エイラは現在複雑な心境だった。その原因は無論、列車に乗る前にあったあの光景が原因だ。
シュミットに向けてのサーニャの告白。そしてその後の二人のキス。完全に彼女は予想外のことであり、そしてショックだった。そもそも、あの会話からしてサーニャは以前にシュミットから告白されていたということになる。でなければ、あの時に「私も」と言わないからだ。
エイラはサーニャに対して友情に留まらない感情を抱いていた。そのため、彼女は自分がフラれたという現実をまだ受けきれなかったのだ。
エイラからしても、シュミットは真面目で人当たりが良く、サーニャだけでなく501の全員をしっかりと気に掛ける優しい性格だと分かっていた。そして彼は誰よりも仲間を大事にし、何かあったら仲間の為に怒る。彼の性格はエイラの中でも評価のいいものだった。
しかしそれでも彼女は心の中で認められなかった。やはり彼女もサーニャが大切だと思っていたからだ。
そう考えながらサーニャを見るエイラ。現在サーニャはそんなエイラの感情は知らず、体を預け静かに眠っている。
(シュミットがサーニャのことが好きだって分かってたし、サーニャも薄々そうだと思ってタ…だけど…)
エイラはまだ、心の中が混乱していた。ズルズルと引きずるエイラだが、突然その思考は塞がれた。
眠っていたサーニャが突然、何かを感じたのか頭に猫の耳を出す。サーニャの使い魔の黒猫の耳だ。そして今度は魔道針を出す。
その光景に呆気にとられるエイラだったが、サーニャは何かを感じ取ったのかのか状況を口に出す。
「…艦が…燃えてる」
「艦?」
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ウォーロックが空母赤城を攻撃する姿を、離れた所からシュミットは見ていた。元々彼もバルクホルンたちと同様、ウォーロックを監視する目的で基地の近くに潜伏していた。
彼は手に持っていた荷物を思わず落としてしまう。
「…なんてことだ」
黒煙を上げる空母赤城の姿を見ながら呟く。そしてウォーロックは容赦なく赤城を攻撃する。その攻撃はウォーロックの射線上、赤城の後方にあった司令部まで届いていた。
瞬間を見てシュミットは走り始める。目的地は旧501、生憎彼のいる位置から近い。
彼は自身に魔法を掛けながら全力でダッシュする。そしてそのまま基地に静かに潜入をし、急いで格納庫に向かう。しかし、いざ格納庫の目の前に着いた時、
「こいつは…」
シュミットの眼前にあるのはウォーロックの攻撃で半壊している基地と、大きな鉄骨で出口の塞がれた格納庫だった。基地はどうと言うことは無いが、問題となるのは目の前の格納庫だった。格納庫を塞ぐ鉄骨はシュミットでは取り除くことができず、この状態ではユニットを履いて外に出ることはできない。
シュミットは焦った。攻撃されている赤城を助けようとユニットの下に向かったのに、完全に計画が狂ってしまう。
(くそ…どうしたら!何か…何かないか…)
シュミットはじっくり考える。愛機のFw190を自力で外に出そうとも考えたが、それでは更に潜入に時間がかかり赤城が沈没しかねない。懸命に、何かないか周辺を探った。
その時、彼の脳裏に
「…っ!そうだ、あれならいけるかもしれない!」
名案を思い付いたと言わんばかりにシュミットは再び走り出し、格納庫から離れていった。
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同時刻501の基地司令部内は新たな展開が起きていた。
全身をぼろぼろにし微かに笑いながら気絶をする副官。その目の前に立つバルクホルンは魔法を展開しており、彼がこの副官を無力化したのだ。そしてその光景を見ていた他の兵士達は次は自分に来るのではないかという恐怖を感じ取り、全員が部屋の隅っこに逃げて怯えている。その姿はまるで部屋の隅に追い詰められたネズミのようだった。
そんな光景をマロニーは悔しそうに見ていた。瞬く間に部屋を占拠された彼は、占拠者達に質問をした。
「…我々をどうするつもりだ」
「どうする?ミーナ」
バルクホルンはミーナに聞く。ミーナは部屋の司令机の上に数々の資料を広げ、それを一通り見た後彼女は小さく息を吐く。
「ウィッチーズを陥れようとして随分色々となさったようですね、閣下」
「っ!」
「ウィッチを超える力を得るため、敵であるネウロイのテクノロジーを利用。しかもその事実を隠そうとしてウィッチーズを無理やり解散に追い込もうとした」
そう言ってからミーナは手元の資料を置き、マロニーを見る。
「良い計画でしたが――宮藤さんの軍の理解を超えた行動に慌てて動いたのが失敗でしたね」
マロニーはぐうの音も出なかった。完全に自分の立場は不利であり、もし次に言葉を発したら今度は別の失言をしかねないのだ。
そしてバルクホルンはこのことをすぐに感知できなかったことに後悔した。
「もっと…もっと早く宮藤を信じてやっていれば」
「あっ!?」
突然、エーリカが窓の外を見ながら叫ぶ。
「おーい大変だ!赤城が沈みそうだよ…あっ!」
エーリカは状況を報告した後再び赤城を見る。すると、今度は飛行物体が二つあるのに気づく。一つはウォーロックであり、もう一つはなんとウィッチだった。
「ウォーロックとウィッチが戦ってる、誰だ?」
ウィッチと言う単語を聞き全員が驚く中、ミーナは固有魔法でその人物を探る。
「――宮藤さんだわ」
「宮藤!?」
「ありえん!お前たちのユニットはすべてハンガーに封印されているはずだ!」
戦っているウィッチの正体が宮藤と知りバルクホルンは驚くが、その後ろでマロニーはあり得ないといった。今回ばかりはマロニーの言葉は正しかった。格納庫を塞がれた状態ではユニットの持ち出しなどできない。では一体どうやって持ち出した?
そしてミーナは分析を進める。そしてあることに気づく。
「このユニットの波形は…美緒のストライカー!」
「うっそー!やるな~宮藤」
「なるほど。敵を欺かんとすれば、まず味方か…流石坂本少佐だ!」
ハルトマンは戦えない坂本に変わりユニットを使って戦っている宮藤のことを称賛し、バルクホルンは坂本の判断力に感心していた。
その時、それは窓の外を見ていたハルトマンが気付いた。
「あっ!あれ!」
「どうしたハルトマン!」
ハルトマンの声にバルクホルンが反応する。そしてハルトマンが衝撃の発言をした。
「シュミットだ!シュミットがユニットを履いて飛び出したよ、武器も持たずに!」
「なにっ!?だがどうやって?」
バルクホルンは驚いた。シュミットがいることはさして問題はない。衝撃的だったのは彼がどこからともなくユニットを履いて離陸したという事実だった。格納庫は封印されているのに一体何処でユニットを持ってきた。
その答えを見つけたのはミーナだった。
「このユニットの波形…間違いないわ!」
「なんだ?」
「以前
それを聞いてバルクホルンたちは理解した。彼が履いているのは封印されているD型でなく、以前使っていたA型だったのだ。A型は事件後に整備班によってこっそり修理された後、シュミットがD型を使うことになり使われなくなったが、シュミットはそのユニットを別の場所にこっそり保管していたようであり、封印を免れていたのだ。
「なるほど、その手があったか!」
バルクホルンは再び感心した。そして同時に、シュミットの行動の速さに驚きながら称賛もしていた。
「宮藤さんとシュミットさんの二人では時間稼ぎが精一杯よ。行きましょう!」
「それもそうだな!行くか!」
「待て待て待て!」
ミーナは急いで行動を開始した。それに賛同するようにハルトマンも付いていく。そしてバルクホルンはマロニーを縛ってから二人についていく。
そして格納庫に向かう三人。
「つまりだ!宮藤がネウロイに接触したから、奴らは慌てて尻尾を出したってわけさ。分かるだろうミーナ!エーリカ!」
「はいはい」
「あ~、もう私の知ってるトゥルーデじゃない~」
バルクホルンの熱の入る説明を聞き、ミーナは苦笑いをし、ハルトマンはぐったりとする。そして三人が格納庫に近づくと、格納庫前に立っている二人の人影に気づく。
「あれ?」
「エイラさん!サーニャさん!」
「お前達…なんで戻ってきたんだ?」
格納庫の前に立っていたのはエイラとサーニャだった。二人は封印された格納庫を見て困ったように立ち尽くしていたが、三人に気づき振り向く。そしてバルクホルンに質問されエイラは何故か慌てる。
「あ、えっと、その…列車がさ!ほら、二人共寝てたら始発まで戻ってきちゃって。仕方ないからここの様子でも見ようかな~って…なぁサーニャ」
エイラが説明をするが、完全に何か本音を隠している説明だった。そしてサーニャに賛同を求めるが、サーニャは本当のことを話した。
「途中で気付いたんです。今、シュミットさんと芳佳ちゃんが戦ってる。私達はシュミットさん達を助けに来たんです」
「あぁ、サーニャ~…」
「素直じゃないな~」
「私達も同じよ」
「わ、私は違うぞ!」
サーニャの言葉にエイラがヘタレた反応をする。そんな姿を見てハルトマンがからかう。ミーナもおんなじだと言うと、今度は何故かバルクホルンが焦った反応をする。
しかし、彼女たちはこうやって話している暇はない。
「それより始めるぞ!」
そう言ってバルクホルンは話を切る。そして魔法力を発動させると、格納庫をふさいでいる鉄骨の一つを掴む。そしてありったけの力を込めてその鉄骨を持ち上げ始めた。こんな芸当ができるのは彼女の固有魔法の『筋力強化』だからこそ出来るものだろう。尤も、シュミットもやろうと思えばできるかもしれない。
そしてついに格納庫の封印は解かれた。
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「くぅッ…!」
既に沈み始めている赤城の甲板上でペリーヌは現在、右腕で坂本の手を取り支え、左手で赤城の甲板の端を掴んでいた。こうなってしまったのは、宮藤が戦っていたウォーロックの攻撃が偶然にも赤城の後部に直撃し、船体を大きく振動させる。その衝撃で放り出された坂本をペリーヌが掴み、そして空いたもう一方の手で甲板を掴み、海に放り出されるのをギリギリで回避したのだ。
ペリーヌが坂本に聞く。
「大丈夫ですか少佐!?」
「もういいペリーヌ、放せ!」
「その命令だけは絶対聞けません!」
坂本は手を放せと言うが、ペリーヌは聞かなかった。自分の尊敬する人物の手を放すなど、彼女のプライドが許さなかった。
空で戦う宮藤はそんな二人を急いで助けに向かおうとするが、ウォーロックの攻撃を受けなかなか動けないでいた。
「坂本さん!」
宮藤が叫ぶ。その時だった。戦闘空域にオレンジ色をした複葉機が乱入してきた。
「ルッキーニ!」
「まっかせろー!」
それはシャーリーとルッキーニの乗る飛行機だった。彼らの機体はネウロイの横を通り抜けて沈みかけている赤城に迫る。その目的はペリーヌと坂本の救助だった。
それを勘づいたのか、ウォーロックが攻撃を複葉機に向かって行う。その時だった。
「いっけぇ!」
シャーリー達の乗る複葉機とウォーロックの間に、一つの人影が入る。そしてその人影は複葉機を守ろうとウォーロックの攻撃に対してシールドを展開し、その攻撃を弾いた。
「シュミットさん!」
宮藤がその人物の名前を呼ぶ。それは懐かしのユニットを履いてやって来たシュミットだった。彼はウォーロックを睨みつけながら呟いた。
「はぁ…はぁ…間に合った」
強化を掛け全速力で空域に登場したシュミット。彼の行動により、シャーリーは最適なコースで赤城に近づいていく。
その時だった。ペリーヌの腕に限界が来てしまい、甲板を持っていた手が離れる。そしてそのまま落ちて行ってしまうペリーヌと坂本。
「きゃあああああああ!」
落下しながら悲鳴を挙げるペリーヌ。そんなペリーヌを空中で抱く坂本。
しかし、二人が海に落ちることは無かった。シャーリーの操る複葉機は海面を低空で飛行し、後部に座っていたルッキーニが二人をキャッチした。
「よっしゃー!!ナイスキャッチ!」
「おっかえり~」
シャーリーは作戦が成功し喜び、ルッキーニも笑顔になる。
その姿を見てシュミットもガッツポーズをした。
「おし!」
それと同時に、赤城は急速にその船体を海に沈めていく。あと少し遅れていたらと思うとひやひやするシュミットだったが、彼は悠長に考えている余裕は無かった。
まだウォーロックと戦闘は続いている。それを食い止めるのがシュミットの仕事だ。彼は急いで離陸したのと武器が無かったことで非武装だが、防御ぐらいなら出来る。
「さて…ここからが正念場だ!」
シュミットは再び気合を入れ直し、ブーストを掛けて再びウォーロックと対峙したのだった。
懐かしのA型ユニットです。
書いていてエイラを慰めたくなりました。後ついでに言いますと、サーニャがシュミットの名前を先に呼んでいることに注目。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!