それでは、第六十七話です。どうぞ!
「超爆風機構発動成功。グリゴーリ周辺の雲が消滅しました」
「成功だ!」
副官の言葉に、思わず喜びの声を出すマンネルヘイム。
「ここまでは、です」
しかし、マンシュタインの表情はまだ動かない。作戦はまだ途中であり、次が決まってこその成功である。それまで、彼の気が緩むことは無かった。
そして、超爆風弾により隠れ蓑を失った巨大ネウロイは、ウィッチ達を圧巻させた。
「あれが敵の本体」
「うわー、でっかー…」
あまりの大きさに全員が立ち止まって見てしまう。そんな中、ロスマンは手に持つフリーガーハマーからロケット弾を数発ネウロイに向けて叩き込む。
真っ直ぐと飛翔した弾丸は、そのままネウロイに吸い込まれていくが、命中個所に傷一つつけることは無かった。
「通常の兵器では傷もつけられませんね」
ロスマンは冷静に、巨大ネウロイを分析していく。
そして、ここからが孝美の大仕事だ。
『雁淵中尉、コアの特定だ』
マンシュタインの無線がウィッチ達に伝わる。そう、孝美はこの後魔眼を使い、巨大ネウロイのコアを特定しなくてはいけない。
「行くぞ孝美!」
「了解!」
管野の言葉に、孝美は返事をしながら巨大ネウロイに向かっていく。そして、前衛に出ていたウィッチたも次々と巨大ネウロイに向けて進んでいく。
「孝美をコア特定エリアまで護衛する」
『了解!』
ラルの言葉に、残ったウィッチも返事をする。彼女たちの任務は、ネウロイの攻撃から孝美を守ることだ。
そして、超巨大ネウロイは動き出した。ネウロイは自分の体に巻き付かせていた糸状の物体を解き、その先っぽの部分を連合軍に向けた。すると、その先っぽの部分から次々と赤いビームが伸びて行く。今までよりも遥かに強いネウロイの攻撃だ。
シュミット達は散会すると、その糸状になっている部分に攻撃を加えて行く。しかし、無数にあるその部分は、いくら攻撃を加えて行ってもキリがなかった。
そして、孝美は魔眼を発動してネウロイのコアを特定し始めるが、ネウロイはそんな孝美を攻撃する。
しかし、その攻撃は前に立った管野によって憚れた。管野はシールドを張った体制から、孝美に聞く。
「見えたか、孝美!?」
「ええ。目標重捕捉…目標補正…」
管野の言葉に返事をしながら、孝美は次々と工程を進めて行く。
「最終捕捉…完全捕捉!グリッドH2541、T0429!」
そして、孝美はネウロイのコアの位置を特定する。
孝美の報告は、司令部に届いた。
「グリゴーリのコアを特定!」
「ドーラ、発射用意!」
マンシュタインの号令と共に、ドーラが発射準備を始める。ドーラは砲身の先に魔力を集め始めた。
「ドーラ、術式完了。発射10秒前。9、8…」
そして、ドーラの射撃が秒読み段階に入る。その時だった。
ネウロイは、今まで分散させていた糸を束ね、そして一つの大きな砲身を作る。そして、そこにビームを収束させ、発射させる。
放たれたビームは、そのままドーラへ向けて直進していく。ニパとジョゼは懸命にシールドを張る。
「くうっ!」
「くそっ…くそっ…!」
懸命にシールドを張る二人だが、ネウロイの強力な攻撃を防ぎきれず、ついにシールドは崩れた。そして、壊れたシールドの隙間から流れたビームは、そのままドーラに直進。そして、ドーラの砲身に直撃し、融解させた。
「ドーラ被弾!砲身が融解して発射できません!」
「何っ!?」
「撃てないだと!?」
通信兵の言葉に、司令部の人間に動揺が走る。しかし、歴戦の戦士はすぐに次の手を打つ。
「ならばグスタフで撃つ!予備弾を用意しろ!」
マンシュタインはすぐさま前線に命令する。列車砲は2機あり、1機が破損してももう1機で対応できる。兵士たちはすぐさま予備弾をドーラに装填を始める。
しかし、事態は急変した。ネウロイは列車砲の攻撃が無いと知ったのか、突如糸状の部分を収納し始めた。そして、衝撃の行動が起こった。
「グリゴーリがペテルブルク方面に移動を開始しました」
「何だと!?」
「発射までどれくらいだ!?」
マンネルヘイムはすぐさま兵士に聞く。
『術式の展開に20分必要です!』
「遅い!射程外に出られたら終わりだぞ!」
突然高速で移動し始めたネウロイに対して、あまりにも遅い装填時間にマンネルヘイムは思わず机を叩く。
そして、ウィッチ達は呆然とネウロイの姿を見ていた。
「攻撃が止んだ?」
「僕達には興味なしってことかな」
「ふざけやがって…」
クルピンスキーの解釈に、シュミットは拳を握り締め、歯ぎしりをしながら言う。
「20分も待ってたら射程外になっちゃうよ」
「こっちの武器じゃ歯が立たねえし、どうすりゃいいんだ!」
既に策は尽きてしまい、解決策が見つからない。
その時、孝美の目にある物が止まった。それは、ネウロイの攻撃により使用不能になったドーラだった。孝美はすぐさまドーラに向かう。
「孝美?」
管野は何事かと思うが、孝美はそのまま急降下していき、そしてドーラに到着する。そしてそのまま孝美はドーラの砲弾が装填されている蓋を開くと、中から砲弾が出てくる。
「あれは!」
「魔導徹甲弾?まさか!」
皆が驚く中、孝美は手に持っていた対物ライフルを捨てると、なんと両手でその砲弾を持ち上げるような動作をし始めた。
その行動に、下原が分析する。
「弾を運ぶつもりです!」
「直接ぶつけようって気か!」
「魔導徹甲弾の重量は1トン近いわ」
全員が無茶だと言う中、孝美は懸命に砲弾を持ち上げようとする。
「ム、ムリですよ!」
「きっと、ひかりならこうするはず!絶対にあきらめるわけにはいかないの!」
ジョゼが止めようとする中、孝美はそれでも懸命に砲弾を持ち上げようとする。
「バーカ」
そんな孝美に、管野はそう言いながら横に並ぶ。
「一人で出来るわけねーだろ」
「そうそう」
管野だけでなく、二パも言う。そして、二パの横にシュミットも降下してくる。
「502で一番馬力のある私抜きで、どうやって持ち上げるんだ?」
シュミットはそう言うと、魔導徹甲弾に下から手を添える。
それだけでなく、孝美の空いている左側にジョゼが来る。
「管野さん、ニパさん、シュミットさん、ジョゼさん…」
そして、次々とウィッチが集結する。あっという間にウィッチ全員が魔導徹甲弾に集結する。
「皆さん…」
「守るより攻める方が性に合うからね」
「可能性はこちらの方が高いです」
クルピンスキーとサーシャはそう言って、魔導徹甲弾持ち上げに入る。
「やっぱり妹さんとソックリね」
「姉妹揃ってバカって事か」
ロスマンの評価に、管野が付け加えて言う。
「バカは嫌いじゃない」
そして、ラルが締めくくる形で言う。
その様子は、司令部にも届いた。
「502部隊が、魔導徹甲弾を直接ぶつけるつもりです!」
「グスタフの発射にはまだ時間がかかります」
「では、彼女たちに託すしかあるまい」
副官の言葉に、マンシュタインもその行動を通した。司令部も、もはや残された手は尽きており、最後の望みを502に託したのだ。
「せーの!」
『うおおおおお!』
そして、下原の掛け声と共に、ウィッチ達は一斉に砲弾を持ち上げる。懸命に砲弾を持ち上げようと、全員が声を張り上げながら力を籠める。
すると、最初こそびくりとも動かなかった砲弾は、全員の力によってその巨体を浮かせるでは無いか。
「上がった!」
「やった!」
その変化に、思わず喜びの声をあげる者もいた。
「行くぞ!」
そして、ラルの言葉と共に、全員が今度は砲弾の下側に入り、両手を上に持ち上げる。
「まさか、こんなの抱えて突撃するなんてね」
「後にも先にもこれっきりだ」
クルピンスキーは、今まで体験したことのない事に思わずそんな言葉を漏らし、シュミットはこんなことが二度と起こらないように願いながら言う。
「向こうはまだこっちに気づいてないよ」
「余裕こきやがって!今に見てろ!」
そして、砲弾を抱えたウィッチ達は、ペテルブルクへ向かうネウロイの真上に移動した。
「敵の直上600メートル!目標地点到達!」
「コアの位置変わらず!補足完了!」
サーシャが位置を報告し、孝美がネウロイのコアを再度特定する。コアの位置は変わらず、目標を定めることは造作もなかった。
「降下!」
そして、ラルの掛け声と共に、全員が砲弾を抱えながら急降下をし、そして徐々にネウロイに近づいていく。
「投下!」
サーシャの指示と同時に、ウィッチ達は一斉に手を放す。しかしただ一人、孝美だけはまだ手を離さなかった。
「何やってんだ、孝美!」
「絶対に当てて見せる!」
管野が大声で呼ぶ中、孝美は砲弾を確実にコアに命中するために最後まで残った。
そして、ネウロイはその様子に気づいた。直上からやってくる孝美と砲弾に向けて、赤いビームを放ったのだ。
しかし、そのビームは孝美に命中する前に、管野がシールドを張って防いだ。
「行くぞ!孝美!」
「管野さん!はい!」
そして、管野が盾になりながら砲弾は徐々に降下していく。そして、
「いっけええええ!!」
孝美は、砲弾を手から離した。そして、そのまま投下された砲弾はネウロイのコアがある位置に真っ直ぐと進んでいき、そしてネウロイを貫いた。
砲弾の命中と同時に、ネウロイの体は光の破片に変わっていく。
「やったぞ、孝美!」
「はい!」
管野と孝美が、その様子に顔を歓喜の表情に変えた。
その時だった。散り散りになっていくはずの光の破片が、突然ピタリと止まる。そして、まるで映像の巻き戻しのように今度は収束していくではないか。そして今度は、再び黒い不気味な形を形成していく。
「グリゴーリ健在!再生しています!」
「グリゴーリが再生!?」
「何故だ!?コアを破壊したはずじゃないのか!?」
勝利を確信した司令部に動揺が走る。
その時、孝美は再生していくネウロイを見てあるものを見つけた。
「あれは…!」
魔眼を発動している孝美の目には、小さな何かが映っていた。それは以前、孝美が見たことのある物だった。
「コ、コアの中にコアが見えます!」
「なんだって!?」
「こいつもコアの中に真コアを持っていたのか!」
孝美の言葉に、ウィッチーズは全員まるで頭を強くたたかれたような衝撃を受ける。
その衝撃は、司令部にも伝わった。
「真コアをピンポイントで撃たないと倒せないだと!?」
孝美の言葉を受け、マンシュタインは信じられないと言った様子で聞き返す。
そして、同時刻にグスタフに砲弾が装填されたと、通信兵から伝達された。
「グスタフ、発射準備完了!」
「最後の一撃だ、次は無いぞ」
「雁淵中尉!今、真コアは見えているか!?」
マンシュタインは大声で孝美に聞く。最後の一発、これを外したらもう後がない状況下だ。
「見えます!グリットH6…えっ!?」
「どうした?孝美」
孝美は冷静にコアの位置を伝えようとするが、突然その口の動きが止まった。
「き、消えた!?捕捉不能!真コアが見えません!」
「何だと!?」
孝美から出た次の言葉は、さすがのラルも動揺させた。魔眼持ちである孝美が、ネウロイのコアを特定できないのだ。
そして、孝美はあるカラクリに気づく。
「コアが魔眼を遮っているんだ…くっ…」
孝美は、ネウロイのコアの作りを理解し、そして思わず奥歯を噛みしめる。
そしてその様子は、列車の中の無線で聞いていたひかり達にも届いた。
「真コア?」
「何だそれ?」
サーニャとエイラは、聞きなれない単語に疑問を浮かべる。しかし、唯一ひかりだけが、以前に聞いたことのある単語であり、そしてその実態を理解した。
ひかりの様子の変化に、エイラが気付く。
「どうした?」
「お姉ちゃん…あれを使うんじゃ…」
「え?」
「何を使うの?」
エイラとサーニャはひかりが何を言っているのか分からず聞く。
しかし、ひかりはそれを答える前に突如走り出した。
「おい、ひかり!」
エイラが静止を呼びかけるが、ひかりはそれを聞かずに列車の後方へと走る。
「お姉ちゃんを止めなきゃ!」
ひかりは、孝美が何をしようとするのかを理解し、そしてそれを止めさせようと走り出したのだ。
彼女は貨物に積まれた自分のユニットを目指していた。そして、車両のドアを開ける。
「えっ!?ユニットは…」
しかし、ひかりの目の前に貨物車両は無く、そこにあったのは遠ざかる景色だけだった。
「貨物列車は別だって」
後ろから追いかけてきたエイラが言う。ひかりのユニットを載せた貨物列車は別の車両であり、この列車では無かった。
しかし、ひかりは諦めなかった。
「私、行きます!」
「は?行くってお前、どうやって?」
「それに、ユニットも無いのに行っても…」
ひかりの決断に、エイラとサーニャは困った表情をする。ユニットもなければ、行く手段もない。一体どうやってひかりは孝美の元へ向かうのか。
「やってみなくちゃわかりません!」
しかし、ひかりはそう言って突然列車からジャンプをした。
「あっ!?」
ひかりの突拍子もない行動に、エイラは驚く。そしてひかりは地面に叩きつけられながらも、なんとか着地した。
そして、雪に埋まった顔を上げると、すぐさま体を起こし、そして走り始めた。なんとひかりは、走って孝美の元へ向かったのだ。
全力で走るひかり、果たして彼女は、孝美を止めることができるのか。
ユニットの力だけで砲弾を持ち上げるって、凄いことですよね。
そして、攻撃を受けても健在するグリゴーリ。果たして、雁淵孝美はどうするのか!?
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