「イッルのプレゼント、まだ開けてないのがあったよ」
エイラとサーニャが休暇を終えて502から居なくなったある日、格納庫内で二パが補給箱の中に未開封の物があるのを見つけた。そして現在、シュミット、ニパ、ひかり、管野、クルピンスキーの五人で中身を調べようとしていた。
「美味しいものとか入ってるといいですね~」
「ぶどうジュースあるかな~」
ひかりは中身に食べ物が入っていたらという願望を持ち、クルピンスキーも同じようにぶどうジュースを欲しがる。しかし、箱を開けると中から出てきたのは武器と弾薬だった。
「何だ、武器か…」
「残念」
「おいおい…せっかく搔き集めて持ってきてくれた補給だぞ?」
中身を見てがっかりするクルピンスキーとニパに、流石に失礼だろうとシュミットは言う。
そんな中、管野は中に意外なものが入っているのを見つけた。
「あ!リベレーターまで入ってる」
そして管野はリベレーターの裏側を見る。
「何だ…弾も入ってねえじゃねえか…」
管野の言う通り、リベレーターには弾が一つも入っていない。元々一発しか撃つことのできない銃なのに、さらにその弾丸まで無しとなってはまるで武器の役目を持たない。
しかし、ひかりはその銃を見て食いついた。
「可愛い!何ですかそれ!」
「か、可愛い?」
「バカかおめえ?」
ひかりの予想外の反応にニパと管野は呆れたように反応する。シュミットも黙ってはいたが、年頃の女の子が可愛いという代物では無いと思い、内心苦笑いをしていた。
その時、クルピンスキーが管野からリベレーターを取る。そしてひかりに説明した。
「これはね子猫ちゃん。ケルト魔法がかかったお守りで…ほら、全体がルーン文字の形をしているだろう?」
「ルーン文字…ですか?」
ひかりは聞きなれない単語になんのことかわからずに聞く。
「そう。敵の弾が当たらないおまじないがかかっているんだよ」
「わぁ!扶桑の破魔矢みたいですね!いいなぁ~、欲しいな~」
「デートしてくれるんだったら、あげてもいいよ」
ひかりが欲しがっていたので、クルピンスキーは少しいじわるに言う。
それを聞いて、ひかりは少しがっかりする。
「え~…、じゃあ要りません」
「ウソウソ。ひかりちゃんにあげるよ」
しかし、クルピンスキーもそこまで意地悪ではない。すぐにそれをひかりに渡してあげると、ひかりはとても喜ぶ。
「やったー!!」
そんな様子を、見ていたシュミットとニパ、管野の三人は呆れた顔をして見ていた。
「…まるで息をするように嘘を吐いた」
「でも、ひかり信じちゃったよ…」
「正真正銘のバカだな…」
無論、クルピンスキーが言ったのは嘘であるが、ひかりはそれを本当のことだと完全に勘違いしており、そんなひかりの純粋さを少しかわいそうな目で見てしまうのだった。
そんな中、ニパは箱の中に小さな箱があるのに気づく。
「ん?これ何だ?」
二パはそれを手に取って見る。そして、管野がそこに書いてある文字を読む。
「クルピンスキーへって書いてあるな」
それを聞き、全員がニパの持つ箱に目をやる。そしてクルピンスキーは自分の名前を呼ばれたため、その箱が自分宛ての物と見て興味を示す。
「てことは、スペシャルなぶどうジュースかな?開けてみて」
クルピンスキーはわくわくしながらニパにあけるように言う。そしてニパが箱を開けると、中には美味しそうなマカロンが並んでいた。
「わぁ、お菓子だ!」
「ちぇっ、違ったか~」
ニパは中身を見て喜ぶが、クルピンスキーはお目当てのもので無かったので少しがっかりする。そしてその中の一つを手に取って食べ――、
「っ!!…なんだこれ?」
そしてマカロンを睨む。シュミットもそれに気づき、中身を見る。すると、そこには金属の小さなケースのようなものが入っていた。
「これは…?」
シュミットはクルピンスキーの持つマカロンから、その中の物を取り出した。そして、そのケースの蓋を開けてみる。
すると、驚いたことにそこにはマイクロフィルムが入っているではないか。
「!これは…クルピンスキー、これを急いで隊長の所へ持っていけ!」
「りょ、了解!」
シュミットに言われてクルピンスキーはそれを部隊長室に持って行った。
ひかりとニパ、管野の三人はその光景を見て何だろうと思いシュミットに質問した。
「あの、何かあったんですか?」
「…これは恐らく、機密事項だ」
「えっ?」
シュミットの言葉に尚更わからないといった反応をするひかり。その時、基地のアナウンスが流れる。
『シュミット・リーフェンシュタール中尉、至急隊長室へ来てくれ』
シュミットは自分がアナウンスで呼ばれるとは思わず、少し驚く。
「…ちょっと行ってくる」
そう言って、シュミットは格納庫を出る。そしてそのままダッシュで隊長室に行く。
(クルピンスキー宛の物の中身は機密事項として、何故私が呼ばれる?)
そんな事を考えながら、シュミットは隊長室のドアを叩いた。
「リーフェンシュタール中尉です」
「入れ」
室内から声がしたので、シュミットは扉を開けた。
「失礼します」
そうして入ると、中にはラルとロスマン、サーシャにクルピンスキーが待っていた。そしてシュミットはそのままラルの机の前に行く。ラルの前には先ほどのマイクロフィルムがあり、ラル自身は手元の資料らしきものを見ていた。
「隊長、どうしたんですか?」
「単刀直入に聞く。これに見覚えはあるか?」
シュミットが聞くと、ラルは手に持っていた資料をシュミットに見せた。シュミットがそれを拝見する。
「これは…っ!!?」
シュミットは中身を見て、そこに映っていた
「ウォーロック!?」
シュミットはあり得ないといった様子で見る。周りのみんなはそれが何なのかわからず疑問に思う。
「…ウォーロック?」
「なんですか、これ…」
口々に疑問の声を出す中、シュミットが呟いた。
「…ネウロイのコアを利用した兵器だ」
「えっ!?」
「ネウロイのコアを利用した兵器ですって!?」
シュミットの言葉にロスマンがあり得ないといった様子で聞く。
そしてラルが話す。
「ネウロイをもってネウロイを制す…そんな作戦が存在したとはな」
「だが、ウォーロックは作戦中に暴走をして、そのツケを私たちが払わされた…今となっては思い出したくもない兵器だ」
シュミットはあの時の状況を思い出して嫌な顔をした。ウォーロックのせいで501は解散させられ、そして暴走したらこんどは501が倒すことになった。面倒なことを運んできたこの兵器に対して、いい思い出など一つもないのだ。
「倒せたと言っても、これを我々が再現するのは不可能です」
「だがこの資料から分かったことがある。ネウロイの数にも限りがある。倒し続けていれば、いつかは巣が空になる」
サーシャはその真実を聞き、自分たちがウォーロックを再現するなど出来るものでないと言う。そんな中ラルは、この資料からネウロイの巣の特性を理解し、巣の破壊につながる重要な手がかりとなる点を説明する。
それを聞き、ロスマンも顎に手を当てて考える。
「マンシュタイン元帥も、この情報を知れば火力を集中させて、ネウロイに消耗戦を仕掛けようとするでしょう」
「だろうな」
「ひょっとして!」
ラルの反応を聞き、サーシャは何かに気づいた。そして様子を、ラルは納得したように説明した。
「そうだ。ムルマンに向かっている物資の中に、グリゴーリ攻略の切り札が積まれているに違いない」
「ムルマン?」
シュミットはラルの言葉に何のことかわからずに聞く。その質問を、サーシャが説明した。
「現在ムルマンに、ブリタニアからの大規模な輸送船団が向かっているんです」
「だから私たちに護衛を…」
ロスマンは事前に502に護衛の援軍要請が来ていたことについて、これで合点がいった様子だった。
そんな中、クルピンスキーは護衛船団の話を聞き食いついた。
「ぶどうジュースあるかな?」
「ない」
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その後、シュミット達は食事の席でラルとロスマンからの作戦説明を受けていた。
「そのままでいいから聞け、作戦を伝える」
ラルがそう言うと、全員が手を止めて前方を見る。そしてロスマンが地図を立てると、説明を開始した。
「現在、ブリタニアからムルマンに大規模な補給船団が向かっています。その船団を護衛するのが今回の作戦です」
ロスマンが指し棒で示すと、現在の輸送船団の位置が指される。
そしてラルが付け加えて言う。
「今回の作戦に参加するのは五名。作戦指揮はクルピンスキー中尉、副指揮はシュミット中尉が取れ」
「はい」
「えっ!?待ってよ、僕が行くの~?」
シュミットはすんなり返事をしたが、クルピンスキーは乗り気ではなかった。
その反応を見越してか、ロスマンは一枚の写真を取り出して説明を加える。
「船団には非常時用に一人、ブリタニアのウィッチが同行しています」
そう言ってロスマンは写真をクルピンスキーに見せた。それを見てクルピンスキーは(可愛い…!)と心の中で反応した。
「行きます!」
「おい…」
クルピンスキーの早変わりの様子にシュミットは呆れてしまう。
そしてラルは残りのウィッチを見た。
「残りのメンバーは中尉が選出せよ。また、現地で新型ユニットを受領し戦力強化後、護衛を行うように」
「新型!?行く行く!俺が行く!」
新型ユニットという言葉に今度は管野が反応した。
「じゃあ残り三人は直ちゃん、ニパ君、ひかりちゃんで」
「えっ!?私もですか?」
「ムルマンか~…遠いなあ…」
ひかりは自分が指名されると思わず驚き、ニパはムルマンまでの距離を頭で想像して大変そうだといった反応をする。
勿論、この選出はシュミットもある程度推測ができた。
(管野、ニパ、雁淵…なるほど、最年少組への経験か)
ウィッチは基本的に20歳であがりを迎えてしまい、殆どは魔力が無くなってしまう。そうなってくると、次世代のウィッチ達が今度は引っ張っていく番になる。それを見越してクルピンスキーが選出したんだと考え、シュミットはいつものあのクルピンスキーから考えを少し改めたのだった。
そして翌日、出撃メンバーはユニットを履いて準備をしていた。しかしそんな中、ニパのユニットは指導と同時に黒煙が少し出てきていた。
「おい、大丈夫か?それ…」
「うーん…1000キロ持ってくれよ~」
管野が聞くが、二パは大丈夫と言い切れず神頼みをする。
そしてひかりは、
「~♪」
昨日クルピンスキーからもらったリベレーターを紐を通して自分の首からぶら下げていた。
管野はそれに気づきひかりに聞く。
「おめえ、それ持っていく気か?」
「いいでしょ~♪あげませんよ~」
「死んでもいらねえ…」
嘘のお守りなど何が起こるかわからないため、管野は欲しくなかった。
そしてクルピンスキーは、先ほどから机の前で真剣な表情をしていた。
「むう…」
「指揮官に選ばれたから、さすがにクルピンスキーさんも真剣ですね」
「ニセ伯爵の真剣って、なんか碌でもなさそうなんだよな…」
ひかりはそんなクルピンスキーに感想をするが、シュミットはその表情を見て嫌な予感をしていた。
「夜空の星…いや、大輪の薔薇…違うな~」
案の定、クルピンスキーはロスマンから渡されたブリタニアウィッチの写真を見てそんな事を考えていた。
「ねえ、ひかりちゃん」
「伯爵様?」
クルピンスキーはひかりに聞こうとするが、それを後ろから威圧のある声が止めた。
「ういっ!?先生…これは…その…ぐえっ!」
クルピンスキーは懸命に言い訳をしようとするが、その前にロスマンからの制裁を頂いたのだった。
それを見て、シュミットは「やっぱりな…」と呟いたのだった。
その後、シュミット達は発進をし、ムルマン港に向かった。そんな中、クルピンスキーは飛行しながらもブリタニアウィッチのことでいっぱいだった。
「早く会いたいな♪ブリタニアの子猫ちゃん♪」
「楽しそうですね、クルピンスキーさん」
ウキウキしているクルピンスキーにひかりが話しかける。この状態のクルピンスキーに話すのはひかりだけである。
「ああ、当然ひかりちゃんも可愛いよ。でも、この子うちの基地には居ないタイプでさ~」
そんなひかりにクルピンスキーは手に持つ写真を見せる。ひかりは苦笑いしているしかできない。
そしてその会話を、前方で聞く三人は耐えていた。
「さっきからずっとあの調子だよ…」
「くそ~…殴りてえ…」
「我慢しろ…むしろ、今は雁淵を讃えてやれ…」
三人は、クルピンスキーのマイペースに対して相手をしてあげているひかりを心の中で讃えた。もしひかりが相手しなかったら、自分たちにそれが飛んでくるのだから。
そして、シュミットたちは途中数回の休憩を挟み、1000kmの長い道のりを越えて、ムルマン基地に到着したのだった。
女の子にホイホイつられる伯爵。そしてひかりちゃんは純粋なのか、伯爵の言葉を信じちゃうという…。次回、ホントのホントに新ユニットが出ます。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!