ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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少し用事が入り投稿が遅れました。


第二話「覚醒と真実」

その後、シュミットは501を案内されていた。シュミットのFw190を確認しに行くためだ。ちなみに、案内をしているのは坂本である。

初めのうちは、異世界に来たことに対して色々と言いたいことがあったシュミットだった。特に、坂本やミーナの服装に対してだった。

 

「どうしてズボンをはいていない……」

 

シュミットは質問した。二人の格好は彼の世界ではあまりにも危ない格好であると思ったからだ。しかし、予想外の答えが返ってきた。

 

「何を言っているの?ズボンなら履いているじゃない」

 

ミーナにこう言われ、シュミットはこれが異世界だと痛感させられた。あまりにも常識があてにならないと。

その後、格納庫に案内されたシュミットは、中を見て坂本に質問する。

 

「失礼ですが、私の機体はどこに?」

「お前の機体は胴体着陸で全損。格納庫端の方に一応保管してある。」

「了解しました」

 

シュミットが返事をし、坂本は案内した。そして、格納庫端に置かれていたシートをかぶっている物体の前で止まり、そのシートを捲り返した。

垂直尾翼に鎖を咥えた狼と剣が描かれた機体は、胴体着陸の影響で翼は折れ、キャノピーは割れ、修復不可能にまで壊れていた。

シュミットはその機体のコックピットに近づき、中に手を伸ばした。そして、中から鎖でつながれた二つの札を取り出した。

 

「それは?」

 

坂本がシュミットに質問する。

 

「これは亡くなった仲間のドッグタグです。双子で親友でした」

 

シュミットは、少し寂しそうに呟いた。そして、そのドッグタグをポケットにしまい、坂本に向き直った。

 

「少佐、もう大丈夫です」

「そうか」

 

そう言って坂本は再び歩き出した。それにシュミットも続こうとして――トラブルが起きた。

バキンッ!という音がしてシュミットが振り返ると、格納庫内に鎖で繋がれ立てられていた太いパイプが数本、自分に向かって倒れてくるではないか。

 

「なっ!?」

「ん?……なっ!」

 

シュミットは驚き固まってしまい、慌てて両腕を頭の上で交差した。坂本は何が起きたのか一瞬理解が遅れてしまい、シュミットに倒れるパイプを防ごうとしたが出遅れてしまった。

 

しかし、そのパイプがシュミットに当たることはなかった。

 

シュミットは、目の前の光景に目を疑った。坂本は、見慣れたそれを見てありえないと心の中で思った。

 

彼の目の前には、青色の模様が描かれた円いシールドが張られていた。しかしそれは、坂本が出したシールドではない。彼が出したものだったのだ。

そしてパイプは、シールドを伝いそのままシュミットの横へ崩れ落ちた。シュミットは、いったい何が起きたのか全く理解できず、ただ茫然と立ちすくしていた。

坂本はハッと我に返り、シュミットに駆け寄った。

 

「お前、まさか……!」

 

坂本は信じられないものを見る目でシュミットを見た。シュミットは、目を泳がせながら坂本を見た。

 

「今のは……一体……」

 

シュミットは声を絞り出して呟いた。周りにいた整備兵達も、ありえない物を見て言葉を失っていた。

その時、格納庫の扉が勢いよくバン!と開いた。その音に驚き、シュミットは扉を見た。そこには、ミーナを含む数人の少女が立っていた。彼女たちは一斉にシュミットを見て、走って駆け付けた。

ミーナが坂本に詰め寄る。

 

「美緒!今のは一体……」

 

ミーナはシュミットの姿を見て、まさかと思った。ほかの少女たちも、目の前の光景に目を見開き驚いていた。

 

「あなた……それ……」

 

ミーナはシュミットの頭上を指して話す。シュミットは、「それ」と言われて何があるのかと思い、自分の頭を触った。

……何かが生えていた。髪の毛の中に、自分のものとは違う何かが生えていることにシュミットは驚いた。

シュミットの頭に生えていたもの、それは耳だった。しかしシュミットは、今の自分の姿がわからず、それが何なのかを特定できなかった。

 

「なんだこれ……」

 

シュミットは思わず下を向く。そしてさらに信じられないものを見た。

シュミットの視界には、自分の背中から伸びている物があった。それは動物の尻尾だ。それも、狼のような大きな尻尾だった。

 

「な、な、な……」

 

シュミットは声を震わせた。そして、

 

「なんだこりゃあああああああああ!!!」

 

格納庫内で盛大に叫んだ。

 

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数分後、シュミットは落ち着きを取り戻し、現在の自分を再び見直した。相変わらず腰あたりからは尻尾がふわふわと揺れていた。そして、シュミットはがっくりと肩を落とし、溜息を吐いた。

そんなシュミットに、ミーナが話しかけた。

 

「あなた、ウィッチだったの!?いや、それより……いつの間に“使い魔”と契約をしていたの?」

「使い魔?」

 

ミーナの言葉にシュミットは疑問を浮かべた。

 

「私たちが魔力を使う時に、そのコントロールをサポートをして、外見は動物の姿をしているの。本来その使い魔は、動物と触れ合ったりすることで契約をするの」

 

そう言ってミーナはシュミットの目を真剣に見る。

 

「シュミット少尉。貴方は動物と触れ合ったりしたことは?」

「動物と……」

 

シュミットは頭の中をフル回転させ記憶を探った。そして、あることを思い出した。

 

「……あっ」

 

その一言に、ミーナは納得したようにシュミットに聞いた。

 

「……心当たりがあるようね」

「……1年ほど前、ソビエト領に撃墜され墜落した時、一匹の白い狼に出会いました。狼がゆっくり私に近づいて、飛びかかって襲ってきたんです」

 

シュミットは、動物関連の事件の中でもっとも印象的だった出来事を説明していく。それは、敵戦闘機に撃墜された際に、ある狼に襲われた話だった。

 

「私はその時とっさに目を閉じて身構えてしまった。だけど、衝撃は全くなくて、恐る恐る目を開けたら、狼は目の前から消えてたんです……」

「…少し特殊な事例ではありますけど、間違いなくそれね。恐らくそのときに使い魔と契約したのね」

 

シュミットの説明に、ミーナは答えた。そして、頭を押さえた。

 

「なんてこと……、今まで男性のウィッチ、いや、ウィザードと言うべきかしら。そんな話は聞いたことなんてないわ……」

「はっはっはっはっはっ!いやー、面白いじゃないか。私もこんなことは初めてだ」

 

ミーナは困ったように言い、坂本は高笑いをしていた。

シュミットはもう一つ、気になることをミーナに質問した。

 

「そんなことよりミーナ隊長。後ろにいる少女達が困ったような表情をしているのですが……」

 

そう言ってシュミットが見ると、彼女たちは全員信じられないようなものを見る目でシュミットを見ていた。

 

「ああ、そういえばまだ紹介をしていなかったわね。今からブリーフィングルームに行って紹介をするわ。ついて来て」

 

そう言って、ミーナは先導して格納庫を出ようとする。その後ろを、先ほどの少女達が付いていく。シュミットもそれに続くように付いていった。

やがて、前方に黒板と教壇がある、教室のような部屋へやってきた。ミーナが教壇に立ち、他の少女たちはそれぞれ席に着く。そしてシュミットは、ミーナに手招きされ前に立つ。

 

「皆さん。今日は新しく501統合戦闘航空団の戦闘機パイロットとして配属……するはずだったメンバーを紹介するわ。シュミット少尉、どうぞ」

 

そう言って、ミーナはシュミットに自己紹介をするように言う。他の皆は、視線をミーナからシュミットに移した。

 

「初めまして。本日より第501統合戦闘航空団に配属になった、元ドイツ空軍第1航空艦隊所属シュミット・リーフェンシュタールです」

 

そう言って、敬礼をしながら挨拶をする。すると前に座っていた女性がミーナに質問した。

 

「ミーナ、その男は一体誰なんだ。魔法力を持った男も、ドイツ空軍も聞いたことないぞ」

「それについては、本人から直接聞くようにお願いします」

 

そう言って、ミーナは表情を引き締めた。

 

「では解散」

 

そう宣言したと同時に、隊員全員が一斉に立ち上がる。それを確認して、ミーナは歩き始めた。

その直後、シュミットは後ろから何者かに飛びつかれた。

 

「うわっ!?」

 

突然の出来事に対応できず、シュミットは前のめりに倒れる。

 

「おお、大丈夫か?」

 

そう声を掛けられ、シュミットは顔を上げる。そこにはオレンジのロングヘア―をしたグラマーな少女が立っていた。

 

「おーいルッキーニ、降りてやれ」

 

そう言って、ルッキーニと呼ばれた12、3歳ぐらいの少女がシュミットの背中から離れる。ようやく解放されたシュミットは起き上がる。

 

「ん~……やっぱ無い……」

「は?」

 

ルッキーニという少女の発言に、シュミットは訳が分からないといった表情で見る。

 

「そりゃそうだろルッキーニ……」

 

目の前の女性は苦笑いをしながら答えた。そして、シュミットは理解した。この少女は自分の胸を掴んで調べたのだ。その事実にシュミットは呆れかえってしまった。

 

「と、紹介がまだだったな。私はシャーロット・イェーガー中尉だ。宜しく。気軽にシャーリーと呼んでくれ」

 

そう言って、シュミットに手を差し出す。シュミットはその手を取り、立ち上がった。

 

「宜しく……んで……」

 

挨拶した後、シュミットは胸を掴んだ少女に向き直った。

 

「あたしはフランチェスカ・ルッキーニ。ロマーニャ空軍少尉!」

「そうか……」

 

元気に挨拶するルッキーニに、シュミットが小さく返事をし、そして近づく。ルッキーニは、詰め寄ってきたシュミットの雰囲気を察して、少し後ずさった。

 

「初対面の人の胸をいきなり揉むのはやめろ。同性でも嫌がられるぞ」

「は、はい……」

 

シュミットの注意に、ルッキーニは少し涙目になる。それを見たシュミットは慌てた。

 

「あ、いや……俺は別に泣かせようとしたつもりは……」

「あっははは。ルッキーニ、シュミットは怒ってないって」

 

 

そう言って、涙目のルッキーニに対してどうしようかオドオドするシュミットをフォローするシャーリー。すると今度は後ろから声を掛けられた。

 

「私はエーリカ・ハルトマン。中尉だよ~。トゥルーデ、自己紹介は~?」

「……ゲルトルート・バルクホルンだ」

 

そう言って、先ほどミーナに質問した少女と、金髪ショートの少女が自己紹介をする。しかしシュミットは、二人の名前を聞いてあることが頭の中をよぎった。

 

(ハルトマンにバルクホルン……それって……)

 

シュミットが顎に手を当て考えだしたのを見て、エーリカが疑問に思い聞いた。

 

「どうしたの?」

「……いや、一つ質問いいか?二人には戦闘機乗りの兄はいるか?」

 

その質問に、エーリカとバルクホルンは顔を見合わせる。そして、シュミット言った。

 

「私は双子の妹がいるけど兄はいないし、トゥルーデも兄はいないよ~」

「……そうか」

「だけど、なんでそんなこと聞いたの?」

 

エーリカの疑問に、シュミットは二人に言った。

 

「いや、私よりも先輩の戦闘機乗りに、同じ苗字のエースパイロットがいたんだ。名前はエーリッヒ・ハルトマンとゲルハルト・バルクホルン。ハルトマンが最多撃墜王で、バルクホルンがその次だった」

「へ~」

「そうなのか……って、そんなことより!」

 

エーリカが興味津々に聞いている横で、バルクホルンは思い出したかのようにシュミットに言った。

 

「お前は一体何者だ!ドイツ空軍なんて聞いたことがないし、どうして魔法が使えるのかも!」

 

その言葉に、周りのウィッチ全員もシュミットを囲むように集まった。シュミットは、覚悟を決め話した。

 

「私は元々……この世界の人間ではない」

 

その言葉に、ウィッチ達全員の表情が変わった。それは、余りにも唐突すぎて脳が理解していない表情だった。

 

「……何かの冗談か?」

「いや、冗談ではないぞ」

 

シャーリーの言葉に、坂本が答える。

 

「サーニャが言うには、こいつは昨晩突然現れたと言っていたし、私達も尋問をした。まず間違いないだろう」

 

坂本の説明に、全員が唖然とした表情でシュミットを見た。シュミットは、ここからどうしたらいいかと思い、内心焦っていた。

 

「んじゃあさ、シュミットのいた世界のことを教えろよ」

 

そう言ったのは、昨晩シュミットに会った少女の横に立っていた、白ロングヘアの女性だった。

 

「君は?」

「エイラ・イルマタル・ユーティライネン。スオムス空軍少尉だ」

 

エイラからの質問に、シュミットは坂本を見る。

 

「……話してもいいかな?」

「問題ないと思うぞ?」

 

坂本の言葉に観念したシュミットは、自分の元居た世界のことを話した。特に、世界大戦のこと、人々が殺し合いをしたことには全員が驚きの表情をしていた。

やがて、すべて話し終えたシュミットは、周りを見た。そこには、それぞれ複雑そうな表情をしたウィッチたちが立っていた。シュミットは後悔していた。話さない方が幸せだったかもしれないと……。

しかし、最初に口を開いたのは、エイラの横に立っていた少女だった。

 

「でも、シュミットさんはいい人ですよね?」

『!』

「サ、サーニャ!?」

 

サーニャと呼ばれた少女の言葉に、全員が驚いたような顔をした。

 

「だってシュミットさんは、さっきルッキーニちゃんが泣きそうになったのを見てすごい慌ててたから……その……」

 

サーニャの言いたいことを全員が察した。シュミットが、ルッキーニと接していた時の行動を見て、少なくとも彼が悪い人には見えないことを内心感じていたからだ。

しかし、そう割り切れないのが人間である。彼が優しいと知っていても、それが彼が人の乗る戦闘機を落とした事実に変わりないのだから。

しかし、そんなことを気にしない人もいた。

 

「まぁ、隊員達には徐々に慣れてってもらうしかないさ」

 

坂本だけがそんなことを気にも留めずにシュミットと接していた。それが、シュミットにとっての唯一の救いとなっていた。

 

「それより、ペリーヌ」

「はい!」

 

坂本に呼ばれ、眼鏡をかけた少女は大きく返事をする。

 

「同じ少尉同士だ。501の基地を案内してやれ」

「はい!」

 

坂本からの指令にペリーヌは返事をし、シュミットの前に行く。

 

「はじめまして、自由ガリア空軍少尉ペリーヌ・クロステルマンです」

「よろしく、ペリーヌ少尉。それじゃあ、案内をよろしく頼む」

 

互いに挨拶をする。そして、ペリーヌが先頭に立ちシュミットが後ろをついて、ドアに向かって歩いていった。

 

「あっ」

 

しかしシュミットは、あることを思い出し振り返った。

 

「リトヴャク中尉」

「……はい」

「そのー……、ありがとう」

 

そう言って、シュミットは再びドアに向かって歩いて行った。




ペリーヌが中尉でなく少尉なのは、原作開始前という理由と後に作る話のためです。
もちろん昇進します。

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