地上の戦車・高射砲部隊が、グリゴーリに向けて砲撃を行う。しかし、どの攻撃もグリゴーリに有効なダメージを与えることができず、逆にビームを食らい高射砲部隊は壊滅する。
「第6陣地、突破されました。…敵が進路を変えました!グスタフに向かっています」
報告を聞いたマンネルヘイムは、突然動きを変えたグリゴーリに焦りの表情をする。
「奴め、こっちの狙いに気づいたか」
「雁淵中尉、真コアが見えないとはどういうことだ!?」
マンシュタインは孝美に状況を聞く。
『外郭のコアが魔眼を遮るシールドの働きをしているようです』
「なんだと!?」
詳しい説明を聞き、マンシュタインは信じられないといった表情をする。
管野は、司令部に向けて報告していた孝美に聞く。
「さっき見えた位置じゃダメなのか?」
「真コアは移動している。もう同じ位置にはないわ」
「じゃあ、どこに撃っていいかわかんないの?」
孝美の言葉に、ニパは困った表情をする。コアが移動していては、同じ位置に向けて攻撃を加えても意味がない。真コアの位置をしっかりと捉える何かが必要だった。
(あれを…
孝美は、心の中である決断をする。
そして、戦場を離れたところの凍った湖上では、森を抜けてきたひかりが全力で走っていた。
(お姉ちゃん、絶対魔眼を使う気だ…!)
ひかりは、孝美が絶対魔眼を使うと考え、全力で戦場に向かっていた。何としても、彼女は孝美を止めたかった。それは、以前ラルとロスマンから聞かされたことを思い出したからでもある。
(通常の魔眼では捉えられない特異型や、複数のネウロイのコアを特定できる必殺の技だ)
(ただし、肉体と精神の負担が大きく、シールドの能力も著しく低下するから、援護無しでの使用は自殺行為に等しいわ)
「絶対に止めないと…!」
ひかりは、全力で凍った湖を走る。
途中、ひかりは湖の中の氷が張っていない場所に来るが、以前ロスマンから教わった魔法力の運用を生かし、足場に魔法陣を作る。そして、その魔法陣の上を陸のように使いながら、全力で戦場に向かった。
その頃、孝美がちょうどグリゴーリに向けて飛行をし始めた。
「待て!孝美!」
「おい!孝美!」
ラルと管野が孝美の考えを理解し止めようとするが、孝美はそれを聞かずにネウロイの下へ向かう。
「孝美!」
管野はもう一度大声で呼ぶが、やはり孝美は止まらなかった。
そしてラルも、孝美にもう一度静止を呼びかける。
「はやまるな、孝美!」
「隊長!他に方法がないんです!」
「バカ野郎!」
しかし、孝美はそれでも絶対魔眼を発動しようとしたため、ラルは思わず歯を食いしばりながら言う。
そして、孝美は使ってしまった。
「発動…絶対魔眼!」
孝美の言葉と共に、彼女の目は通常時の青では無く、赤くなる。そして、彼女の特徴的な茶色の髪は、先に向けて徐々に赤く染まっていく。
その様子は、地上を走っていたひかりにも確認できた。
「赤い光…ダメ!お姉ちゃん!」
ひかりは、孝美が絶対魔眼を使ってしまったことに気づき、大声を出す。しかし、その声が孝美に届くことは無かった。ひかりは、全力を出していた足に更にペースアップをした。
その間にも、孝美はネウロイの攻撃を避けながらコアを補足していく。
「コア捕捉…真コア…真コアはどこ!?」
孝美は懸命に、ネウロイの真コアを捕捉していく。しかし、その行動は仇となった。
ネウロイは、回避の鈍くなっている孝美に向けてビームを撃つ。孝美はそれに気づきシールドを張る。
「シールドが…もたない…!」
しかし、絶対魔眼を使っている彼女のシールドは脆く、シールドの強度は徐々に崩れて行く。
そして、さらなる攻撃が孝美に襲い掛かる。万事休す、孝美は思わずその攻撃に目を瞑った。
だが、攻撃が孝美に当たることは無かった。
「っ!?」
なんと、502のメンバー全員が孝美の前に立ち、シールドを張ったのだ。それにより、本来孝美に命中するはずだった攻撃を全てはじいたのだ。
そして、管野は孝美に振り返った。
「へっ、やると思ったぜ」
「ロスマン先生から聞いたよ、絶対魔眼の話」
管野に続けて、ニパも言う。
「雁淵中尉ならきっと使うだろうって」
「だって、ひかりさんの姉でしょう?」
サーシャとロスマンは、孝美がその絶対魔眼を使うだろうと読んでいた。特に根拠は無かったが、しいて言えば、ひかりと姉妹だという理由からだ。
「一人で行くなんてずるいです」
「皆でやりましょう」
下原とジョゼも孝美に向けて言う。
「はやまるなと言っただろう」
「私達は仲間なんですから」
孝美の左側からラル、右側からシュミットがそれぞれ言う。ラルは孝美を全力で静止したのには、ちゃんと意味があった。シュミットは、同じ部隊である仲間に頼ってほしかったと思いながら、孝美に言う。
「みなさん…ありがとう」
そんな仲間の心の温かさに、孝美は自分の行いを少し後悔し、そして礼を言う。
そして、再び502はグリゴーリに向けて飛翔を始めた。
「絶対魔眼!」
孝美は、再び絶対魔眼を発動する。そんな孝美にグリゴーリはさせまいと攻撃をするが、その攻撃は前方に立つシュミット達のシールドによって阻まれる。
「うおおおお!」
全員が全力でシールドを張る。ネウロイは負けじと、さらに強力な攻撃をウィッチ達に放つ。
「くうっ…」
「くっ…」
その攻撃の重さに、ウィッチ達も思わず苦しそうな表情をする。しかし、彼女達は絶対にシールドを張る力を緩めなかった。
「目標、最終補正!」
「うおおおお!」
後ろで懸命に捕捉する孝美の為にも、全力でシールドを張る。
「完全捕捉!」
そして、孝美の魔眼はグリゴーリのコアの中を移動する真コアを捉え始める。
「真コア、グリットH58954…」
そして、真コアの位置を報告した時だった。グリゴーリの糸の一本が、ウィッチ達の真上に向かう。そして、上から撃ち落とす形で孝美にビームを加えたのだ。
「しまった!」
予想外の攻撃にウィッチ達は焦るが、孝美はそれでも再びコアに向けて顔を上げた。
「T87449…」
『T87449、了解』
そして、孝美は力を振り絞って、真コアの座標を報告する。そして、通信兵の言葉を聞き安心したのか、孝美は薄れていた意識を手放し、そしてその体は地面に向けて落下し始めた。
「孝美――!」
管野は大声で孝美を呼ぶが、孝美は力を使い果たしてしまい再上昇できない。
(ひかり…)
孝美は、薄れゆく意識の中でひかりのことを思う。その時だった。
突然、孝美は自身の体を包み込む謎の温かさを感じた。薄っすらと瞼を持ち上げると、目の前にはジョゼが居た。
「っ!」
ジョゼは、真っ先に孝美の下へ向かうと、その体を抱きかかえ、固有魔法の治癒を全力で使い始めた。
以前はこの力で孝美を救うことができなかった彼女は、今度こそは孝美を助けて見せようと真剣だった。
「あったかい…」
そして、孝美はその固有魔法の温かさに身をゆだねながら、意識を手放した。
そして地上では、孝美による報告をもとにグスタフがグリゴーリに向けてその砲身を向けていた。
「グスタフ、グリット入力完了!照準完了!」
「発射!」
そして、マンシュタインの発射許可により、グスタフが再び火を噴いた。放たれた魔導徹甲弾は、そのままグリゴーリに向けて飛翔していく。
その様子は地上の砲兵隊だけでなく、降りたったウィッチ達も見ていた。
「発射した…」
「我々が出来る事は全てやった」
「後は願う事だけだ…」
ウィッチ達は既に、自分たちのやるべきことをすべて終えた。残りは放たれた弾丸が、無事にネウロイのコアを貫き、そして消滅するのを願う事だけだった。
全員が砲弾が着弾するのを見ているとき、ここで思わぬ出来事が起きた。
「本体ネウロイ中心に雲が復活していきます!」
「なんだと!?」
通信兵の思わぬ報告に、歴戦の将軍が今までにないほどの動揺を見せた。何と、グリゴーリが自分の周辺に雲を復活させるでは無いか。
そして、自分の体を半分ほど覆った時に、魔導徹甲弾はその雲にぶち当たった。しかし、その攻撃が貫くことは無く、徹甲弾を空中で停止させた。
「徹甲弾が弾着前に停止しました!」
「雲がシールドになっているのか!?」
ラルが分析した通り、グリゴーリ周辺に現れた雲は自身を守る鎧になっていた。
「ああっ!徹甲弾が!!」
そして、ついにそのシールドに憚れた徹甲弾は、衝撃に耐えきれずにその体を崩壊させた。
「そんな…」
「それはないよ…」
ウィッチ達は、目の前の光景に絶望の色を見せた。
「くそっ…くそ―――!」
「失敗だ…」
管野は拳を握り締め、言いようのできない怒りを振り撒く。ラルも、声を掠らせながら呟く。平常心を保つラルも、今回ばかりは絶望した。
「魔導徹甲弾は予備共に破壊されました…」
「万策尽きたか…」
司令部内も、重い空気が流れる。
「全部隊に撤退命令」
マンシュタインは、全軍に撤退命令を出す。彼自身は出したくなかったが、現時点でもうグリゴーリを攻略する術は失われてしまい、これ以上は軍隊の消耗だけになってしまう。
地上で見ていた兵士たちは、呆然としながらグリゴーリを見上げた。彼らの目には、もう希望が失われていた。
「お姉ちゃ――ん!」
その時、ウィッチ達のもとに聞きなれた声が聞こえる。全員が振り返ると、そこには信じられない人物が居るではないか。
「ひかり!?」
まず最初に驚いたのは、管野だった。そこには、カウハバ行きの列車に乗ったはずのひかりが走ってやってくるではないか。
「ひかりちゃん?」
「ひかりさん…」
「ひかり…」
他のウィッチ達も、ひかりが現れたことに気づき驚くが、ひかりはその様子を無視して、孝美に駆け寄った。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん、しっかりして!死んじゃ駄目っ!」
ひかりは、目から涙をぽたぽたと流しながら孝美に呼びかける。彼女の目には、孝美が今にも死んでしまいそうに見えた。
「大丈夫だよ、ひかりちゃん」
「えっ…!?」
しかし、その様子をクルピンスキーがまず否定した。その言葉に、ひかりは思わず顔を上げて驚く。
「でも、お姉ちゃん、絶対魔眼を…?」
「絶対魔眼の弱点であるシールドの低下は皆で。肉体へのダメージはジョゼさんの治癒魔法でカバーしたわ」
「脈も体温も正常よ。安心して」
「だが、全ての攻撃を防ぎきれず、孝美に傷を負わせてしまった。すまん…」
ロスマンとジョゼが説明をし、ラルは自分たちの力が及ばなかったことをひかりに謝罪した。
しかし、ひかりはそんなラルの言葉に首を横に振った。
「皆さんがお姉ちゃんを助けてくれたんですね。ありがとうございます」
ひかりがそう言って、メンバーにお礼を言う。
その時、ジョゼの膝元で眠っていた孝美が目を覚ました。
「ひかり…」
「お姉ちゃん!」
「ごめんね、ひかり…倒せなかった…」
孝美は、自分のことを心配しているひかりの方を見ると、最初に謝った。
「そんな!何で謝るの!?」
「中尉は悪くありません」
「そうだよ!精一杯やったよ!」
そんな孝美の言葉を、ひかりは元より、隊員達も揃って否定した。孝美は自分の身を削ってまで、グリゴーリのコアを特定したのだ。不運なことに、それはグリゴーリによってその思いは阻まれてしまったが。
「もう、打つ手は残ってないんでしょうか?」
下原の目線の先には、自身の直下にある兵器を蹂躙するグリゴーリの姿が映っていた。グリゴーリはグスタフやドーラだけでなく、撤退をしていく連合軍兵士にも容赦のない攻撃を浴びせて行く。
「ああっ!?」
「このままペテルブルクが落ちるのを見てるしかないの…?」
ニパは思わず、目の前の光景に問う。
「真コアの位置がわかんないんですよね」
「残念だが、あれからコアの位置も移動している…」
ひかりの言葉に、シュミットが答える。尤も、シュミットも為す術のない状況の為に、声が力ない。
しかし、ひかりはシュミットの言葉を聞くと、メンバー全員に振り返った。
「私に接触魔眼を使わせてください。私も戦います!」
「ひかり…?」
「気持ちはわかるけど…」
「列車砲も魔導徹甲弾も無い今となっては…」
ひかりは自分も戦うと言うが、既に手段の無いウィッチ達の力では、どうにか出来るものでは無く、誰もその言葉に首を縦に振らなかった――ただ一人を除いて。
「俺もだ!俺もまだ戦いてえ!」
なんと、ひかりの言葉に最初に頷いたのは管野だった。管野は拳を握り締めると、全員に主張した。
「俺はまだピンピンしてるぜ!魔法力だって残ってる。最後のカスを使うまで諦めたくねえ!弾がねえなら、この拳がある。俺がぶん殴ってやる!」
「ムリだよ。相手はグリゴーリだよ?」
管野は大声で主張するが、ニパはどうやって倒すのだと言った様子で管野に言う。
そんな中、今まで黙っていたラルは、何かを感じていた。
「…」
「隊長?」
コルセットを抑えるラルの様子に、ロスマンが疑問に思い聞く。
「さっきから、妙に古傷が熱い…」
「え?」
「向こうに何かを感じる」
ラルはそう言って、何かを感じる方向を見る。
そして、ウィッチーズがそこに歩いていくと、それはあった。
「これだ」
「魔導徹甲弾の砕けた弾芯のようですね」
そこにあったのは、グリゴーリの雲によって防がれた魔導徹甲弾の一部分だった。
「まだ魔法力を失ってないわ」
そして驚くことに、この弾芯は陸戦ウィッチの魔法力を残していたのだ。
ひかりの登場!そして砕けた魔導徹甲弾の残骸!これらが一体どうなるのか!?
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