ネウロイの戦闘による負傷を受け、シュミットとサーシャは治療を受けていた。治療には治癒魔法を持つジョゼが加わり、怪我の具合が酷いシュミットから治療を受けていた。
治癒魔法をシュミットにするジョゼ、その横には下原が付き添いでジョゼの汗を拭っていた。
そしてしばらくの時間治癒魔法を続けていくと、計器のバイタルが安定していく。
「心拍が安定した。こちらはしばらく大丈夫だ」
「はぁ…」
医師がそう言うと、ジョゼは治癒を止める。シュミットは元々の魔力の高さから、その命を繋ぐことができた。
そして彼女はシュミットだけでなく、まだ軽傷であったサーシャにも治癒を掛けていかなければならない。ジョゼはすぐさまサーシャに治癒を開始する。しかし、シュミットより軽傷であった分、その時間は先ほどよりは短い時間で彼女のバイタルは安定した。
「こちらも心拍が安定した。もう大丈夫だ」
「ふぅー…」
医師の言葉に、ジョゼは治癒を終えて一息を吐く。いつも治癒を加えている時は一人だけのことが多いのに対し、今回は二人、それも二人共がかなりの怪我を負っていたため、顔はいつもより赤く火照っている。
「良かったね、ジョゼ」
「うん」
そんなジョゼに下原は言葉を掛けてあげ、ジョゼもそれに返事をしたのだった。
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その日の夜、ウィッチ達は食事を取っていた。しかし、その席には病院に居たクルピンスキーだけでなく、本日負傷したシュミットとサーシャの席も空いていた。
そんな中、ひかりは管野の様子に気づいた。
「管野さん?」
ひかりの言葉に全員が管野を見ると、管野は下を向いたまま食事にあまり手を付けていなかった。
管野は、今日の二人の負傷のことについて大きな責任を感じていた。
「俺のせいだ…俺が無茶したばっかりに、あの二人が…」
「管野の責任じゃないって」
そしてラルは食堂の席に座るものに命令を下した。
「明日、あのネウロイに再攻撃を掛ける。それまで各自、十分体を休めておけ」
そして、食事を終えた管野は、医務室に向かった。部屋に入ると、手前から2番目のベッドにサーシャ、その奥にシュミットが眠っていた。サーシャは頭に包帯を巻いていており、シュミットは体に包帯と左頬にガーゼを付けていた。パッと見で重症なのはシュミットだった。
そして管野は椅子を持ってきて、サーシャの眠るベッドの横に座った。その時、ひかりが医務室に入ってきた。
「管野さん」
「雁淵か…何だ?」
「サーシャさんとシュミットさんのことが気になって…」
そう言って、ひかりはベッドに眠るサーシャとシュミットを見る。その時だった。
「…うん…?」
先ほどまでベッドで寝ていたサーシャが瞼を開けたのだ。そしてサーシャは自分の傍にいる二人に気づく。
「管野さん…ひかりさん…」
「サーシャ!」
「サーシャさん!」
管野とひかりはそんなサーシャに驚き声を上げる。そして、サーシャはどこか安心したように話し始めた。
「管野さん…あなたは無事だったのね」
「ああ、おかげでこの通りピンピンだぜ」
「よかった…」
「でも、シュミットさんが…」
ひかりはそう言うと、奥のベッドのシュミットに目を向ける。それに気づき、サーシャもシュミットの方を見る。サーシャは目覚めたが、シュミットはまだ目を覚ましていなかった。
そして管野はさらに自分のことが許せなくなり、サーシャに謝罪した。
「サーシャ…俺のせいで済まねえ」
「カバーが手薄になったのは私のミスです。管野さんは悪くないわ」
サーシャはあくまで自分が悪いと主張する。しかし、管野はそれでも自分の責任であると思い込んでしまう。
その時、三人の奥から声が聞こえてくる。
「うっ…うん…」
一番奥の方から声がする。全員が顔を上げてみると、シュミットが薄らと瞼を開けて天井を見ていた。
「シュミットさん!」
「ん…あれ?」
ひかりがシュミットの名前を呼ぶが、シュミットは声を呼ばれて驚いた様子でひかりを見る。そして、部屋の中を首を回しながら見始める。
「…ここは医務室か?」
そして、今度は自分の頬に張られているガーゼに手を添え、そして体に巻かれている包帯の違和感に気づく。
「…そういうことか」
そう言って、今度はサーシャの方を見る。
「大丈夫か、サーシャ」
「えっ、ええ…」
「そうか、よかった…」
そう言って、ホッと息を吐くシュミット。しかし、シュミットからしたら大丈夫か心配したのかもしれないが、見ている側としてはシュミットの方が重傷であるので、全員が困惑した様子で見ているのだった。
そんな中、シュミットは聞いた。
「…あれからネウロイはどうなった」
「シュミットさんとサーシャさんが負傷して、作戦は終了しました」
「そうか…なら、ネウロイはまだ生きているんだな」
「はい」
ひかりの説明を聞いて、シュミットは目をつむって考える。
「済まねえ、あの時、俺一人で突っ込んでいかなければ…」
そんな中、管野は再び自分にその責任を感じ取ってしまい謝罪の言葉を出す。しかし、そんな言葉にサーシャとシュミットは怒らなかった。
「それが管野さんらしさなのよ。だから、あまり自分を責めないで」
「管野の戦いに誰も悪いなんて言うやつはいないさ」
「サーシャ、シュミット…」
二人の言葉に管野は驚き顔を上げる。怒るだろうと思っていただけに、予想外すぎて驚いたのだ。
そして、サーシャは管野に言う。
「あなたなら、きっとあのネウロイを倒せるわ。だから、頑張って」
「!…ああ、ぜってー俺がぶっ倒す!」
サーシャの励ましの言葉に、管野は決意を新たに返事をする。
「雁淵、お前も頼むぞ」
「はい」
シュミットも管野の横に居るひかりに励ましのエールを送り、ひかりは大きく返事をする。しかしそんなひかりに、管野が言う。
「でしゃばんじゃねえぞ!」
「はい!」
「うふふ」
「ふっ…」
管野の言葉に、ひかりは真っ直ぐと返事をする。そんな様子に、サーシャとシュミットは微笑む。
「荷が軽くなったかな?」
「ええ」
そう言って、二人はひかりと管野を再び見たのだった。
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「先ほど入った情報では、昨日のネウロイはこの地点から殆ど動いていないようです」
翌日、ブリーフィングルームでロスマンが地図に描かれたバツ地点を指す。
「このネウロイを排除できなければ、再び補給路は立たれ、我々は飢え死にだ」
「そんなぁ…」
「腹が減っては戦は出来ません」
ラルが続けて言った言葉にジョゼたちは困った反応をする。
「クルピンスキーさんやサーシャさん、シュミットさんの為にもあのネウロイをやっつけましょう」
「当たりめえだ!これ以上好き勝手させてたまるかよ!」
ひかりの言葉に同調するように管野が言う。この補給線を確保しなければ、502は事実上の壊滅を辿っていくことになる。それを回避するためには、このネウロイを撃墜する未来しかなかった。
しかし、ここで問題が1つある。
「管野、このメンバーではお前が最上位の中尉となるが…」
「うえっ!?俺が戦闘隊長かよ!?」
ラルに言われて管野は驚く。そう、負傷している三人はそれぞれ階級が大尉と中尉であり、その不在の中で一番上の階級は中尉昇進をした管野に回ってくるのだ。しかし、管野はまだ中尉になりたてで現場指揮を経験しておらず、いきなり現場指揮を行えと言っている状況である。
だが、ラルもそんな管野にいきなり戦闘隊長をさせるわけにはいかないため、対策は考えていた。
「いや、現場の指揮はエディータに任せる。それで構わんな?」
「ああ、わかった」
ラルの言葉に素直に従う管野。ロスマンは階級こそ下であるが、前線戦闘経験は管野より多い。この状況ではそのほうが最善であると管野も理解した。
そして作戦を立て、管野達は出撃をする。向かう先は無論、ネウロイが飛び続ける地点。
しばらく飛行をしていくと、下原の遠距離視が昨日のネウロイを捉えた。
「30km前方にネウロイ確認!まだこちらには気づいていません」
「ここで分かれましょう」
『了解!』
ロスマンの指示で、ひかりと管野、そして二パの三人は散会していく。そう、今回の作戦は前回と違った。ネウロイの特性は前方の火力が高く、後ろのコアを守る形になっている。そのため、ロスマンとジョゼと下原の三人はネウロイに先に接敵し、注意をひきつける。そして注意が三人に向かったところを見計らい、残りの三人は後ろから攻撃を仕掛けるという作戦に出たのだ。
そして、別れた三人の中で管野は、ひかりとニパに話す。
「ニパ!雁淵!俺達で絶対に決めるぞ!」
「はい!」
「うん!」
その決意に、ひかりとニパも返事をする。
そして管野達と別れたロスマン達は、ネウロイに接近をしていく。
「攻撃開始!」
ロスマンは合図とともにフリーガーハマーを向けて攻撃を開始する。下原とジョゼも手に持つ機関銃を向けて引き金を引く。その攻撃に気づき、ネウロイは体の正面を向ける。そして攻撃を開始する。
「管野さん達…頼むわよ」
ロスマンは攻撃を懸命に耐えながら、今回の作戦の要である管野達に祈るのだった。
その頃管野達は、ネウロイの後方に移動していた。その時、ネウロイが赤い光線を出している姿に気づく。
「始まった!」
「行くぞ!」
「はい!」
管野の声と共に、全員がネウロイに向けて接近をしていく。そして接近していく中で、ひかりは気づく。
「ホントだ。全然撃ってこない」
そう、ネウロイはひかりたちが接近しても攻撃を全然してこない。そのおかげで、三人はすんなりとネウロイの後方に接近することができた。
「コアの位置も分かっているし、これなら行けるね!」
「ああ!速攻だぜ!」
管野はそう言って、手に持つ機関銃を向けて引き金を引く。それに気づきネウロイも攻撃を後方に始めるが、前方に対して圧倒的に少ない弾幕量のため、彼女たちは撃ちながら周辺に散開する。
連続して攻撃を加えて行き、このまま続けて行けばネウロイは倒せると思われていた。しかし、現実は甘くなかった。
「なにっ!?」
先に気づいた管野は驚く。突然、ネウロイの体が半分離れ始めて行くではないか。
「分離ですって!?」
ロスマンも驚きの声を上げる。ロスマンだけでなく、他のウィッチたちも驚く。そして、二つに分離したネウロイは大きい方をさらに分離、合計分離数は5つとなった。
ロスマンはすぐさま次の指示を出した。
「作戦変更!分離した各個体を迎撃せよ!」
「作戦が気付かれた!?」
「焦んな!コアさえやればこっちの勝ちだ!」
ニパは動揺する中、管野は怯むことなくネウロイに機関銃を向ける。
しかし、それだけで終わりでは無かった。なんとネウロイは先ほどの形から一変、形状を変化させて別の形になってしまった。
「あっ!?形が…」
「くそっ!コアの位置が分かんねえ!」
ひかりは驚き、管野は愚痴る。そう、形状変化により相手の動揺だけでなく、コアの位置を判別させることができなくなってしまった。そして、形状を変えたネウロイはひかり達に攻撃を開始する。その弾幕量は先ほどロスマンたちを攻撃していた時並みの量でだ。
三人はシールドを張る。
「くっ…もうちょっとだったのに!」
「うっ…何っ!?」
その時、ひかりたちを攻撃していたネウロイは離れて行く。
「あっ!逃げる!」
それに気づき三人は追撃していく。ひかりは指示を求めて管野に話しかける。
「管野さん!」
「コアだ!コアの位置さえわかれば…!」
管野は状況打開はコアにあると考えて、懸命に破壊しようと考える。しかし、先ほどの変形の為にコアの位置は判別できなくなってしまっていた。
そんな中、ひかりは管野の言葉に気付いた。
「コアの位置…」
別の場所で個別に分かれるネウロイを攻撃するロスマンたち。しかし、ネウロイは攻撃を加えてもその体を再生させていく。
「コアを破壊しないとキリがないです!」
「弾薬も魔法力ももちません!」
下原とジョゼがそう言う中、ロスマンはインカムでラルに聞く。
「隊長」
『やむを得ん…撤退だ』
その言葉を聞き、ひかりは驚く。
「待ってください!じゃあ補給路は!?」
『一旦諦めるしかあるまい』
「そんな…」
ひかりはラルに聞くが、ラルは状況を見てネウロイを倒すのは難しいと悟り、補給路を捨てる決断をした。
しかし、その言葉をきっかけに、ひかりの中で思いが渦巻く。せっかくの思い出開通した補給路を、ひかりはみすみすネウロイの手に明け渡したくなどなかった。
「ラル隊長、私に接触魔眼を使わせてください!」
そして、ひかりは決意を胸に、ラルに意見具申をしたのだった。
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