ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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気がつくとUAが3万越えていたことに吃驚しました。皆様に御礼を申し上げます。
第四十二話です。少しロスマン先生に独自設定を入れました。どうぞ!


第四十二話「ゼロの領域と訓練」

「…なんなんですか、そのゼロの領域ってのは」

 

シュミットはロスマンに言われた単語がイマイチぴんと来ないため聞く。

 

「ゼロの領域は、知覚の限界を超えた先に起こる現象のことなのです」

「知覚の限界…」

「ええ」

 

ロスマンはさらに説明をする。ゼロの領域は、知覚の限界を超えた先に起こる現象であり、周りがゆっくりになったり未来に起こる出来事がビジョンで見えたりなど、その内容はさまざまである。それらはどれもシュミットが経験をした内容だった。

そしてロスマンは中でも大事なことをシュミットに言った。

 

「そしてこの現象は、起きた後が大変なんです。ゼロの領域は、精神に負担をかけます。今まではその時間が短かったから実感が無かったのかもしれませんが、長い時間使うとそれこそ大きな負担になるんです」

「先生凄い詳しいですね…」

 

スラスラと説明するロスマンを見て、シュミットは何気なくこんな疑問を持つ。何故、ロスマンはここまでスラスラと言えるのか気になったのだ。

その質問をしたシュミットだが、ロスマンが少し表情を落としたのに気づく。そしてロスマンは口を開いた。

 

「実は昔、私も同じ現象が起きたことがあります」

「えっ」

 

ロスマンからの衝撃の言葉にシュミットも驚く。

 

「私は産まれたときに大病を患い、体の成長が遅れ、体力もあまり無い体になってしまいました。そんな体で戦うために私は研究を重ね、そしてゼロの領域に至った」

 

ロスマンの説明をシュミットは黙って聞いていた。

 

「ですが、ゼロの領域に入るにつれて段々私の精神は摩耗していき、とても戦闘で使い続けるには無理と理解しました」

「そんなことがあったのですか」

「ええ。ですからゼロの領域は諸刃の剣、絶対にこれ以上踏み込まないようにしてください。聞いたところシュミットさんは領域を認識してきているので、自分で入らないように制御はできるはずです」

 

そう言ってから、ロスマンは格納庫から出ていった。残されたシュミットはロスマンの言葉を真剣に考える。

 

(領域に入ってはいけない…か)

 

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翌日、ひかりは扶桑に返される前に最後のチャンスを与えられた。猶予は一週間、その間にクリアできなければひかりは扶桑へ返される。

そしてひかりはロスマンに連れられて射撃場に行く。

 

「ん?ロスマン先生訓練ですか?」

 

射撃場にはシュミットがおり、手に機関銃を持ちながらロスマンに聞く。

 

「ええ。ひかりさんはユニットを履いて、機関銃を持ちなさい」

「はい!」

 

ロスマンに指示され、ひかりはユニットを履き九九式を構える。その間に、ロスマンは的の所に行き小さな的を立てる。そしてロスマンは的を設置した後、ひかりに再び指示を出した。

 

「ではここからセミオートで、あの的に当てて見なさい」

「小さい…」

 

ひかりの立っている位置から的まではかなりあり、小さな的は余計に小さく見える。しかしシュミットは、静止しているのであの的に当てるのはかなり楽なものと考えていた。

 

「構え!」

「は、はい!」

 

ひかりは機関銃を構える。

 

(銃はしっかりと脇を締めて…肩で保持して…静かに引き金を…戻す!)

 

ひかりは訓練で習った機関銃の持ち方を頭の中で復唱し、そして引き金を引いた。しかしひかりの撃った弾丸はコインから約1mほど離れた場所に着弾した。

シュミットはこれを見て確信した。魔法力が足りな上に、コントロールも殆どできていないと。

 

「魔法力が弱い…反動吸収が出来ていないわね」

 

ロスマンも同じような心境だった。

 

「五歩分前に出なさい!」

「え…は、はい!」

 

ロスマンはひかりに新たに命令する。ひかりはどういう事かわからなかったが、すぐに五歩分前進する。

 

「構え!」

 

そして再びひかりに構えるように言う。シュミットはロスマンがひかりは何mで的に当てられるかを測るのだと理解した。

 

「撃て!」

 

そして再び号令し、ひかりは引き金を引く。今度の弾丸は先ほどよりはコインに近い位置、約70cmの距離に着弾した。

 

「後五歩!」

「はい!」

「後五歩!」

「はい!」

 

何回も前進させられるひかり。その光景を見ながらシュミットは、いつになったら当たるか見ていた。

そしてついに、コインに弾丸は当たった。

 

「あ、当たった!」

「まさかここまでとは…」

 

ひかりは当たったことに喜ぶが、ロスマンはその光景に少なからずショックを受けていた。シュミットも「こんなにか…」と思いながら、その様子を見ていた。

ひかりの立ち位置はロスマンに前進を命令されていくうちに、ついには的から3mほどの距離になっていた。これではネウロイとの戦闘では全く使えない。

 

「貴方は絶対的に魔法力が不足しています。私が教える基準に全く達していません」

「じ、じゃあテストは…」

「不合格」

 

ロスマンから告げられた言葉は真っ当なものだった。しかしひかりは諦めずに言う。

 

「だったら、朝の走り込み倍に増やします!そしたら魔法力だってきっと強く――」

「なるわけ無いでしょ!魔法力は先天的なもので、後からどうにかなる物じゃないわ」

「でも、まだ一週間ありますよね!?テストを続けさせてください!」

 

ロスマンに厳しく言われるが、それでもひかりは諦めない。そんな姿を見て、シュミットは「やる気はあるんだがなぁ…」と、呟く。

そんなひかりの熱意を見てか、ロスマンも黙っていなかった。

 

「…じゃあこっちに来なさい」

「は、はい!」

 

そう言ってロスマンは歩き出し、ひかりはその後ろをついていく。

そんな光景を、後ろから見ている人達がいた。

 

「やっぱり無理なのかなぁ…」

「って、ニパいたのか」

 

シュミットはいつの間にかいたニパに気づかず驚く。

 

「ほらな、言った通りだろ!」

「うわっ!管野いつから居たの!?」

「いや、ニパの後ろにいたぞ」

 

と、今度は管野がひょっこりと現れニパは驚くが、シュミットは管野とニパは一緒にやって来ているものだと思い、特に言わなかった。

そしてロスマンに連れられひかりは502基地の基地にある一本の大きな柱の所に連れられる。その大きさは502基地の次に大きいぐらいだ。

 

「たっか~い…」

 

ひかりはその大きさに驚いているが、ロスマンはその横で上空に一つ帽子を投げる。投げられた帽子はそのまま飛翔し、柱のてっぺんにある細い棒に引っかかる。

 

「あれを取ってきなさい」

「はい!ユニットを持ってきます!」

 

ひかりはロスマンに言われ、自分のユニットを取ってこようとする。しかしロスマンはそれを止めた。

 

「飛んではだめです」

「えっ!?じゃあどうやって?」

「手本を見せてあげます」

 

そう言って、ロスマンは柱の下に歩いていく。そして両手を柱に付ける。

 

「魔法力を全身に回して、それを手足に適切に分配、触れている個所の制御をきちんとすれば登れるわ」

 

そう言ってロスマンは柱を登っていく。そしてあっという間に半分を超える。

 

「そ、そんなの学校では習いませんでした!」

 

ひかりがそう言うと、ロスマンは手足を柱から離し地上に降りる。

 

「無理なら国に帰りなさい。このテストに合格できなければ、出撃は認めません」

「えっ」

「どうするの?」

「やります!」

 

ひかりはやると言った。

 

(そうだ。やってみなくちゃわからない!やる前に諦めちゃだめだ!)

 

そう言って、ひかりは柱に向けてダッシュをし、そして手足に魔法力を込める。そしてそのまま柱にジャンプをして張り付く。

しかし、ひかりはそのまま滑り落ちる。

 

「取れたら持ってきて」

 

そう言って、ロスマンは歩いて行ってしまう。

その光景を、離れた所からシュミットとニパ、そして管野が見ていた。

 

「あれってホントにテストなのかなぁ…」

「手足にうまく魔力を配分させるためかもな」

「どっちにしても出来なきゃ終わりだ」

 

そう言っている間にも、ひかりはまたチャレンジをし、そして同じように地面に落ちたのだった。

 

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結局、ロスマンからの訓練は一日かけても終わることが無く、そのまま二日目に入っていく。

 

「昨日よりうまくなってない?」

「一日中やってれば誰でもうまくなるぞ」

 

ニパはひかりが昨日より上に登っていることに吃驚するが、管野は冷たく言う。そんな二人の言葉を余所に、シュミットは黙ってその光景を見ていた。

しかしひかりが登っていく途中、突然鳥の妨害に遭い、再び地面に落ちていく。

 

「痛ったぁ…」

「ひかり!大丈夫!?」

 

慌ててニパが駆け寄る。それについていく形で管野とシュミットも付いていく。ひかりが先ほどの鳥が柱の途中に巣を作っていたことに気づく。

 

「あんな所に鳥の巣が…」

「千鳥だな。巣立ちが近づいてるみたいだ」

「千鳥…!へぇ…」

 

ひかりは鳥の名前が自分の使っているユニットと同じ名前と知りその姿を見る。

そして四人は柱を背に座る。シュミットだけは、背にもたれ掛かるだけであるが。

 

「おめえ分かんねえのか?ロスマン先生は諦めろって言ってんだよ」

「でも、てっぺんの帽子を取ってくれば…」

「バーカ。あんなのおめーが取れるわけねーだろ」

 

管野は意地悪くひかりに言う。

 

「管野は出来るの?」

「へっ、楽勝だろ!」

 

二パが聞くと管野は立ち上がってそういう。そして魔法力を使い管野は柱に張り付き、そして手足を高速で交互に動かしていきその柱を登っていく。

その姿を見て周りも感心する。

 

「わーすごい!…あれ?」

 

三人は地上で見て管野が突然落ちてきたのに気づく。そしてそのまま管野は地面に叩きつけられる。

 

「こんなのできたって何の役にも立たねえよ!」

 

管野は立ち上がってそう言う。その光景を見てシュミットも少しやってみたくなった。

 

「ふむ、私もやろうかな」

「えっ?」

 

シュミットの発言に皆が驚くが、シュミットはお構いなしに手足に魔法力を込め、そして柱に張り付く。

三人はその光景を見ている中で、別のことにも興味が沸く。

 

「…シュミットさんの魔方陣大きい」

 

シュミットが手足に巡らせている魔力の大きさから、魔方陣は大きくできる。その結果、シュミットはすいすいと柱を登っていく。

そして半分を過ぎたところでシュミットは手足を離し、そして地面に飛び降りる。

 

「意外と疲れるな…魔法力の分配ってのも」

 

シュミットは手のひらを見ながらそう呟く。それを見て、ひかりも感化される。

 

「…でも、やらなきゃダメなんです!」

 

そう言って、ひかりは再び柱を登りだす。

 

「勝手にやってろ…!」

 

そして管野はそんなひかりの姿を見て面白くないのかそのまま基地に帰っていく。

 

(ロスマン先生は出来たんだ!それに、シュミットさんもやっていた!私だって…!)

 

ひかりはロスマンとシュミットが柱を登れたのを見て、自分でもできると信じて登り始める。

シュミットはひかりが戦場に出るのはどっちつかずであった。出撃しても事故を起こしてしまいそうなひかりを出すのは嫌であるが、自分が役に立ちたいと努力をする彼女の熱意は買っていた。

そして、魔法力の少ないひかりに対してシュミットは魔法力が多い。そんな現実を見せられてはひかりのその熱意が下がるのではないかと少し考えた。

 

(もしかしたら、私は登らない方が良かったかな…?)

 

シュミットはそんなことを思いながら、下でただ黙って見ているしかできなかった。

 

三日目に入る。相変わらず登りきることはできなかった。

 

四日目に入る。今度は靴を脱ぐ作戦に出るひかり。それにより以前よりも登れるようになる。しかし、結局途中で落ちる。

 

五日目。何故かひかりは朝食を食べない。理由は「ちょっとでも軽くなれば登れるかな」と言っていた。それを聞いた管野は「お前は超弩級のバカだ」と言っていた。その通りであり、食事を取らなければ体にエネルギーは回る事が無いため力が出なかった。

 

六日目。こんどは朝食をちゃんと食べるひかりだったが、結局連日の疲れが祟り登っている途中で糸が切れた人形のように墜落する。落ちるひかりをすぐさまシュミットが駆けつけてキャッチをする。

 

「…おい、寝てるぞ」

 

シュミットはひかりが眠っているのに気づく。それを見て管野とニパも驚く。

結局ひかりはそのまま訓練を受け続けることはできないと見て、三人はそのままひかりを部屋に連れて寝かせるのだった。




ロスマン先生がゼロの領域に至ったという設定です。領域に入るなとロスマン先生に念押しされるシュミット君。これからどうなるのやら。
それとひかりちゃんは色々と芳佳ちゃんと真逆なんですね。改めて知りました。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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