ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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少し元気があったので書き終えました。第三十二話です、どうぞ。


第三十二話「謹慎と脱走」

「なぁ宮藤、自室禁固だって?」

 

宮藤に処罰が言い渡された後、リーネの計らいで宮藤はお風呂に入っていた。因みに、現在お風呂には男性であるシュミット、執務中のミーナ、ベッドの上の坂本とそれに付き添うペリーヌを除いて全員が入っていた。

そして入ってきた宮藤に、横にいたシャーリーが聞く。宮藤は答えないが、そんな宮藤の方に腕を回した。

 

「それで済んで良かったなぁ!」

 

そしてシャーリーは自分の自慢の胸に宮藤を抱き寄せた。抱き寄せられた宮藤は驚くが、それに続けるようにルッキーニが言った。

 

「シャーリーなんか5回も禁固刑くらってたもんね~」

「バカ言え!4回だ4回!」

 

ルッキーニとシャーリーの漫才のような会話を聞いて、一緒に入っていた他のウィッチーズも笑う。

それに便乗するようにエーリカが胸を張って言った。

 

「私6回!」

 

更に笑いが起こる。しかし宮藤はそんな会話を聞いても笑わうことなく、立ち上がった。

 

「みんな聞いて!」

 

宮藤が立ち上がって言うので、全員の視線がそっちに向かった。

 

「あの、私ネウロイに今までと違う何かを感じたの。もしかしたら、ネウロイと戦わずに済む方法があるのかも…」

 

宮藤はそう主張した。しかし、彼女の言葉を素直に聞く人はいなかった。

 

「何をバカなことを」

「芳佳ちゃん」

「でもあの時はネウロイと分かり合えて…」

「今まで奴らが何をしてきたか知ってるのか?お前はネウロイの味方をするのか?」

 

そう、バルクホルンの言う通りだ。ウィッチーズの殆どは、ネウロイに祖国や大切なものを奪われた者だって多い。そんな彼らの敵はいつもネウロイだった。そのため、宮藤の行動はまるでネウロイの味方をしているようにも見えるのだ。

 

「今回のネウロイは他と違います!」

「お前は違いが分かるほど戦ったのか!?」

 

宮藤はそれでも主張するが、バルクホルンが追い込むように更に言う。実際、バルクホルンに比べたら宮藤はネウロイとの戦闘経験が圧倒的に少ない。そう言われると、宮藤はネウロイが違うほど戦ってきてないし、理解できると言いきれない。

風呂場に沈黙が流れる。

 

「人型が出たのは聞いたけど、だからってなあ」

 

沈黙を破るようにハルトマンが言う。それに続くように、サーニャの髪を洗っていたエイラが口を開いた。

 

「カワハバ基地の事カ?所詮噂じゃん」

「でもこの間の唄うネウロイは…?」

「それが罠だったじゃないカ!」

 

サーニャは芳佳を庇う形で言うが、エイラにあっさりと反論されしょぼくれる。

まったくもって議論は解決に向かわない。風呂場の空気が重苦しくなってくる時だった。

 

「……っ、ひゃあ!」

「芳佳~元気出せよ~」

 

ルッキーニが突然芳佳の胸を触りだす。だがそれでも物足りなかったのか他を探すと、目の前に立っていたリーネを見つける。

リーネはルッキーニに追いかけられる形になってしうが、ルッキーニはシャーリーを見つけるとすかさずダイブする。

 

「やっぱりこれだよね~」

 

そう言ってルッキーニはシャーリーに抱き着く。シャーリーもそんなルッキーニの頭をなでる。

それを見てハルトマンが楽しいのかと疑問に思うが、すぐに横にいたバルクホルンの胸を掴む。掴まれたバルクホルンは驚きハルトマンを怒鳴る。

そんな光景が流れ知らず知らずのうちに周りには笑いが零れる。宮藤も一瞬笑うが、彼女は誰も信じてもらえなかったことから再び表情を暗くしたのだった。

 

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そして深夜、ミーティングルームに集められたシュミット達は、ミーナから衝撃的な告白を受けた。

 

「宮藤さんが脱走したわ!」

「脱走!?」

「やるなぁ」

 

台を叩いて言うミーナの言葉に、他の隊員達も驚く。シュミットも例外ではない。

 

(宮藤が脱走…理由なく脱走するはずなどない。何かあるはずだ)

 

シュミットは思考を高速で働かせる。宮藤が何の前触れもなく脱走したことに対して、疑問を持ったからだ。

 

「あのバカ…」

 

バルクホルンがそう愚痴る。そんな僅かな声をシュミットは聞き漏らさなかった。やはりなんだかんだ言っても、彼女も宮藤が心配なのだ。

そんな中、ミーナは次の命令を下そうとする。

 

「これが司令部に知れたら厄介だわ。急いで連れ戻すわよ」

 

そう命令を下した時だった。ミーナの下にある電話が鳴り響く。急いで受話器を取りミーナは応えた。

 

「はい、501統…閣下!?……ですが、それは…いえ、了解しました」

 

数秒の会話の後、ミーナは受話器を下ろした。シュミットは嫌な予感がしたが、次に告げたことは嫌でも残酷な現実だった。

 

「司令部から宮藤さんに対する撃墜命令が下ったわ」

「なにっ!?」

「――っ!?」

 

ミーナの命令にシュミットは予感が当たり思わず声を漏らす。そして同時に、横にいたリーネもだ。

シュミットはリーネの反応が気になった。それは何かを隠している様子であり、撃墜命令を聞いて焦っている様子だった。

 

「リーネ…何か知っているな。大方、宮藤の脱走を手助けした、とか」

「っ!?」

 

シュミットに言われリーネは驚く。その反応は図星を表していた。他のウィッチーズもそれに気付く。

 

「リーネさん。貴方…っ!?」

 

ミーナはリーネに詰め寄ろうとするが、シュミットが腕をリーネの前に出し庇う姿をする。

 

「中佐、リーネをとやかく言う前に今は宮藤の方が最優先です。リーネ、宮藤の脱走を手助けしたんだ。今度はお前が自室に謹慎されるぞ。それでも…」

「構いません!」

 

シュミットの問いが終わる前に、リーネは返事をした。その姿を見て、シュミットはリーネが少なくとも宮藤の脱走の手助けをしたことに対する覚悟が出来ている証拠だった。

シュミットは静かにミーナを見た。

 

「中佐」

「いいわ。リーネさんは今日1日、宮藤さんの代わりに自室で謹慎していなさい」

 

ミーナもその意思を受け止めたのか、即座にリーネに謹慎を言い渡した。

そして、宮藤捕獲部隊が編成される。メンバーはミーナにシュミット、ハルトマンにバルクホルン、シャーリーにルッキーニの6人だ。

そして全員が武装をして離陸をする。宮藤の逃走した方角は事前に報告されており、全速力で追いかけた。

しばらく飛行していく。ふとシュミットは横を見る。見ると海から日が昇り始めており、既に朝になった証拠だった。

 

(たく、宮藤の奴こんな面倒なことを…)

 

そう考えるシュミットだが、彼は内心この出来事は何かが起こる。そう感じていた。それは彼の気のせいかもしれない。しかし、それでも僅かな希望を求めていた。

シュミットだって、共に生活してきた仲間を殺すなんて嫌である。この数か月間、宮藤と何度も会話やら色々と接してきたシュミットは、彼女も501の隊員と同じように家族のように感じてきていた。

そしてしばらく飛行して、ついに見つけた。

 

「っ!いたぞ!」

 

一番目の利くシュミットが、遠方にいる宮藤をついに発見した。そして同時に、宮藤の向こう側にいる物にも気づく。

 

「あれは…中佐、人型ネウロイです!人型ネウロイが宮藤の前に!」

 

シュミットは人型のネウロイが宮藤を先導しているのを見ていち早くミーナに報告する。報告を聞いたミーナも頷く。

そして同時に、シュミットの静まっていた怒りが少しずつ沸騰してきた。

 

「あいつが少佐を…くそっ!」

「待って!」

 

シュミットは背中のMG151を構え、ネウロイの突撃しようとする。しかしそのシュミットをミーナが止めた。

 

「何故です中佐!」

「…なんだあれは!」

 

シュミットが静止したミーナの行動に不満の声を漏らすが、横からシャーリーが驚きの声を上げる。それに気づきシュミットもシャーリーの向いている方向を向き――そして固まった。

青い空に白い雲が点在する空の中、その部分は異色と言える光景が広がっていた。まるで大きな竜巻のように渦巻いている大きな()()()が浮かんでいた。その色はまるで何も寄せ付けないかのような闇に染まっていた。

シュミットはミーナに聞く。

 

「中佐、あれは一体…」

「――ネウロイの巣よ」

 

ミーナから告げられたのは衝撃の単語だった。その言葉にハルトマンも続く。

 

「前にも見たことある。あそこからネウロイ(奴らが)来るんだ!」

「あれを破壊しようと多くの仲間が攻撃した。だが、誰一人近づくことすらできなかった…」

 

バルクホルンが説明をするが、その表情は本当に悔しそうだった。彼は今まで死んだ兵士たちのことを思い、そして目の前に広がる絶望の塊を見て恨みを持った目を向けていた。

その時、ルッキーニが声を張る。

 

「芳佳が中に入っていくよ!」

「なにっ!?」

 

ルッキーニの言葉を聞いて全員が見る。人型ネウロイに先導されながら宮藤は難なく巣に入っていく。その光景を見て全員唖然とした。今まで誰も近づくことができなかったネウロイの巣に、彼女は易々と入ったのだ。

 

「入っちゃった…」

「誰も入れなかったのに…」

「奴らの罠か!?」

 

全員が口々に言うが、バルクホルンは最悪のことを仮定した。それを聞いて真っ先にルッキーニは巣に向かって飛ぼうとした。

 

「芳佳!」

「待ちなさい!」

「中佐!?」

「…様子を見ましょう」

 

ミーナの突然の静止にシュミットは驚くが、彼女はこの状況を黙って見ることにしたのだ。

そして宮藤が巣に入ってから数分が経過する。未だに中から宮藤が出る気配は無かった。

その時だった。突然、宮藤を先導した人型のネウロイが巣の外に現れたのだ。

 

「さっきの奴だ!」

「芳佳は!?」

「いない…やっぱり罠か!」

 

全員がその様子を確認するが、周辺には宮藤は居なかった。

ミーナはすぐさま号令を掛けた。

 

「ブレイク!」

『了解!』

 

ミーナの号令と同時に全員が散開する。そして人型ネウロイに攻撃をしようとした時だった。

最初に気づいたのはシュミットだった。彼は自分たちの来た方向から何かが接近してきているのに気づいた。

 

「…?あれはなんだ!?」

 

シュミットが驚きの声を上げる。そうこうする内に、高速で接近する飛行物体はシュミットの横を通り抜けていく。それどころか、今まさにネウロイを攻撃をしようとしたバルクホルンたちも通り抜けていく。

 

「なにっ!?」

 

全員が驚いて立ち止まる。そしてその飛行物体の行方を見た。

飛行物体は突然加速した後急上昇を行い、そして向きを変えて高速で急降下を開始する。降下する先には人型のネウロイが居た。飛行物体は機銃が付いているのだろう、人型ネウロイに対して銃弾による攻撃を開始した。攻撃を受けた人型ネウロイの周辺に着弾による煙があがるが、その横を高速で飛行物体は通過した後、今度は離脱。そしてさらに驚くことに変形をしたのだ。

ネウロイはそんな飛行物体に反撃をする形でビームを発射する。その量はこれまで戦ってきたネウロイの比では無いくらいの量だった。全員が一斉にシールドを張ったり回避をする。

 

「こんな凄いビーム初めてだよ!」

「キツイね!」

 

ルッキーニとシャーリーは回避しながら愚痴るが、他の四人は飛行物体について分析していた。

 

「さっきのは!?」

「何だあいつは!?」

「外観は人工物、恐らく人が製作したものとみて間違いないだろう。しかし…」

「あれは…」

 

そんな風に分析していたが、今度はその飛行物体は驚く行動をした。

なんと変形した形から突然、赤い光線を放ったのだ。それは見間違えるはずがない、ネウロイが今まで攻撃してきたビームと酷似していた。

 

「あいつもネウロイなのか!?」

 

シャーリーが驚くが、そのビームはそのまま人型ネウロイに直進した後飲み込んだ。そしてネウロイでは受けきれなかったのか、ビームは更にネウロイの巣にまで伸びていった。

 

「あいつ強いぞ!」

「何なんだあいつ!ネウロイを一撃で!」

「分からん…あのビーム、とんでもない威力だぞ!」

「ん?…あァッ!?」

 

と、突然ルッキーニが奇声を上げる。その声に気づき彼女の方向を見ると、なんと宮藤が気を失ったまま落ちていく姿が見えた。

 

「芳佳ッ!!」

「宮藤!!」

 

ルッキーニとシャーリーが落ちていく宮藤を追いかける。そんな中、謎の飛行物体は役目を終えたとでも言った様子でシュミット達には目もくれずに来た方向を再び逆戻りして行った。

シュミットはこの光景を見て以前推測していたことを思い出した。

 

「まさか…いや、もしかしたらあれが新兵器だというのか?」

 

シュミットは飛行物体の飛んで行った方向を見ながら、その新兵器と思われる物から見えた禍々しい何かを感じたのだった。




宮藤はやっぱり軍人という枠にはまっていないところがまた面白いところですかね。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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