ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

40 / 110
すこし用事があり投稿が遅れました。どうぞ。


第三十八話「事情聴取と決闘」

食事を終えたシュミットは、ラルに言われた通り再び部隊長室に行く。

 

「隊長、シュミットです」

 

シュミットが扉の前で言うと、中から「入れ」と言う声が聞こえる。それを聞きシュミットは「失礼します」と言って扉を開ける。

そして中に入ると椅子に腰かけ両手を口元に置いているラルとその横に立つロスマンがいた。

 

「さてシュミット、何故呼ばれたと思う?」

 

突然、シュミットはラルに聞かれてひょっとする。まさか自分が聞こうと思っていたことを言われるとは思っておらず、完全に出鼻を挫かれたわけだ。

それでもシュミットは思い当たることを考える。

 

「…私が魔法を使えること関連ですか?」

「それもある。が、それとは違う」

 

一体なんだろうかとシュミットは思うが、ラルは続けていった。

 

「――ガリアの巣は一体どうやって倒した?」

 

ラルから言われた言葉はシュミットを動揺させた。まるで言えと言わんばかりも気迫が感じる。

しかし、シュミットはそれを言うことはできない。彼には箝口令が敷かれている。それはシュミットだけでなく、旧501メンバー全員に言えることだ。

 

「…残念ですが、それは箝口令が敷かれているので言えません」

「そうか…」

 

シュミットは言えないとラルに宣言する。それを聞いてラルは手短に、まるで分かっていたかのように言う。

そしてラルは次の質問をした。

 

「それと次だ。お前はこの世界とは別の世界から来た、これは本当か?」

 

その質問はシュミットの想定内だったので、即座に返事をした。

 

「はい、そうです。…と言うより、報告書の通りのはずですが」

「貴方の居た世界、それに気になるの」

 

そう聞いてきたのはロスマンだった。彼女は純粋にシュミットの出身の世界について知りたいようだった。

しかしシュミットは易々と言っていい物なのか考える。

 

「…ネウロイこそ居ませんが、あまりいい話は無いですよ?」

「何故だ?」

 

シュミットが注意すると、ラルは眉を顰める。

 

「ネウロイは居ない…その代わりに私達は人間同士で殺し合いをしていましたから」

「なんですって?」

 

人同士で殺し合いをしていたという言葉は二人を衝撃させた。ラルも言葉には出ていなかったが、目は開かれており驚いている証拠だった。

そしてシュミットは説明した。彼の居た世界で起きたことを。それをラルとロスマンは黙って聞くほかなかった。殆ど同じ時系列で、このように流れが違う運命を聞き彼女たちは終始黙っているしかなかった。

 

「――これが私の居た世界の真実です」

 

シュミットが一通り、大まかであるが説明をした。会話が終わった後、声を出したのはロスマンだった。

 

「…まさか人類同士で戦争をするなんて」

「それ、501の坂本少佐も同じようなことを言ってましたよ」

 

シュミットはそんな言葉を懐かしく思いながら思い出した。あの時も坂本が初めて会った時に言っていたなと思い出しながら、随分この世界に自分はいるなと実感をする。

ラルとロスマンは黙ったままなので、シュミットは立たされたままいつまでこの状態なのかとふと考える。

 

「あの、これで終わりですか?」

「ああ、戻っていい」

 

シュミットは思わず聞くが、ラルはあっさりと承諾した。

 

「では失礼します」

 

シュミットはその声を聞き挨拶をしてから部屋を出る。残った二人は再び話し始める。

 

「…衝撃的でしたね」

「ああ…」

 

二人は短くだが、先ほどのシュミットの話を振り返る。彼女たちはシュミットの世界のことを知り、ネウロイが居ない世界というのについて考える。

 

「ネウロイがいなかったら、私達も人を撃っていたのかもしてないな」

「そうですね…」

 

ラルとロスマンは、それはそれで嫌な世界だと感じたのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

部隊長室を出たシュミットは、自分に宛がわれた部屋に向かっていた。

 

(502基地…ここもいい基地だな)

 

と、歩きながら建物の感想をするシュミット。ふと、窓の外を見てみるとペテルブルグの街が見える。しかし、そこには人気は無く、ただ沈黙した街が続いていた。

 

「おい、お前!」

 

と、窓の外を見ていたシュミットに後ろから何者かが声を掛ける。シュミットがそれに気づき振り向くと、そこには管野が立っていた。

 

「なんだ、管野少尉」

「明日俺と模擬戦をしろ!」

 

突然、管野はシュミットに模擬戦を仕掛けてきた。シュミットは一体なんだと考える。

 

(そう言えば、自己紹介の時もどこか気に入らないような態度を取っていたな)

 

シュミットは管野がシュミットを認めていないのだろうと結論づける。こういうタイプの人間は言われても素直に聞くようなのじゃないなと考え、シュミットもそれに乗ることにした。

 

「…気に入らないか?」

「誰もそんなこと言ってねえよ!」

「いや分かる。自分だってすぐに周りに気に入られる存在じゃないと自覚してるからな」

 

管野は言ってないと否定するが、シュミット自身は自分が異端な存在である自覚をしてるため多分その類いなんだろうなと考える。

 

(そういえば、バルクホルンにもこんな態度とられたな…)

 

と、シュミットはまた昔なつかしの出来事を思い出す。

 

「んで、やるのかやらねえのどっちだ?」

「わかった。その模擬戦で俺の力を示せばいいんだな」

「へっ、そう来なくちゃ!」

 

シュミットの言葉に管野もどうやら納得したようだ。

そしてシュミットは再び来た道を戻っていき、部隊長室に行く。

 

「すみません隊長」

「なんだシュミット」

 

そして先ほど廊下であった出来事を話し、明日に模擬戦を行っていいかをラルに聞く。

 

「わかった、許可しよう」

 

ラルはあっさりと許可をした。シュミットはこれに少し驚くが、彼女はこういう人なんだと自分の中でイメージを作っていく。

 

「案外あっさり許可取るんですね…」

「なに、その方が管野も納得するだろうと考えただけだ」

 

それを聞き、彼女なりにも考えがあるんだなとシュミットは思ったのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

そして翌日、シュミットと管野は格納庫の台に固定されたユニットに足を入れた状態で待機している。二人の手にはそれぞれMG42と九九式の模擬戦銃を持っている。

 

「…よし」

 

シュミットは足に履いているFw190を見ながら言う。魔道エンジンの回転がいつも通りなことに彼は納得した様子である。

しかし、彼には一つ懸念を抱いていた。

 

(昨日のあれは一体何だったんだろう…)

 

シュミットは昨日の戦闘であったあの現象について、あれが只野偶然ではないと思っていた。もしあれがこれからの戦闘中に起きたらと思うと、不安であった。

シュミットと管野はそのまま離陸をし、そして基地の上空5000mまで上昇する。シュミットはふと下を見ると、この決闘を見るギャラリーの姿を見る。中には純粋に結果を楽しみにしているような顔をしている者がいるのを見て、シュミットは思わず苦笑いをする。

そして二人は高度5000mまで上昇し、そして向き合う。この決闘の勝敗を、ロスマンがユニットを履きながら見ることになっており、彼女も同じ5000mで少し離れた位置に配置していた。

 

「お互いがすれ違った後開始、それでいいな」

「ああ」

 

シュミットの決闘開始の方法に管野も肯定の返事をする。

そしてシュミットと管野は一度離れた後、今度は互いに急接近した後そのまま横を通り過ぎる。決闘の開始だ。

まず動いたのは管野だった。すれ違ったと同時に管野はシュミットの後ろに付こうと旋回をする。管野の履いているユニットの零式は宮藤や坂本の履いているものと同種であり、その自慢とするのは運動性能の良さである。反面、防御力は高くない。しかし、この決闘においては運動性能の方が厄介なのである。

すぐさまシュミットの後ろに取りついた管野は、手に持つ九九式の引き金を引く。しかし、その攻撃はシュミットも呼んでおり、バレルロールで回避をし、急降下を始める。それについていく管野だったが、突如シュミットは高度を再び上げ始める。

 

「っ!?」

 

突然の動きに管野は完全に遅れる。最初の急降下でマイナスGがかかり、一瞬集中が薄れるその隙を狙った完璧なタイミングだった。

遅れた管野を余所に、シュミットは上昇をしていき、今度は急反転を行う。彼のお家芸の一撃離脱の体制だ。

そして急降下で加速するシュミットはそのままの速度で管野に突っ込んでいく。管野もそれに気づき、横に体を滑らせる。それにより、シュミットの射線から外れようとする。

しかし、シュミットもそれはお見通しである。予め管野の回避するであろう方向を定め、即座にその対応を行った。そしてシュミットは引き金を引く。

しかし、ここで管野はロールを行い、機動を急にずらした。それにより攻撃は命中することなく横を通り過ぎていく。

シュミットはそんな管野を追跡せず、そのまま上昇をしていく。高度が下がったため、ここは上昇ずるべきであるとシュミットは判断した。

しかし、そんなシュミットに管野はすぐさま反応し、後ろについていく。管野の使う零式は、シュミットのFw190に負けず劣らずの上昇力を持っている。管野はそれを活かしてシュミットを追跡しようと試みる。しかし、ここで管野は失敗した。

 

「くそっ…ついていけねぇ」

 

そう、急降下をしていたシュミットの方が速度が乗っており、上昇速度で完全に管野を振り切っていた。逆に管野は回避した分速度を少し落としているため、上昇する速度の違いが一目瞭然であった。

シュミットはあらかじめこうなることを予想していた。管野の性格から恐らくこの選択は上昇を選んで迎撃をするだろうと。そしてそれは綺麗に当てはまった。

管野は付いていくことができず、上昇速度が著しく落ちていく。高度は既に7000mまで上昇している。管野は完全にシュミットについていけないと断念をし、降下を始めようと高度を下げ始める。

その瞬間をシュミットは待っていた。彼は管野が反転すると同じタイミングで反転を行う。そしてそのまま再び急降下を始める。

管野は降下を開始したと同時に後ろを見て、そして衝撃を受けた。

 

「なにっ!?」

 

先ほどまで上昇をしていたはずのシュミットが、既に高速で急接近をしているではないか。そして管野は、そのシュミットの目をみて固まった。

彼の目は、まるで獲物を見つけた狼のごとく鋭い目つきだった。管野の知らないその目は、彼が前の世界で獲物を捉えるときにする目だったのだ。

そしてシュミットは、引き金を引く。練習銃から放たれた弾丸はそのまま管野に向けて吸い込まれていき、管野のユニットをオレンジ色に染めた。

それと同時に、笛の合図が鳴る。

 

「そこまでです!勝者、シュミット中尉」

 

ロスマンの審判が下される。これにより、管野は敗北し、シュミットが勝利したのだった。

悔しがる管野の横で、シュミットは先程の戦闘について考察していた。

 

(今回は無かったな…なんなんだあの光景は…)

 

シュミットは勝利よりも、先の戦闘では感じなかったあの時の光景が今回は無かったことに疑問を持っていたのだった。




今回の戦闘では出なかったあの光景、一体何なんでしょうね?
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。