三十九話です。どうぞ!
決闘を終えてシュミット達が地上に降り立つと、502のメンバーは今回の主役たちに駆け寄っていく。
「惜しかったね管野…それにしても、シュミットさんがあんなに強いなんて」
ニパが管野に言うが、管野は共に降りてきたシュミットを見ていた。
シュミットは息切れ一つしておらず、それどころか冷や汗すら流していない。まるで先ほどの戦闘は慣れていると言わんばかりの様子だった。
管野は確信した。シュミットの実力はあんなものじゃないと。そして、今回の決闘で彼の実力は間違いなく自分より上であると理解した。
その時、クルピンスキーとサーシャの近くにいたシュミットが視線に気づき、近づいて手を差し出す。
「な、なんだよ…」
「これでいいかな?」
「え?」
シュミットの言葉に、周りにいたウィッチ達は何のことかと思う。
「これで私は実力は示した。文句ないな?」
「…ああ。俺はお前のことは気に食わねえが、技量に関しては認めてやる」
「それじゃあ信用は日頃の行いで勝ち取らせてもらおうか」
管野はシュミットの事をまだ信じてはいないが、彼の持つ技量に関しては認めたようである。それを聞きシュミットも納得したような反応をした。
「しかし、さっきの動きはどこで身に着けたのかな?狼君?」
クルピンスキーは純粋にシュミットの戦闘について聞いたのだろう。しかし、シュミットの境遇を聞いたロスマンは内心では「余計なことを…!」と思っていた。
「狼君って…あれは私が前の世界で使っていた技だ」
「前の世界?それってどんなところだったんですか?」
シュミットの言葉に疑問を持ったのはニパだった。ニパだけでなく、ロスマン以外のウィッチ達も同じように気になる。
しかしシュミットは言おうとしなかった。
「あまり話したくないんだがな…」
「どうしてだい?」
クルピンスキーが聞く。しかしシュミットはそれでも言うつもりはないらしい。
「…ネウロイは居なかった」
「ネウロイが居ねえだと!?」
衝撃の言葉に全員が驚く。その声にシュミットは静かに頷く。
「ネウロイは居なかったし、ウィッチなんてのも居なかった。そして人類は国同士で戦争をしていた…それだけだ」
そう言ってシュミットは格納庫に向かっていく。残されたメンバーはただ突っ立ったままシュミットの後姿を見ているだけだった。
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その後502で生活してから暫く立った日、シュミットは部屋で手紙を書いていた。
「親愛なるサーニャへ…なんか変かな?」
一人自分の書いた文章を見て恥ずかしく思いながらシュミットは手紙を書いていく。シュミットは502に着任してからまだ一回もサーニャに手紙を書いていない。せっかく約束したのだから手紙を書かなくてはいけないと思い出し、今懸命に描いている。しかし、シュミットは
「そういえば、今日新しいウィッチが配属されるんだったな」
と、ふと思い出す。ラルから伝えられた内容は、502に新しく扶桑からウィッチがやって来るというものだった。
「…たしか、雁淵孝美中尉だったっけ?」
曖昧な記憶を探りながら名前を思い出す。その名前を聞き管野が色々説明していたっけと思いながら、手紙を書いていく。
そしてある程度書き終わった後、シュミットは少し気分を変えようと部屋を出る。
「…って、部屋出ても特にすることは今無いな」
そんな事を廊下で呟いた後、シュミットは歩き始める。そしてしばらく歩いて辿り着いたところは格納庫だった。
「やっぱりここが落ち着くかな」
501の時も格納庫によく来ていたシュミット。自分の愛機が置いてあるそこに行くと、先客が見えた。
「ん?サーシャ大尉?」
シュミットが呼ぶと、ユニットの前で修理をしているサーシャが居た。
「シュミットさん」
「そのユニットって…ニパのですか?」
「ええ…」
そう言って直しているのはBf109、ニパのユニットだった。彼女は手を機械油まみれにしながらニパのユニットを修理しているのだ。
「しかしなんでまた大尉が?」
上官であるはずのサーシャが何故ユニットを直しているのか気になりシュミットは聞く。
「ニパさんはよくユニットを壊すんです。ニパさんだけじゃなく、管野さんやクルピンスキーさんもよく壊すんです」
「そりゃまた物騒な…」
話を聞きシュミットも思わず苦笑いをする。シュミットが着任した数日後、実際にもニパが空中でユニットの故障をして墜落して行った姿を見ただけに否定できないからだ。
「シュミットさんも『ブレイクウィッチーズ』なんてならないでくださいね」
「ブレイクウィッチーズ?」
シュミットは聞きなれない単語に聞き返す。
「あの三人を称してそう呼んでいるんです」
「ユニットを壊すから?」
「はい」
それを聞き名前に納得した。そして同時に、サーシャに対する気苦労を感じた。そして一人でユニットを直しているサーシャを見て、シュミットもユニットに手を触れた。
「えっ?」
「手伝います大尉。一人より二人の方がすぐに終わりますから」
そしてシュミットも部品の破損箇所を直していく。501の時に自分のユニットを耐久セッティングにした時にユニットについて調べたため、ある程度は構造を理解していた。
「そういえばシュミットさん」
「何ですか?」
「この間、シュミットさんが言っていた世界…前居た世界について、詳しく伺ってもいいですか?」
突然、シュミットに聞いてくるサーシャ。余りに突然のためシュミットも一瞬ぽかんとするが、すぐに表情を変える。
「あまり聞いていても気持ちいい話じゃないですよ?」
「それでも、シュミットさんのことをちゃんと知っておきたいのです」
シュミットはあまり話したい内容では無かったが、サーシャは自分たちが余り知らないシュミットについてちゃんと知っておこうと考えたのだろう。
シュミットが手元を止め顔を上げるとそこには真剣に、そして眉を下げたサーシャの顔があった。そんな顔を見てシュミットも折れた。
「…ネウロイの居ない世界。それどころか、ウィッチなんて存在すらない世界です。そして私の祖国ドイツ――こっちで言うカールスラントなんですが、ドイツは戦争をしていました」
静かに話し始めるシュミット。ここまではこの間話したこととほぼ同じなのでサーシャも驚かなかった。
「敵対国はイギリスやフランスなど様々…元々私は軍人じゃなく、ただの一般市民でしか無かった。しかしある日、私の住んでいたハンブルクの街はイギリスからの大規模な爆撃で崩壊。私の家族も、妹を残して亡くなってしまいました」
それを聞きサーシャが驚く。シュミットが元々軍人でないことや、住んでいた街が人の手で空襲に遭ったなんて考えてもなかった。
「両親を亡くし、妹は大怪我をして入院をしてしまい、私はその医療費を養うために軍に入隊しました。そして戦闘機乗りになり、私は最前線である東部前線で戦っていました」
「東部ってことは…」
「はい。敵国ソビエト…こっちで言うところのオラーシャでした」
それを聞き、サーシャは更にショックを受けた。別の世界の自分の祖国がシュミットの国と戦争をしたことに。
「そこで私と同じように人の乗っている戦闘機と戦いました。しかし、最後はソビエトの戦闘機に墜とされ、気がついたらこの世界のドーバー上空を飛んでいました」
そう言って、話を終えたシュミットはサーシャを見る。サーシャはシュミットを悲しそうな目で見ていた。
「どうしました?」
「いえ…その」
「オラーシャの人を恨んでなんかいませんよ」
シュミットはサーシャがどもっているのですぐさま言った。
「あっちはあっち、こっちはこっちです。だからオラーシャ人を恨むなんて場違いにも程がありますよ。第一、私の彼女はオラーシャ人ですから」
そう笑顔で言うシュミット。サーシャはそんなシュミットを見て少し顔色を戻す。
「…サーシャ大尉って優しいんですね。心配してくれて嬉しいですよ」
そう言ってサーシャを褒めるシュミット。その言葉にサーシャは少しだけ頬を赤くする。そして彼女もようやく笑顔になる。
そして二人で手際よく直していき、ユニットは修理完了した。
「これで終了ですねサーシャ大尉」
手を拭きながらサーシャに言うシュミット。サーシャもそんなシュミットにお礼を言った。
「ありがとうございますシュミットさん。それと、大尉は無しでいいですよ」
「なら、そう呼ばせてもらいます。サーシャさん」
そうして僅かに二人の距離が縮まった時だった。基地全体に警報が鳴り響く。
「敵襲!?」
「戦闘用意!離陸するぞ!」
そしてシュミットは急いでユニットを履き、MG151を持つ。サーシャもユニットを履き、武装を持つ。そして格納庫に駆け込む形で二パや管野達もやって来る。
「シュミット・リーフェンシュタール、出撃する!」
そしてシュミットは離陸をする。それに続く形で他の隊員達も離陸をする。そして基地上空で一度編隊を組んだ時、別の声が聞こえる。
『聞こえるか』
「隊長!」
インカムに流れたのは基地にいるラルの言葉だった。
『北極海沖で扶桑艦隊にネウロイの軍団が接近していると通報があった』
「扶桑艦隊って、まさか今日着任予定のウィッチが乗っているやつじゃ…!」
『そうだ』
シュミットの推測は当たっていた。それを聞きウィッチーズも同じように驚く。
そしてシュミット達は戦闘隊長のサーシャを先頭に編隊を組む。シュミットは不安を持つ横で、管野は張り切っていた。こころなしか、表情も笑顔だ。
そんな管野にクルピンスキーが聞く。
「直ちゃん、今日はやけに張り切ってない?」
「扶桑から知り合いが来るんだよね。たしか雁淵…」
「おう!孝美は俺のマブダチだからな!俺達が着く頃にはネウロイが居ねえかもな!」
「…それならいいが」
飛行途中、管野が堂々と宣言をするが、シュミットはその言葉を聞いてもまだ不安を持っていた。
そしてその不安は的中したのだった。突如、サーシャのインカムに連絡が来る。
「えっ!?もう一度お願いします…はい」
「どうした?」
「雁淵中尉が戦闘不能!?」
「孝美がやられたのか!?」
「ウィッチがやられただと…このままじゃ艦隊は壊滅するぞ!くそっ!」
サーシャから告げられた言葉は着任予定のウィッチが戦闘不能になったという知らせだった。それを聞きシュミットは急加速をする。
「おい待て!」
「急ぐぞ!艦隊が壊滅する前に到着するんだ!」
後ろから管野達が追いかけてくる。シュミットはウィッチの居ない艦隊がどうなるかよく知っている。501でも嫌と言うほど理解した。
(何としても艦隊を護るんだ…!)
そして先ほどよりペースを上げた編隊は、ついにネウロイの大軍を捉えた。その奥には扶桑の艦隊が数隻いるが、どれも被弾をし煙を上げていた。
そして更に驚く光景があった。
(ウィッチが飛んでいる!たしか中尉は戦闘不能になったはずだが…)
そう、目の前にはなんとウィッチが一人戦っているではないか。先ほど受けた報告とまるで違う光景に一瞬驚くシュミットだったが、そのウィッチが今まさにネウロイの攻撃を受けそうになっていた。
シュミットはすぐさまMG151を構え、ネウロイに向けて引き金を引く。弾丸はそのままウィッチを襲おうとしていたネウロイに吸い込まれ、そしてネウロイを破片に変えた。
そしてそれを区切りに、サーシャが命令をする。
「全機突入開始!」
『了解!』
サーシャの掛け声に全員が了解し、そしてネウロイに攻撃を浴びせていく。そんな中、シュミットも強化を自身に掛けようとする。
(一気に決める!)
そして強化を掛けた時、それは起きた。
シュミットは景色と共に光に飲み込まれ、そして世界は再びスローモーションに流れる。502着任前の戦闘で起きた現象が、再び起こったのだ。
「なっ…また!?」
シュミットは再びこの光景に驚く。しかしネウロイがスローになった分、自分の攻撃を当てるチャンスでもある。シュミットはすぐさまネウロイにMG151を向け、引き金を引いていき、次々とネウロイを倒していく。
しかし、シュミットがネウロイに攻撃をしている時それは起きたのだった。
(落ちろ、蚊トンボ!)
「っ!今の声は!?」
突然、彼の頭にそんな声が聞こえてくる。その声はなんと聞き覚えのある声だった。しかしその声に気を取られながらもシュミットは攻撃をしていき、ついに艦隊の上空からネウロイが一掃されたのだった。
うーん、サーシャさんが一番502ではシュミットに関係が近くなりましたね。そしてシュミット君に起きた謎の現象、ついに言葉まで聞こえてしまう。勿論声の主はあの人です。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!