ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第四十三話です。どうぞ!


第四十三話「先生の想いと接触魔眼」

眠って意識がなくなったひかりは、その日の夜に目を覚ました。

 

「あれ?なんで部屋に…?」

 

ひかりは驚き体を起こす。記憶では柱を登っているはずだったのに、気が付けば部屋の中。それも夜中など、驚かない方がおかしい。

すぐさまひかりは部屋を出て、訓練課題を行うとする。そして柱に触れようとした時、後ろから声を掛けられる。

 

「こんな時間からやるつもり?」

 

ひかりは声のした方向を向く。

 

「ロスマン先生」

「ちょっと付き合いなさい」

 

そう言ってロスマンは歩いていき、ひかりもそれについていく。そして二人は502の基地からネヴァ川を挟み、ペテルブルクの街が見える場所へ移動した。

 

「ひかりさん。貴方はどんなウィッチになりたいの?」

 

突然、ロスマンはひかりに聞く。その質問にひかりは堂々と宣言した。

 

「どんな…お姉ちゃんみたいに皆の役に立つ立派なウィッチです!」

「それは無理よ」

 

しかし、ロスマンはきっぱりと言い切った。それを言われ、ひかりは聞き返す。

 

「何でですか!?」

「私は、前にもあなたのようにどうしても戦いたいという子を教えたことがあった。真面目で、やる気もすごくあったのだけど…」

「…魔法力が弱かったんですか」

「そう。その子が戦闘に向いてないのは分かっていた。でも、私は熱意に負けて出撃を許可した」

 

ロスマンは淡々と説明していく。そんな中、ひかりは話に出てくる少女が気になった。

 

「その子はどうなったんですか?」

「…二度と飛べなくなったわ」

 

ひかりはロスマンが何ていうかわかっていた。あれだけひかりを出撃させたがらないロスマンと、今の話から。

 

「戦場では能力のない物は、本人も周りも悲しい思いをするのよ」

「…でも、その子は悲しかったのかな?」

「!」

 

ひかりの言葉はロスマンを驚かせた。その言葉は今まで彼女が考えたことのないものだった。

 

「先生!私も他の人の迷惑になるなら扶桑に帰ります。でも、ほんのちょっとでも戦力になる見込みがあるなら、ここに居たいんです!」

「それなら…」

「分かってます!帽子を取るんですよね?最後の最後までやらせてください!」

 

ひかりは自分の思いをロスマンにぶつけた。そして、ロスマンは折れた。

 

「もう好きにしなさい」

「はい!」

 

そう優しく言うロスマンに、ひかりも返事をした。

そしてひかりが居なくなった後、ロスマンは立ち止まりながら声を発する。

 

「盗み聞きとは感心しませんね、シュミットさん」

 

そう言われて、基地の角から現れたのはシュミットだった。

 

「いつから気付いてました?」

「途中からです」

「盗み聞きするつもりは無かったんですが、出ずらい雰囲気だったので」

 

そう言ってシュミットは歩みながらロスマンの所へ行く。そして横に着いてからシュミットはペテルブルクの街を並んで見る。

シュミットはロスマンに聞いた。

 

「いいんですか?雁淵を止めるものだと考えましたが」

「あの子の諦めが悪いからです。いずれ猶予は明日まで、それによって決まります」

「まぁ、熱意は今まで見た人達の中でも上位に位置するものですからね」

 

ロスマンの言葉を聞きシュミットはなるほどと同じように思ったのだった。

 

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ひかりの試練最終日。この日は生憎の曇りであり、風も吹いている。

ひかりは決してあきらめずに柱を登り続ける。

 

「風が強いな。もう今日しかないのに」

「ついてねえ奴だな」

「だが、今日達成しなければ扶桑に返されるんだ」

 

ニパと管野、そしてシュミットは離れた所から見ている。すると、ひかりは横風にあおられてズルズルと流されていく。そして吹き飛ばされてしまう。

 

「ひかり…!」

 

ニパ達が驚いたその時だった。ひかりは足に魔力を咄嗟に制御し、柱にかろうじて張り付く。そのひかりの下には、千鳥の巣があった。ひかりは巣に落ちないように懸命に足掻いたのだ。

しかしシュミットはその姿を見て目を開いた。

 

(…あれは!)

 

ピタリと立ち止まっているひかりを見て、シュミットはあることに気づいた。

 

「おーい!大丈夫?」

「巣は無事です!」

「ったく…」

 

ニパが心配をするが、ひかりは自分ではなく巣のことを心配されたと思い言ったため管野は呆れる。

そして体勢を立て直し、ひかりは再び両手を付く。しかし、再び横風に飛ばされて地面に落下する。

 

「上の方はもっと風が強い…」

「ひかり…」

 

ひかりは風の強さに

 

「おい、この風の中じゃ無理だ。ロスマン先生に言ってもう一日――」

「駄目です。延長は認めません」

 

管野が提案をするが、それは別の人に遮られた。

 

「ロスマン先生…」

「さぁ、時間が無いわよ」

「はい!」

 

ロスマンはひかりに登るように言う。ひかりはすぐさま再スタートを掛けようと、手を触れる。

 

「止まって」

「待つんだ」

 

と、そのひかりに待ったを掛けるように二つの声が重なった。ひとつはロスマン、もう一つはシュミットだった。

シュミットはロスマンを見る。

 

「先生も気づいたんですね」

「ええ。そこで足を離して」

 

ロスマンはひかりに足を離すように指示する。

 

「えっ!?落ちちゃいます!」

「雁淵、先生の言うことを聞くんだ」

「でもっ!」

「いいから。足にかけていた魔法力を、両手に集中しなさい」

「は、はい!」

 

そう言って、ひかりは目を瞑る。

 

(両手に集中…)

 

そしてその間に魔法力を両手に集中させようと意識する。

下ではニパと管野が二人の動向について疑っていた。

 

「できるの!?そんな事…」

「何考えてるんだ…?」

 

そして、ひかりはついに両足を離した。するとどういうわけか、ひかりは両手だけで柱にぶら下がっている。しかも、横風にも流されることも無い。

 

「今度は左手を離しなさい!」

「ええっ!?」

 

突然のロスマンの言葉にひかりは驚く。

 

「貴方には全身に回すだけ魔法力は無い。でも一か所に集中させることができる!」

「は、はい!」

 

ロスマンに言われ、今度は右手に魔法力を集中させようと意識する。そしてついにひかりは左手を離した。すると、ひかりは右手だけでぶら下がっている。

 

「すごい片手だけで!」

「魔法力を左手に込めて、落ちる前に手を入れ替えて手だけで登りなさい!」

「はい!」

 

ニパが驚く中、ロスマンは次の指示を出し、そしてひかりは実践する。すると、右腕と入れ替わる形で左腕が上に行き、ひかりは柱を登り始める。

その光景にニパと管野は驚く。

 

「あいつ…」

「次、右!」

「はい!」

 

そしてそのままひかりはロスマンの指示の後、交互に柱を登っていく。その速度はスローではあるが、以前よりも着実に柱を捉えて登っていた。

 

「凄い…登ってる!登ってるよ!」

「手だけで登りやがった…!」

 

ニパと管野はその光景に思わず微笑みがこぼれる。

シュミットはロスマンに話しかける。

 

「流石先生ですね」

「いえ、それよりも私は貴方が気付いたのに驚いたわ」

「これでも洞察力はある方だと自負しているつもりですから」

 

そういうシュミットだが、実際これに気づいていたのはあの場ではロスマンとシュミットの二人だけだった。しっかり見ていないと気付かないものである。

と、ロスマンは後ろから気配を感じて振り返る。

 

「何ですか?」

「諦めさせるんじゃなかったのか?」

 

そう言ったのはいつの間にか外に出てたラルだった。

 

「確かに、魔法力の少ないあいつにはこれしかない。だがこんな方法でクリアしても、後がつらいぞ?」

 

ラルがロスマンに問うが、ロスマンは上を見上げて言った。

 

「あの子のあきらめが悪すぎるんです」

「そうか。不肖の弟子か」

 

そうしてひかりは着実に登っていく。

しかし、天はさらなる課題を与えた。曇っていた天気は悪化し、ついには雨を降らした。

 

(寒くて手の感覚が無くなってきた…)

 

ひかりは自分の手の感覚が薄れていくのを感じる。その時、さらなる出来事が起きた。基地全体に警報が鳴り響いたのだ。

 

『東方から急速に接近してくる中型ネウロイを確認。総員緊急出撃!』

 

基地全体に放送が流れる。間違いなくネウロイの出現だった。

 

「急ぐぞ!」

 

シュミットは走って格納庫に行き、ユニットを履く。管野やロスマンもユニットを履くが、ニパはひとつ心残りがあった。

 

「一緒に出たかった…」

 

ニパはひかりと一緒に出撃したいと思っていたが、それは叶わなかった。そして三人は離陸をするが、離陸をしてすぐ、管野は何かを思い出したかのように言った。

 

「ちょっと忘れ物した」

「お、おい管野?」

「行かせてやれ」

 

そう言って戦列から離れる管野。ニパはその行動に驚くが、シュミットは察したのかそのまま行かせた。

そして暫くシュミット達はネウロイの出撃地点に向かっている時、後ろから管野が追い付いた。

 

「もういいのか?」

「ああ…」

 

シュミットが管野に聞くと、管野は返事を返した。心なしか、その声には喜びを感じ取れた。その様子から、どうなったのかを理解した。

そしてついにシュミット達はネウロイを発見した。

 

「ネウロイ発見!」

「管野一番、出る!」

 

管野が威勢よく言い先行していく。それに続くようにシュミット達もついていく。

 

「前衛は攻撃、中尉達は援護を!」

「了解!」

「任せろ!」

 

サーシャの指示に従いシュミットはクルピンスキーと共に前衛の援護をする。管野は上昇をした後、急降下を開始。そして高速で急降下しながらネウロイに向けて銃弾を放ち、そしてネウロイの前方を通過する形で急降下をしていく。

シュミットは一連の動きを見て、管野のたぐいまれなる才能を見る。

 

(なるほど、危険な分もあるが確かに有効な戦術だ)

 

と、飛行しながら分析をする。

そんな管野に、ニパが注意をする。

 

「先行しすぎだよ!」

 

注意をしながらも、ニパは攻撃を続ける。

シュミットはネウロイのコアがあるであろう地点を予測して引き金を引く。しかし、ネウロイは未だに破片に変わらない。

その時だった。

 

「あれ?ひかりだ!?」

 

二パは戦闘中、基地の方角から飛んでくる二つの影に気づく。一つはロスマンであり、もう一つはなんとひかりだった。

 

「ふん、おせえんだよ!」

「だが、よく来た」

 

管野がそう言うが、その言葉はどこか嬉しそうだった。そしてシュミットも、ひかりの登場に同じように言った。

ひかりと共に飛ぶロスマンは指示をする。

 

「ひかりさん、貴方はお姉さんにはなれないわ」

「えっ?」

 

突然の言葉にひかりは困惑する。しかしロスマンは続けて言う。

 

「攻撃を避け続けて、弾が当たる距離まで接近するのよ。貴方はあなたになりなさい!」

「は、はい!」

 

ロスマンの言葉にひかりは納得し、そして大きく返事をする。

そしてひかりはネウロイに向けて飛行する。無論ネウロイも攻撃を仕掛けるが、ひかりはその攻撃を堅実に、そしてしっかりと回避をし、そしてネウロイに接近していく。

 

「前の雁淵とは比べ物にならないほど動きが良くなっている…!」

「紫電改がしっかり回ってる。力をユニットに集中させてるんだ!」

「あの訓練のおかげ?流石ロスマン先生!」

 

シュミットは以前のひかりとは全然違う飛行に純粋に驚き、管野とニパはその指導をしたロスマンを称賛していた。

そしてひかりはネウロイに急接近をし、引き金を引く。弾丸は着実にネウロイに向けて飛来をし、その装甲を削る。

しかしひかりは前面に気を取られ、後ろに迫るネウロイの尾翼に激突する。

衝撃によってはじき出されるひかりだが、ここで彼女は変化を感じた。

 

「コアが…見えた!」

 

ひかりの目には、ネウロイのコアの位置が見えた。そしてひかりはその位置に向けて機関銃を向ける。

周りのみんなはひかりがコアを見つけたのを知り、一斉にひかりが撃っている位置に向けて引き金を引く。

シュミットもMG42をネウロイに向けて放っているその時、再びあの光景が見えた。そう、ゼロの領域だった。その景色は、ネウロイが次に避ける先がまるで光のレールのように映っていた。

 

「っ!ネウロイが右に急旋回をするぞ!」

「えっ!?」

 

突然のシュミットの言葉に周りは驚くが、その発言通りネウロイは右に急旋回を行った。

その景色が既に見えていたシュミットはすぐさまネウロイの進路方向に先回りをし、そしてネウロイのコアがあるであろう位置に向けて弾丸を放った。それに釣られるように他のメンバーも弾丸を放つ。

そしてついにネウロイはコアを破壊され、その姿を破片に変えた。

戦闘が終了し、全員が集まる。

 

「ひかり凄い!」

「ビギナーズラックってやつか…」

 

ニパと管野がそう言う横で、ロスマンはシュミットに詰め寄る。

 

「あなた、また領域に入ったわね!」

「その話は後に。それよりも雁淵」

「えっ、はい」

「お前、コアが見えたのか?」

 

詰め寄るロスマンの言葉を遮り、シュミットはひかりに聞いた。

 

「はい、見えました。前と同じでぶつかった時に見えたんです!」

(…ぶつかった時)

 

ひかりの言葉を聞いて、ロスマンは先ほどのシュミットへの言葉を端に置き考える。

そして基地に帰投した後、ひかりはロスマンに連れられ部隊長室に来た。そしてロスマンは今回の戦闘で起きた現象をラルに話した。

 

「…確かなのか?」

「ええ。どうやら接触することでコアが見えるようです」

「噂に聞いたことがある」

 

ロスマンの説明を聞いてラルも過去に聞いたことを思い出す。

 

「雁淵ひかり、お前には『接触魔眼』の固有魔法があるようだ」

「接触魔眼!?」

「だが絶対に使うな」

 

ひかりは自分に固有魔法があると聞いて嬉しくなるが、ラルが釘を刺す。

 

「え、何でですか?魔眼があれば――」

「無駄に命を捨てるな!」

 

ひかりは何故と聞くが、ラルの覇気のある言葉に口を止める。

 

「何のために孝美は()()()を使ったと思っているんだ」

()()()?」

「『絶対魔眼』だ。聞いてないのか?」

 

ひかりは初めて聞く単語にただ聞くしかできなかった。

 

「心配掛けたく無かったのね…」

 

その様子にロスマンはそう解釈した。

 

「リバウの戦いで聞いた話だが、通常の魔眼では捉えらえない特異型や、複数のネウロイのコアを一瞬で特定できる必殺の技だ」

「ただし肉体と精神の負担が大きく、シールドの能力も著しく低下するから、援護無しでは自殺行為に等しいわ」

「お姉ちゃん…あの時そうだったんだ…」

 

ひかりは姉があの時に行っていた行動の正体とその真意を知り、瞳を揺らす。

 

「いいか、接触魔眼は禁止だ。いいな?」

「…わかりました」

 

ラルは念を押すように言い、ひかりはそれに返事をした。

そうして、ひかりはようやく502の一員として、戦うようになったのだった。




意外と洞察力のあるシュミット君。そして言われてもゼロの領域を使ってしまうシュミット君。意外と問題児?
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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