

 

坂本と宮藤は、ネウロイがこの地点に現れたことに驚く。

二式大艇のパイロットが回避行動をとる。すると、先ほどいた地点を赤い光線が再び通り過ぎる。

 

「きゃあああ!」

「くっ…!」

 

あまりにもキツイ機動をしたため、中に乗っていた宮藤たちは体が浮き、そして揺さぶられる。宮藤は坂本にぶつかったため、坂本がすぐさま彼女の体を支える。

 

「うぐっ…!」

「土方!」

 

しかし、同じように飛ばされた土方は、飛行艇内の角の部分に自分の横腹をぶつけてしまった。その結果、彼の横腹から血が流れる。

 

「土方さん!」

 

宮藤はすぐさま駆け寄ると、治癒魔法を掛け始める。それにより、土方の表情は僅かにやわらぎだす。その治癒速度は、以前より早かった。

 

(魔法力が安定している…成長したな、宮藤!)

 

坂本は、宮藤の安定した治癒を見て、成長したなと心の中で褒める。

そして、坂本はコックピットへすぐさま命令をする。

 

「今は退避だ!急降下してやり過ごす!」

「了解!」

 

坂本の指示により、二式大艇は急降下を開始する。これにより、速度を稼いでネウロイから離脱を図るのだ。

その時、二式大艇の後方で爆発音がする。

 

「なんだ?」

「え?」

 

音に気づいた坂本と、土方の治癒を終えた宮藤が窓から後方を見る。すると、後方ではネウロイが攻撃による被弾をしていた。

その下を見ると、複数の航跡波が海に確認できた。

 

「ヴェネツィア海軍か!」

 

坂本がその正体に気づく。先ほどの攻撃は、ヴェネツィア海軍の旗艦ヴィットリオ・ヴェネトからの艦砲射撃だったのだ。

ヴィットリオ・ヴェネトの艦長、レオナルド・ロレダンは、ネウロイに向けて言い放つ。

 

「見たか、対大型ネウロイ用焼夷弾の威力を!次弾徹甲装填!」

 

そう言って、ロレダンは次弾装填を指示する。焼夷弾で怯ませた後、艦隊は次に徹甲弾を撃ち込んでネウロイを墜としにかかる。

 

「徹甲弾、装填完了!」

「徹甲弾、撃て!」

 

装填完了の言葉を聞き、ロレダンは全艦隊に砲撃を開始させる。戦艦及び巡洋艦から放たれた砲撃は、そのままネウロイに向けて飛翔し、そして全弾着弾をした。

その光景を、飛行艇の中から見ていた宮藤は目を見張りながら見ていた。

 

「凄い…」

「駄目だ。あの武装では大型ネウロイは墜とせない」

「えっ?」

「目標が大きいから、一見すると当たってもコアには届いていないんだ」

 

坂本の言う通り、ヴェネツィア海軍からの砲撃は全弾着弾しているが、ネウロイはその攻撃に怯んだ様子は無かった。

そして、ネウロイは反撃と言わんばかりに攻撃を加えて行く。それにより、随伴の駆逐艦が被弾、大きく火を上げた。

 

「あっ!?」

「駆逐艦がやられた…ロマーニャのウィッチはまだか!?」

 

その光景に宮藤はショックを受け、坂本は無線を使う土方に振り返る。

 

「少佐、ロマーニャ第一航空団に出撃を要請しましたが、航続距離不足との回答です」

「航続距離不足だと…!」

 

頼みの綱であるロマーニャウィッチは、二式大艇のいる位置までの航続距離が足らず、出撃できないのだ。

その間にも、ヴェネツィア海軍の船は次々と被弾していく。

 

「あっ!また艦が!」

「くっ…回避が遅すぎる。あれじゃあ的だ」

「少佐、直近の504航空団は、先日の交戦で戦闘力を喪失しており、30分以内に到着可能なウィッチ隊はありません」

「30分だと!?このままでは5分で全滅だ!」

 

ヴェネツィア海軍は攻撃こそ高いが、回避性能が低い。30分何と言う悠長な時間を耐えられるはずがなく、残り5分で壊滅してしまう。

その時だった。

 

『…こちら…ミット…』

「なんだ?」

 

土方は手に持っていた無線の耳当てから、声が漏れているのに気づいた。すぐさま土方は耳に当てた。

 

『こちら、シュミット・リーフェンシュタール中尉!聞こえるか!?』

「シュミット中尉?」

「シュミットだと!?」

 

土方は面識がなく疑問に思う中、反応したのは坂本だった。

 

「土方貸せ!」

「はい」

 

坂本は急いで駆け寄ると、土方の持っていた耳当てを自分の耳に当てた。

 

『こちらシュミット、聞こえるか!?』

「シュミット、私だ!」

『その声は…少佐!』

 

無線の向こう側では、シュミットが驚いた。まさか無線に出たのが坂本と思わず、予想外だったのだ。

しかし、坂本はそんなのをお構いなしにシュミットに聞く。

 

「シュミット!今どこにいる!」

『504からそちらに向かっています。後15分ほどかかります』

「15分…もっと早く来れないか?」

『全速力です』

 

坂本は、シュミットがもう少し早く来ることができないかと聞くが、シュミットとしては全速力の為これ以上の時間短縮は困難であった。

 

「わかった、出来る限り早く来てくれ。事態は一刻を争う」

『了解!』

 

そう言って、坂本は無線を終えた。

 

「仕方ない…出るぞ!」

「えっ?」

「了解!出撃準備!」

 

坂本はそう言って、自分が出ると言う。宮藤はそれに驚くが、土方は坂本のユニットのところに居る技術者に出撃準備を言う。

 

「紫電五三型、いつでも行けます!」

 

技術者も、坂本の新ユニット『紫電改』の出撃準備を終え、坂本はその報告に頷く。

しかし、宮藤はそんな坂本の前に立ち、両腕を広げる。

 

「駄目です坂本さん!止めてください!」

「どけ、宮藤」

「どきません!坂本さんはシールドが張れないんですよ!お願いです…」

 

宮藤は懸命に坂本を止めようとする。坂本は既に、シールドを張る力が衰えてしまっている。そのため、戦場に出ては彼女は攻撃を防ぐ術がないのだ。宮藤はそんな危険な状況で坂本に戦ってほしくないと思ったのだ。

そんな宮藤を、坂本はじっと睨んでから、フッと笑う。

 

「前にもこんなふうにお前に止められたことがあったな。安心しろ宮藤、私はこんなところで命を落とす気は無い」

「でも…」

「確かに、20になってシールドはもう使えなくなった。だが私には新型ユニットの紫電改と、こいつがある」

 

そう言って、坂本は背中にかけていた扶桑刀を見る。

 

「一度お前に救われた命だ、そう簡単に捨てたりはしない」

「だったらお願いがあります!」

 

宮藤はそう言って、坂本を見る。その眼には、ある決断があった。

 

「私も一緒に戦います!」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「宮藤、お前が先行してネウロイをヴェネツィア艦隊から引き離せ!後方から私がコアを叩く!」

「了解!」

 

宮藤の言葉は、坂本も首を縦に振った。

二式大艇の発進機は、1機だけしかない。そのため、作戦はまず宮藤が先行して発進し、ヴェネツィア艦隊をシールドをもってして護衛、そして艦隊を安全圏に引き離す。そして、後に発進する坂本が、宮藤と合流。そしてネウロイを撃墜するという作戦だった。

そして、宮藤とそのユニットを固定した台は、二式大艇の天井が開き、そこから外に出た。宮藤は魔導エンジンに魔力を流し、そして回転数を上げる。

 

「飛べ、宮藤!」

「行きます!」

 

そして、坂本の言葉と共に、宮藤は発進した。その直後、ネウロイの赤いビームが、宮藤を固定していた発進ユニットを直撃した。

 

「坂本さん!」

「やられたのは発進ユニットだけだ!周りを見ろ、次が来るぞ!」

 

宮藤は驚く中、坂本は前を見るように警告をする。すると、前方から赤い光線が飛んでくる。

すぐさま宮藤はシールドを張ると、そのシールドは二式大艇を覆うほどの巨大なものが形成され、そしてネウロイのビームをはじいたのだった。

 

「凄い…」

「なんて巨大なシールドだ!」

「これが宮藤の力だ」

 

そのシールドにパイロットと土方は驚くが、坂本は流石といわんばかりに言う。

しかし、ここでトラブルが起きた。

 

「少佐!魔導過給機が損傷!紫電改、飛行不能です!」

「なんだと!?」

 

技術者の言葉に、坂本は衝撃を受けた様子で振り返る。

これにより、宮藤は単独での戦闘を余儀なくされたのだった。




じゅんじゅんとシュミットの会話(ほんの僅かですが)。次回、彼女たちが集結します。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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