ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第五十話です。ついにあの二人が登場します。


第五十話「サトゥルヌスの再会」

「ニパさんと管野さんが、サトゥルヌス祭をやろうとしているようです」

 

翌日、隊長室でロスマンはラルに報告した。彼女はニパ達から相談こそされていないが、クルピンスキーからその話を聞き知った様子である。

それを聞いたラルは止めるかと思われたが、そうでは無かった。

 

「なら今日は二人は非番でいい」

「寛大なんですね」

「そうじゃない。今は哨戒任務さえ減らして、次の作戦の備蓄をしたい状況だ」

 

ラルとしては、備蓄を蓄えるうえで非番にしたのだと言う。その答えにロスマンは意外といった様子だった。

 

「あら?てっきり隊長もお祭りに興味があるのかと」

「…」

 

ラルは黙ったままである。しかし、ラルの頬はほんの微かではあるが赤くなっており、僅かに間が開いている様子から、ロスマンの推測もあながち嘘ではないようだ。

その反応を見てから、ロスマンは思い出したかのように再び話し始めた。

 

「それと、クルピンスキー中尉の風説の流布に対する懲罰の件ですが…」

 

ロスマンはクルピンスキーに対して懲罰をするのを思い出した。事の原因は、二パと管野がクルピンスキーの部屋を訪ねた際、二人に対して虚偽の言い伝えを流し二人をビビらせたのだ。因みに、この言い伝えのモデルとなっていたのがロスマンであったため、彼女としては意地でも懲罰を下したい様子であった。

そんな時、ラルは口を開いた。

 

「…モミの木」

「は?」

 

突然モミの木と言ったラルにロスマンは何のことだろうと考える。

ラルは続けて言った。

 

「…サトゥルヌスにはツリーが必要だ」

 

こうして、クルピンスキーの懲罰は決まったようである。

 

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「サトゥルヌス祭のこと、ひかりさんには教えてないの?」

 

格納庫内、テーブルを広げて木を削り彫刻を掘っているサーシャがニパに話しかける。

 

「うん。ひかりをびっくりさせたいんだ」

「わかったわ」

 

ニパはひかりにサプライズとしてこの祭りをしたいようで、本人にはまだ言っていないのだった。

 

「あ、管野さんできた?」

 

と、サーシャは管野が削り終えたのに気づき、その手に乗っているのを見る。

 

「へへん。我ながら傑作」

 

そう言って管野が差し出した手には、小さな動物の彫刻があった。どうやら管野は器用な様子であり、その彫刻の姿は極めて精工にできていた。

 

「へー、管野うまいじゃん」

「可愛い猫ね」

 

二パはその木彫りの動物を見て凄いと称賛し、サーシャは可愛い猫だと言う。

 

「…犬だ」

 

しかし、管野が作ったのはどうやら犬だったようであり、僅かに眉をぴくつかせていた。

その時だった。

 

「おはようございまーす!」

 

突然、格納庫の入口から聞き覚えのある声が聞こえ、三人はびっくりしたように反応する。

 

「!!」

「ひかりだ、まずいよ」

「隠せ隠せ!」

 

三人は急いでテーブルの上に乗っている木を片付ける。

 

「そんな急に…管野さん!そこに正座!」

「はい!」

「物資が厳しいのに、毎回ユニットを壊して…」

 

と、突然サーシャは管野を正座させる。すると管野は即座に返事をし正座をする。そしてサーシャは木を持ちながら管野を叱り始める。どうやらこうして誤魔化す作戦のようだ。そしてそれはうまくいき、そうやらひかりは気づいた様子では無かった。

そしてニパが慌ててひかりの下へ向かう。

 

「ひかり!寝てなきゃダメじゃないか」

「大丈夫です。熱も下がったし…」

 

ひかりは熱はもう下がったという。しかし、ニパはひかりのおでこに手を当てて熱を測る。

 

「…まだ少し熱が残ってるって。ほら、部屋に戻って」

「でも、私、昨日ずっと寝てたからトレーニングをしないと…」

 

その時だった。格納庫の大きなゲートから、突然メキメキと言う音が聞こえる。そして、そこに突然、大きな木が音を立てて倒れてくる。

 

「うわぁ!?」

 

二人は突然の出来事に悲鳴を上げる。そして、大きな土煙を上げた先に、二人の人影が見えた。

 

「いやー、やっと運んでこれたよー。いっちばんでっかい奴採ってきたからねー」

「おい…主に運んでたのは私だぞ」

 

この大きな木を運んできたのはクルピンスキーとシュミットだった。クルピンスキーは懲罰として、シュミットはモミの木の最初の提案者として同行していた。

そしてクルピンスキーは入口の所にいるひかりに気づき大声を出す。

 

「あ!ひかりちゃーん!見て見てー」

「わあ!中尉だめー!」

「ま、まて、言うな!」

 

ニパとシュミットはクルピンスキーが声を掛けたのに気づき、慌てて止める。しかし、その努力空しくクルピンスキーは口を開いた。

 

「ひかりちゃんの為のツリーだよ」

「あちゃー…」

「中尉のバカ…」

「だからあれほど言ったのに…」

 

クルピンスキーがばらしてしまい管野とニパ、シュミットは頭を抱える。シュミットに至っては、ひかりに遭っても「資材集め」と誤魔化すようにくぎを打っていたのに言ってしまったことで、両手を頭に抱えてうずくまっていた。

 

「私の…ための…ツリー…?」

「わぁあ、ほら、やっぱり寝てないと」

 

しかしひかりはその言葉を聞いた後、突然体をぐらりとしてしまい、慌ててニパが体を支えた。

その後、ニパはひかりを部屋に連れてベッドに寝かせた。

 

「私のためにお祭りですか?」

「うん。今中尉がロスマンさんと一緒においしいキノコを採りに行ってるから、楽しみにしてて」

 

ひかりにニパが説明する。あの後、クルピンスキーは注意が足りなかったことで情報漏洩をしたということで、ロスマンと共に懲罰としてキノコ採りに行ったのだった。因みに、事前にくぎを刺して止めようともしていたシュミットはお咎め無しだったため、基地でニパに変わって彫刻掘りをしている。

ひかりはニパに質問した。

 

「私、サトゥルヌス祭ってよくわからないんですけど…」

「欧州各地の冬至の伝承や風習が集まって祭りになったって言われてるんだ」

「でも、どうして私のためにわざわざそのお祭りを?」

 

ひかりは疑問に思いさらに質問した。質問されたニパは、少し昔のことを思い出しながら説明した。

 

「実は私が502に入ったのは、1年とちょっと前なんだ。スオムスでは同い年くらいの気の合う仲間と戦ってたから、502に配属されたばっかりの頃は緊張して全然馴染めなくてさ」

「ニパさんにそんな頃があったなんて…」

 

ひかりは何時ものニパとは想像できない様子だった。

 

「でも、ちょうど1年前に基地でサトゥルヌス祭があったんだ…スオムスでも、いつも仲間と一緒にサトゥルヌス祭で明かりを焚いていたんだ。だから、ここも同じだと思ったら元気が出てさ」

 

ニパの頭の中に、当時の光景が蘇る。基地の前に大量のろうそくがあり、それがキラキラと輝いている光景が。

 

「あれ以来、私は502に馴染めるようになった気がするんだ」

「お祭り…私も大好きです」

 

ひかりもお祭りが好きであり、ニパの話を聞いて楽しみにする。

 

「祭りって、人と人との心を繋ぐ不思議な力があると思うんだ。だから、ひかりにもサトゥルヌス祭を楽しんでもらいたくて」

「ありがとうございます…ニパさんって優しいんですね」

 

ひかりの言葉に、ニパは照れる。

 

「え、いや、そろそろキノコ届いてるかな!ちょっと見てくるね!」

 

そして、照れ隠しで部屋から出て行くニパ。そして、二パは食堂に着いたとき、それは()()()()()

食堂のキッチンでは、ロスマン、下原、ジョゼの三人が居た。しかし、なぜか全員机にひれ伏していた。

ニパは様子がおかしいと感じ、全員に声を掛ける。

 

「ど、どうしたのみんな!?」

「このキノコを料理したら…」

 

ロスマンは懸命に何かをこらえながら、スープ皿に入っているものをニパに差しだす。ニパがそれを取り中身を見ると、びっくりしたように反応した。

 

「これってワライダケじゃん!なんでこんなのを…」

 

そう、スープの中に入っていたキノコはワライダケだったのだ。そして、食べている人全員が今、懸命に笑いをこらえていたのだ。

そして、事の成り行きを下原が話し始める。笑いをこらえながら。

 

「クルピンスキーさんが絶対おいしいって…くくっ」

「えー!?」

 

ニパが驚く中、後ろから声を掛けられる。

 

「二パ君ごめん…せっかくの祭りを台無しにして…ぐっひゃっひゃっひゃっ!」

 

そして謝罪をするクルピンスキーではあるが、笑い声が完全に台無しであった。

そして、不は連鎖する。突然、基地内に警報が鳴りだす。

 

『中型ネウロイ一機、基地に接近中!』

 

索敵兵により、ネウロイの接近を知らせる報告が来る。

 

「こんな時にネウロイだなんて!」

 

ニパはそう言いながら急いで格納庫に走る。

そしてニパは中にいる三人を呼ぶ。

 

「管野!サーシャさ…」

「だーっはっはっはっ!!」

「ふふ…ふふふ…」

「あっはははははははは!!」

 

しかし、既に遅かった。スープを飲んでしまった管野とサーシャ、そしてシュミットはワライダケの力に伏してしまっていた。

 

「こっちもかよ…」

『ニパ、聞こえるか』

「隊長!」

 

その時、ここでニパに希望が舞い降りる。なんと無線でラルがニパを呼んでいるではないか。

 

『出撃できるのはお前だけだ、頼んだぞ』

「了解!」

 

そうしてニパはユニットを履きMG42機関銃を持つ。その時、後ろから声がする。

 

「ニパさーん!」

「ひかり!?」

 

なんとひかりが格納庫入り口から入り、そしてひかりはその足でユニットのところに向かっていた。

ニパはそれを見て静止させる。

 

「私に任せて!絶対に来ちゃだめだからね!上官の命令だよ!」

「えっ!?…了解」

 

ひかりはニパに上官命令を言われてしまい立ち止まる。その時だった。基地に衝撃が走り、格納庫入り口に燃えるツリーが倒れてくる。

 

「あっ!ツリーが!!」

「くそっ!よくもー!!」

 

ひかりがツリーの惨状を見てショックを受ける中、ニパは塞がった格納庫入り口の隙間から離陸をし、そして上空のネウロイに向かう。

 

『敵の発見が遅れたのは、何らかの能力に思われる。十分に注意しろ』

「了解!隊長はまともでよかった…」

 

指示を受け返事をしたニパは、唯一無事だと思われるラルの様子に心強さを感じた。

しかし、実際は違った。

 

「ぐっはっはっはっはっはっは!」

 

部隊長室内、ラルの笑い声が響き渡っていたのは当人以外知らなかったのだった。

そしてニパはしばらく飛行し、侵入してきたネウロイを発見した。

 

「あれか!」

 

すぐさま上昇をし高度の優位を保つと、そのまま背後に回り込み、後ろから機関銃弾を浴びせた。

しかし次の瞬間、攻撃を受けたネウロイはまるで煙のように姿が消えた。

 

「カモフラージュか!くそっ、どこだ!?」

 

ニパは周辺を懸命に探すが、一向にネウロイは現れない。その時だった。

 

『二パさーん!』

「ひかり!?」

『11の方角です!』

「あっちか!」

 

突然、インカムに光の声が流れ、ニパは急いで11の方角に急行した。しかし、いくら飛んでもネウロイは発見できない。

 

「どこだ…!?ひかり、居ないよ!」

『えっ!?私は見えていますよ!』

「えっ!?…ひょっとして!」

 

ニパはひかりの言葉を聞いて何か閃き、そしてそのまま背面飛行をして急降下をする。すると、先ほどまで姿を現さなかったネウロイの姿がはっきりと確認できるではないか。

 

「居た!やっぱりカモフラージュしてるのは上の方だけだ!」

 

ニパはネウロイがカモフラージュしているのは上だけだと判断し下に潜ったのだ。そしてその体制のまま二パは機関銃の引き金を引く。ニパの攻撃を受けたネウロイは急いで離脱するべく、形状を変化させて高速移動を開始する。

ニパはそのネウロイについていきさらに銃弾を浴びせる。その時だった。

 

「えっ?ええっ!?詰まった!?」

 

なんとニパの持っていたMG42が弾詰まりを起こしてしまい、ニパは攻撃できなくなってしまった。

そしてネウロイはその瞬間を好機と捉えたのか、今まで回避に徹していたのから一変して今度はニパに集中攻撃を開始した。

 

「ニパさん!?」

「何でこんなについてないんだよ!!」

 

ひかりは集中攻撃を受けている二パの様子を心配し悲鳴を上げる。ニパは自分の幸運の無さがここで出たことに対して最悪だと思った。

万事休す、と思われた次の瞬間。攻撃を受けているニパの後方から、数発の大型弾頭が飛来する。 そしてその弾頭はネウロイに向けて全弾命中した。

 

「えっ!?」

「誰が撃ったの!?」

 

空に上がっているのはニパだけである。それなのに、後ろから攻撃が着たことに二人は驚いた。

そしてネウロイはその攻撃にコアを露出し、居てられなくなったのか、再び急旋回をする。

 

「コア、確認」

 

と、逃げるネウロイにニパのいる場所から違うところから弾丸が飛んでいき、ネウロイのコアに命中。そしてついに、ネウロイはその姿を光の破片に変えたのだった。

 

「一体、何が…?」

 

二パは目の前の不思議な光景にただ呆然とする。その時、ニパは後ろから声を掛けられた。

 

「よー、ニパ」

 

ニパは呼ばれて振り返り――そして最大級の歓喜の顔をした。

 

「あー!!イッル!!」

「へへーん」

 

なんとそこに居たのは、ユニットと機関銃を持ち、サンタクロースの格好をしたエイラだった。

さらにそれだけでは無かった。

 

「敵、撃破確認。オールグリーン」

「サーニャさん!」

「お久しぶりね、ニパさん」

 

エイラだけでなく、今度はサーニャも現れるではないか。ユニットにフリーガーハマー、そして彼女もエイラと同じようにサンタクロースの格好をしていた。

 

「えっ?誰?」

 

ひかりは上空に居る人物が誰か知らずにポカンとする。

 

「エイラ!サーニャ!!」

「501のリトヴャク中尉とユーティライネン少尉…」

「なんだ?あの派手な服」

 

すると、ひかりの後ろに先ほど格納庫に居た三人が出てくる。シュミットはエイラとサーニャ、特にサーニャの姿を見て大きく目を開き。サーシャは冷静に何故ここに居ると言った様子で、管野は赤い服装をしている二人が気になる様子で同じように見る。

 

「管野さん、サーシャさん、シュミットさん。もうおかしくないんですか!?」

「おめー、喧嘩売ってんのか!?」

「私達、食べた量が少なかったから」

「右に同じ…しかし、サーニャが来るとは思わなかった」

 

ひかりがなかなかに失礼なことを言うので管野はジト目でひかりを見る。そしてサーシャは原因を説明し、シュミットはサーシャの言葉に同意した後、再びサーニャを見る。

 

「えっ?サーニャさんって…」

「ああ、この前言った私の恋人だ」

 

ひかりはシュミットの言葉を聞き質問すると、案の定シュミットが言う。

 

「えっ!?おめえ恋人居たのか!?」

「あれ?言ってなかった…なぁ」

「言ってねえよ!」

 

この中で唯一そのことを聞いていなかった管野は、シュミットに恋人が居ると知らずに驚く。

そんな中、シュミットは凍った川を渡る不思議なものを見つけて指をさした。

 

「ん?あれを見ろ」

「何だありゃ!?」

「NKL16…輸送ソリよ」

 

輸送ソリはそのまま502基地の方向へ向けてやってくる。そこに、エイラとサーニャが高度を下げて並行する。

 

「サトゥルヌスのプレゼントです」

「いい子にしてたかー?ニパ」

 

なんとそれは二人が運んできてくれた補給物資だった。彼女たちは偶然ここに来たわけでは無く、補給物資を運ぶ任務を任されてやってきていたのだ。

 

「ア、アハハハ…」

 

そしてエイラにいい子にしてたか聞かれたニパは、思わぬプレゼントを貰い笑うのだった。




エイラ&サーニャ登場。そしてシュミットはワライダケを食べてしまった。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回。

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