ひかりがブレイクウィッチーズの仲間入りした数日後、シュミットは現在上空で空戦を行っていた。
「くっ…」
空戦の相手はクルピンスキー。空戦場所は502の上空である。しかし、状況は徐々にシュミットの方に向かってきていた。
新型ユニットの性能差もあり、シュミットの動きは格段に良くなっていた。しかし、それだけが勝利の条件ではない。クルピンスキーも一線で戦うウィッチであり、その腕は502でも上位に入るものだ。
しかし、今回はそれだけでは無かった。
(…不思議だ。景色がまるでゆっくり流れているみたいだ)
飛びながらシュミットは周辺の変化に気づいていた。まるで景色がいつもよりゆっくりと流れている。それだけでは無い。
クルピンスキーが冷や汗を一つ掻いている中、シュミットは汗を掻いていない。
(体も軽い…こんな日が今まであったか?)
シュミットはそう思いながらも、クルピンスキーの背後を取る。後ろを取られたクルピンスキーは危機感を感じ、自分のギアを更に上げる。
「マジックブースト!」
マジックブーストによって加速したクルピンスキーは、すぐさまシュミットの背後に移動する。しかし、シュミットはその速さに特に動揺をしていなかった。
「強化!」
シュミットも自身のユニットに強化を掛け、そして同時に急上昇をする。それに続きクルピンスキーも上昇をするが、その方角は太陽。一瞬目に光が入り、クルピンスキーは目を細める。その一瞬、時間にして僅か1秒に満たなかったが、シュミットはターンをする。そして、急降下をしながらクルピンスキーに迫る。
その行動にクルピンスキーは迎撃態勢をとる。そして、シュミットとクルピンスキーは互いに引き金を引いた。
模擬機関銃から放たれたペイント弾は互いの弾丸同士で交差し、そして相手に向かっていく。しかし、二人はそれをバレルロールで回避をし、そしてすれ違う。その瞬間、勝敗は決した。
シュミットはすれ違う瞬間にループを行う。強化されたシュミットの速さは急降下も相まって速く、ループの速度は何時もより高速だった。そしてそのまま、クルピンスキーの背後を再び取る。
「貰った!」
シュミットはそう言って、引き金を引く。そして放たれたペイント弾はそのままクルピンスキーに飲み込まれていき、彼女に着弾した。
「うわっ!」
『そこまで!』
クルピンスキーは自分に弾が命中したのに驚き、インカムに地上からの声が届く。模擬戦はシュミットの勝利で終了した。
模擬戦が終了したため、クルピンスキーはホバリングしているシュミットの元に行く。
「いや~、やられちゃったよ。前よりも強くなったんじゃない?」
「ああ、自分でも調子がいいと思ったさ」
クルピンスキーに言われてシュミットもそう言う。彼自身、今回の戦闘で感じたのはいつもより調子が良かったという思いだった。以前の自分がここまで動きがいいと感じることは無かったため、シュミットは新型のユニットを履いているから調子がいいのだと結論付けた。
地上で見ていた者たちも、先ほどの戦闘について話していた。
「凄い!」
「シュミットさんが勝っちゃうなんて…」
「以前のシュミットさんとは比べにならないぐらい動きが変わっているわ」
ジョゼ・下原は先ほどの光景に驚きながら感想を零し、サーシャは冷静にシュミットの変化について分析していた。
そして地上に降りてきたクルピンスキーとシュミットの元に、隊員たちがやって来る。
「流石ね、シュミットさん」
「ええ、自分でもここまで動けるとは正直思いませんでした」
ロスマンに言われ、シュミットもそう感想を零す。そうして笑った時、シュミットはある謎の違和感を感じた。
「ん…?」
「どうかしました?」
シュミットの反応にひかりが問うが、それを無視してシュミットはクルピンスキーの方を向いた。
「ん?何かな狼君」
「お前のユニット…なんか変だぞ」
「えっ?」
突然、シュミットはクルピンスキーのユニットを見ながらそう言ったので、クルピンスキーは何のことだと思い間の抜けた声をする。他の隊員たちも、シュミットがなぜそんなことを言ったのか意味が分からず首をかしげる。
その時だった。何とクルピンスキーのユニットから突然黒煙が上がるではないか。
「うわあっ!?」
あまりに急な出来事に驚く中、地面に近かったクルピンスキーは急いで足をつける。すると、ユニットの魔導エンジンは突然停止した。
「ふぅ…危なかった~…」
「大丈夫ですか、クルピンスキーさん!」
とっさの判断で地面に下りたため難を逃れたクルピンスキーは息を一つ吐いてそう言った。そして他のウィッチたちもクルピンスキーを心配して近づいていく。
「また壊しましたね、クルピンスキーさん」
「ギクッ!」
と、サーシャの声を聞きクルピンスキーは汗を掻く。サーシャはクルピンスキーがまたユニットを壊したため怒っていた。
良からぬことを感じたクルピンスキーはすぐさま助けを求めた。
「お、狼君…」
「悪い、無理だ」
「そ、そんな~…」
すぐ横に居たシュミットに助けを求めるクルピンスキーであるが、シュミットはバッサリと切り捨てた。あまりの速さにクルピンスキーは項垂れ、それを見ていた周りの者たちは笑いだすのだった。
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翌日、ネウロイ出現の報を受けたブレイブウィッチーズは、出現地点に出向いていた。
ネウロイはウィッチ達に赤い光線を放ちながら襲い掛かるが、皆それぞれシールドを張りながら攻撃を加えて行く。
そんな中、一人だけかなり異質な戦い方をしている者がいた。
「そらそらそら!」
シュミットはネウロイの攻撃をまるで予測しているかのような動きで回避しながら接近をし、超近距離からMG151を撃っていく。そして後ろからくる攻撃もまるで分っているかのような動きで回避をし、そして離脱をしていく。
その動きを見て、ひかりは以前見た光景を思い出した。
「凄い!まるでエイラさんみたい!」
「俺たちも行くぞ、ひかり!」
「はい!」
管野に言われてひかりは後ろを付て行く。管野が前に出て盾役になり、ネウロイに接近した後ひかりが接触魔眼を使う。このフォーメーションは、ここ最近よく見る光景になりつつあった。ネウロイはその動きに気づき管野達に攻撃をするが、管野はシールドを張りながらネウロイに突っ込んでいくため、突破をされてしまう。そして、
「今だ!」
「はい!でああああ!!」
管野に言われ、ひかりはネウロイに腕を伸ばしてタッチをする。そして、彼女の目は接触魔眼が働き、ネウロイのコアの位置を捉えた。
「コア!右の翼の付け根です!」
「おう!」
ひかりの情報を聞き、管野は威勢良く返事をする。そして急降下をしながらネウロイの攻撃を回避していき、手に持っていた機関銃を放り投げる。そして、空いた右腕を後ろで引き、固有魔法でシールドを圧縮させる。そしてそのまま、それをネウロイに向けて振りかぶる。
「剣一閃!」
その掛け声と共に、管野はネウロイの右翼付け根に拳を振り下ろす。その攻撃により、ネウロイは表面の装甲と共に内部のコアが破壊され、その姿を光の破片に変えたのだった。
ひかりは真っ先にネウロイ撃墜をした管野の元へ行く。
「やりましたね!管野さん!」
「ああ!お前もよくやったぜ」
「はい!相棒ですから!」
ひかりの言葉に、管野は一瞬ドキッとした後胸元で腕を組み、「100年早い」と言う。
「えっ!?この前そう言ってくれたじゃないですか」
「言ってねえよ」
「言ってましたー!」
ひかりは言ったと主張するが、管野はそれを頑なに否定する。
そんな様子を、他のウィッチたちは皆で見ていたのだった。
「アハハ、すっかりいいコンビだ」
「ちょっと妬けちゃうな」
ニパはその光景を見て少し微笑みながら言い、クルピンスキーは少し羨ましそうな感じで感想を零す。他のウィッチたちも微笑みながら見る中、突然クゥという小気味良い音がする。
音源はジョゼだった。ジョゼはお腹を押さえながら下原に話しかける。
「定ちゃん、お腹空いた~」
「じゃあ、帰ったらワッフル作ろっか」
ジョゼの言葉に下原はおいしい提案を出す。それを聞いて、ジョゼは笑顔になる。
そして最後に、サーシャが締めくくる。
「それでは帰投します。ニパさんが落ちる前に」
そう言って、サーシャはニパの方向をチラリと見る。ニパはニパで突然自分のことを言うと思わずに焦る。
「うぇえ?最近減ったよね?」
「減ってません」
「あ、あれぇ?変だな…」
サーシャにピシャリと言われてニパは慌てて自分のユニットを見る。
シュミットも、二パのユニットの方を見て言った。
「いや、今日は落ちないぞ」
「えっ?」
突然の言葉に、サーシャは思わずそんな声を漏らす。シュミットは、ニパのユニットをじっと見た後、もう一度言った。
「うん。変な音とかしないし、多分落ちないな」
「ほ、本当ですか?」
「ん~、多分」
多分という言葉に思わずガクリとするサーシャ。基本的に不確定なことをシュミットはあまり言わないため、サーシャは基本的に彼の言動についてわりと信じることが多い。
そんな様子に全員が笑っている中、ひかりは遠方からするエンジン音に気づき、音のする方向を向いた。
「あれ?何でしょう?」
ひかりの言葉につられて、全員がウィッチの方向に向けて飛んでくる飛行機を見る。機種はJu52、カールスラントの機体だ。
「あの機体は…」
ロスマンはその機体を見て、中に乗っている人物にどこか心当たりがある様子である。そしてJu52はそのまま、502基地の方向へ飛んでいってしまう。
「とりあえず、基地に帰投しましょう」
『了解』
サーシャの言葉で、全員が基地に向けて飛行を開始する。
そしてしばらく飛行していく中、ロスマンは横を飛んでいるシュミットの様子がおかしいのに気づき、質問をした。
「どうしました?」
「…いえ」
シュミットはそう言って、自分のユニットを少し揺らしながら何かを探っている様子だった。その様子はとても不愉快と言った様子である。
「…なんか、ボルトのようなものが一個転がってる気がするんです」
「ボルト?」
「ええ…中でコロコロ音を立てて煩いんです」
シュミットはそう言って、とても不愉快そうにユニットを揺らしている。しかし、ロスマンからはその音など聞こえない。ユニットのエンジン音の喧しさにそんな音など聞こえるはずがない。それに輪を掛け、シュミットのユニットは片足に2つエンジンを使っている。他のユニットより音が大きい方だ。
それに気づきロスマンはハッとした。
(まさか、さっきのことと言い、音がちゃんと聞こえてる…?)
とても信じられることでは無かったが、シュミットはまるで音が聞こえていると言った様子で言うではないか。それだけでなく、ロスマンは昨日、シュミットがクルピンスキーのユニットの不調を訴えたのも思い出し、これが偶然では無いことを悟った。
(ゼロの領域…だけど…)
ロスマンには一つ、この現象に思い当たる物があった。しかし、現在のシュミットはそれを使っている様子は無く、ごくゆったりとした様子で飛んでいる。ゼロの領域を使ったのであれば、必ずしも起こる消耗現象が起きているはずである。
そしてロスマンは、ここで一つの仮説を作った。
(もしかして、シュミットさんの感覚は…)
そう、シュミットの感覚は現在怪我の功名か、ゼロの領域に片足を入れた状態にまで研ぎ澄まされていたのだ。それにより、シュミットは体感する飛行感覚の変化、さらには些細なユニットの変化までも感じ取るようになっていた。しかしシュミット自身は、その変化について気づいていない。
ロスマンが横でシュミットをちらちら見ながらそんなことを考え飛んでいたため、シュミットはその視線に気づき声を掛けた。
「ん?どうしたんです?」
「いえ、なんでもないわ」
「?」
何でも無いと言われてシュミットはロスマンの反応に疑問を浮かべるが、特に気にした様子では無かったのですぐに興味をなくした。
そして先ほど502の基地へ向かったJu52を気にしながら、ブレイブウィッチーズは帰投したのだった。
どうも、深山です。インフルエンザって恐ろしいと再び実感しました。おかげで投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!