「あ~、遠かった~…」
「やっぱり1000キロは疲れるな~」
ムルマン基地に付いたシュミット達、クルピンスキーとニパは長旅の疲れを感じていた。シュミットも黙ってはいたが、同じように疲労は感じていた。
そんな中、ひかりはまだ元気だった。
「私はまだまだ行けますよ!」
「お前はそのまんま飛んで扶桑に帰れ」
誰よりもスタミナのあるひかりの言葉に反応して管野が意地悪を言う。それに対してひかりは両手の人差し指を口に持っていき、「いーっ!」と管野に言う。
そんな風に五人は歩きながら、ムルマン港に積み上げられた物資を見ていた。
「いや~、凄い量の物資だね」
「これにまだ追加があるんですよね?」
「ああ、これでもまだ一部だからな。今回の船団が大規模なのも頷けるな」
クルピンスキーとひかりは物資の量を見ておったまげたという感じに、シュミットはこれだけの荷物に追加であるのだから、今回の作戦がいかに重要なものかを再認識する。
そんな中、ニパはあるものに気づいた。
「ねえ、何?あのでっかいの」
「すげえな。戦艦でも作ってんのか?」
管野たちの視線の先には、物資の中に混じって置かれている巨大な機械があった。それはパット見、大口径砲の装填装置のようである。
「あれは…!」
と、クルピンスキーが何かに気が付いたようである。
「陸戦ウィッチのカワイ子ちゃん発見!いいねいいね~!」
「またかよ…」
しかし、それは先ほどの機械ではなく、その横に数名居た陸戦ウィッチの姿だった。体をくねくねとしながら喜んでいるクルピンスキーを、管野は呆れたように見る。
「へぇ…陸戦ウィッチって初めて見るな」
と、シュミットは今まで航空ウィッチしか見た事が無いため、陸戦ウィッチを初めて見たシュミットはその姿を見て少し新鮮な雰囲気だった。
そして、五人はムルマン基地の大きな倉庫に向かっていた。そこには、補給船団によって運ばれた新型ユニットが置いてあるからだ。
そして様々な荷物が積みあがる倉庫に到着した後、彼らは中を歩いていく。
「確か、ここに補給ユニットが…あったあった」
そして格納庫内の奥まで歩いていくと、そこには固定台に固定された三つのユニットがあった。
管野はそれを見てはしゃぐ。
「やったぁ!俺の紫電改だ!これさえあればネウロイなんてイチコロだぜ!」
管野は自分の目の前に固定されている紫電改を見てそう豪語する。実際、管野が通常使っているのは零式であり、紫電改は新型である。無論新型の方が性能向上が図られるため、こう豪語できるのも頷ける。
「ピカピカだ~」
「こっちのK型は僕のだね」
そしてクルピンスキーの言ったK型は、メッサーシャルフ社が開発した新型ユニットであり、クルピンスキーが使っているG型の性能向上型である。
そんな中、ひかりは固定台の横にある箱が気になる。
「他の箱は何ですか?」
「ラル隊長とロスマン先生用だね」
クルピンスキーがひかりの疑問について説明する。箱の中に入っているのはクルピンスキーに支給されたK型と同系のユニットが入っているのだ。
「いいなぁ、新しいユニット」
「じゃあ、ニパ君はこれを使って」
ニパは周りに新しいユニットが支給されていることに羨ましがる。それを聞き、クルピンスキーが提案した。
「ええっ!?でもそれクルピンスキーさんのでしょう?」
「ニパ君のは壊れちゃったから仕方ないよね」
ニパはクルピンスキーの提案を受けて驚くが、彼女のユニットがムルマン基地に到着した時に壊れてしまったため、現在ユニットが無い状態である。そのため、クルピンスキーはこの新型をニパに譲ろうとしたのだ。
そんな中、先ほどからずっと黙っていたシュミットに周りが気付く。
「どうしたの、シュミットさん?」
「…」
ニパが気になり聞くが、シュミットは目の前に固定されているユニットを見たまま黙っていた。それはシュミットに宛がわれた
その様子に気になり周りもそのユニットを見た。
「…なんだこれ?」
「見たことない機体…」
管野が代表して言う。それに続いてニパも言う。
「確かに、フラックウルフとはまた違う形状だね」
クルピンスキーでさえ、このような形状をしたユニットを見たことは無い。
台に固定されているユニットは、シュミットの使用しているFw190D-9よりも少し大きく重量感があり、それでいて片足に
その時、後ろから声が聞こえる。
「あ、ここに居ましたか」
声を掛けられて振り返ると、一人の兵士が立っていた。
「リーフェンシュタール中尉の手紙を預かっております」
「私の?」
「はい」
そう言って、兵士は胸元から手紙が入っているであろう封筒を出し、それをシュミットに差し出した。そして、シュミットはその差出人を見る。周りのみんなもその手紙の差出人を見た。
「フレイジャーズ?」
「誰だそいつら?」
ニパと管野はその差出人の名前を見て誰かと思うが、この名前はシュミットにとっては馴染みのある名前だった。
「私の親友二人の苗字だ。そいつらは双子なんだ」
「え?」
そしてシュミットは封筒を開けると、中に入っていた手紙を読む。
「ようシュミット、まだ生きているな。魔力を押さえて飛行しているか?あれは魔力を過剰にユニットに送ったことによって、魔道エンジンがリミッターを掛けてしまっていたお前のユニットに対する対策だったんだ。ちゃんと説明をすることが出来なくてすまなかった。俺達はその問題の解決の為に、急いで新ユニットの開発に向かったんだ。そして今回の補給船団の中に、完成した試作型新型ユニットをお前に送った…」
「試作型のユニット!」
試作型のユニットと言う言葉を聞き全員がそれを見る。
「送ったユニットの名前は『ドルナウDo335』。DB603魔道エンジンを片足に二機ずつ縦に配置、計四機のエンジンを配置した機体だ。ただ試作したはいいが、機体のテストパイロットの魔力では動かすことができなかった機体で高い魔法力適性を必要とする機体だが、お前の高い魔力なら間違いなく乗りこなせるはずだ」
そうして一通り読み終えた後、シュミットは宛がわれたユニットであるDo335を見る。そして、さらに文章の続きを読む。
「この機体をお前に送る条件として、シュミットにはテストパイロットになってほし…って、テストパイロットだと!?」
そして、まさかの言葉にシュミットは今日一番の驚きの声を出したのだった。
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そしてその後、基地の外で管野と二パ、シュミットは固定台を出してユニットを履いていた。
「管野一番、出る!」
「カタヤイネン、行きます!」
「動作確認だけだから、無理しないようにって言われてますよ」
「わーってるって」
管野とニパはさっそくユニットを回す。ひかりは注意事項を二人に言うが、管野はそんなの分かりきっていると反応をする。
そしてシュミットの周りには、数名の計測員と機材が置かれる。彼だけは今回、テストを兼ねての試験飛行を行うのだ。
「…ふぅ」
一息吐いてから、支給されたDo335の魔道エンジンに魔法力を流し始める。魔道エンジンが流れると、片方のユニットから三枚羽のプロペラがそれぞれのエンジンから現れる。そして、さらに驚くことがあった。
(!?全力で魔力を送っても止まらない!)
そう、シュミットが全力で魔力を送っても、ユニットはリミッターがかかることなくエンジンを回し続けている。この事実にシュミットは感激を受けた。久しぶりにシュミットは制限を掛けた魔力ではなく、自身の全力を流すことができるからだ。
そして、管野とニパは先に離陸を行いテスト飛行を開始する。
「おお!魔法力の立ち上がりがハンパねえ!」
管野は新型の紫電改の加速力の違いを肌で感じ、感激する。
「管野!こっちのK型もすっごい早いよ!」
ニパはそう言って管野を追い越す。その速さは前回使っていたG型よりも優れていた。
今度はシュミットが離陸した。そしてすぐに、その性能の違いを理解した。
「速い!」
加速Gの重さの桁違いさから、そのユニットの速さが前回使っていたFw190よりも勝っていると感じたシュミット。
そして要ったん5000mまで上昇した後、急降下を開始する。
(急降下速度もなかなか出る…)
急降下を終えた後、再び5000mまで上昇する。今度は速度の計測に入るのだ。
「こちらシュミット、これより最高速度の計測に入る」
『了解しました』
インカムから返事がしたので、シュミットは魔道エンジンに魔力を流し始めた。
「魔道エンジン、最大出力!」
そして、魔力を全力で回すシュミット。そして徐々に速度が上がっていくシュミットに、下から見ていた者たちはそれぞれ眺めていた。
「すごい、シュミットさん…」
「まだ加速してやがる…」
さらに加速していく。
(…740…745…750…755)
そして、加速は徐々に収まっていき、ついに最高速度が出される。地上で計測していた計測員が報告をする。
「加速が止まりました」
「何キロだ?」
「770キロです」
770キロ、その速度を聞いて観測員たちはどよめく。今まで通常時のレシプロストライカーでここまでの最速を出した機材は無く、この速度は衝撃を受けるものだった。しかし、シュミットは別段驚いていなかった。
(770…前に強化を使った時に790まで出たからなぁ)
と、彼としては今回の速度が通常時であるということを考え、強化を掛けての試験はまた今度という形にするのだった。
そして、シュミットは次に機動を行った。シュミットは軽く旋回などを行いながら、機体の特性を探っていく。
(…Fw190よりは少し重い感じだが、一撃離脱を行う上では問題なさそうだ)
シュミットはDo335の特性が一撃離脱特化型であると肌で感じた。しかし、彼の得意とする軌道は一撃離脱戦法であり、高い格闘戦は次である。そのため、Fw190並みの機動力は十分すぎでもあったりしたのだ。
そして、地上で見ていた者たちはシュミットの動きの変化に気づいた。
「なんか、シュミットさん凄く速くないですか?」
ひかりはそんな事を聞く。ひかりの疑問は嘘ではなく、実際に動きがいつもと違っていた。
「なんか、すげーキレがあるな」
「うん。シュミットさん、いつもより動きがいいよ」
管野とニパもそう感じた。シュミットの動きはいつも見ているものよりも速く、それでいてキレが良かった。そして、様々な機動を行うシュミットは笑顔だった。
(凄い…凄い!全力で飛べる日がこんなに早く来るとは思わなかった!)
そう、彼は感激しているのだ。今まで制約を掛けられた状態で飛行していたため、彼の中では窮屈な点もあった。それに対して、このユニットを履いているときは全力で飛行をすることができるのだ。解放された気分からシュミットは高揚していた。
「速い!これほど動けるなんて!」
そして、彼は一通りの動きをしてから地上に降り立った。そして、下で見ていた者たちはその時、今まで見たことのないシュミットの笑顔を見ることになったのだった。
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「あのK型、本当にもらっていいんですか?」
その後、サウナの中に入った女性四人の中で、ニパはクルピンスキーにBf109Kを本当にもらっていいのかを聞く。因みに、シュミットはテストパイロットとして、その報告文書の作成を現在行っており、女性陣はサウナに入りに行っていたのだ。
そしてニパに聞かれたクルピンスキーは、手にぶどうジュースを持ちながら答える。
「いいのいいの。いや~仕事の後のぶどうジュースは最高だね~」
「何もしてねえだろ、おめえは!」
クルピンスキーの言葉に管野がツッコむ。
「なあ、アレひょっとして…」
「本当にぶどうジュースなんですか?」
ニパはクルピンスキーの飲んでいるものがぶどうジュースでないと気付く。ひかりもなんとなくクルピンスキーの言動を見て、あれがぶどうジュースなのか、と疑問を持った。
「ああ…殴りてえ」
そして管野はいつまでたってもお茶らけているクルピンスキーに腹を立てており、懸命に拳を押さえているのだった。
その後、サウナから出たひかり達は宛がわれたベッドで就寝準備を取る。
「ふぁ~…今日は疲れたからさっさと寝よ」
「おやすみなさ~い」
ニパはあくびをしながら眠り、ひかりも挨拶をして眠る。そんな中ひかりは、クルピンスキーのベッドはまだ埋まっていないのが気になった。
「クルピンスキーさん、戻ってこないですね」
「ああ、ほっとけほっとけ」
ひかりが聞くが、管野は特に感心せずに目を瞑ったまま睡眠の準備を進めていた。
そしてひかりの心配は的中した。クルピンスキーはなんとサウナの中で瓶を抱えたまま眠っていたのだった。
「…おい、起きろ」
と、クルピンスキーを起こす声がする。シュミットだった。書類を作り終えたシュミットは、自分もサウナに入ろうとサウナ室に来たのだが、目の前に眠っているクルピンスキーを見て頭を抱えて溜息を吐いた。
そしてシュミットは起こそうとするが、それでもクルピンスキーは起きない。いつまでたっても埒が明かないため、シュミットは諦めて横で服を脱ぎ始め、そしてサウナの中に入っていくのだった。
シュミットは先ほどの光景を忘れて、サウナ室の中で今日の試験飛行について考えていた。
(
そしてシュミットは、ここにはいない親友に対して、心から感謝していた。そして、サウナ室の天井を見上げる。
(ありがとう、親友。これで私は、前よりも戦える)
サウナ室の中で、シュミットは自分を助けてくれる
というわけで、シュミット君の機体はDo335になりました!
最終的な投票結果を発表します。
Ta152 0票
Do335 4票
というわけで、完全にDo335に軍配が上がりました。作者の予想ではTa152は少なくとも1票はあると思っていたので、0票というのには少し以外という風に思いました。次回、新ユニットを付けたブレイクウィッチーズの初空戦です。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!