ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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それでは三十一話です。どうぞ。


第三十一話「罪と罰」

夕方、シュミットとペリーヌは坂本が寝ている病室にいたペリーヌは坂本のベッドの横の椅子に腰かけ、ずっと坂本の容体を見ていた。

シュミットはその二人とは離れたところ、入口のドアの壁にもたれかかりながら見ており、彼は人差し指を噛んだまま黙っていた。

 

(心拍数はまだ安定しているが…はやく目覚めてください少佐…)

 

シュミットは坂本の横にある計器に表示されている数字を見ながら、心の中で願っていた。

突然、シュミットの横にある扉が開く。彼が横目で見ると、下を向いた宮藤と、そんな宮藤の後ろにリーネが立っていた。

シュミットはその瞬間、部屋の空気が変わったのを感じた。ガタリッ!と坂本の寝るベッドの方向から音がするのでシュミットが見ると、憤怒の表情をしたペリーヌが走りながら宮藤の下に向かっていた。そしてペリーヌは右腕を大きく上げ、それを宮藤に向けて振り下ろす。しかし、それが宮藤の頬に振り下ろされることが無かった。

 

「止めろペリーヌ」

 

彼女の手をシュミットが掴み受け止めた。事前に行動を察したシュミットが止めたのだ。

 

「放してください!宮藤さんのせいで少佐は怪我を負ったのに、今までのうのうと寝ていて!」

「宮藤は気絶するまで治癒をしていたんだぞ…坂本を救おうとしていたのに何故打とうとするんだ!?」

「そんなの当たり前です!」

 

ペリーヌは宮藤に対して怒っていた。自身のあこがれである坂本が大怪我をする原因を作った宮藤のことを。しかしシュミットは宮藤に援護をする。シュミットからしたら、宮藤が坂本を怪我する原因を作ったと同時に、自分が気絶するまで懸命に治癒を坂本に向けてやっていたというのを聞いていたからだ。しかし、ペリーヌは気が昂ぶっており、そんなシュミットの主張を聞き入れなかった。

シュミットはペリーヌの手を押さえ、ペリーヌはそれを解こうとする。そんな争いの横にいた宮藤だったが、突如部屋の中に走り出した。

 

「芳佳ちゃん!」

 

リーネが声を掛けるので、その声につられてシュミットとペリーヌも宮藤を見る。すると宮藤は坂本のベッドの前に行き、魔法力を腕に集中させ治癒をし始めた。

宮藤は先ほどまで気絶していた。無論それは魔法力を使い疲労が溜まりすぎたことによる気絶だった。そんな状態から目覚めてまだ間を開けていないのに、再び芳佳は坂本を治療し始めたのだ。

それを見て、シュミットも理解した。宮藤が坂本を死なせるなど絶対に思っていないと。

そして、シュミットはそっとペリーヌの掴んでいた腕を離す。ペリーヌはそれに気づきシュミットを一瞬見るが、再び宮藤が坂本を治療する姿に向き直る。

 

(宮藤だって理解しているはずだ。自分が原因で少佐が怪我をしたことを。そしてその事を悔やんでいることだって…)

 

シュミットはそう考えながらしばらく様子を見た後、自分のやれることはここには無いなと悟る。そして静かに部屋を出ていく。

リーネはそんな行動をするシュミットに気づくが、彼の表情が自分はここでは何もやれることがないと悟っているのを見て察したのか、特に止めることはしなかった。

そして今度シュミットが向かったのは、基地の食堂だった。部屋の扉を開けると、中にはシャーリーとルッキーニ、エイラとサーニャがいた。

 

「あっ、シュミット」

 

中に入ってきたシュミットに気づいたのはルッキーニだったが、彼女の表情は現在宮藤に治療されている少佐のことを思ってか、いつもの明るい元気さは無かった。

それに気づいたのはシャーリーもだったのか、シュミットに聞いた。

 

「少佐はどうだ?」

「宮藤がさっき少佐の居る医務室に来て、再び治療を開始した。だが、まだ容体は回復に向かっていないだろう」

「そうか…」

 

シュミットから言われた現実にシャーリーは落胆した。

そして次にサーニャがシュミットに質問をした。

 

「でも、芳佳ちゃん命令違反して大丈夫なんでしょうか?」

「恐らく後日に処罰が下されるだろう。いくら少佐を治癒したからと言って、独断専行に命令違反がまだ残っているからな。弁解は絶望的だろう…」

 

サーニャにそう説明しながら、シュミットはテーブルの上を見る。そこには缶詰があり、シャーリーが持っている籠の中にも同じような缶詰があったのを見て、これを出したのはシャーリーだなと理解した。

 

(そういえば、宮藤とリーネは今医務室にいるんだったな…よし)

 

そう考えてからシュミットはキッチンの方へ袖をまくりながら移動する。その行動を見て周りは不思議に思うが、シュミットはそんな様子を余所に手を洗い出す。

 

「何をしているんだ?」

 

シャーリーが代表して声を掛ける。

 

「ん?何って、みんなのご飯を作るんじゃないか」

「えっ?」

 

誰が声を漏らしただろうか。シュミットが当然というようにサラリと答えるので、周りもそんなシュミットに驚いていた。

シュミットはそれを見て説明するように言う。

 

「あのなぁ…宮藤は今少佐の治療中で、リーネは付き添いしているんだ。あの二人に料理しろなんて言えるわけがないだろう」

「だけど、お前料理できたのか?」

「なっ…この前ケーキ作ったのは私だぞ」

 

シュミットが説明をしてもシャーリーはシュミットが料理できないのだとまだ思っていたようだ。実際、彼がケーキを作った時は作った現場を誰も見ていないため、料理ができるという認識がしずらかったというのがあったのだろう。

 

「あっ」

「どうしたの?」

 

と、シュミットが材料を切っているとき、テーブルの方から声がする。顔を上げて見てみると、エイラが一枚カードを持っており、サーニャが聞いていた。

 

「宮藤占ってた」

「なんて出たの?」

「死神」

『縁起でもない…』

 

死神のカードの意味は正位置の意味ではろくなものが無い。この時ばかりは全員の思いが一致したのだった。

 

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その夜、ミーナとシュミットは医務室にいた。

 

「もう大丈夫です。この子の魔法のおかげですよ」

 

そう言って医師は宮藤を見た後、部屋を出ていった。残されたミーナとリーネとシュミット。そして坂本の眠るベッドに付きっきりだった宮藤とペリーヌ。

そしてミーナはベッドに近づく。

 

「美緒」

 

ミーナの声かけに坂本が閉じていた瞳を開ける。そしてゆっくりとミーナの方向を向いた。

ミーナはその様子を見てミーナは一瞬安堵の表情をするが、すぐに表情を引き締める。坂本が真剣な眼差しでミーナを見ていたからだ。

一瞬のためらいの後、ミーナは言った。

 

「それでも飛ぶのね…」

 

その言葉に坂本は「ああ」とでも言いたげな表情をする。シュミットにも、坂本が返事こそしなかったがそう言ったように見えた。

そしてシュミットは一歩前に出た。

 

「すみません少佐、少佐を攻撃したネウロイを倒せなくて」

 

そしてシュミットは頭を下げる。しかし坂本はそんなシュミットに短く答えた。

 

「気にするな」

 

そう言うが、シュミットはやはりそれでも僅かに罪悪感を感じていた。

そして翌日、シュミットは夜間哨戒を終えてから坂本の眠る医務室に向かっていた。そして部屋に入ると、ちょうど宮藤が起きたところなのだろうか、二人は離れて眠っているリーネとペリーヌを見ていた。

シュミットも起こさないように静かに近づいていく。

 

「宮藤、起きたんだな」

「あっ、シュミットさん」

 

後ろから声を掛けると宮藤が気付いたように振り返る。無論、シュミットも口元に指をあてている。

そして宮藤は再び坂本の方を見る。

 

「…よかった」

「宮藤、顔色が悪いぞ」

「そりゃそうですよ少佐。宮藤はずっと少佐を治癒していたんですから」

 

坂本は宮藤を見て顔色をうかがうが、シュミットが付け足す。

それを聞いて坂本も理解したのか、宮藤を見た。

 

「ありがとう…」

 

短くだが、宮藤に感謝の意を込める。そしてすぐに表情を変えた。

 

「…何故撃たなかった」

「えっ」

「あの時、何故お前はネウロイを撃たなかった」

 

坂本は少し間を開けて宮藤に聞いた。この事実はシュミットも聞きたかったことだ。

 

「…撃てなかったんです」

 

宮藤は短く、そして弱々しくだが言った。それを聞いて坂本は宮藤の手を取り、宮藤を自分に近づけた。

 

「人の形だからか?あれはお前を誘い込む罠だ」

「でも、私あの時なにか感じたんです…」

「ネウロイは敵だ」

 

宮藤はあのネウロイから何かを感じたというが、坂本にはそれが理解できなかった。

軍人である以上、彼らは打倒ネウロイを掲げて戦ってきている。そんな彼らの敵はネウロイだけであり、守るべきものは人類である以上、ネウロイから何かを感じるなど到底納得できるものではない。それは()()()()()を除いてだ。

 

(ネウロイから何かを感じた…それは宮藤の勘違いか、それとも軍歴の浅い宮藤だから感じた物なのか)

 

シュミットは宮藤と坂本の会話を聞いて考えていた。彼も軍人であることは確かである。しかし、彼の場合はネウロイに対しての知識が乏しいところがある。そのため、宮藤の主張に対しても「もしかしたら」という考えを持ったのだ。

しかしシュミットは、ミーナから言われたことを思い出し宮藤に言った。

 

「宮藤、残念だがこれから君を拘束する」

「えっ」

 

宮藤は突然後ろから声を掛けられ驚くが、シュミットの真剣な表情を見て気が後ずさりする。彼の表情は基地にいるとき今まで見せたことのない真剣な表情――絶対に逃がさない、とでも言いたげな表情をしていた。

 

「ミーナ中佐からの命令だ。少佐が目覚めた後、宮藤が起き次第拘束して連れてくるように言われている」

 

そう、シュミットはミーナの命令に従っているのだ。今回の事件の発端となった宮藤を連れてくるようにと。

そして、宮藤を連れてシュミットは医務室を出た後、そのまま部隊長室に向かった。中に入ると、エーリカとバルクホルンが立って待っており、執務机の椅子にはミーナが座っていた。

 

「中佐、宮藤軍曹を連れてきました」

 

シュミットはミーナに言った。その時に宮藤を軍曹をつけて呼んだことに宮藤は少し困惑していた。シュミットが宮藤のことをいつも気軽に苗字で呼んでいたのに対して、今回はそんな軽い雰囲気でもなかった。

 

「ご苦労、シュミットさん。さて、宮藤芳佳軍曹」

 

ミーナはシュミットに礼をした後、率直に宮藤に話し始めた。シュミットは宮藤が逃走を図らないように宮藤の後ろに回った。

 

「あなたは独断専行の上上官命令を無視、これは重大な軍機違反です」

「はい…」

 

ミーナが淡々というので、宮藤もその空気に逆らうほど馬鹿でなく、素直に返事をする。

そして次にミーナは質問した。

 

「この部隊における唯一の司法執行官として質問します。あなたは軍法会議の開催を望みますか?」

 

ミーナは宮藤に軍法会議を望むか聞く。勿論、宮藤は軍法会議に対する知識に疎い。そう考えているシュミットは、宮藤が返答などしないだろうと考えていた。

案の定、宮藤は「あ、あの…」と僅かに呟いただけだった。彼女は軍法会議を望む返答をしていない。

 

「返答が無いので軍法会議の開催は望まないと判断しました」

 

そして、ミーナも先の返答から望んでいないという解釈をした。

 

(本来なら今の反応はアウトだが…まぁ、ミーナ中佐の優しさというか甘さというか…)

 

シュミットはそんなミーナの判断を見て、そう考えていた。実際、他の部隊長ならこんな風に裏で庇うようなことをしないだろう。

そしてミーナは宮藤に処分を言い渡した。

 

「今回の命令違反に対し、勤務、食事、衛生上やむを得ぬ場合を除き、十日間の自室禁固を命じます。異議は?」

「あの、私ネウロイと…」

「改めて聞きます。異議は?」

「聞いてください!」

 

バンッ!

宮藤が異議を唱えず自分の主張を続けようとしたため、ミーナは手に持っていた資料を机に叩く。流石に大きな音が鳴るので、宮藤も開いていた口を閉じる。後ろで聞いていたシュミットも、ミーナから来る雰囲気に思わず息を呑んだ。

そしてミーナはもう一度問う。

 

「異議は?」

「…ありません」

 

こうして、宮藤の処罰は決まった。




シュミット君、また君料理できること忘れてますね。
ミーナ中佐、やっぱり甘いですね。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは!

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