その後、ペリーヌとシュミットは501基地のあちこちを移動していた。その途中で、ペリーヌが部隊での規則なども説明していた。時々シュミットが規則について質問をし、それにペリーヌが解りやすく答えた。
そして、基地の案内が終わる頃には、時刻は昼頃になっていた。
「……そろそろお昼ですから、食堂に向かいましょうか」
「解った、クロステルマン少尉」
「……ペリーヌと呼んでいください、シュミット少尉」
食堂に向かう前、ペリーヌがシュミットに言った言葉はシュミットを驚かせた。しかしペリーヌからしたら、案内をしている途中でも解る真面目さを理解し、信用に足る人物と理解したからであった。
「解った。できれば俺も階級無しで呼んでほしいな、ペリーヌ」
「解りました、シュミットさん」
こうして、シュミットとペリーヌの関係は少し改善された。
その後シュミットとペリーヌが食堂に付くと、すでに隊員が座っていた。
「ご苦労だったペリーヌ。よくやった」
「ありがとうございます、少佐!」
坂本がペリーヌに礼を言い、ペリーヌはしっかりとした返事を返す。しかし、それをルッキーニがニヤニヤしながら見ているのを見て、シュミットはペリーヌの坂本への心酔を心の中で理解したのだった。
そして食事が始まったと同時に、ミーナは思い出したかのようにシュミットに話しかけた。
「そういえばシュミット少尉」
「ん?どうしました?」
「午後から訓練を行うため食事が終わったら格納庫に来てほしいの」
「あー、はい。解りました」
訓練と言われて、いったいどんなものかと考えたが特に気にも留めずに返事をした。
そして食事を終え、シュミットは格納庫に向かった。そこには、先に食べ終わっていたミーナ、坂本、そしてペリーヌがいた。おそらくペリーヌは坂本についてきたのだろう。
そしてそこにあったのは、台に固定された不思議な機械だった。外見と色はどことなく、シュミットの乗っていたFw190に似ている。
「……これは?」
シュミットが思わず質問する。
「これは私達の空飛ぶ箒、『ストライカーユニット』です」
「……ストライカー……ユニット」
ミーナから言われた言葉に、シュミットは上の空で返す。そして、その機材をまじまじと見つめだした。
「このユニットの名前は『フラックウルフ Fw190』。この基地で使っているのは大尉のD-6型のみで、これはその一つ前のA-6型」
「Fw190のA型か」
「そう、貴方の前使っていた機体と合わせたの」
シュミットの乗っていた戦闘機はFw190A。ミーナ中佐はそれを配慮し用意してくれたのだ。
「さっそくこいつを履いてみるんだ」
坂本は当たり前のように言うが、シュミットは履こうとして思い出した。シュミットは今長ズボンを履いている。そのため、足を入れようにも口が細くて入らないのだ。
シュミットは急いで軍服のズボンを捲り上げ始めた。
「何をしているんだ?」
「いや、口が小さくて長ズボンだと入らないので……」
「?…………あぁ、なるほど」
坂本の疑問にシュミットは答えるが、彼女は何のことか一瞬理解が遅れた。ウィッチは基本女性しかおらず、男性が乗ることを考えて設計はされていない。シュミットの足は細身だが、長ズボンを履いたままではユニットに足が入らない。
そして、ズボンを捲り上げたシュミットはストライカーに足を入れる。
「よし、まずは魔力を流してみろ」
「魔力を流すって……」
いきなり坂本に言われて、シュミットは困惑する。そもそも魔法力に目覚めたのは今朝。それをいきなり足の推進機に魔力を流せと言われて戸惑うのも当然である。
しかしシュミットは、頭の中でなにかを閃いたのか目を瞑りだした。すると、ユニットにプロペラが現れ、足元に大きな魔方陣が展開される。今、彼の頭の中では戦闘機を動かすプロセスが描かれている。
その光景に、ミーナは内心驚いていた。初めて見る物と初めての体験。それをシュミットは特にマニュアル無しでやってのけたのだ。そしてシュミットは次に何をしたらいいのかわからず、目を開いた。
「あの……これでいいですか?」
「ああ、大丈夫だ」
そうして今度はその光景を見ていたペリーヌを入れて、編隊を組んで飛行することになった。
「それでは先導します」
そう言って、ペリーヌはユニットを履きながら離陸する。シュミットもそれを見様見真似で離陸を開始する。その時も、頭の中では戦闘機の離陸のイメージをする。そうして、空中で待機しているペリーヌのところまで上昇し横に並ぶ。
そうして、編隊飛行を開始する。初めの内は、ストライカーユニットを履いている感覚に慣れず、何回も編隊を外している場面が目立っていたが、飛行を開始してからしばらくして、彼はその特性を掴み、後半には自由自在に飛行していた。
それを地上から見ていたミーナと坂本は感心したように微笑んだ。
「シュミット少尉は要領がいいのね。この短時間であそこまでユニットを扱うなんて……」
「そうだな。まるで生まれ持った才能のようだ」
そうしてしばらく飛行してから、ペリーヌとシュミットは基地に降り立ち、ミーナと坂本の前にホバリングしながら停止した。
「すごいわね、初めて履いた人でここまで扱った人は見たことないわ」
「ホントですか?」
ミーナの言葉にシュミットは驚いた。まさか初訓練でここまで褒められると思っていなかったからだ。
「うむ、これならすぐに実践参加も出来そうだな」
坂本も言う。シュミットはその言葉に嬉しくなり少し笑った。
「あっ……」
それを見てペリーヌが驚いたように声を出す。
「どうした?」
「いえ……今初めて笑ったと思いまして」
その言葉に、ミーナと坂本もそういえばと思った。そう、シュミットは今までこの基地に来てから笑った姿を見せなかった。そのため、今初めて笑った姿を見てみんなが驚いたのだ。
「いや、嬉しくて……その、褒められたことが」
それを聞いてミーナや坂本、ペリーヌはシュミットの純粋な言葉に微笑んだ。
その後、ユニットの訓練を終えたシュミットは、ミーナから彼が使う武装について説明を受けていた。
「このMG42が部隊の中で多く使われている機関銃。他にも、扶桑の九九式やM1918などもあります」
その説明を聞いてシュミットは悩んだ。どれも口径が20mmも無い機関銃ばかりであり、初めてネウロイと戦った時の印象が強かったシュミットからはどうしても火力面で心配になっていた。
「他にもう少し高威力の武装はありますか?」
「他に?」
「はい」
それを聞いてミーナは少し考え、使い魔の耳を出し、そして武装の山の中から一つ大きな機関砲を取り出した。
「これなんかどうかしら?」
ミーナが出したのはMG151機関砲。シュミットの乗っていたFw190にも使われていた機関砲である。
「MG151……しかしそれはフォッケにも積んでいたやつです」
「でも、ウィッチの魔力を付加した弾丸ならこの機関砲も化けるわよ」
それを聞いてシュミットは少し考えた後片手を出し、ミーナから機関砲を受け取った。
「取り合えず試し撃ちをさせてください」
「解ったわ」
そう言って、ミーナとシュミットは滑走路に出た。そこには、シャーリーとルッキーニが滑走路に立っていた。そしてそのさらに向こう側――滑走路の先端には的が立てられていた。
「よう、シュミット」
「よう!」
「シャーリーにルッキーニ。見学?」
「お前の訓練を見に来た」
シャーリーが当たり前のように答えた。
「見学って言っても、特に面白い物はないと思うぞ」
「それでも問題ないさ」
シュミットは二人に言うが、特に気にしていないようだった。
そしてシュミットは、滑走路の格納庫側に立ち、魔力を発動した。そして、MG151を持ち的に照準を合わせた。
「よし、撃て!」
坂本が言い、シュミットは引き金を引いた。そして、物凄い衝撃と轟音が滑走路を走った。そして滑走路の先の的は粉々に砕けるどころか、その存在が無くなっていた。
それを見て誰もが言葉を失った。今だかつてこのような攻撃をしたウィッチはいなかったからだ。
「なっ……」
ミーナも坂本も、ペリーヌもシャーリーもルッキーニも一斉にシュミットを見た。そのシュミットはMG151のとてつもないエネルギーに吹き飛ばされ、ストライカーの固定台にたたきつけられていた。
「大丈夫ですの!?」
慌ててペリーヌがシュミットに駆け寄る。それに釣られるようにミーナ達もシュミットの元へ駆け寄る。
「おいおい、大丈夫か!?」
「シュミット少尉!?」
「いっつー……」
シュミットは頭をさすりながら起き上がった。
「なんだ今の……」
「おそらく少尉の固有魔法が原因かもしれないわね」
「固有魔法?」
「ええ、おそらくあなたの固有魔法はおそらく『強化』といったところかしら」
そう言ってミーナは説明をする。シュミットがMG151を持ったところから先ほどの射撃までの間のシュミットやその周辺の変化の説明をした。つまり、彼がMG151を片手で受け取ったのも、その後の射撃で急激に威力が上がったのもその『強化』がきっかけだということだった。
それを聞いたシュミットは言葉を失い両手を見た。
「と、とりあえず武装はこれでいいのか?」
シャーリーの言葉にミーナ達は考えた。シュミットが見せた力は、ネウロイに対する強大な戦力となりうる。しかし、武装が元々強力な上に強化を上乗せしたことで、シュミット自身への負荷がかかるのではないかと危惧したのだ。
しかし、シュミットは迷うことなく答えた。
「問題ない。元々この武装で行く予定だったし、威力が上がるならこちらとしてはちょうどよいさ」
そう言って、シュミットは滑走路に散らばったMG151を片手で持ち上げ、それを持ってミーナ達のところへ戻った。
「それより、これを抱えたままの訓練をしたいのですが、いいですか?」
シュミットは何事もなかったかのようにミーナに進言した。
そしてその後に行われた訓練でも、シュミットは特に問題なく飛行し、無事にストライカーの使い方をモノにしたのだった。
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その日の夜、シュミットは自分に用意された自室のベッドで一人考え事をしていた。それは昼間の出来事が頭から離れず、ずっと頭の中をさまよっていたからだ。
(あの力がウィッチの力……これでみんなの力に俺はなれる……?)
彼はずっと頭の中で渦巻いていた感情を殺し、ベッドの枕に顔を埋めたのだった。
彼の固有魔法は『強化』にし、武装も豪快にMG151にしました。