どうぞ。
起床ラッパの鳴る前の501基地。この時間帯は殆どのウィッチが眠っており、起きている人はごく僅かである。
一人は坂本少佐。彼女は毎朝の鍛錬のため誰よりも朝が早い。二人目に、夜間哨戒から帰ってくる人。この日はサーニャである、生憎彼女は立ったまま眠っている状態であった。
そして三人目の人物、シュミットは501基地の外にいた。正確には、基地の射撃場に立ち訓練を行っていた。
「……」
淡々と撃ち続けるシュミット。手に持っている武装はMG42。彼は重いMG151では無く、501でも使用者の多いMG42を使えるようにしようとしているのだ。
その時、基地の方向からラッパの音が聞こえる。起床ラッパの音だ。
シュミットは訓練を終了し、MG42を肩に担いで基地に向かった。しかし、何故かその場で突如立ち止まった。
「…なんだろうな、この嫌な予感は」
と、突如シュミットはそんなことを呟いた。そして、この嫌な予感がこの後に本当に起こるとは考えず、基地に帰投したのだった。
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「ん…寝坊しちゃった…朝は坂本さんの訓練に出ないと…」
と、起床ラッパで起きた宮藤が寝ぼけながら部屋の扉をあけて出る。手には枕を抱えており、まだその目は半開きである。
「遅刻!遅刻!」
と、そんな宮藤の前をペリーヌが焦って走っていく。しかし、振り返って再び部屋に向かう。
「眼鏡、眼鏡…」
彼女は眼鏡を掛けるのを忘れてしまったようだ。
別の場所ではシャーリーが歯を磨いている。しかし、その姿は問題があった。彼女は下着姿で部屋の扉を開けて歯を磨いているのだった。
その目の前を通ったミーナがそんなシャーリーの前を通った。
「おはよう、シャーリーさん…」
「ふわぁ~」
ミーナはシャーリーの姿を見て震えながら挨拶をするが、シャーリーは眠たいのかそのままあくびを返したのだった。
その時、シュミットが自室に向かって歩いていく。そんなシュミットを見てミーナは挨拶をする。
「おはよう、シュミットさん。どこに行ってたの?」
「おはようございます、中佐。射撃場で少し訓練に行ってました」
シュミットがミーナに挨拶をし返す。と、その時、
「起床だ!起きろハルトマン!」
別のところから大きな声が聞こえる。シュミットは気になりその方向を向くと、ドアの空いた部屋から声がしていた。そこはハルトマンの部屋だった。
シュミットは部屋に戻る前にそこが気になり近づいていき、そして部屋を覗く。
「もうちょっと…あと70分」
「そんなちょっとがあるか!!」
「何やってるんですか?」
シュミットが目の前の漫才に思わずツッコむ。その声に気づきバルクホルンが振り返る。
「シュミットか。ハルトマンを起こしているんだ…おい起きろ!」
「後40分…」
「おーきーろー!」
バルクホルンは真剣に言うが、ハルトマンは相変わらずマイペースに答えたため更に苛立つ。
そんな二人を余所にシュミットは部屋の中を見渡す。部屋の中は衣服や物で散らかっており、片付けをしていないという証拠がわかる。
「うわぁ…」
シュミットはその部屋に思わず声を漏らす。
「カールスラント軍人たるもの、一に起立!二に起立!三も――」
「いや、そんなに規律で埋まったら普通過労で倒れますよ…」
バルクホルンがハルトマンに論ずるが、シュミットはさすがにそれは無いかと思いツッコむ。
バルクホルンはいったん落ち着きを取り戻しハルトマンに質問する。
「…今日は何の日だ?ハルトマン」
「お休みの日~」
「違う!」
「ハルトマン、今日は午後から表彰式じゃなかったか?」
質問を間違えるハルトマンにバルクホルンとシュミットがツッコむ。
そう、今日はハルトマンの表彰式である。ネウロイ撃墜数250機を表彰して、カールスラント本国から騎士鉄十字章が贈られることになっている。
「ふぁ~、それじゃあお昼まで…」
「おいおい、早く起きろ」
「そうだ、早く起きんか!」
ハルトマンは昼と聞くや再び寝ようとするが、シュミットとバルクホルンはハルトマンを起こそうとする。案外二人は似ているところがあるのかもしてない。
そしてバルクホルンがハルトマンの上に乗っている衣類を剥ぎ取る。
「なっ!?」
「っ!?」
目の前の光景にバルクホルンとシュミットは思わず赤面する。そしてシュミットは目元を手で覆う。
なんとハルトマンは下に何も履いていなかったのだ。そんな姿で彼女はシュミットの前にいたのだ。
「さ、さっさと服を着んか!履かんか!!」
バルクホルンは手に取った衣類をハルトマンにぶつけるが、そこはスーパーエース。眠い体でもその衣類を難なく回避する。
そんな会話が後ろで聞こえる中、シュミットは足元に落ちていたあるものに目が行く。それは柏葉騎士鉄十字章だった。
「あの~、勲章をこんな風に乱雑に置いていいんですか?」
シュミットはそれを手に取りバルクホルンに見せる。バルクホルンはそれが何なのかを理解し驚く。
「柏葉騎士鉄十字章が…!」
「まぁ、普通は床に置きませんよね」、と言いながらシュミットはそれをバルクホルンに渡す。シュミットもブリタニアから贈られた勲章は大事に保管してあるし、少し前に一級鉄十字章、騎士鉄十字章も授与され、それも大切にしている。それに比べたらかなり雑な扱いだと思った。
とりあえずシュミットは後ろを振り向けないのでハルトマンをバルクホルンに任せ部屋を出たのだった。そしてその足で食堂に向かうと、今度はシャーリーが食堂にいた。
「おはよう、シャーリー」
「おはよう、シュミット!」
相変わらず元気なシャーリーである。そしてその後バルクホルンもやってきて、三人で朝食にふかしたジャガイモを食べ始める。
「しっかし、誰も起きてこないな」
「まぁ、そうだな」
「まったく、どいつもこいつもたるんでいる」
そう言いながらバルクホルンはジャガイモを頬張る。
「まーしばらくはネウロイもこないはずだし、いいんじゃない?」
そう楽観的に答えながらジャガイモを頬張るシャーリー。
「まぁ、ピリピリしすぎるのも考えようだが、一応少しぐらいは警戒もいるんじゃないか?」
「そうだぞリベリアン、備えよ常にだ」
シュミットはどっちつかず。バルクホルンとシャーリーの間のような考え方だ。
しかしバルクホルンは常に備えはいると論ずる。
「これだからカールスラントの堅物は」
「それは私も入るのか?」
シャーリーの言葉にジト目をするシュミットだが、目の前のじゃがいもの山から大きいサイズのじゃがいもにフォークを差し込む。
「あっ!その大きいのは私のだろ!」
「芋に名前が書いてあるわけないだろう。それに…」
そう言ってシュミットは一口食べてからこう言った。
「ブリッツクリークはドイツの十八番だ」
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「はぁ…なんだってこんな…」
現在シュミットは基地の外を歩いていた。
元の原因は、何者かによってペリーヌのズボンが紛失し、何故か宮藤のズボンが証拠物となり、何も履いていない宮藤を見てバルクホルンが自身のズボンを脱ごうとしたので、全く解決に向かっていないと思いシュミットは探しに行くと言い外に出た。紛失したならまず探せばいいと考えるものだ。
「しかし普通なら無くした脱衣所にあるものが普通だよな…」
そう言いながらシュミットは脱衣所に入る。そしてしばらく探し回るが、結局ペリーヌのズボンは見つからなかった。
そして脱衣所を出た時、バルクホルンとシャーリーに遭遇した。
「あっ!?シュミット!」
「二人共どうしたんですか?揃って」
「シュミット!ルッキーニだ!」
「は?」
シャーリーに言われシュミットは何のことか一瞬間の抜けた声を出すが、説明を聞いてシュミットも納得した。ペリーヌのズボンを盗んだのはルッキーニであり、現在ルッキーニは宮藤のズボンを盗んで逃走中だという。
「とりあえず私は外を見てきます」
「わかった!」
そうして二人と別れたシュミットは、基地の外に出る。
そしてしらみつぶしに捜索をするが、結局ルッキーニの姿は見つからなかった。その時だった。基地をネウロイ接近の警報が鳴り響く。
「ネウロイ!?っくそ!」
シュミットは次から次へとくる面倒ごとに少し苛立ちながら、急いで格納庫へ向かう。
そして格納庫に到着して――言葉を失った。
「さ、坂本さん!私履いてません!」
「わたくしもちょっとスケスケで…」
「問題ない!任務だ任務!空では誰も見ていない!」
「「ええ~!!」」
坂本の軍服を着た宮藤とズボンを履いてないペリーヌがたじたじしているのに対し、ボディースーツ姿の坂本が笑いながら言う。勿論そんな反応に驚く二人。
シュミットはそんなことよりもと思いながら急いで自分のユニットに足を入れ、そして魔力を流す。すると、
「私も行きます…」
そう言って格納庫の入り口からサーニャが入ってくる。
「サーニャ?」
「うわっ!?サーニャ…?」
シュミットが気付き反応するが、その横でエイラが何か驚いたように反応する。
よく見ると、サーニャは下にいつも履いている黒のタイツを履いていない。
そこから覗く白い素肌を見てシュミットは一瞬ドキリッ!とするが、ネウロイが接近しているのを思い出し急いで思考を切り替える。
「シュミット・リーフェンシュタール、出撃!」
そうして離陸するシュミットだった。
上空へ上昇し、先んじてロンドン方面に向けて来るであろうと先読みし飛行を開始した。
そして地上では、事態は悪化していた。
「こ、ここで脱げってヒドイじゃないカ!」
「だって私のだから…!」
「坂本さん、スース―します!」
「我慢だ宮藤!」
「何をやっているんだこいつら…」
目の前のカオスな光景にバルクホルンが真面目な感想をこぼす。そんな隊員を放っておいてバルクホルンは出撃しようとする。その時だった。
「みんな待って!」
格納庫の出口、そこにはミーナが立っていた。
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「誤報!?」
その言葉にその場にいた全員が驚く。
この警報の原因はルッキーニが誤って警報装置を押してしまい起きてしまったことだったのだ。そしてそのルッキーニをハルトマンがその場で確保し、事態は終息したのだった。
「ハルトマン、やったな!お前こそカールスラント軍人の誇りだ!」
「見事だ中尉!」
それぞれが口々にハルトマンを褒め称える。
「さぁ、今から表彰を始めましょう!準備はいいですね、ハルトマン中尉」
「了解」
そうして仕切り直し、ハルトマンの表情式が行われる。
「ハルトマン中尉、壇上へ!」
「はい!」
堂々と返事をし、ハルトマンが壇上に歩んでいく。その姿を周りのみんなが拍手を贈る。因みにルッキーニは罰として両腕にバケツを抱えて泣いている。
そしてハルトマンが勲章を受け取ったその時だった。海風が吹き、ハルトマンのジャケットが少したなびく。そしてそこにあったのは、ルッキーニのズボンだったのだ。
それを見て拍手をしていた手が止まり、その光景に全員固まる。何のことかわからない坂本は不思議に思い、ミーナはみんなが祝福をしていると勘違いをする。
そしてもう一つ、ある異変に気付く人物がいた。
「……そういえば、シュミットはどこ行った?」
坂本の言葉に、全員が思い出したように周りを急いで見る。しかし、そこにシュミットの人影は無かった。
「あれ!?シュミットさんは?」
その頃、ドーバー海峡上空。
「変だ…基地からの連絡が全く来ない…」
皆に忘れられたシュミットがホバリングしながら不思議に思っていたのだった。
というわけで、皆に忘れられるシュミット君でした。