ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第四十八話&通算50話目です(設定等も込み)。それではどうぞ!


第四十八話「封じ込めた記憶」

翌日、再び行われたマーカー型ネウロイ捜索に出たシュミット達。この日は二つのチームに分かれ、ニパとひかりのペア、サーシャとシュミットのペアで飛行していた。

ニパとひかりは共に海軍港周辺を飛行していた。

 

「今日は別行動なんですね、ニパさん」

「うん。サーシャさんが街を記憶して、ネウロイが潜んでいるのを見破るんだって。シュミットさんはサーシャさんの付き添い」

「えっ!?この街を全部ですか!?」

 

ニパの説明を聞きひかりは思わず驚くが、ニパはまさかという反応をした。

 

「流石にそれは無いよ。次にネウロイが狙いそうな施設の周辺を記憶して、あぶり出すんだって」

「へぇ~」

 

ニパの説明を聞き関心するひかり。だが、ニパは横を見ながらよそ見飛行をしてしまい正面に気づかず、先に気づいたひかりが慌ててニパの名前を呼ぶ。

 

「ニパさん前!」

「え?ぎゃ!」

 

しかしニパはその言葉に反応できず、正面に迫っていた()()に激突した。

 

「ニパさん大丈夫ですか?」

「またかよ…えっ?」

 

ニパは自分の激突した銅像を確認し、そして不思議に思う。そこは建物の屋根より高い高度、本来ならこんな場所に銅像などありはしない。

 

「こんなところに銅像…?」

 

そう思った次の瞬間、銅像の形がぐにゃりと変形をする。そして、昨日見たネウロイの形になった。

 

「わわあぁ!?」

 

二人は慌ててネウロイに機関銃を向けるが、ネウロイはバレたと知ると一目散に逃げ始め、弾をすいすいと避ける。

その様子は別行動中のシュミットとサーシャにも届いた。

 

『マーカーネウロイ発見!追跡中です!』

「なにっ?」

「位置は?」

『えっと、海軍港を北に…わあっ!ニパさんが頭からズズズって街灯に!ニパさんしっかりして―!!』

 

と、状況報告をするひかりがこんがらがったように言うが、同時に位置を報告してくれたおかげで場所は分かった。

 

「全くあの子ったら…ついているのやらいないのやら…」

「とにかく追いかけよう。今度こそネウロイの好きにはさせない」

 

そうして二人は報告のあった海軍港の方角に向かう。すると、その道中に街灯にめり込んでいるニパを見つけ、さらに奥には木に絡まっているひかりが居た。

 

「何でそう絡むことができるんだ…」

「あっ!あそこです!」

 

シュミットは思わずその姿を見て言うが、ひかりはそんなことを構わずネウロイの方向を指す。

そこには銅像が一つ立っており、その手前にいびつな形をした像が立っていた。間違いなくネウロイの変形したものだ。ネウロイは自分を見ているシュミット達の方をチラリと見る。

 

「それで隠れたつもりか!」

「バレバレよ!」

 

シュミットとサーシャが機関銃を撃つと、ネウロイはそそくさとその場から逃げる。そしてそれをシュミットとサーシャが追いかける。しかし、昨日と同じように段々とシュミットは遅れが生じる。

 

(くそっ…戦闘機でこんなところ通ることなんて殆ど無いからな…)

 

しかしそれでも懸命に食らいつくシュミット。その時だった。

 

「きゃあ!」

 

突然、サーシャがバランスを崩した。そして同時に、魔導エンジンが止まっているのを見てサーシャが気絶したとシュミットは感じた。

 

「サーシャさん!」

 

その頃、ペテルブルクから88km離れたラドガ湖周辺地点で、砲撃型ネウロイ捜索班はついにそのネウロイをあぶり出した。

 

「あぶり出し成功!さすが先生!」

「あれだけ砲撃を受けていれば、砲撃地点からある程度潜伏地点を絞り込めます」

 

管野がロスマン先生を見る。砲撃ネウロイの潜伏地点を割り出したのはロスマンだったのだ。

砲撃型ネウロイはあぶり出された腹いせに攻撃を開始する。

 

「さぁ、仕留めますよ」

『了解!』

 

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「…うっ」

 

サーシャは暗転していた意識を徐々に戻す。そして同時に、自分に感じる温もりに気づく。

 

「気付いたか」

「…えっ!?」

 

突然、自分の上から声が聞こえて思わず顔を上げる。すると、目の前にシュミットの顔が見えるではないか。そして自分の姿を見ると、シュミットがサーシャの体を大事そうに抱いていたのだ。

サーシャは驚き慌てて離れる。

 

「きゃあ!?」

「わっ!?」

 

いきなり弾き飛ばされシュミットは地面に再びたたきつけられる。そしてサーシャはシュミットを見た後周りを見て、状況を理解した。

シュミットとサーシャの足にはユニットが付いておらず、離れたところにある。そしてその間には地面を擦ったような跡が雪に残っており、同時にシュミットの来ている服の背中が汚れているのが見えた。

そしてシュミットだ付け足すように説明する。

 

「いや…サーシャさんが急に気絶して墜落しそうになったから、急いで自分がキャッチしたんだ…だから、疚しい気持ちとかじゃなくてだな…」

 

慌てたように説明するシュミットを見て、サーシャは完全に理解し、そして罪悪感を感じた。シュミットは自分を助けてくれたのに、それを知らずに自分は弾き飛ばしてしまったことに。

そして同時に、現在サーシャは駆け巡る激しい鼓動を感じていた。

 

(なによ…この鼓動…)

 

サーシャは胸の中を巡る鼓動を振り払おうと頭を振り、そして周りの景色を見る。その時、サーシャはある建物を見て目を開いた。

 

「…っ!これって!」

 

サーシャは驚いたように建物を見た。それはペテルブルクに立つ立派な寺院だった。そして、サーシャは頭の中にある光景が蘇った。

それは、小さい頃のサーシャが建物の窓からその寺院を見た光景だった。

 

「やっぱり…やっぱり、私は」

「…サーシャさん?」

 

サーシャは自分の記憶を懸命に思い出す。そんな姿をシュミットはどうしたのかと思い不安そうに見る。

そこに、ひかりとニパが到着した。

 

「サーシャさん!」

「大丈夫!?怪我してない?」

 

ニパはサーシャの容態を気にするが、サーシャはそれよりも気になることがあり、三人の元から離れ、そして周辺の景色をぐるぐると見始める。

 

(私は、この街を知っている。この街に居たことがある)

 

そしてサーシャは思い出した。

 

(そうだ…まだ小さい頃、私はおばあちゃんの家にお母さんと遊びに来たんだ…そして、街の子供たちと遊んでいた時…)

 

そこで、景色は流れる。子供たちと遊ぶサーシャの元に、暴走した一台の車が突っ込んでくる。サーシャはその車に引かれそうになり、思わず車に対して手を出した。すると、目の前に魔力シールドが現れ、車の衝突を防いだ。

 

(私は、初めて魔法力を発動した…)

 

そして、サーシャは振り返った。すると、そこには先ほど一緒に遊んでいた子供たちが一斉にサーシャを見ていた。しかし、その表情は先ほどの笑顔とは打って変わって、まるでサーシャをうかがうような目で見ていた。それだけでなく、周りの大人たちまでサーシャをうかがうように見ている。

そんな反応をされ、幼いサーシャはその場から逃げるように走り出した。

 

(周囲の反応が恐ろしくて…私は、泣きながら駆け出して…そして)

 

サーシャはそう思いながら、一つの建物の前に立ち止まる。

 

(…おばあちゃんの家に逃げ込んだのよね)

 

そこは、サーシャの祖母の家だった。サーシャはそこの建物の扉を開け、そして中に入る。

 

(オラーシャは迷信深いところがあったから、魔女扱いされることも魔女になった自分も全部が怖くて、自分で記憶を閉ざしていた…だから、この街がどうなろうともよかったのかも)

 

そう思いながら、サーシャは棚にかかっていた一つの写真立てに気づき、それを手に取る。そこにあったのは、小さい頃のサーシャを抱きしめる母、そしてそれを見守る祖母の姿が映っていた。

 

(お母さんもおばあちゃんも、泣いて帰ってきた私を抱きしめてくれたっけ…)

 

そして、サーシャはそっと、写真立てを自分の前に持っていき思いに浸る。

暫く部屋の中に静寂が訪れる中、入口の方から声がする。

 

「あ、あの…」

「どうしたの?サーシャさん…」

 

声を掛けたのはひかりとニパだった。二人はサーシャの行動が不思議に思い、ついてきていたのだった。

サーシャは自分の為すべきことを思い出し、その写真をもとの位置に戻す。

 

「ごめんさない。任務に戻ります」

 

そうして、気持ちを切り替えるサーシャ。そして三人は外に出ると、外では建物の壁にもたれかかる形でシュミットが立っていた。

 

「サーシャさん、さっき連絡があった。砲撃型ネウロイを発見して交戦中だそうだ」

「そう。私達も早くマーカーネウロイを見つけたいところだけど…」

 

マーカーネウロイを発見し、それを撃退するのがシュミット達の任務である。しかし、先ほどの出来事からシュミット達はネウロイの位置を見失ってしまっていた。

 

「くっそー…あそこに通信所があるからこの辺が次の目標なのかも」

「へっくし!」

 

と、ニパが向いた寺院の方向を一斉に見た時、突如ひかりがくしゃみをした。

 

「すみません。あの建物が凄いキラキラしてて…なんでくしゃみ出るんだろう…」

「あはは、変なの」

 

ひかりの言葉を聞いてニパは笑う。しかし、サーシャは目の前の建物を見て目を細めた。

 

「違う…」

「えっ?」

「どうした?」

 

サーシャの言葉を聞き三人は何のことかと疑問に思う。しかしサーシャは目を瞑り黙ってしまう。

 

(記憶を閉ざすほどに嫌いだったこの街…皮肉ね。その時の記憶が役に立つなんて)

 

サーシャはそう思い、そして目をそっと開く。

 

「あの寺院に尖塔は無い!」

「えっ?」

「なんだって?」

 

周りが驚く中、サーシャは先に飛行して寺院に向かう。それに続くようにシュミット達もついていく。

 

「サーシャさん!尖塔ってあの先っちょのやつでしょう?」

「それで隠れたつもり!?」

 

ニパが聞く中、サーシャはそのネウロイに向けて持っていた機関銃を向け、そして発砲する。すると、最初こそ巧妙に隠れていたネウロイが間ともに弾丸を食らってしまい、その色を黒色に変える。

 

「あっ!?」

「居た!」

「くっ!」

 

ひかりとニパは突然ネウロイが現れたことに驚くが、シュミットはすぐさま持っていたMG42を向けてサーシャと同じように発砲する。

すると、ネウロイは複数の銃弾を受けてもがく。しかし、ここで問題が起きた。ネウロイがその体を破片に帰る前、突如上空に何か赤い光をチカチカと放った。

 

「しまった!?」

 

サーシャがその行動に気づくが、ネウロイはその姿を破片に変えた。しかし、破片に帰る前につけたマーカーは消えない。

 

「マーキングされた!」

「くそっ!第一斑!急いで砲撃型ネウロイを倒してくれ!」

 

丁度その時、砲撃型ネウロイ攻撃班はようやくコアを発見した。

 

「コア発見!」

「一気に決めてやるぜ!」

 

管野は威勢よく宣言し、自分の持っていた機関砲を放り投げ、右手を掲げる。そしてその先にシールドを展開すると、その力を右手に集中させた。管野の固有魔法『圧縮式超硬度防御魔法陣』による効果だ。そして管野はそのままネウロイに急降下をする。

しかし、ネウロイはここで行動を変えた。先ほどまでビームで攻撃をしていたネウロイは、突如自分の持つ砲身を上に向けて、そこから弾を放ち始める。

その射線上に居た管野は驚きよろける。

 

「しつこいよ!」

 

すぐさまクルピンスキーがカバーに入り、ネウロイのコアに弾丸を浴びせる。それにより、ネウロイは力尽きその姿を破片に変えた。しかし、撃ちだされた弾丸はその限りでは無く、そのままペテルブルク方面に飛翔していった。

 

「すみませんサーシャさん、撃たれました!50秒でそちらに着弾します!」

 

下原はすぐさまサーシャに報告をする。

 

「了解、至急退避します。攻撃を受ければこの辺りも無事では済みません」

 

サーシャはすぐさま命令をするが、それを聞きひかりとニパは驚く。

 

「えっ!?でも…」

「ここにはサーシャさんの…」

「行ったはずです。無人の街を防衛する必要は無い、と。これは命令です」

 

そう言って、サーシャは離脱を開始する。ひかりとニパは困ったように顔を見合わせた後、それに続く。

しかし、それにシュミットはついていかずにホバリングしていた。ひかりはそんなシュミットに気づく。

 

「シュミットさん!早く離脱しましょう!」

「えっ?」

 

ひかりが呼びかけるが、シュミットは砲撃が来るであろう方向を見ながらホバリングしており、動こうとしない。

 

「シュミットさん!?」

「言ったはずだ」

「えっ?」

 

突然、シュミットが口を開きひかりは驚く。

 

「街をネウロイから守るのもウィッチの役目だと」

「なっ!?」

 

シュミットが昨日言っていた言葉を思い出し、全員が目を開く。その間にも、砲弾は寺院に向けて飛来してくる。

 

「何をしているの!?早く逃げて!」

「シュミットさん!」

 

皆が呼びかけるが、シュミットは動かない。そして、砲弾を肉眼で確認し、その着弾位置にシュミットは急行すると、手に持っていた機関銃を放り投げ渾身の力を込めてシールドを展開した。無論、シールドには強化を掛け、いつもよりも数段頑丈なシールドを形成する。

そして、その砲弾はシールドに吸い込まれるようにぶつかった。しかし、その勢いと衝撃は凄まじく、シールドから巨大な火花を散らす。

 

「止まれえええええ!!」

 

シュミットがそう叫ぶ。その時だった。

徐々に削れていた砲弾はついに削り切ってしまい、空中で大きな爆発を起こす。そして、その爆炎の中にシュミットは飲み込まれた。

 

「シュミットさん!」

 

サーシャが叫ぶ。すると、その爆炎の中からシュミットが現れる。しかし、その高度は徐々に下がっていく。

そんな姿を見てサーシャは急いで急行し、そして徐々に落ちていたシュミットを持ち上げる。そしてそのまま地面に下りる。

 

「シュミットさん!?シュミットさん!!」

 

サーシャは懸命にシュミットを呼ぶ。シュミットは頭から血が出ているが、その呼びかけに目を開く。

 

「シュミットさん!よかった…」

 

目を開いたシュミットを見てサーシャは安心したように声を漏らす。そして、すぐさま表情を変えた。

 

「何故このような無茶な真似をしたんですか!」

 

サーシャはシュミットがあのような行動をしたことを怒っていた。目に涙を浮かべているサーシャを見て、シュミットはポツリと言った。

 

「…街が壊されるのが嫌だった」

「えっ?」

「私は、前の世界で爆撃で燃える故郷の街を見て、それで街が壊される姿をもう見たくないと思った。だから、ペテルブルクも今は人が居なけど、いつか人々が帰ってくる街だから、絶対に守ってやるって思って…それに」

 

そう説明して、シュミットは少し間を空ける。

 

「…それに、サーシャさんの大切な街だったから」

「っ!」

 

その言葉を聞き、サーシャは目を見開く。まさかそのようなことを言われると思っていなかったサーシャは、自分の為に街を守ったなんて思わなかった。

シュミットは訳を説明した後、頬を人差し指で掻き、目を少し逸らす。

 

「…まぁ怪我するのは覚悟の上だったけど、おかげでユニットが壊れちまった。正座も覚悟しなきゃいけないなぁ…っ!」

 

そう溜息を吐きそうになった時、シュミットは突然自分の顔に冷たい感触を感じサーシャを見る。なんとサーシャは目から涙をぼろぼろと零していた。突然涙を流すサーシャを見てシュミットは驚く。

 

「うっ…うっ…」

「なっ、サーシャさん?」

「うわぁーーーん!!」

 

突然、サーシャはシュミットの胸に抱き着き泣きだす。突然の行動にシュミットは驚きあたふたする。

 

「わぁ!サーシャ!何だ!?ちょ、何が一体?って、二人共見てないでどうにかしてくれ…!」

 

シュミットは思わずサーシャを呼び捨てで呼ぶ中、この姿を見ているひかりとニパに助けを求める。しかし、その助けは届かず二人はただ笑って見ているだけだったのだ。




シュミット君が思っていた街を守る責任感、それは自分の故郷の惨劇から生まれたものだった。それと、なんて言いますか…シュミット君!君はオラーシャキラーですか!?
とまあ、オリジナル展開に走ったこの話でした。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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