その後、502の格納庫内ではサーニャ達によって運ばれた物資を下ろしていた。
「わぁ!ハムです!」
「こっちはりんごジャムだ!」
下原とジョゼは補給物資の中に食料の姿を見つけて嬉しそうにする。
「こっちは弾薬に武器…よかった。これで基地の機能麻痺の心配は無くなったな…」
もう一つの箱の中身を見てシュミットはホッとしたように息を吐く。
そんな中、ニパはある箱の中身を見て目を輝かす。
「あっ!ひかり見てー!」
二パは横にいたひかりに箱の中身を見せる。すると、ひかりは目をキラキラさせてその中身を見た。
「わぁ!」
そしてその後、格納庫内に大量のろうそくが並べられる。エイラとサーニャの持ってきてくれた補給の中にあったろうそくを並べたのだ。
二パは横に立つひかりに聞く。
「どう?ひかり」
「すごくきれいです…」
ひかりは目の前の光景に心を奪われる。ひかりだけでなく、502の隊員たち全員がその光景を見ていた。
「先生もキノコ採ったのにさ…なんで僕だけ…」
と、格納庫の端っこでぼやく者がいた。首から下に看板を掛けたクルピンスキーだ。看板には『私は破壊活動をしました』と書かれており、シュミットはその姿を見て「これじゃあ敗北主義者…」と、心の中でブルっていたのだった。
「スオムス軍より、502基地への補給任務、完了しました」
サーニャがラルに書類を渡す。ラルはそれを受け取った。
「確かに受領した」
「向こうも苦しいと聞いたけど…」
ロスマンは502だけでなくスオムス方面も補給がきつい状況であると聞いていたため、補給状況が気になりサーニャに聞く。
「エイラ達スオムスのウィッチが、ニパさんを助けるんだってかき集めたんです」
しかし、サーニャはこれがスオムスウィッチ達による厚い支援であると説明したため、周りもそれに納得した。
「助かりました。リトヴャク中尉、ユーティライネン少尉」
「いやー、そんな大したことはー」
サーシャに代表して礼を言われエイラは大したことじゃないと言う。しかし、その笑顔から感謝の言葉は届いた様子であった。
そして、補給によって無事にサトゥルヌス祭を開くことができた502は、テーブルに豪華な料理が並べられた。
「おい、雁淵」
「はい」
管野がひかりを呼び出す。ひかりは何だろうと思い返事をすると、彼女の目の前に一つの人形が渡される。
「わぁ…可愛い」
「マトリョーシカっていうオラーシャの人形よ」
サーシャが説明を加える。ひかりが受け取ったのはオラーシャ人形であるマトリョーシカである。
「お前にやる」
「ありがとうございます!」
「それ、真ん中から開くのよ」
管野からもらい喜ぶひかり。そしてサーシャは、マトリョーシカの秘密をひかりに説明する。サーシャの説明通りにひかりが開けると、今度は中に一回り小さなマトリョーシカ人形が出てくる。
「わぁ…!」
「まだ開くんだよ」
ニパがさらに説明を加える。そう、マトリョーシカ人形は開けると中に小さな人形が入っているのだ。
そしてその言葉の通りひかりは人形をさらに開けると、今度は中から沢山の木彫りの人形が出てくる。
「わぁ…いろんな動物がいっぱい!」
「それ、管野とサーシャさん、それにシュミットさんが作ったんだ。動物は全部502のウィッチの使い魔の形をしてるんだよ」
「へぇー!」
そう、中から出てきた動物の人形は、すべて502のウィッチ達の使い魔がモチーフになっているのだ。ひかりはその人形を見て感激していた。
「あっ、これ管野が作ったやつだ!」
「わぁ…!可愛いブタ!」
「犬だ…」
そんな中、クルピンスキーはこそこそと隠れながら四つん這いで歩いていく。
「匂う…匂うぞ…」
そしてクルピンスキーは輸送ソリで送られた物資の木箱のところに行く。
「僕を呼んでるこの香り…おっ!」
そしてクルピンスキーは木箱の中をあさると、その中から一本の瓶を取り出した。
「君かー!シャンパン君!」
クルピンスキーは中から出てきたシャンパンを見て喜ぶが、すぐさまそのシャンパンに別の手が伸びる。
「あぁ、隊長!?」
「これを振ったら楽しくなるかな?」
「なると思います」
シャンパンを手に取ったラルはロスマンに聞くと、ロスマンは賛同する。すると、ラルはシャンパンを横に振り始めた。
「あぁー…」
クルピンスキーがその姿を見て悲痛な声を上げるが、ラルはそのままシャンパンのコルクを指で弾いた。すると中からシャンパンが噴水のように舞い上がる。
シャンパンの中身は格納庫内の蝋燭の光を反射しキラキラと輝く。
「わぁ…綺麗…」
「うん!」
「せっかくのシャンパンがぁ…」
ひかりたちがその光景に見とれ、クルピンスキーはシャンパンが飲めずに嘆く。
そんな中、シュミットとサーニャ、エイラの三人は少し離れたところでその様子を見ていた。
「ちょっと心配してたんだけどナー」
「ニパさんのこと?」
「うん。あいつ502で浮いてんじゃないかって…」
「そんなことは無いぞ、ほら…」
そう言ってシュミットは二パの方を見る。それに続いてサーニャとエイラはニパを見ると、ニパはひかりたちといっしょに笑っていた。
「な?」
「心配ないみたいね」
「うん。心配して損した」
シュミットとサーニャに言われ、安心したようすのエイラ。
「…私も安心した」
「えっ?」
「ん?」
突然、シュミットがポツリと言ったのでサーニャとエイラは反応した。
「二人共元気そうでよかった。手紙だけだと、やっぱり心配だったから、こうやって二人の顔が見れて本当に安心した」
そう言ってシュミットは少し顔を赤くしながら頬を掻く。
「…サーニャだって心配してたんだゾ」
「ん?」
「エ、エイラ…」
と、エイラが突然切り出すのでシュミットは驚き、サーニャはエイラが言ってしまうと思っておらず顔を赤くして少し狼狽える。
それでもエイラは話す。
「サーニャだって、オマエが最前線に配属になるって手紙を受け取って心配してたんだゾ。自分だけ心配だったなんて思うなヨ」
エイラの言葉を聞き、シュミットは目を少し開き、そして再び戻す。そして今度はサーニャの方を見る。
「ありがとう、サーニャ」
「えっ」
「サーニャが心配してくれ、私は凄く嬉しいんだ。だから、ありがとう」
そう優しい声で言うシュミットに、サーニャは徐々に顔を赤くする。しかし、言ったシュミットもそんなサーニャを見て徐々に恥ずかしくなってきてしまい、顔を赤くする。
エイラはエイラで複雑そうな顔をする。二人の関係に横やりを入れたいのを必死で抑えているが、顔は素直なものである。
そしてシュミットはふと、ある物を思い出した。
「そうだ、これを忘れてた」
そう言ってシュミットはジャケットのポッケに手を入れ、中に入っていた物を取り出す。
「これ、二人に」
そう言って掌に出したのは、二つの木彫りの動物だった。それぞれ模した動物は猫と狐である。
「これ…」
「私たちの使い魔か!」
「うん。みんなの分を作った後、二人の分も作ったんだ」
そうしてシュミットはそれぞれの手に人形を手渡しする。
「その、サトゥルヌスのプレゼントとして受け取ってほしいな」
シュミットとしてはもっとしっかりとしたプレゼントを渡したかったが、物資不足の中で出せるプレゼントは限られていたため、これが精いっぱいだった。
「ありがとう、シュミットさん」
「ありがとナ」
サーニャとエイラは共にありがとうと言う。そして――、
「…!」
「なッ!」
なんと、サーニャはシュミットの右頬にキスをしたのだった。あまりに突然だった為二人は驚き思考が停止した。そして、それに気づいた502のメンバーは全員その光景を見て驚愕の顔をする。
『ああー!』
それぞれが驚く中、シュミットは徐々に思考を戻していき、そして顔を赤くした。
(これは、完全に不意打ちなプレゼントをもらってしまったな…)
そう思いながら、シュミットは照れ隠しに手元のコップの飲み物を仰いだのだった。
ううむ、やはり分けると少なくなってしまったなぁ…というわけで、サトゥルヌス祭を無事に開くことができた502。次回はOVAのあの話に入ります。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!