ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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気が付くとお気に入り数が300人超えていました。皆様に感謝厚く申し上げます。今年度中はこれが最後になるかもしれませんね。それでは四十四話です。どうぞ!
※文章をすこし変更しました。


第四十四話「オラーシャ料理と部屋の秘密」

シュミットは現在、夜中にもかかわらず基地の外でペテルブルクの街を見ていた。無論、眠気が無いわけでもないのだが、どうしても眠れそうな気分ではなかった。

 

「ペテルブルク…いや、レニングラードだったな前は…」

 

シュミットは座りながらそう呟く。彼の居た世界ではこの街は名前の方に印象があった街であり、ドイツ軍が包囲した街でもあった。尤も、シュミットがこの世界に来る前の間際には既に街は解放されてしまっていたが。

そしてしばらく黙ったまま街を眺めていたシュミットだったが、ふと後ろから気配を感じて口を開く。

 

「…昨日のお返しですか?ロスマン先生」

 

そう言って振り返ると、ロスマンはシュミットを見ながら黙っていた。

 

「今日の戦闘のことですか?」

「忠告したはずです。ゼロの領域には入るなと。何故それを聞かないのです?」

 

ロスマンはシュミットに問う。

 

「守りたい人がいるからです」

「え?」

 

突然、シュミットから思いもよらない返答が来てロスマンは驚く。

 

「今は離れ離れだけど、守りたい人がいる。その人の為に、私はネウロイからオラーシャを解放するために強くなる。それが答えじゃ納得できませんか?」

 

今度はシュミットがロスマンに聞く。

 

「ですが、今のままではあなたは死んでしまいます」

「そのために、今は段階的に慣らしていこうと思います。それに…」

 

そう言って、基地の方向に歩き始めるシュミット。しかし歩いてる途中で立ち止まる。

 

「自分を愛してくれる人を置いて死ぬつもりなど、端からありませんから」

 

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ひかりが502に来てから数週間がたった朝、基地を歩いているシュミットはふと鼻に触れるいい匂いを感じる。

 

「いい香りだ…」

 

そう言いながらシュミットがキッチンに足を運ぶと、エプロンを付けている下原とその横で味見をしているジョゼが居た。

 

「おはよう。いい香りだな」

「シュミットさんおはようございます。ジョゼ、今日のつまみ食いそれで五杯目だよ?」

 

下原はシュミットに挨拶をしながら、ジョゼに少し注意をする形で言う。しかしジョゼはその言葉に反論する。

 

「違うよ定ちゃん。これはつまみ食いじゃなくて味見」

「はいはい」

 

と、ジョゼに言われて下原も解っているという返事をする。二人の日常的な会話を聞きながらシュミットは「五杯って味見なのか…」と、自分の中での味見と照らし合わせながらそれでいいのかと考えていた。

その時、ジョゼの肩を後ろから触れる手が伸びる。

 

「ジョゼちゃん。僕にも君を味見させてほしいな?」

「おい、ニセ伯爵…」

 

と、後ろから掴んだのはクルピンスキーだった。シュミットはそんなクルピンスキーの言動に呆れたように言う。因みに、日ごろのクルピンスキーの行動を見てからシュミットもロスマンと同じように「ニセ伯爵」と呼ぶようになっていた。

そんなクルピンスキーの目の前に一つのスープ皿が現れる。

 

「どうぞ。しっかり味見してください」

 

と言って下原がクルピンスキーに鍋のスープを入れたお皿を出す。

 

「そりゃないよ~下原ちゃん」

 

そう言いながらも受け取るクルピンスキー。

 

「シュミットさんも要りますか?」

「いや、朝食のお楽しみにさせてもらうからいいよ」

 

下原はシュミットにも味見をするか聞くが、シュミットは美味しそうな香りのするスープを朝食のお楽しみにすることにした。

 

「おはようございまーす!」

 

と、シュミット達の後ろから声がする。振り返ってみると、ひかりが元気よく挨拶をしていた。

 

「おはよう雁淵」

「おはようひかりちゃん」

「おはようございます」

 

三人はそれぞれ挨拶をする。

 

「あの、私ちょっと用事が…」

「えっ、ジョゼさん…!」

 

しかしジョゼはひかりの姿を見た瞬間、その場から逃げるように出ていってしまう。ひかりが呼び止めるがジョゼはそのまま歩いて行ってしまう。

ひかりは今の光景を見て、ジョゼに自分が好かれていないと感じた。

 

「私、嫌われてるのかな…?」

「違うんです!ジョゼは…」

「とっても照れ屋さんなのさ」

 

下原が何かを言おうとするが、すぐさまクルピンスキーが言う。

 

「この僕の思いにも答えてくれないもんねー」

「逆に答えたら驚きだ…」

 

シュミットはクルピンスキーがまともな答えを言うと期待したために、尚更がっかりしながら言った。

そして朝食が始まる時ウィッチ達が席に着くがただ一つ、ジョゼの席だけは空席になっていた。そこには食器が置いてあるため、既に朝食を取ったという証拠が残っていた。

 

(ジョゼさん…一人で先に済ませてる)

 

ひかりはジョゼに何か言おうと思っていたが、既に居ないことに少しがっかりとしていた。

 

「このカーシャ美味しい」

「スープもうめえ!」

 

ニパと管野が朝食の味に舌鼓を打つ。下原が朝食のカーシャにはソバの実を使っていると説明をする。

 

「オラーシャではシチーって言うのよ。シチーとカーシャ、日々の糧。オラーシャの代表的な家庭料理です」

 

朝食に出ているシチーとカーシャについて、サーシャが説明を加える。ラルはその説明を聞きながら黙々とスープを口に運んでいる。

 

「下原さんって、オラーシャ料理も上手なんですね!」

「喜んでもらえてうれしいです」

 

ひかりは扶桑の料理だけでなくオラーシャの料理も作れる下原に感激をし、下原もその言葉を嬉しそうに受け取る。

 

「下原ちゃんの料理の腕前は最高だよ」

「オラーシャ料理もいいけど、扶桑料理も繊細よね」

 

クルピンスキーとロスマンも同じように賛同する。

 

「…ロシア料理を舐めていたな」

 

と、シュミットは自分の思っていたロシア料理について全く違うものを感じ、そしてその味に感激をしていた。

しかし、そんなシュミットの言葉をふと耳にした人物がいた。

 

「ロシア料理?」

 

クルピンスキーがシュミットの言った単語が気になり何気なく聞く。クルピンスキーはシュミットが異世界から来たことを知らないため疑問に思ったのだ。その言葉に、他のウィッチ達も気づきシュミットを見た。

 

「いや、オラーシャ料理だった。すまんすまん」

「もう。シュミットさん、驚かさないでください」

 

シュミットはごまかすように言う。事情を知るサーシャは注意と言う名のフォローをしたため、他のみんなもそれ以上聞く様子も無かった。

ふと、ロスマンがひかりに聞く。

 

「それよりも、ひかりさんは何か作れるの?」

「お姉ちゃんの作る海軍カレーが好きです!」

「そんなこと聞いてんじゃねーよ!」

 

ひかりは自分が作れる料理ではなく自分が好きな料理を言ったため管野が間髪入れずにツッコむ。そんなコントを繰り広げたため、食卓には笑いが出る。そんな中、下原が何かを考えるように手元を見ているのをシュミットは気づく。

 

(…何か悩み事か)

 

と、シュミットは引っかかる様子だったが聞くことなく、そのまま朝食は終了した。

その後ひかりは朝食を食べ終わった後、自分の部屋に戻り、そして驚く。部屋がいつの間にかピカピカに整理されているのだ。

 

「また綺麗になってる…。一体誰が…?」

 

と、誰が部屋を綺麗にしたか気になっているとき、外の方でバタンと言う音が聞こえる。ひかりはそれに気づき音のした方向に行くと、別の部屋の中にいるある人物に気づく。

 

「…ジョゼさん?」

「雁淵さん…」

 

部屋の中に居たのはなんとジョゼだった。ジョゼは両手にモップと水バケツを持ち、頭に三角巾を巻いていた。

 

「いつも部屋を掃除してくれてたのってジョゼさんだったんですね!」

「あの、私実家がペンションをやってるの。だから、皆の部屋のベッドメイキングなら出来るかなって…」

「そうだったんですか!どうもありがとうございます!」

 

ひかりはジョゼが部屋を綺麗にしてくれていたと知り感謝の礼をする。しかしジョゼは何か負い目を感じている表情をしていた。

そしてひかりは部屋を見渡す。そしてあるものに目が行く。

 

「手紙?」

 

ひかりは机の上に置かれている手紙のようなものに目が行く。よく見るとその横にはペンが置かれており、部屋の主が書いているものだと推測できる。

そしてひかりは手紙の内容を見る。ジョゼもその手紙が気になったらしく、近づいていく。

 

「親愛なるサーニャへ…サーニャ?」

「サーニャは私の恋人の名前だ」

 

ひかりが最初の名前に気になり誰かと想像するが、部屋の入り口から声がして振り返る。振り返るとそこにはシュミットが立っていた。

 

「シュミットさん…てことはこの部屋って…」

「私の部屋だ」

 

ひかりがもしかしてと思い聞くと、シュミットが歩きながら返答をする。そしてひかりの持っている手紙を取る。

 

「他人の部屋に入って、そんでもって手紙を見るのは流石にいただけないな…ジョゼはどうやら掃除に来ていたようだが」

「ご、ごめんなさい!」

「別に怒ってなんかいないさ。ただ、些細な事でも不愉快になることはあると注意しただけだ。それに、出しっぱなしにしていた私の不注意もあるわけだからな」

 

そう言って、シュミットは手紙と机の上にあったペンを片づけ始める。そして同時に机の上に出ていた他の道具も片づける。ひかりはそんなシュミットを見ながら、先ほど言っていた単語を思い出し質問をした。

 

「あの!シュミットさんって恋人いたんですか!?」

「ん?」

 

ひかりからの突然の質問にシュミットは片づけをしながら返事をする。そして質問をされて少し恥ずかしくなり、顔を赤くする。

 

「あぁ。その、なんだ…いる」

 

シュミットは元々そういうことを言いふらすことは基本的に無く、502に来てから自分に恋人がいると言ったのはサーシャとロスマンだけである。その言葉を聞きジョゼとひかりは驚いた。

 

「シュミットさん、恋人いたんですね」

「てっきりいないと思ってました!」

「いなっ…いっつ!」

 

意外という言葉にシュミットは予想だにしていなかったのか思わず動揺する。そしてその動揺で手元が狂い、持っていたハサミで思わず自分の左手を大きく切ってしまった。

 

「あっ、シュミットさん!」

「あ!待って!」

 

ひかりが血が出る手を見て驚くが、ジョゼがすかさず止める。

 

「シュミットさん、手を出してください。今治癒を掛けます」

「すまないジョゼ、頼む」

 

シュミットは切っ左手を出すと、ジョゼが両手のモップとバケツを下ろし血が出ているシュミットの手に自分の両手をかざす。

そしてジョゼが治癒魔法をかける。するとたちまち、手に出来た切り傷は塞がっていき、ついには無くなる。

 

「これで大丈夫です」

「ありがとうジョゼ。おかげで助かった」

「ふぅ~…」

 

ジョゼは治癒を終えると頭に手をかざす。ひかりはジョゼの顔が赤くなっているのに気づき話しかける。

 

「ジョゼさん、顔赤いですよ?」

「治癒魔法を使うと、体が少し熱くなるだけ。そ、それじゃあ…」

 

そう言ってジョゼは部屋を出ていく。そして残されたひかりだが、

 

「んで、雁淵はいつまで居るのかな?」

「あっ!すみません、失礼します!」

 

と、シュミットに言われて気づき慌てて部屋を出ていくのだった。

 

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「現在ネウロイの進行はラドガ湖の北方で止まっていますが、湖の凍結が始まると一気に南下、つまりこちらへ進出して来ると予想されます」

 

その後、ウィッチ達全員はブリーフィングルームに集まった。そして現在ロスマンがグリゴーリからのネウロイの進出状況について説明をしていた。

 

「凍結って12月の頭だっけ?」

「あと一ヶ月足らずですね」

「ですので、次の補給を待って新たな防衛網を構築する必要があります」

 

クルピンスキーとサーシャの予想に、ロスマンが次の計画を説明する。

 

「今日の定時偵察、当番は誰ですか?」

 

ロスマンが聞くと、下原とジョゼが手を挙げる。今日の定時偵察は二人が当番だった。

そしてロスマンは指し棒を地図に向けて説明をする。

 

「偵察範囲をラドガ湖北東、ペトロザヴォ―ツク周辺まで広げます。気づいたことがあったらすべて報告してください」

『了解』

 

ロスマンに言われて下原とジョゼは返事をする。

そしてロスマンは今度はひかりの方向を見る。

 

「ひかりさんも同行しなさい。遠乗りの訓練にいい機会だわ」

「はい!」

 

ロスマンはひかりに経験を積ませようと、今回の出撃に同行するように指名し、ひかりは返事をした。

 

「よろしくお願いします!」

「こちらこそ」

「よ、よろしく…」

 

ひかりが下原とジョゼによろしくと言う。しかし、下原は普通に返事をする中ジョゼはまた少し下を向きながら返事をした。

 

(ジョゼのやつ…何か雁淵に引け目を感じて避けている?もしや…)

 

と、シュミットはそんなジョゼの姿を見ながら考えているのだった。

そして、偵察に行った三人はこの日、帰ってくることはなかった。




シュミット君が恋人持ちなことが段々広がっていく。というより、シュミット意外とうっかり者ですかね?
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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