ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第六十五話です。珍しく文字数が5000を下回りました。どうぞ。


第六十五話「フレイアー作戦 前編」

「チドリ…さよならだね」

 

孝美が502残留を決めた翌日、ひかりは格納庫内で自分の愛機であった紫電改『チドリ』の前に立ち、お別れの挨拶をしていた。

孝美に敗れたひかりは、即刻カウハバ基地への転属となった。そのため、ひかりがこの紫電改に乗るのはこれが最後となったのだ。

 

「昨日は接戦だったぜ」

 

と、ひかりは話しかけられ振り返ると、そこには管野が立っていた。

 

「管野さん」

「一瞬おめえが勝つかもって思ったぐらいな」

「もしかして、私を応援してくれてました?」

 

ひかりは思わずそんなことを管野に聞く。管野は歩み寄りながらいつも通りの口調で答えた。

 

「んなわけねえだろ。昨日はたまたま出来が良かっただけだ。元々、孝美とおめえじゃ実力は月とスッポンだ」

 

と、管野はひかりに言う。しかし、管野からしてみればそれはいつも通りのからかいのつもりだったが、ひかりはその言葉に少し寂しそうな表情をしながら笑顔で答えた。

 

「…ですね」

 

思わない答えに、管野も一瞬呆気にとられる。

 

「え?なんだよ、おめえ悔しくねえのか?あんなに強くなりてえって言ってたのによ」

「悔しいけど、やれることはやりきったんでスッキリしました。やっぱお姉ちゃんは凄いです」

「ひかり…」

 

ひかりは、いつものように明るい声で言う。そこには本心が現れている様子でもあり、管野はやはり呆気にとられた。

そしてひかりは、自分が今まで使っていたチドリを撫でる。チドリは、数々の戦闘によって小さな傷をところどころに残していた。

 

「チドリ。今までありがとう。お姉ちゃんと頑張ってね」

「おい」

 

その時、管野はひかりのことを呼ぶ。

 

「わっ」

 

ひかりは管野に呼ばれて振り向くと、その方角からあるものが飛んできて慌ててキャッチをする。そしてキャッチしたものを見ると、それは管野の使っていた手袋だった。

 

「この手袋…」

「前に欲しがってたろ。餞別だ」

 

ひかりが驚く中、管野は自分の手袋を餞別としてプレゼントしたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「本当にスオムスに行っちゃうのかよ、ひかり」

「あはは…そうですね」

 

ひかりの転属を、見送りに来た代表としてニパは言う。その言葉に、ひかりは少し笑ってから返事をする。

そして次はサーシャが前に出る。

 

「向こうに行ってもユニット壊しちゃダメよ」

「はい。正座させられないように気を付けます」

 

サーシャはひかりがユニットを壊さないように念を押しながら、見送りの言葉を述べる。

対するひかりも、正座されないようにしようと言うが、カウハバに正座があるわけがないのであった。

そして次に、下原とジョゼが出る。

 

「これ、おにぎりです」

「飲み物も」

 

そう言って、二人は手に持っていた物を差し出す。

 

「下原さん、ジョゼさん。お世話になりました」

「ひかりさん」

 

ひかりが二人にお礼したら、今度はロスマンがひかりに話しかけた。

 

「あなたの今日までの日々は無駄じゃないわ」

「先生…」

「昨日の動き、なかなか良かったわよ」

「ありがとうございます、ロスマン先生!」

 

ひかりはロスマンに言われ、嬉しくなり大声でお礼を言う。

そして、ひかりはトラックに乗り込もうとした時だった。

 

「ひかりちゃん」

「?」

 

呼び止められて振り返ると、クルピンスキーが歩み寄ってきた。

 

「やっぱり、ひかりちゃんが持ってた方がいいよ」

「あ、お守り」

 

クルピンスキーがポケットから取り出したのは、ひかりに以前渡されたリベレーターだった。ネウロイの体当たりからクルピンスキーを守ったそれは、表面を変形させていた。

 

「ニパさんから聞きましたよ。これ本当は武器なんですよね」

「あはは、ばれた?一発くらい入ってた方がお守りっぽいよね」

 

あの後、ひかりはニパから本当のことを言われ、リベレーターがちゃんと弾の撃てる武器であることを聞かされた。そしてクルピンスキーはそれを、今度は弾丸を込めてひかりに返したのだった。

 

「ありがとうございます、クルピンスキーさん」

 

ひかりはそう言って、リベレーターをポケットに入れたのだった。

そして、ひかりを乗せたトラックは出発する。

 

「みなさ――ん!お元気で――!」

 

ひかりはトラックの窓から体を乗り出して、そして全員に手を振って別れの挨拶を掛けた。

その様子を、シュミット達他ウィッチ達は黙って見ていたが、ニパは思わず走り始めた。

 

「ひかり!」

 

ニパは、離れていくトラックを追いかける。

 

「ひかり――!」

「ニパさん…」

 

追いかけるニパを見て、ひかりは少し寂しそうな顔をする。始めてきた502で、一番最初に親しくしてもらったニパのことを思うと、ひかりも別れるのが辛く感じるのだった。

そして、今まで離れたところで様子をうかがっていた管野は、ひかりを追いかけていたニパの下へ行く。

 

「おい、作戦会議始まるぞ」

「何で追いかけないんだよ…」

「追いかけてどうにかなんのかよ?」

 

ニパの言葉に、管野は聞き返した。それを聞き、ニパは思い切り管野の方を振り返った。

 

「私たちの仲間だろ!管野の相棒じゃなかったのかよ!」

 

ニパは思わず、管野に大声で問う。

管野の表情を見ると、ひかりと別れるのが少し寂しそうだった。

 

「…俺の相棒は孝美だ」

 

しかし、彼女の中の相棒は孝美、これは変わらない。今までがそうであり、管野にとってはこれからもそのつもりなのだから。

そして場面は、格納庫内に移る。そこには、ひかりの姉である孝美が一人いた。

孝美は、ひかりが今まで使っていたチドリの前に立ち、静かにそれを見ていた。

 

「ひかりが行ったぞ」

 

その時、黙ったままの孝美に話しかける声がする。孝美が顔を上げて見てみると、そこにはラルとシュミットが居た。尤も、シュミットはラルがどこに行くのか気になりついてきた様子であるが。

孝美は、ラルに聞く。

 

「どんな様子でした?」

「心配なら見送ってあげればよかったじゃないですか」

 

そんな孝美の質問に、シュミットは逆に聞き返した。そして孝美はその答えを、困ったような顔をしただけだった。それが答えだ。

そして孝美は、チドリに触れる。

 

「…傷だらけ」

「その傷は、ひかりがここに居た証だ」

「あの子がこんな最前線で戦えるようになってただなんて…頑張ったんですね、ひかりは」

 

孝美は、本当に驚いた様子で言う。魔法力も少なく、ユニットの飛行も安定しなかった雛鳥は、彼女の知らない間に逞しいほど成長をしていた。

 

「ああ、本当に頑張った。だが私が望むのは作戦を遂行させることができる強いウィッチ。それだけだ」

 

ラルは一瞬瞼を瞑り言った後、次には真剣な眼差しで孝美に言った。今重要なのはグリゴーリ攻略であり、必要なものはそれを達成できる十分な戦力だ。

そして、その言葉に孝美も真剣な眼差しで答えた。

 

「その役目は、私が必ず果たします」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「周知の通り、グリゴーリは現在時速5キロで南西に移動している。目標はペテルブルグ。この502で間違いない」

 

ブリーフィングルームに集められたウィッチ達は、暗い部屋の中、マンシュタインの説明を静かに聞いていた。前方には投影機により移されたグリゴーリの写真があった。

そしてマンシュタインは、続けて説明する。

 

「従来の出現した敵に応戦する策を捨て、我々から打って出る大反攻。それがフレイアー作戦である」

 

マンシュタインの言葉は、今までの常識を遥かに覆す物だった。今まではネウロイが出現し、それをウィッチが攻撃する後手の戦い方をしていた。しかし今回は、移動するネウロイの巣に向けて先手を打ちに行く。過去に例のないことだ。

そして投影機は、次の写真を写す。そこには、骨組みのボビンのような姿をし、そこから細い糸のようなものが無数に出ている謎の形状をしたネウロイの姿があった。

 

「北方軍がグリゴーリ内部の観測に成功した結果、雲状の巣の中心には巨大な本体があり、それがネウロイの発生源であることが判明した」

「ネウロイの生産工場」

 

マンシュタインの言葉に、ラルがそう感想する。

 

「我々の作戦目的はその本体の破壊。そのための切り札が…これだ」

 

そう言って、写真は次のものに変わる。そこには、二つの巨大な大砲が現れた。

 

「超巨大列車砲、グスタフとドーラだ」

「これが…」

「でけえ…」

 

写真で見るその大きさに、ニパと管野の口から思わず漏れる。二人だけでなく、誰もがその大きさに圧巻された。

 

「カールスラント技術省の力を集結した、口径800ミリ。史上最大最強の火砲だ」

「800ミリ…そんなの作れるんだ…」

 

800ミリという途方もない大きさの大砲に、下原は現存技術で実現可能なことに驚く。しかし、この中で唯一驚いていないのはシュミットだった。彼は前世において、この巨大な列車砲が実現できることを知っていたからだ。

そしてマンシュタインは、次の写真に写る物を指し棒で指す。そこには、巨大な砲弾が映し出されていた。

 

「まずグスタフがグリゴーリに向かって撃ち込むのは、新たに開発した超爆風弾だ。子の弾丸を使って本体を隠しているこの雲を消滅させる。その後、露出した本体を破壊するのがドーラだ。ドーラには対ネウロイ用魔導徹甲弾が装填されている」

「魔導徹甲弾…?」

 

マンシュタインの説明を聞き、孝美は思わず聞きなれない単語を耳にする。

そして写真は次に写る。そこには、魔道徹甲弾の構造図が現れた。

 

「陸上ウィッチのべ数百名の魔法力を充填した、この魔導徹甲弾。これを本体コアに叩き込み決着をつける」

 

そう力強く宣言するマンシュタイン。しかし、この作戦には問題点があった。

 

「だが、上空1100メートルに位置するグリゴーリを撃ちぬくには最低でも10キロ圏内に近づかなければならない」

「そこって敵の攻撃範囲じゃないか」

 

クルピンスキーの言う通り、その範囲はネウロイの攻撃範囲になる。そのため、向こう側からの攻撃が激しくなることも容易に予想できた。

そしてマンシュタインの口から、502に命令が下った。

 

「502統合戦闘航空団、諸君らの任務は列車砲を護衛し、射程内に到達させることだ。そして、雁淵中尉はコアの位置を特定せよ」

 

502統合戦闘航空団は、ネウロイ攻撃の要となる列車砲を護衛することだった。そして同時に、孝美にはとても重要な役割が与えられたのだった。

そしてブリーフィングは終了し、シュミット達は格納庫に移動した。それぞれが自分のユニットに足を入れると、魔道エンジンを始動させ、そして手に自分の火器を持つ。

 

「いいか!グリゴーリを倒すまで帰れると思うなよ!502統合戦闘航空団、出撃!」

『了解!』

 

ラルの掛け声に全員が大きく返事をする。そして、502統合戦闘航空団は作戦成功を目指し出撃したのだった。




というわけで、502はフレイアー作戦に出発。次回、あの二人が登場します。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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