「ガリアから敵が進行中との報告です」
「今回は珍しく予測が当たったな」
ブリーフィングルームに集められたウィッチーズは、ミーナからの説明を聞いていた。その説明に坂本が感想をこぼすが、シュミットも同じような思いだった。
(敵が一定のペースで来るならこっちとしては戦いやすいことこの上なしだな…)
「現在の高度は15000、進路は真っ直ぐこの基地を目指してるわ」
「よし、バルクホルン、ハルトマンが前衛!ペリーヌとリーネが後衛!宮藤は私とミーナの直掩!シュミットはいつも通り遊撃!シャーリーとルッキーニ、エイラとサーニャは基地待機だ!」
「お留守番~お留守番~♪」
「ユニットのセッティングでもするか」
基地待機組はそれぞれ色々な反応をするが、出撃組は気を引き締めた。
そしてその様子を見て坂本が号令をする。
「よし、準備にかかれ!」
そうして出撃組は格納庫に行き、ユニット履く。シュミットもユニットに魔力を流し始める。そして武装はいつも使うやつでは無かった。MG151はこの前の出撃で壊れてしまい、補給が来るまで今はMG42を使うことにしたのだ。しかしシュミットはそれをバルクホルンと同じように二丁持っていた。
そしてそのまま離陸をする。滑走路ではシャーリーとルッキーニが見送りをする。
「行ってらっしゃーい!」
そして上空で編隊を組むシュミット達。そしてしばらく飛んでいるとき、坂本がネウロイを発見する。
「敵発見!」
「タイプは?」
「確認する!」
ミーナがどんな種類か聞くので坂本が眼帯を取り魔眼で確認をする。それを聞いてシュミットも強化した目で坂本の向いている方角を見る。
坂本がネウロイを特定した。
「300m級だ!いつものフォーメーションか?」
「そうね」
坂本が聞くのでミーナがそれに肯定した。しかしシュミットはそのネウロイの形状を見て疑問に思った。
(何だ?赤い斑点がバラバラに散らばっている?型は左右対称だが模様は非対称じゃないか)
そう考えている中、坂本が命令を下す。
「よし、突撃!」
そして全員がネウロイに対して突撃をする。前衛のハルトマンとバルクホルンがネウロイを射程に捉えた時だった。
突如ネウロイは小型に分裂したのだ。
「なにっ!?」
「分裂した!?」
それぞれが驚くが、ミーナが固有魔法の『三次元空間把握能力』を使いその数を数える。
「右下方80、中央100、左80」
「総勢260機分か、勲章の大盤振る舞いになるな!」
「そうね」
「で、どうする?」
坂本がミーナに聞く。ミーナはすぐさまフォーメーションを指示した。
「あなたはコアを探して」
「了解」
坂本が返事をする。
「バルクホルン隊中央」
「了解」
バルクホルンが返事をする。
「ペリーヌ隊、右を迎撃」
「了解」
ペリーヌも返事をする。
「宮藤さん、貴方は坂本少佐の直掩に入りなさい」
「了解!」
「いい、貴方の任務は少佐がコアを見つけるまで敵を近づけないことよ」
「はい!」
「シュミットさんは私について来て!左を迎撃するわ」
「了解!」
そうして、ウィッチーズ8人対ネウロイ260体の勝負が始まった。
「これで10機!」
「こっちは12機だ!久しぶりにスコアを稼げるな!」
「ここの所全然だったからね」
ハルトマンとバルクホルンは個々の実力を生かして各個撃破をする。
「いいこと、貴方の銃では速射は無理だわ。引いて狙いなさい」
「はい!」
「私の背中は任せましたわよ!」
ペリーヌとリーネは即席で全後衛に分かれる。そしてペリーヌはネウロイの集団に急降下する。
「これを使うと後で髪の毛が大変なのよね…」
そう言いながらペリーヌは自身の固有魔法を発動する。
「tonnerre!」
彼女の固有魔法『雷撃』によって、周辺にいたネウロイの集団が一瞬にして砕ける。
「フン、わたくしにかかればこのくらい…」
と言い終わる前に彼女の後ろで音がする。振り返ると彼女の墜とし損ねたネウロイを後方からリーネが狙撃して墜としていた。
「やるじゃない」
ペリーヌはそんなリーネを見て称賛した。
シュミットとミーナも、バルクホルンと同じように個々でネウロイを撃墜していた。
「25機…26機…28機」
シュミットは持ち前の一撃離脱戦法で両手に持ったMG42をネウロイに叩き込む。と同時に、彼は撃墜数を数えていた。理由は坂本の言った『勲章』という言葉に感化されたからだった。また、魔力を絞った状態で戦闘をするのも忘れない。彼はこの感覚をこれからも行っていかなくてはいけないのだから。
しかし、いくら戦闘をしてもまだコアを撃墜できないでいた。
「キリが無いよ!」
ハルトマンが愚痴る。
「コアは一体どいつなんだ!?」
ハルトマンに続きバルクホルンも疑問の声を漏らす。
ミーナは坂本の下へ向かった。
「コアは見つかった?」
「駄目だ」
「まさか、また陽動!?」
「違うだろう」
ミーナがハッとするが、坂本はそれを否定する。
「コアの気配はあるんだ。ただし、どうもあの群れの中にはいない」
その言葉を言ってからミーナと坂本は全体を見渡す。
「戦場は移動しつつあるわね」
「ああ、大陸に近寄っているな」
長期戦になるにつれて、だんだんその戦場はブリタニアの本島に接近してきていた。このままでは完全上陸されてしまう。その時だった。
宮藤が何かに気づき振り返った。
「っ!上!!」
その声を聞き坂本も振り返る。そこに確かにネウロイはいた。太陽を背にして数機のネウロイが隠れていた。
坂本は魔眼でネウロイを見る。しかし太陽とかぶさってしまった。
「くっそ、見えない…」
そういう間にも、ネウロイは急降下を開始する。宮藤が動いた。
「行きます!」
そう言って宮藤はミーナと坂本の前に立ち、向かってくるネウロイに対して機関砲を向ける。
ネウロイはそんな宮藤に対して攻撃をするが、ウィッチーズの中でも高い魔力を持つ宮藤にシールドをさせられ攻撃が防がれる。
そして宮藤がネウロイに対して攻撃をする。ミーナも後ろから援護する。それによって数機のネウロイが破片に変わる。
「よし、いいぞ!もう少しだ!」
「はい!」
そしてさらに攻撃を加えていく宮藤。ついに坂本はコアを特定した。
「見つけた!」
そのネウロイは急降下したのち坂本達に攻撃をせずそのまま離脱していく。
「あれなの?」
「ああ」
「全隊員に通告、敵コアを発見!私達が叩くから他を近づかせないで!」
『了解』
すかさずミーナが全体に命令を出す。命令を受けたウィッチ達はコア以外の敵を接近させないように叩き始める。
そして宮藤とミーナ、坂本がコアに対して攻撃を開始する。攻撃を受けたネウロイは被弾し回避する。
「宮藤逃がすな!」
「はい!」
坂本の声に返事をし、宮藤がネウロイのコアを追尾攻撃する。そしてついに宮藤の攻撃が命中し、コアは破壊された。
それにより、別の場所で交戦していたシュミット達のネウロイも破片に変化した。
宮藤、ミーナ、坂本は破壊されたネウロイの破片をシールドで防ぐ。しかしその時だった。
「…っ!?」
「美緒…!?」
破片の一部が坂本のシールドを突き破り、彼女の髪を少し切り裂いたのだ。その光景を間近で見ていたミーナも驚く。
しかし他の隊員はそんな事に気づかず宮藤に近づき称賛の声を送る。
「芳佳ちゃんすっご~い!」
リーネが宮藤に抱き着く。しかしペリーヌはプイッとそっぽを向いた。
「ふん。あんなのマグレですわよ」
「いや、不規則挙動中の敵機に命中させるのはなかなか難しいんだ」
ペリーヌがツンとした感想をするが、バルクホルンがフォローする。そんな光景を見ていたシュミットはペリーヌの表情を見ていないが、雰囲気から彼女が宮藤を少し称賛しているのではないかと考えていた。
「宮藤やるじゃ~ん」
「えへへ、そうかな?」
そんな会話をしているとき、宮藤は撃墜したネウロイの破片を見る。破片はキラキラと輝きながら陸上に降り注いでいく。その光景はさながら雪が降っているようだった。
「綺麗…」
「ああ、こうなってしまえばな」
宮藤の言葉に坂本が加える。
「綺麗な花には棘が…って言いますわね」
「自分のことか?」
「おいおいハルトマン、失礼だぞ。ペリーヌだって美人なんだから」
ペリーヌの言葉にハルトマンが茶化すが、シュミットがここでフォローをする。しかし、このフォローを聞いていた他のメンバーがシュミットの方向を向いた。
「…ん?どうした?」
シュミットは自分を見ている人全員が意外そうな顔をしていたことに気付き聞く。
「いや、シュミットがそんなことをサラッと言うものだからな…」
「ん?なんか変なことだったか?」
バルクホルンが代表して言ったが、シュミットは何か可笑しいことでも言ったかという反応をした。その反応に更に全員がありえない物を見たような反応をした。そんな反応をしてシュミットはがっくりと肩を落とす。
「おい、そんな反応は無いだろ…ん?中佐?」
シュミットは自分をどんな目で見られていたのかを考え若干傷つくが、ミーナがどこか寂しそうな表情をしながら突然降下をしていくのに気づき反応した。その行動に他の隊員達も気づく。
「ミーナ?」
「え…おーい、どこに…」
「待て…一人にさせてやろう」
ハルトマンがミーナについていこうとするが、坂本がそれを腕で静止する。
バルクホルンが気付く。
「…そうか。ここはパ・ド・カレーか」
「パ・ド・カレー?」
シュミットが気付きバルクホルンに聞くが、バルクホルンは首を振るだけで答えなかった。
ミーナはそのままパ・ド・カレーの地面に降り、そして一台の車の前に来た。そしてそのままミーナは車の扉を開け――中にあったある物を見て固まった。
車の助手席には包みがあった。そしてミーナはその包みを開く。そしてその中に会ったものを見る。それは赤いドレスと一通の手紙だった。
ミーナはその中身から誰の物なのかを理解した。そして、静かに涙をボロボロと流し始めたのだった。
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「やっぱり来なかった…」
赤城の甲板の上、宮藤に手紙を渡そうとした少年はそう呟いた。あの時ミーナに言われていたから来るはずないとは思っていたが、それでも少し寂しく感じたのだろう。
そんな時だった。彼の帽子が宙を舞った。それと同時にウィッチが通り過ぎる。青年はそのウィッチを見た。
「宮藤さん!」
「みんなありがとーう!頑張ってねー!私も頑張るから!」
宮藤が手を振りながら甲板の上に立つ兵士たちに声を張る。その声に反応して兵士たちも「ありがとう」と嬉しそうに口々に言った。
リーネが宮藤に言った。
「芳佳ちゃん、よかったね!」
「うん!ちゃんとお礼言えた」
「世話になったからな」
「はい」
そして赤城に並行して飛んだ後、坂本が「基地に戻るぞ」と言った時だった。坂本の耳にある音が流れる。
それは赤城の艦橋にも届いた。杉田艦長が気付く。
「これは…全艦に繋げ!」
「了解!」
そして
501基地では、ウィッチ達が集まっていた。それだけでなく、何名かの基地の兵士たちもいる。彼らの目線の先にはサーニャの伴奏に合わせて歌うミーナがいた。彼女が赤いドレスを着ながら歌うのは『リリー・マルレーン』だった。それはシュミットも聞いたことのある歌だった。
(父さんが昔この曲を聞かせてくれたっけ…)
シュミットは昔、この曲を父親がレコードで買ってきて聞いたのを覚えていた。シュミットはこの曲に対して今、懐かしさと寂しさを感じていた。
そしてミーナが歌い終わると、ミーナはお辞儀をした。周りのみんながミーナに拍手を送る。
宮藤が近づいてミーナに感想を言った。
「とっても素敵な歌でした!」
「ありがとう」
ミーナはそんな宮藤に微笑み返す。
その時、宮藤の頬っぺたを後ろから誰かが引っ張る。その犯人はエイラだった。
「サーニャのピアノはどうした~サーニャの~」
「ふぉっへもふへひへひは~(とっても素敵でした~)」
「えい、もっと褒めろ!」
「ほへへまふっへは~(褒めてますってば~)」
そんな二人の光景を見て周りのみんなが笑い始める。その光景を見て自然とミーナも笑いが漏れる。
シュミットも壁の所にもたれかかりながらその光景をみて、自然と微笑みが零れたのだった。
シュミット君は実は天然で女性を褒めるようです。これは作者も知らなかったな~(大嘘)
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは!