シュミットが台所でケーキを作っている中、502のサウナの中にはエイラと二パ、ひかりと管野が居た。
「小」
「んがっ!」
管野が叫ぶ。
「中」
「ぅひゃ!?あははは…!」
ひかりがくすぐったくする。
「大」
「うわあー!?や、やめろー!」
ニパが止めるようにエイラに言う。エイラはサウナの中でそれぞれの胸を揉んでいたのだ。
そしてエイラは胸を揉み終わった後、溜息を一つ吐いた。
「はぁ…つまんないナ~…」
「てめえっ!!人の乳揉んどいて何言ってやがんだ!!」
「ふぇ…くすぐったかった」
エイラの言葉に管野が怒る。ひかりはエイラの揉み心地にくすぐったさを感じていた。
そんな中、ニパがエイラに聞く。
「ねえ、イッル。まさかサーニャさんにもこんなことしてんの!?」
二パが聞くと、エイラは顔色を大きく変えて言い始めた。
「な、なに言ってんだお前!そんな気軽な気持ちでサーニャを触っていいわけがないだろ!」
「俺達ならいいのかよ…」
エイラの言葉に管野がツッコむ。
「はぁ~…」
そう言ってエイラはサウナの中に寝転ぶ。そんなエイラにニパが聞く。
「イッル、何かあったの?」
「う~ん、この間の借りをどう返したらと思ってサー…」
「この間?」
ニパが疑問に思う中、エイラが説明する。この間とはシュミットがエイラとサーニャに外出許可を取ってくれたことである。エイラはそれに対してシュミットに借りを作ったため、その返し方について悩んでいた。エイラは自分の時間を割いてまで作った借りを借りっぱなしにしたくなかったのだ。
そして悩み続けるエイラ。その姿について管野が二パに聞く。
「こいつ本当にスオムスのスーパーエースで、ガリア開放の英雄なのかよ?」
「イッルはサーニャさんが絡むとちょっと面倒なんだ」
「ちょっとじゃねえだろ!」
とてもこんな姿を見てはスーパーエースらしさが無い。それについてニパが説明をすると、再び管野はツッコむ。
その時、ひかりは気になることがあり質問した。
「そういえば、こっちではどんな風に年を越すんですか?除夜の鐘は無いですよね?」
「ばーか。サトゥルヌス祭とあんま変わんねえよ」
「むっ!」
管野が説明をするが、ひかりはバカと言われて少しムッとする。そして管野が続けて説明する。
「皆でうまいもん食って、どんちゃん騒ぎだな」
「あっ!下原さんたちがご馳走の準備してましたね!楽しみ~」
ひかりはキッチンで料理をしていた下原たちのことを思い出してわくわくする。
そして管野は寝転がっているエイラを見る。
「まあ、それが出来るのも補給物資を持ってきてくれたこいつらのおかげだな」
「ですよね。ホントありがとうございます!」
「あー、いいってことよー…」
ひかりが礼を言うと、エイラは手を上げて揺ら揺らとする。
その時、ニパがあることに気づく。
「あっ、でもサトゥルヌス祭と違うところもあるよ。スオムスでは年越しと同時に花火を打ち上げるんだ」
「花火ですか?」
「でね、二人で花火を見ながら年を越すと幸せになれるって言い伝えがあってさ」
二パの説明を聞いてひかりはロマンチックに思えてくる。
「なんかいいですね!」
「でしょ、でしょ」
ひかりの言葉にニパも頷く。
「つーか、二人で年越しする時点で、もう十分幸せなんじゃねえか?」
「もう、管野は全然わかってない。こういうのがロマンチックなんだから!」
管野がそう言うが、二パはそれに対してロマンチックでいいじゃないかと言う。
その時、今まで黙っていたエイラが何かを思いついたように起き上がる。
「それだ!」
「ん?」
突然の声に管野とニパが同時にエイラを見る。
「そうだよ。忘れてた…それがあるじゃんか」
そう言って今度はニパの頭をなでるエイラ。
「お手柄だぞ、ニパ。ありがとナ」
「ぅええあっ?あ、あ…」
エイラはニパに礼を言うが、ニパは頭をぐりぐりとされて変な声を出す。
「ようし!こうしちゃ居られないぞ!とう!」
そうして、エイラはダッシュでサウナ室から出ていく。残されたメンバーはそんなエイラをただ見ているだけであった。
「どうしたんだろう?」
「知るかよ」
二パは頭を揺らしながら管野に聞くが、管野もよくわからない様子であった。
「よくわかんないけど、イッルに褒められた…ニヘヘヘ」
しかし、ニパはそれよりもエイラに褒められたことに頭がいっぱいになり、とても嬉しそうにしていた。
「花火?そんなムダなことに貴重な物資を使えるか。無理だな」
「ぐぬぬ…ケチ」
そしてエイラは服を着て部隊長室に行き、ラルに提案をした。しかし、ラルは物資不足の状況でそんなことができるかとバッサリと提案を切ってしまい、エイラは膨れるのだった。
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その後、食堂のテーブルに豪華な料理が並べられる。どれもすべて下原とサーニャが作ったものであり、ケーキなどのお菓子についてはシュミットの作ったものだ。
そしてラルとロスマン、サーシャの三人は前に立つ。
「諸君らの活躍によって、今年もネウロイの進行を阻止し、ペテルブルクを守ることができた。そして来年こそ奴らへの反攻の年とする。いいな」
『はい!』
ラルの言葉に全員が返事をする。
「ふぁい」
と、一人だけ既に食べ始めている者が居た。ジョゼである。
それに管野が気付く。
「あ!こいつもう食ってやがる!」
「ジョゼ、お行儀が悪いよ」
「らって…」
下原に注意されるが、ジョゼはどうやら待てなかったようである。そしてひかりもそれに続いて食べ始めたため、全員が流れで食事を開始した。
「うん。このボルシチ最高だね」
「美味しいわ~」
「懐かしいオラーシャの味です」
「美味い」
みんなテーブルの料理を食べて、顔がほころぶ。
「きょうの料理の味付けは、殆どサーニャさんがやってくれたんですよ」
「さすがサーニャ」
下原の説明を聞き、エイラがサーニャを褒める。その言葉にサーニャは少し照れたようすで赤くなる。
それを聞き、ひかりたちもサーニャの下へ行く。
「え!?そうなんですか?」
「凄すぎです、サーニャさん!」
みんな口々にサーニャを褒める。そんな中、サーニャはシュミットが気になり見る。
シュミットはもぐもぐと口を動かし、そしてそれを飲み込むと今度は微笑んだ。
「美味しい…」
静かに放たれたシュミットの言葉を聞き、サーニャはホッとしたのと同時に嬉しさが巡る。その反応にシュミットは気づいていなかったが、サーニャの周りにいたメンバーは微笑ましくサーニャのことを見ていた。
その時だった。基地全体に警報が鳴りだす。
「ネウロイ!?」
「もう…空気読んでよ!」
口々が反応する中、ラルは冷静に命令を下す。
「食事は中断だ。すぐに出撃の用意をしろ」
ラルが命令するが、ロスマンとサーシャは誰を出すか考えていた。
「誰を出しますか?」
「弾薬と燃料は相変わらず心もとないですが」
「おまけに夜間戦闘と来たか…」
そう言ってラルはウィッチ達を見る。
その後、出撃を開始した。出撃メンバーは、ナイトウィッチであるサーニャ。夜間戦闘経験の豊富なエイラとシュミット。夜間視を持つ下原。そして、夜間戦闘経験を積むためにロスマンの付き添いでひかりが出撃した。
ひかりは、初めての夜間戦闘に興奮していた。
「うわあっ!?なんですか、これ。星が凄い…こんなの見たこと…うわあ!?」
その時、ひかりは突然ひっくりかえってしまい、自分がどの方向を向いているのかを完全に見失ってしまう。
「どっちが上ー!?」
「一度目を閉じて深呼吸。力を抜いたら、あとはユニットに聞きなさい」
「はい!」
ロスマンがそんなひかりに指導をする。それをききひかりはすぐさま実行に移し、そしてふらついていた体を立て直した。
「戻った!ふう…ありがとう、チドリ」
ひかりは自分のユニットに礼を言う。そしてロスマンがひかりの横に行く。
「夜空は位置を見失いやすいわ。常に自分の仲間の位置を把握すること」
「はい!」
「夜間戦闘の経験を積むために来たのだから、しっかりと体に叩き込みなさい。いいわね?」
「はい!」
そんな様子を見て、サーニャは何か思い出したのか微笑む。その様子にシュミットとエイラは気づく。
「どうした?」
「芳佳ちゃんと初めて夜空を飛んだ時を思い出したの」
「ああ、宮藤もバタバタしてたナー」
そう言っているとき、シュミットは別のことを思い出した。
「…私はこの空をみてサーニャと初めて会った時を思い出した」
「えっ?」
「ん?」
突然、シュミットがそんな事を言うので二人は驚く。
「私がこの世界に来た時も、あのようにきれいな月が出ていたと思ってな。その時のサーニャを見て、私はあの時一目惚れをしたんだ」
「あぅ…」
そしてシュミットがそんなことを告白してくるので、サーニャは段々恥ずかしくなってくる。
その時だった。
「前方3000!ネウロイです!」
「っ!」
突然下原がネウロイ発見の報告をしたので、全員が臨戦態勢に戻る。
「エイラ、シュミットさん、お願い!」
「いっくぞー!」
「さっさとネウロイを倒すぞ!」
そしてエイラとシュミットは先陣を切って突撃する。その後ろをサーニャが付いていく。
そんな様子を見てひかりは驚く。
「わっ!皆さん凄い気合が入ってますね」
「よく見ておきなさい。彼女たち501エースの力を。そして特に、エイラさんが無傷のエースと言われるわけを」
「はい!」
そしてロスマンはひかりに先ほど突貫したウィッチ達、その中でも特にエイラの動きを見るようにと言う。それはひかりの追求すべき戦闘スタイルを求めるうえで、最も近い動きをするのがエイラだからだ。
そして先陣を切ってエイラがネウロイに攻撃を加える。しかし、ネウロイはエイラの攻撃を数発受けた後、即座に反撃を開始する。
そして、エイラはそのダメージがあまり通ってないのに気づく。
「効いてない!?ウソだろ?」
「私が行きます!」
エイラが下がって、今度は下原が突撃する。そして下原も攻撃をするが、その攻撃がネウロイの装甲を僅かに削った程度だったことから、このネウロイが防御特化型のネウロイと判断する。
「装甲が硬い!?」
「下がって!」
「私が行く!」
そして今度は下原が後退をし、今度はシュミットとサーニャが攻撃を開始する。サーニャが手に持つフリーガーハマーのロケット弾をネウロイに命中させると、今度はシュミットがその隙をついて突撃する。
(行くぞ、ゼロの領域!)
そして、久しぶりにシュミットはゼロの領域に入る。そのままシュミットはネウロイが進行するであろう方向などを先に読み取り、手に持つMG151を構える。
「喰らえ!」
強化も合わさったMG151の弾丸は、ネウロイの装甲を完全に抉ることは出来なかったが、その表面を大きく削る。
そして、ロスマンが全員に指示を出した。
「攻撃が効かないわけじゃない。防御特化型のネウロイよ!」
「特化?」
「つまりこいつは攻撃を続ければいいんだ」
ひかりはちゃんと理解できていない様子だったので、シュミットはわかりやすく言う。
「そうと分かれば…!」
「そうよ。効くまで攻撃を続けてコアを探し出すだけのこと!」
「つまり、いつもと同じってことだろ」
「ですね!」
そうして、再び編隊を組み直す。
「行くわよ!」
そして、ネウロイに向けて再攻撃を開始する。ネウロイは急旋回をし、連携を組んでいるシュミット達に攻撃を仕掛ける。
未来予知の固有魔法を持つエイラと、ゼロの領域に入っていたシュミットはネウロイの攻撃が来るのを予想したため、そのまま上昇をして回避をする。それ以外のウィッチはシールドで攻撃を防ぐが、ひかりは攻撃の強さに弾き飛ばされる。
「ああっ!?」
そして弾き飛ばされたひかりはすぐさま体勢を立て直すが、ネウロイは容赦なく攻撃をするためひかりは回避するので精一杯になっていた。
「近づけない…!」
「おい!」
その時、先に回避をしていたエイラがひかりの下へ来る。
「えっ!?」
「いいか?攻撃はこうやって躱すんだ」
そう言ってエイラは急上昇をする。そして今度は急降下をし、ネウロイに向けて進んでいく。ネウロイがエイラに気づき攻撃をする。
「当てれるもんなら当ててみな!」
しかし、その攻撃はエイラの前では無意味だった。エイラは攻撃をまるで隙間を縫うようにすいすいと回避していく。
「すごい…シールドを全然使ってない」
ひかりはそんなエイラに驚く。
「そらそらそらそらそらーっ!」
そしてエイラは急降下するそのままの速度でネウロイに攻撃を加えていく。そしてネウロイの攻撃がエイラに向かっている間に、ロスマンとサーニャがネウロイの前方に立ちはだかり、同時にフリーガーハマーで攻撃をする。ネウロイはその攻撃に遅れて全弾命中し、そしてついに装甲が剥がれてコアが見える。
「コアです!」
「今のうちだわ!」
全員がすぐさまコアに向けて照準したその時、ネウロイはその露出したコアを隠すべく装甲をすぐさま再生させる。
「再生が早い…!」
そして、再生したネウロイは物凄いスピードで直進を開始する。そしてそのままウィッチ達の横を通り過ぎていく。
「逃げた!」
「違います!向こうには基地があります!」
ひかりはネウロイが逃げたと思うが、下原の夜間視によってその方向が基地とわかると全員が驚く。
「まずいわ!今、基地に行かせては…」
「追います!」
全員が急いで基地の方向に向かおうとしたその時、後ろから声がする。
「大丈夫です」
「えっ!?」
突然のサーニャの声に全員が振り返る。そこにはサーニャだけでなく、エイラもいた。
「どういうことですか?」
「追わなくても大丈夫ってことダ」
「だって…」
ひかりが聞くが、エイラとサーニャは自信ありといった表情で宣言した。
そして、基地に向かうネウロイの進行方向に、その人はいた。
「悪いな」
そう、シュミットはネウロイが基地に向かうこともゼロの領域で読み取ったのだ。そして、すぐさまシュミットは移動し、ネウロイを待ち構えたのだ。
「大切な人の故郷なんだ。ここで墜とさせてもらう」
そう言って、シュミットはMG151を構える。そして、強化を掛けた弾丸をネウロイに向けて放った。ネウロイは高速で進む中、強力な弾丸が自分の体を貫く勢いで命中したため、その装甲を大きく抉り取り、ついに中に隠れていたコアまで破壊される。そして、シュミットの横を通り過ぎたネウロイは、その姿を光の破片に変えて消滅させた。
その光景はまるで夜空に大きく現れた花火のようだった。
「すごいわ、シュミットさん」
「綺麗…花火みたい」
その様子を出撃したメンバーは離れた所から見ていた。
そして、基地の中からもネウロイの消滅した姿は確認できた。
「たーまやー!ってか」
管野がそう言うように、まるで花火のように輝く光景を、基地の中から全員が見ているのだった。
そしてシュミットはそんな光景を静かに見ていた。
「綺麗だ…」
そう呟いたその時、突然シュミットは自分の手を取られて驚く。そして、手を取った人物の方向を見ると、それはサーニャだった。
「サーニャ」
「お疲れ様、シュミットさん。まるで本物の花火みたいね…」
そう言って、サーニャは微笑む。
「今年もよろしくね、シュミットさん」
「っ!」
そんなサーニャを見て、シュミットはすごく綺麗と思ってしまった。それは初めてサーニャに遭ったあの夜よりも、数倍綺麗だと感じた。
そんなサーニャに、シュミットも微笑み返した。
「…ああ。今年もよろしく、サーニャ」
そう言って、シュミットはサーニャの手を握り返した。そして、サーニャの体を自分の方に寄せると、そっと互いの顔を近づける。サーニャもそれに気づき、ゆっくり、ゆっくりと顔を近づけ…
――そして、ついに二人の唇は重なった。二人は目を瞑ったまま、静かにキスをつづけた。
その様子を空で見ていた人たちは、二人共とても熱々だと思いながら見守り、エイラも今回ばかりは自分の借りを返すつもりで、静かに二人のキスを見守っていたのだった。
(まぁ…これで借りは返したからナ…)
そして数秒の後、シュミットは重ねていた唇を離してサーニャに微笑む。同じように、サーニャもシュミットに微笑み返したのだった。
というわけで、ペテルブルグ大作戦ついに完結しました。いや~、なんていいますか、あま~いです。それはそれはとっても甘いです!
そして次の話で、皆様に投票を行ったシュミットの新ユニットについて触れる話に入りたいと思います。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!