ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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というわけで第五十三話、中編です。どうぞ!


第五十三話「エイラの努力と年越し準備」

12月28日、エイラはこそこそと廊下を見ていた。

 

「こっそり…」

 

そしてエイラは廊下に誰もいないのを確認して振り返る。

 

「今だ。さあ今日こそ一緒に街に行くぞ、サーニャ」

「あ…」

 

そう言ってエイラは後ろに立つサーニャの手を取って走り出す。そう、一昨日、昨日とサーニャと街に出かけることを失敗したエイラは、今日こそはサーニャと街に一緒に行こうと試みていた。そして、二日続けて妨害に遭ったことから現在こっそりと出ようと頑張っているのだ。

そしてサーニャの手を引きながら走るエイラであるが、突如使い魔の耳を出しあるものに気づく。

 

「っ!こっちだ」

「え…」

 

そしてエイラとサーニャが隠れると、その先にラルとサーシャが歩いてくる。

 

「リトヴャク中尉…うちにも夜間戦闘に長けたウィッチが居ればな…」

「ですね。そうすれば、専門外の下原さんにかかる負担も減りますし…」

 

そう言いながら隠れているエイラ達の前を歩いていく。ラルとサーシャは502のナイトウィッチ不足の点を下原の固有魔法の力と地上指揮所との連携という形で補っているのが現状であり、純粋なナイトウィッチを欲しがっていたのだった。

そしてエイラは二人が歩いていったのを見てチャンスとばかりに動こうとする。

 

「よし、行ったな…今のうちに…っ!伏せろサーニャ!」

「っ!」

 

しかし、再び固有魔法で何かを察したのか、エイラはサーニャに伏せるように言う。

すると、今度は花束を持っていたクルピンスキーが歩いて来た。

 

「サーニャちゃん、どこかなー?昨日は狼君にやられたけど、今日こそはもっとお近づきになりたいなー」

 

と、花束を肩にかけて歩いていく。昨日シュミットの怒りに触れて連れてかれたクルピンスキーであるが、あれぐらいではめげないのがクルピンスキーである。再びシュミットに何されるかわかったものでもないのに、それでもサーニャと接触しようとしていた。

しかし、それは事前に察したエイラによって叶わず、クルピンスキーはそのまま歩いて行ったのだった。

 

「はぁ、まったく…皆、サーニャ、サーニャと。というか、なんであいつまたサーニャに接触しようとしてるんダ…?未来予知による絶対回避が無ければ捕まってたぞ…」

 

エイラは困ったように言う。そして同時にシュミットに連れてかれたクルピンスキーが、何故再びサーニャと接触しようとしてるのかと頭を抱えていた。

 

「気を引き締めなきゃな」

「エイラはさっきから誰と戦っているの?」

 

エイラの決意にサーニャは不思議に思いエイラに聞く。

 

「安心しろ。サーニャは私が守る!」

「…?う、うん…」

 

エイラに言われてサーニャは一瞬何のことかと首を傾げ、そして首を縦に小さく振る。

その後、エイラとサーニャは基地を隠れながら歩いていく。

 

「エイラ、そんなに街に行きたかったの?」

「ま、まあな」

 

そう話しながら歩いてるとき、エイラは曲がり角で誰かとぶつかった。

 

「うわっ!?」

「あっ!?」

 

エイラがぶつかったのは下原だった。そして下原は驚いた様子でエイラを見た後、何かを察したのかエイラに聞いた。

 

「あ…お出かけですか?」

(コイツは大丈夫そうダナ)

 

エイラは下原の反応を見て大丈夫そうだと思い、外出するとちゃんと伝えた。

 

「ああ、ちょっとな」

「そうですか。いってらっしゃい」

 

そうして下原はいってらっしゃいの挨拶をした。しかし、その時下原はエイラに手を引いてもらっているサーニャの姿を見て、目の色を変えた。

そんな下原に気づかずにエイラとサーニャは歩いていく。

 

「もうすぐだぞ、サー…にゃうぅっ!?」

 

そして突然、エイラは急にサーニャの手に急ブレーキを掛けられて驚く。そして振り返ると、衝撃の光景が映った。

 

「はあああ~…幸せ~!」

「あ、あの…?」

 

なんと下原がサーニャをホールドしているではないか。そしてそのままサーニャの頭にスリスリとして堪能しているではないか。

そんな姿にエイラはここ最近で一番驚く。

 

「わあああっ!?なにしてんだヨお前!?」

「ああもうサーニャさんかわいいです小さいです私もう我慢できませーん!」

「あ、あぅぅ…」

「ごめんなさい、本当は最初見た時からずっとこうしたかったんです!」

 

と言った様子で暴走する下原を、エイラは懸命にサーニャから引き剥がそうとする。

 

「こ、こらー!サーニャから離れろー!」

「後生です。もう少し、もう少しだけこの小さ可愛さを堪能させてくださーい!」

「はーなーせー!」

「あぅ…うぅ…」

 

エイラは懸命に下原を引き剥がそうとするが、下原はそれでも剥がれない。そしてサーニャはそんな下原に困った様子でただされるがままされていた。

その様子を、廊下の角から見ている人たちが居た。

 

「久しぶりに出たわね、下原さんの病気が…」

「俺らに続いて501からも犠牲者か…」

 

ロスマンと管野はその光景を隠れながら見ていた。そう、下原は一見普通そうに見えて、小さくてかわいいものに目が無い抱きつき魔だったのだ。そしてそれは502だけでなくついに501からも被害者を出す結果となってしまった。

 

「普段は物静かで奥ゆかしい子なんだけど…」

「あれ、地味に堪えるんだよなー…あっ」

 

ロスマンは普段の様子と比べ、管野は自分も被害に遭った時の状況を思い出して疲れた表情をする。その時、管野は奥から来た人物に気づいた。

 

「下原、サーニャが苦しそうだ。離してあげろ」

 

そう言って下原の肩を叩いたのは、突然現れたシュミットだった。そしてそれを聞き下原は慌てて抱き着いていたサーニャを離す。

 

「あっ、すみません!大丈夫ですか!?」

「いえ…」

 

下原は急いでサーニャに容体を聞くが、サーニャは疲れた様子ではあるが下原に大丈夫と言った。

そしてシュミットはここでエイラに話しかけた。

 

「エイラ」

「な、なんだヨ」

「外出許可、しっかりとっといたぞ」

 

その言葉を聞きエイラは驚く。そしてシュミットは続けて言う。

 

「隊長に話したら承諾をもらった。というより、休暇だから別に問題ないと言っていたぞ」

 

そう、シュミットはエイラの計画を知ってしっかりとラルに話を付けてきたのだ。そして、それを言おうと思って探しているとき、先ほどの現場に遭遇したのだ。

それを聞いてエイラはポカンとし、そしてすぐに表情を笑顔にしていく。

 

「ほ、本当カ!?」

「ああ、本当だ」

「ありがとナ、シュミット!行くぞサーニャ!」

 

そしてエイラはシュミットに礼を言い、再びサーニャと一緒に歩いていく。その光景を、シュミットは黙って手を振って見送っていく。

そんな中、下原がシュミットに聞いた。

 

「あの、シュミットさんは行かなくていいんですか?」

「ん?ああ、エイラがサーニャと二人きりで行きたいって計画してたんだ。私が加わるのはよくないと思ってな」

「でも、サーニャさんってシュミットさんの恋人なんですよね?」

 

それを言われ、シュミットは少し頬を赤くしてから返事をした。

 

「…まぁ、本音を言えば行きたいんですけど、まだ仕事があるんです…。だから、サーニャのことはエイラに任せることにしました」

 

そう言って、シュミットは再び廊下を歩いて去っていった。その後ろ姿を、下原とロスマン、管野は黙って見ていたのだった。

そして、外出許可を出したラルはというと――、

 

「寒いな…」

「廊下ですから…」

 

手にティーカップを持ちながら廊下でそう呟く。その横ではサーシャも同じようにティーカップを持っていた。何故二人が廊下にいるかと言うと、部隊長室に大掃除に来たジョゼが入り、ラルたちは追い出されてしまっていたのだった。

 

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12月31日。この日はサーニャは下原と共に台所に居た。下原は現在ジャガイモをボウルの中でつぶしており、サーニャはその向かい側でジャガイモの皮をむいていた。

と、その時下原がサーニャに話し始めた。

 

「あの…この前はすみませんでした」

「いえ、ちょっとビックリしましたけど…」

 

下原はサーニャにこの間のことを謝罪した。対するサーニャもそんな下原に特に気にした様子ではないようである。

 

「あの、サーニャさんって料理も上手なんですね。おかげで年越しパーティーの準備が捗りました」

「うんうん。流石サーニャさん!」

「え?」

 

と、下原は突然聞こえた声に気づき下を見ると、そこにはサーニャの腰に抱き着いて笑顔の表情をしているジョゼが居た。

 

「ふふ~ん」

「あーっ!?何してるの、ジョゼ!」

 

下原はそんなジョゼに叫ぶ。

 

「~♪」

「ずるい!私だって我慢してるのに!」

「えっ?」

 

と、下原の発言を聞きサーニャはびっくりする。そんな中、ジョゼはサーニャを抱いたまま話し始めた。

 

「だってサーニャさん凄いの」

 

そして訳を話し始める。ジョゼは大掃除の時、食糧庫を掃除していたら大切な食糧がネズミに食い荒らされているのを見つけた。その様子に困っているとき、サーニャが現れたのだ。サーニャは魔導針を使い食糧庫の中を探知すると、室内の隅っこに空いている穴に手を入れる。すると、その中からネズミが一匹出てきたのだ。サーニャは今回の犯人を捕まえて、二度と食べてしまわないようにしたのだ。

 

「ってわけで、サーニャさんは食べ物の恩人なの!ありがとう、サーニャさん。もうずっとここに居てください」

「え、えっと…」

 

大食いでグルメなジョゼは食に関しての恩人は大切にするようだ。

しかし、そんな中ジョゼはサーニャにスリスリとしているので、下原は自分も我慢していることをしているジョゼに怒った。

 

「こら!ジョゼ!」

「料理の準備はどうなって…」

 

そこに、ロスマンとサーシャが入ってくる。ロスマンは料理の状況を聞くが、目の前の光景に一瞬止まる。

 

「何をしているの?あなたたち」

「っ!?」

 

ロスマンからしたら下原とサーニャが互いに包丁を持って向かい合っている様子に見えたようである。三人は慌てて直立する。

そして下原が慌てて状況を説明した。

 

「は、はい!サーニャさんのおかげで順調に進んでいます。オラーシャ料理に関しては私より詳しいですよ。あはは…」

「へぇ…さすがね。私もオラーシャ料理のレシピはいくつか記録していますが、それだけに奥の深さもわかります。これは楽しみですね」

 

下原がそう説明すると、サーシャはサーニャの料理の腕を楽しみにする。

サーニャはサーシャに言われて少し照れる。

 

「そんなに期待されると…」

「じゃあ、メインはオラーシャ料理になるのかしら?」

「はい。ボルシチとピロシキです」

 

ロスマンに聞かれて下原が説明するが、その時に下原は包丁を掲げたためロスマンは思わず後ずさる。

そしてそれに続くようにサーニャも言った。

 

「あとオリヴィエとペリメニ。それと毛皮を着たニシンとか」

「ニシンが毛皮を着るの?」

 

ジョゼはサーニャの説明に疑問を浮かべる。

 

「酢漬けのニシンにビーツやジャガイモ、サワークリームとかを重ねて作るオラーシャ料理です。ケーキみたいで綺麗ですよ」

「はぁ…!楽しみ~!」

 

ジョゼはサーシャの説明を聞き目を輝かす。しかしサーニャは少し困った顔をする。

 

「イクラやキャビアも欲しいんですけど、補給物資に入れ忘れてしまって…」

「そう…だったら、これを使って」

 

材料の準備を忘れていたため困ったサーニャであったが、ここで意外な助け舟が出た。ロスマンがイクラとキャビアの入った缶詰を差し出した。

それを見て下原は驚く。

 

「え?これロスマンさん秘蔵の食材ですよね?」

「あなたたちなら、あのニセ伯爵みたいなマネはしないと信じられるもの」

 

そう言っているとき、その缶詰に手が伸びる。

 

「あーん。…やっぱりキャビアってしょっぱいだけだなー」

 

そして、何処から現れたのか、クルピンスキーがキャビアの缶詰を勝手に開けて食べだした。

 

「…うまい」

 

さらに、クルピンスキーの後ろでは何故かラルがロスマンのイクラの缶詰をつまみ食いしていた。

ロスマンはクルピンスキーに気づき悲鳴を挙げる。

 

「きゃあ!何やってるのニセ伯爵!おのれー!」

「隊長も、どさくさに紛れてつまみ食いしないでください」

 

ロスマンはキャビアの缶詰を奪うとそれを大事そうに持つ。そしてサーシャもつまみ食いをしているラルから缶詰を回収する。

そしてクルピンスキーとロスマンの追いかけっこが始まる。

 

「こら!待ちなさい!」

「ジョゼちゃん助けて―!」

「知りません!」

 

クルピンスキーはジョゼに助けを求めるが、ジョゼはクルピンスキーを突き放す。

 

「ひいー!」

「いいかげんにして!」

 

そしてクルピンスキーはロスマンに捉えられた。

一連の光景を、食堂の外から見ていたエイラが叫ぶ。

 

「こらー!お前らいい加減にしろよ!サーニャが困って…え?」

 

と、怒っていたエイラだったが突然その怒りを鎮めた。

 

「ウフフ…」

 

見ると、サーニャはその光景を見て笑っているではないか。エイラはサーニャが笑顔なのを見て止まる。

そしてそこにニパとシュミットが登場した。

 

「あ、いたいた。ねえイッル」

「ん?」

「今年最後の汗を流しに行こうよ」

 

そう言って、ニパはエイラの手を取る。

 

「え?おいちょっと…今、そんな気分じゃ…」

 

エイラはそう言うが、ニパに連れられてサウナに行ってしまう。

そしてシュミットは腕をまくりながら食堂に入ってきた。

 

「下原」

「はい!」

「台所、少し借りるぞ」

「はい…え?」

 

シュミットに言われて最初こそ返事をした下原だが、手を洗っているシュミットを見て驚いたように声を漏らす。他のみんなもそんな下原を見てシュミットの方を見た。

 

「シュミットさん…何か作るんですか?」

「ん?ああ、ちょっと年越しのケーキを作ろうかなと思ってな」

『ええっ!?』

 

何気なく言うシュミットであるが、他の隊員達は余りにも似合わないシュミットのそんな姿に驚きの声を上げる。

しかし、ここでサーニャが話し始めた。

 

「シュミットさん、ケーキを焼くのが凄く上手なんです。私の誕生日の日にも、501でケーキを焼いたんですよ」

 

サーニャに説明されてさらに驚く皆。

 

「な、なんていうか意外です…」

「シュミットさん、料理できたんですか…?」

「いや、下原より料理はうまくないんだよなぁ。お菓子作りなら得意なんだけど…しかしやっぱり意外かなぁ?」

「意外です」

 

意外と言われて少しショックを受けながら準備を進めるシュミットに、サーニャ以外の全員がただ黙って眺めているのだった。




シュミットが居るからエイラとサーニャは無事に街に行けました。いやぁ、やっぱりシュミット君がケーキ作るなんて想像できないだろうなぁ…。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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