第三十七話「第502統合戦闘航空団」
「…寒い」
MG151とMG42を背負いながら飛行しそう呟くのは、元501統合戦闘航空団のウィッチ、否ウィザードであるシュミット・リーフェンシュタールだった。今の季節は冬であるため彼はトレンチコートを装着しながら寒い中を飛行している。いくらウィッチが魔法で守られて風邪をひきにくいと言っても、寒い物は寒いのだ。尤も、現在彼は高度7000mを飛行しながら飛んでおり、雪を降らす雲は彼の下に広がっている。もしこれで雲の下を飛んでいたら彼は雪の中雪まみれになっていたかもしれない。
「しかし…まさかこの世界のロシア――じゃなかった。オラーシャ方面に飛ぶとは思わなかったな」
そう、今彼が飛んでいるのはオラーシャ方面である。尤も、オラーシャは現在ネウロイの巣により領土が分断、国土の大きさも相俟って、統合戦闘航空団を二つも抱えている。補充として戦力を欲しがるのも頷けるのだ。
そして同時に、シュミットの原隊は501統合戦闘航空団であり、501が解隊された今、原隊を失った彼は「動かしやすい即戦力」などという立場になっているのだった。他から引き抜くよりも効率的に兵を送れるわけだ。
そんなこんなでシュミットは現在、最前線の基地に向かっているわけである。シュミットは懐中時計を取り出す。
「…よし、そろそろ高度を下げよう」
時間を確認し、彼は高度を下げようとする。いくら雪をよけるためとは言え、雲の上を飛んでいては目的地を確認することはできない。シュミットは少しずつ高度を下げ始めた。
しかし、ここで彼は謎の違和感を感じた。
「…?なんだ?」
突如、彼の耳にキーンッ!という謎の音が聞こえる。それに気づきよく耳を澄ましてみると、さらに驚くことが起きた。
「これは…一体なんだ?」
耳に響く音だと思っていた音は、耳ではなくまるで
そして、彼は
「くっ…!?」
彼は急いでその場から横滑りをする。そして更に驚くことが起きた。彼が横に移動したと同時に、彼がいた場所を赤い光線が通り過ぎていったのだ。
「なっ、今のは…!?いやしかしそんな事より…」
シュミットはその光線を見て驚いた。それは紛れもなくネウロイの攻撃、すぐさま背中のMG42を構えて先ほど攻撃の来た雲の中を見る。雲の中に隠れて見ずらいが、僅かに黒い部分が現れる。間違いなくネウロイだ。
「ネウロイ補足!」
シュミットはすぐさまネウロイに接近する。シュミットはMGを先ほどネウロイが居たであろう場所に向けて撃つ。すると数十発の弾丸の内、数発が手ごたえのある反応をした。
「そこか!」
シュミットは続けて手ごたえのあった場所に撃つ。すると今度はネウロイの方から攻撃が飛来するが、シュミットはそれを左右に動きながら避ける。
そしてしばらくネウロイの攻撃を避けると、ネウロイはまるでしびれを切らしたのか雲から顔を出す。そしてそのままシュミットの方向に攻撃しながら直進してくる。
「よし、チャンスだ!」
シュミットはすぐさま背中に掛けていたMG151を、手に持っていたMG42と入れ替える。そして迎撃する形で強化を掛ける。
ネウロイは相変わらず直進してくるが、攻撃はシュミットのシールドで弾かれている。
そしてネウロイはシュミットの射程に入ってきたのを見計らい、シュミットが引き金を引き――いや、引こうとした。
突然、目の前の景色が変化した。シュミットの目には、まるで光が現れてシュミットを飲み込んだと思ったら、次には周囲の景色が夜の星のように見えた。そして驚くことに、目の前にいるネウロイがまるでスローモーションのように動いている。先ほどの速さから一変して、今度は狙いやすいほどゆっくりとしている。
シュミットはそのネウロイに向けてMGを再び構えなおす。
(ネウロイがゆっくりになっている分、恐ろしく狙いやすい…)
そして引き金を引こうとした時だった。突然ネウロイがシュミットから見て左側に急旋回をしだす。その行動にシュミットも驚いた。
(ここで旋回だと!?)
すぐさま銃を構え直し、ネウロイが逃げるであろうコースに向けて引き金を引いた。
――そして、世界は戻された。ネウロイの動きも先ほどのスローモーションではなくいつもの速さに戻っている。しかしここで気付く。自分の向けている銃口の方向にネウロイはおらず、自分はただ何もない方向に引き金を引いていた。それに気づきシュミットは焦るが、ここで不思議なことが起こった。
なんと銃弾の先頭が向かっている先に、ネウロイが移動し始めたではないか。それも先ほどスローとなった世界の時と全く同じ動きをして。
「なっ!?」
シュミットは驚く。その間にもネウロイは移動するが、そこにはシュミットの銃弾が向かっており、ネウロイの到着と同時に彼の弾丸はネウロイに吸い込まれていった。そしてまともに弾丸を受けたネウロイはコアを破壊されたのか、その場で光の破片となって砕け散った。
シュミットはネウロイを撃墜した。それも呆気なくだ。しかし彼は、今起きたことが現実なのか理解できなかった。
「さっきも感じたあの感じ…それに今のネウロイの動き…まるで分っていたみたいに…」
シュミットは自問自答した。しかし彼にはその答えが出てこなかった。
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連合軍第502統合戦闘航空団――通称「ブレイブウィッチーズ」は現在、ネウロイの反応があった地点に向かっていた。
ブレイブウィッチーズ、それはオラーシャの抱える統合戦闘航空団の一つであり、東部戦線を担当する最前線でもある。
「本当にこの辺りかよ…」
頬に絆創膏を付けた扶桑のウィッチ、管野直枝が聞く。彼女の言う通り、周辺を見てもネウロイの影は全く見えなかった。
「あ、あれ!」
と、隊員の一人、ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン――ニパが上方にホバリングしているウィッチの姿を確認する。
「ウィッチ!?」
全員が驚く。まさかこの辺りにウィッチがいるとは思っていなかったのだろう。
そんな中、502の戦闘隊長であるアレクサンドラ・イワ―ノヴナ・ポクルイーシキン――サーシャは先導してウィッチの下に向かっていく。
「そこのあなた…っ!」
サーシャは目の前のウィッチに声を掛け、そして驚く。
「…ん、あれ?ウィッチ?」
そこにいたのはシュミットだった。シュミットは先ほどまでボーっとしていたが、突然ウィッチが現れたことに驚いていた。
「貴方…ウィザード!?」
初めて見るウィザードにサーシャは驚く。そんな中、シュミットはサーシャの後ろからやって来る他のウィッチ達を見て分析する。
「もしや…1つ聞いていいか?」
「な、なんでしょう」
「間違っていたらすまないが、もしかして502の人達かな?」
「え、ええ…」
シュミットの質問にサーシャは答える。それを聞きシュミットは安心したように息を吐いた。
「よかった。あっ、自己紹介遅れました。本日より第502統合戦闘航空団に配属になる、シュミット・リーフェンシュタールです」
そう言ってシュミットは自己紹介をした。しかし、それを聞いていたウィッチ達は全員驚きのあまり大声を出した。
『えええええええええ!?』
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「君がシュミット中尉か」
「はい。シュミット・リーフェンシュタールです」
その後、シュミットは502の基地に案内される。サーシャが基地に連絡をすると、彼の配属は既に隊長たちには届いていたらしく、そのまま誘導しろと言われた。そして誘導されたシュミットは基地に着く頃には既に日は落ちている。シュミットは格納庫にユニットを置き、サーシャに案内され部隊長室に行く。
部隊長室に入ると、部屋の窓の手前に部隊長机があり、椅子に腰かけた女性とその横に立つ銀髪の女性が居た。椅子に掛けた女性がシュミットを呼び、シュミットは返事をする。
「私は502部隊隊長、グンドュラ・ラルだ。階級は少佐」
「私は教育係のエディータ・ロスマン、階級は曹長です。貴方の活躍は聞いています、シュミット中尉」
「恐縮です」
ロスマンに言われシュミットは少し照れるが、それを表情に出さない。そんな中、彼は二人の関係を見て、上司とそれを補佐する頼れる部下のような関係だろうと自分の中でイメージを構築していく。
そしてシュミットは後ろに立ったままのサーシャに振りむく。
「それと…」
「私はアレクサンドラ・イワ―ノヴナ・ポクルイーシキン、戦闘隊長をしていて大尉です。サーシャと呼んでください」
「宜しくサーシャ大尉」
そう言ってサーシャも挨拶をし、シュミットも宜しくと言う。シュミットはサーシャを名前と階級を付けて呼ぶ。
そんな中、ラルが切り込む。
「さて、丁度いい時間だ。残りの自己紹介は食事の時に行うとしよう。それと中尉」
「はい」
「食事が終わったら、もう一度ここに来てくれ」
「?…わかりました」
ラルからの命令にシュミットは何だろうと考えるが、全員が移動を開始したのでそれについていく。
そして到着したのは食堂だった。そこには先ほど空中で出会った隊員達が全員揃っていた。
シュミットはロスマンに言われ、テーブルの前に立つよう言われて移動する。そしてそのシュミットの横にロスマンが並び、ラルとサーシャはそれぞれの席に座る。
「紹介するわ。本日より501より援軍として、シュミット・リーフェンシュタール中尉が配属されます」
「シュミット・リーフェンシュタールです。階級は中尉、宜しく」
ロスマンに紹介され、シュミットも続けて挨拶をする。その姿を見てそれぞれ驚いたようにシュミットを見る。
そんな中、席に座っていたウィッチの一人が立ち上がる。
「ヴァルトルート・クルピンスキー、中尉だよ。同じ中尉同士だし、是非とも伯爵と呼んでくれるかな」
クルピンスキーが真っ先に自己紹介をする。しかしシュミットは名前の後の言葉が気になる。
「伯爵…?」
「所詮ニセ伯爵です」
ロスマンが小さい声で助言をして、「ああ、なるほど」と思ったのだった。
「宜しくクルピンスキー」
「連れないなー…」
シュミットに伯爵と呼ばれずにショックを受けたように肩をすくめるが、表情はとてもそう見えなかった。
それに続き、階級の高い順番から自己紹介をしていく。
「下原定子、階級は少尉です」
「ジョーゼット・ルマール、少尉です…」
次に少尉の下原とジョーゼット――ジョゼが自己紹介をする。しかし二人共シュミットが男であるという立場からか少し距離を取ったような挨拶になる。まぁそういうのには慣れてきたシュミットも、特に気にする様子はなかった。
そんな中、一人の人物がシュミットを睨む。その視線に気づきシュミットが向くと、管野がシュミットのことをジッと睨んでいた。
「ん?」
「…」
シュミットはどうして睨まれているのか考えるが、それより先に管野の横にいた二パが管野に声を掛ける。
「ちょっと管野、シュミットさんは上官だよ…」
「うるせぇ」
二パが注意するが、管野は聞く耳持たず。まるで品定めしているかのような態度をとられるが、シュミットはこれも特に気にしない。
(まぁ、女性ばかりの中に男性が一人入るだけでもおかしなものだからな…)
と、自分に色々な視線を向けて来るというのを既に覚悟しているからである。
そんなシュミットを余所に、悪くなった空気を取っ払う形でニパが自己紹介をする。
「えっと、私はニッカ・エドワーディン・カタヤイネン。階級は曹長、ニパでいいです。こっちは菅野直枝少尉。その、よろしくお願いします」
「はい、紹介はここまで。それでは食事にしましょう」
そしてシュミットも席に着き、食事は始まる。シュミットはテーブルに並ぶ食事の味に舌を鳴らしながら、周りからの質問に受け答えする。
「シュミットさん。前は501に居たんですよね?イッルは元気でした?」
「イッルってのはエイラか?ああ、元気だった。501でも仲良くしてもらったし」
「君って撃墜数どれだけだい?」
「えっと…たしか145機だったはず」
「シュミットさんってどんな固有魔法使うのですか?」
「私の固有魔法は強化。手に持つ機関砲やユニットを強化、後ウィッチが私を抱いた状態で固有魔法を発動したりするときにその力を増幅させる効果もあったりするね」
様々な質問をされるが、シュミットも質問した。
「この料理美味しいね。誰が作ったんだい?」
「私です、中尉」
「下原か、凄いね。私も料理を作れるけど、ここまで美味しくはできないな」
「あ、ありがとうございます」
シュミットに褒められ、少し照れたように言う。
そんな感じに会話は進み、食事は終了したのだった。
ついに始まったブレイブウィッチーズ編!しかし作者の心配はこの作品をどう書いていくのかにありますね。そのため、前以上に亀更新になる可能性が高まるんです。それでもめげずに頑張ります。
それと、最初にシュミット君の感じた謎の現象…。これが一体今後にどう影響するのか!?
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!