ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第六十六話です。ついにエイラとサーニャが出せました…では、どうぞ。


第六十六話「フレイアー作戦 中編」

「では、ここからは列車移動になりますので。小官はこれで」

「はい!ありがとうございました!」

 

運転手の言葉に、ひかりはお辞儀をしお礼を言う。そして運転手は、ひかりを乗せてきたトラックに乗り込み、走り始めた。

残ったひかりは、周辺を見る。現在地はペテルブルクにあるスオムス方面へとつながる駅。ペテルブルクは街から人々が避難してしまっているため、周辺にいる人はすべて軍人もしくは軍属関係者のみであった。

ひかりはここで、ある人物を探していた。

 

「確かスオムスからの迎えの人が…」

「よう!」

「あっ!」

 

ひかりが探しているとき、後ろから声を掛けられた。ひかりは聞き覚えのある声にハッとすると、そこにはよく知る人物二人が居た。

 

「エイラさん!サーニャさん!迎えに来てくれたんですか?」

 

そこには、以前休暇でひかりと共に年越しをしたエイラとサーニャが居た。二人はひかりのはしゃいだ姿を見ると、揃って微笑むのだった。

そして、ひかり達は列車に乗り込んだ。そしてサーニャは、何故ひかりを二人で迎えに来たか事情を説明した。

 

「ニパさんから迎えに来てほしいって連絡があったの」

「ニパさんが?」

 

思いがけない人物の名前にひかりは驚く。そしてその訳を今度はエイラが説明した。

 

「ひかりのこと、すんげー心配してたゾ」

「…」

 

それを聞き、ひかりは少し下を向く。その時だった。

サーニャが突然、魔導針を頭に出した。

 

「あ」

「サーニャ?」

「空」

 

ひかりとエイラがどうしたのかと思う中、サーニャは窓の外を見ながら話した。それを聞き、ひかりは列車の窓を開けて空を見た。

 

「あっ!!」

 

ひかりはそこにあった光景を見て、目を開いた。空には、小さな飛行機雲が何重にも並んで引いていた。

 

「502が出撃したのか」

「はい!」

 

エイラはそれを見て、502が出撃したことを理化した。そう、その雲は502から出撃したウィッチ達が一糸乱れぬ編隊飛行をした時に出来る飛行機雲だったのだ。

そしてひかりはそのウィッチ達に指を指しながら興奮したように話し始めた。

 

「あれは隊長!あれはサーシャさん!ロスマン先生、下原さん、ジョゼさん、それにシュミットさん」

「よく見えるナー…」

 

ひかりの目の良さにエイラは思わず感心したような驚いたような、そんな反応をした。

そしてひかりは、次々と名前を呼んでいく。

 

「左はクルピンスキーさん、ニパさん、管野さん。それから…」

 

次々と名前を呼んでいく中、ひかりの声は尻すぼみになっていく。

 

「ねーちゃんか?」

「はい」

 

言いにくそうにしていたひかりに変わり、エイラが言う。

 

「ま、そんな湿っぽくなるなって」

 

エイラはそう言って、軍服のポケットを探る。そして、中から一つの箱を取り出した。

 

「じゃーん。気分が落ち込んだ時でも、おいしいお菓子を食べればウキウキハッピーになれるもんさ」

 

エイラはそう言って、ひかりの掌に箱の中に入っているお菓子を分け与えた。

次々と積まれていくお菓子にひかりは目を輝かす。

 

「あっ!チョコレートだ!」

 

そう言って、ひかりは手のひらに乗っていたお菓子をいっぺんに口に運ぶ。しかし、ひかりは一つ勘違いをしていた。そのお菓子はチョコレートでは無かった。

 

「チョコじゃないぞ。サルミアッキだ」

「そ、そんなにいっぱい…」

 

エイラがお菓子の正体を説明する中、サーニャは一変にそれを口に含むひかりにアワアワとする。

サルミアッキとは、北欧の国で生まれたキャンディーである。北欧では代表していいほど誰もが食べるお菓子であるが、それ以外の国では、()()()()からあまり食べられることは無い。

そして、サーニャの嫌な予感は的中した。

 

「おいひい………うえっ!!」

「お、おい、ひかり!」

「ひかりさん」

 

最初こそおいしそうに食べていたひかりだが、徐々にその顔色を青くしていく。そして、思わず悲痛の叫びを出すのだった。

サルミアッキの特徴と言えば、その独特な味であろう。食べたことのない人が初めて食べた時にした感想は「ゴムの味」やら、「刺激のある苦み」といった感想をさせるほどだ。その為、北欧ではメジャーであっても、それ以外の国ではあまり食べられることが無いのだ。

因みに、以前シュミットは501にいた時に、エイラからもらって食べた時があったが、その味のあまり気絶をしていたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

その頃、502は編隊を崩さず一糸乱れぬ飛行をしていた。

 

「孝美」

 

飛行している中、管野は横を飛行している孝美に近寄る。

 

「お前はひかりに勝って俺の相棒になったんだ。俺たちは絶対に勝たなくちゃいけねえ、絶対にだ」

「ええ。もちろんよ、管野さん」

 

管野の言葉に、孝美を頷いて応える。

そして、502は前方に今回の作戦の要を見つけた。

 

「グスタフとドーラを確認しました」

「あれを僕たちが守るのか」

「でかいな…」

 

シュミット達は下を見ると、そこには二両の大型列車砲が見える。二つのレールにまたがって移動する列車砲の堂々とした姿は、誰が見ても圧巻なものであった。

 

「10時の方向、グリゴーリを視認した」

 

ラルの言葉に、他のメンバーは列車砲に向けていた視線を上げる。彼女らの顔を上げた視線の先には、黒く禍々しい色をした積乱雲がそびえていた。間違いなくネウロイの巣である。

そして、編隊は更に進んでいく。巨大列車砲のさらに先には、連合軍の大部隊が駐留していた。大規模な戦車、高射砲、ロケット砲部隊。火器だけでもとてつもない規模を誇るだけでなく、白海には空母艦隊が待機しており、陸と空、隙間の無い布陣である。

 

「大部隊だな」

「そりゃそうだ。この作戦に全部かかってるんだ」

 

二パの言葉に、管野が当たり前だと言わんばかりに言う。シュミットは下を見る。陸上兵器の主となっているのはカールスラントの兵器軍であり、兵士もカールスラント軍人が割合的に多かった。

そして、北方軍の全線司令部では、マンシュタイン元帥以下、多数の将校が司令部に居た。

 

「白海に待機中の空母艦隊に連絡。艦載機の発進を要請しろ!」

「了解!」

 

司令部に居た副官が通信兵に命令をする。それにより、黒海の空母艦載機が発艦する。

 

「艦載機、前線に着きました!」

「よかろう。これより、フレイアー作戦を開始する!」

 

マンシュタインの言葉と共に、フレイアー作戦が始まった。陸上から高射砲と戦車部隊による砲撃が始まり、上空を戦闘機が飛翔していく。それにより、迎え撃つネウロイを次々と迎撃していく。

しかし、ネウロイも只物ではない。巣から現れるネウロイの数は無尽蔵であり、いくら倒しても次々と現れてくる。

 

「始まったぞ」

「はい。グスタフ、ドーラ、あと30秒で敵攻撃範囲内に到達します」

 

そして、502は戦果の中に突入していく。いよいよ、ウィッチたちの出番となるのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ぷはー…びっくりした…」

「大丈夫?」

 

出発の際に渡された飲み物を口に運び、口の中のサルミアッキを流し込むひかり。そしてひかりは飲み込んだ後、ホッと息を吐く。そんなひかりの様子を、心配そうに見るサーニャ。

 

「どうだ?いけるだろう?」

 

サーニャの横では、今まさにそのサルミアッキを食べているエイラが居た。

その時、サーニャは魔導針を出した。

 

「あっ、始まったみたい」

 

その言葉を聞き、ひかりは慌てて電車の窓の外を見る。しかし、ひかりの居る現在地からは戦場は見えなかった。

 

「はあ…私たちも出撃したいナー」

「スオムス軍はバックアップでしょ…」

 

エイラは少しつまらなさそうに後頭部で腕を組む。サーニャの言う通り、今回のフレイアー作戦ではスオムス軍はバックアップである。

 

「お姉ちゃん…」

 

ひかりは、現在地から見えない場所で戦っている孝美の様子が気になり、心配そうな表情をする。

そんなひかりに、サーニャが話しかける。

 

「やっぱり心配?」

「はい…」

「私も、少し心配なんです…」

 

ひかりの返事に、サーニャも同じ思いをする。サーニャにとっては、負傷することの多いシュミットのことが心配だった。

その時、ひかりの横で何かを置く音がする。気になり振り向くと、そこには大きな箱が置かれていた。

 

「じゃーん!」

「あっ!無線機!」

 

ひかりはそれを見て、ビックリしたように無線機を見る。

 

「へへーん、待ってろー…」

 

そしてエイラは、無線機のノズルを回し、周波数を合わせる。ノイズが流れる無線機は、徐々にその音を拾っていき、そして声を出す。

 

『第8航空隊、205空域にて小型ネウロイ10体と交戦状態に』

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「敵の攻撃範囲に到達」

「来るぞ!列車砲が射程内に到達するまで何としても守り抜け!」

『了解!』

 

二両の巨大列車砲が、敵の攻撃範囲に入る。それにより、502の任務が始まった。

ネウロイはウィッチの姿を確認すると、一斉にその矛先を向ける。ウィッチたちはそれぞれ攻撃を回避すると、自分の持ち場に移動していく。

 

「見てて、ひかり!必ず勝って帰るから!」

 

孝美はそう言って、ネウロイの集団に攻撃を開始していく。しかし、数機のネウロイはそのまま通り過ぎ、列車砲に向かっていく。ネウロイたちも、列車砲の異質な存在に気づいたようだ。

ネウロイは次々と攻撃を加えて行くが、その攻撃は列車砲に届かなかった。

 

「くうっ!」

「何だよこのビームの数!」

 

ジョゼとニパは懸命にシールドを張り、ネウロイの攻撃から列車砲を守る。しかし、その攻撃の激しさに二人はきつい状況を強いられる。

 

「敵も本気って事ね」

 

ロスマンはフリーガーハマーを撃ちながら、冷静に分析をする。

そしてラルとクルピンスキー、シュミットの三人は並んでケッテを組んでいた。

 

「5秒で1体がノルマだぞ!」

「言われなくても!」

「分かってるさ!」

 

ラルの言葉に、クルピンスキーとシュミットは揃って返事をする。三人は上昇をしながら次々と迫りくるネウロイを排除していく。

 

「うおりゃああああ!!」

 

そして管野は、大声で雄叫びをあげながら次々とネウロイを倒していく。そして管野の後ろを孝美が援護していく。管野が倒し損ねたネウロイを孝美が倒し、そして孝美が危険になったときは管野が助ける。

 

「あの二人凄い!」

「息ぴったり!」

 

そんな連携を見て、ジョゼとニパは目を開きながらその腕の良さを褒める。

そして、戦場はウィッチだけでは無かった。戦闘機部隊もウィッチの活躍に負けじと、ネウロイに攻撃を加えて行く。しかし、戦闘機部隊はウィッチほど臨機応変な動きができず、一機、また一機と墜とされていく。

戦いは、消耗戦へ向かっていく。

 

「第1航空隊壊滅!第8高射砲大隊壊滅!全体損耗率30%!ネウロイの毎分出現数半数に減少」

 

司令部では、前線の報告が次々と入ってくる。

 

「攻撃を緩めるな!撃って撃って撃ちまくれ!出し惜しみは無しだ!」

 

マンシュタインの横に座る初老の軍人、カール・グスタフ・エミール・マンネルヘイムが大声を出す。

そして、通信兵が報告をする。

 

「グスタフ、ドーラ、射程圏内到達まであと1分!」

「超爆風弾発射用意!」

 

通信兵の言葉に、次の命令をマンネルヘイムは行う。

そして前線では、巨大列車砲の一機、グスタフが動き出す。グスタフはその巨体の上部に並ぶ巨大な砲身を、ターレットリングを回していく。

そのゆっくりした動きは、ネウロイの注目を集め、ネウロイは次々とグスタフに向けて攻撃を加えて行く。

 

「こっちに来るんじゃねえ!」

「邪魔しないで!」

 

管野と孝美は、互いに横に並びながらネウロイとグスタフの間に入り、グスタフに向かうネウロイを撃ち落とす。その後ろを、ジョゼと二パがシールドを張ることにより、攻撃は一発もグスタフに向かうことは無かった。

そして、グスタフはターレットを停止させる。

 

「機関停止。標準誤差修正。装薬装填。安全装置全て解除」

 

通信兵の言葉に続き、グスタフはその砲身を固定させた。

 

「発射準備完了。グスタフ、射程圏内に到達」

 

通信兵が、司令部の中央に座るマンシュタインに向けて報告をする。

 

「発射!!」

 

そして、マンシュタインの号令と共に、グスタフはその砲身から火を噴いた。まるで雷が落ちたかのような音を放ちながら、その砲弾は撃ちだされた。

 

「うわあっ!?」

「すごい衝撃!」

 

あまりの衝撃に、護衛で近くを飛んでいたニパとジョゼはその凄まじい爆風をくらう。ニパに至っては、その爆風のエネルギーによって体が持ち上げられるほどだ。

そして、グスタフから放たれた超爆風弾は、一直線に飛翔していき、周辺に居たネウロイ諸共、ネウロイの巣を捉える。

そして、その砲撃により、ネウロイの巣は徐々に吹き飛ばされていく。霧散していくネウロイの巣は、その中に隠された秘密を暴きだした。

ブリーフィングの写真に写っていたネウロイが、この砲撃により、その巨大な体を人類に向けて堂々とさらけ出したのだった。




どうも、最近お気に入り数が徐々に減ってきていることに少し危機感を覚えた深山です。
ついにクライマックスに走り出したブレイブウィッチーズ編。しかし、只ではネウロイも終わらせません。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回。

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