突如聞こえてきたネウロイの声、もとい唄。それを聞いていた上空の四人は驚きでその場にホバリングしていた。
サーニャが口を開いた。
「…どうして?」
「敵か!?サーニャ!!」
「ネウロイなの?どこ!?」
「どこにいるんだ!?」
エイラと宮藤は周囲状況が分かるサーニャに聞く。しかしサーニャは答える前に三人に静止の手を出した。
「三人とも避難して!!」
「なっ!?どうしたんだ!?」
シュミットがサーニャの意図を読めずに聞き返した。その時だった。
突如、サーニャはユニットの回転数を大きく上げ、急上昇をし始めた。
「あっ!?」
宮藤が驚くと同時に、突如雲の中から赤色の光が出てくる。それはネウロイの攻撃だった。攻撃はそのまま伸びていき、上昇したサーニャのちょうど足元を掠めていく。そしてサーニャはその攻撃を避けるが、左足のユニットに被弾してしまい、ユニットが壊れバランスを崩した。
「サーニャ!!」
エイラが反応した時、横からサーニャに向かって飛んでいく影があった。それはシュミットだった。シュミットは急激にユニットを加速させ、そのまま落下しかかっているサーニャをキャッチする。
それに続いていくようにエイラと宮藤もサーニャの下へ向かった。
「なにしてるんだサーニャ!なんで一人で行く!!」
シュミットはサーニャをお姫様だっこした状態で怒鳴る。横で聞いていたエイラと宮藤も、ここまで人に怒っているシュミットを見て驚いていた。
「敵の狙いは私…間違いないわ」
サーニャは震えながら言う。シュミットの袖を掴む手も震えていた。
「わ、私から離れて…一緒にいたら…」
「バカッ!何言ってんダ!」
「そんな事出来るわけないよ!」
エイラと宮藤も反論する。しかしサーニャは下を向いたまま震えている。
「…だって――!」
そんなサーニャの表情を見て、エイラがサーニャのフリーガーハマーを取った。
「エイラ?」
シュミットがエイラの行動を見て驚くが、そのままエイラは右手にフリーガーハマー、左手にMG42を持って前に出る。
「どうするの!?」
宮藤もエイラの行動に何をするのか疑問に思い聞いた。
「サーニャは私に敵の居場所を教えてくれ。私は敵の動きを先読みできるから、やられたりはしないよ」
そうして今度は雲の方を向いた。
「あいつはサーニャじゃない。あいつは独りぼっちだけど、サーニャは独りじゃないだろ」
その言葉を聞いて、今度はシュミットも動いた。
「宮藤、サーニャを頼む」
「えっ、は、はい」
シュミットはお姫様抱っこをしているサーニャを宮藤に託す。そしてシュミットは背負っていたMG151を構え、セーフティロックを解除する。
「エイラ」
「なんダ?」
「敵の狙いがサーニャなら、私は出てきたネウロイを迎撃する。エイラは攻撃に専念してくれ」
「分かった」
こうして、エイラとシュミットはネウロイに対して牙を向ける。サーニャは心配そうに二人を見る。そんなサーニャを見てエイラが心配させないように言った。
「大丈夫、私達は絶対負けないよ」
「そうだ。生き残って基地に戻ってやるさ」
エイラの言葉に同乗するようにシュミットも言う。そんな光景を見て宮藤もサーニャに笑顔を見せる。そしてサーニャも、そんな三人の姿を見て強張っていた表情を崩した。
そして、エイラは雲に向けてフリーガーハマーを構える。その後ろでシュミットがMG151を構え迎撃準備に立つ。そして宮藤の支えを貰い飛んでいるサーニャが指示を出した。
「…ネウロイはベガとアルタイルを結ぶ線の上をまっすぐこっちに向かってる。距離、約3200…」
その指示を聞いてエイラが指定された方向にフリーガーハマーを構える。
「こうか?」
「加速してる。もっと手前を狙って…そう、後3秒」
「当たれよ!」
エイラの声と共に、三発のロケット弾が雲の方向へ進んでいき、そして爆発する。すると、着弾した方向から今度は赤いビームが飛んでくる。四人はそれを回避する。
「外した!?」
「いえ、速度が落ちたわ!ダメージは与えてる…戻ってくるわ!」
「戻ってくるナ!!」
エイラは再びロケット弾を発射する。しかし今度はその弾を雲の中で回避するネウロイ。
「避けた!」
「速いな…」
「くそっ、出てこい!!」
再びロケット弾を放つ。そして今度はネウロイに直撃した。ネウロイは激しく燃え上がりながら痛みを苦しむような鳴き声を出す。
「出た!」
そしてネウロイはそのまま四人のところへ一直線に飛んでくる。そしてシュミットが今度は前に出た。
「ここは任せろ!喰らえ!!」
そしてMG151の引き金を引くシュミット。強化を掛けたMGの弾丸は、ネウロイの体を大きく抉り始める。その間にも、ネウロイはシュミットに対して攻撃をしようとする。
「シュミットさんダメ!逃げて!」
「逃げるものか!」
サーニャが大声で叫ぶが、シュミットはそこから動くことなくネウロイに攻撃を加えていく。その時だった。
「っ!」
シュミットの目の前に大きなシールドが現れる。宮藤が前に立ってシールドをシュミットの前に張ったのだ。
「ダンケシェーン、宮藤!」
「大丈夫!私たちきっと勝てるよ!」
「私も手伝うゾ!それがチームだ!」
そして、三人はネウロイに立ち向かう。そんな三人を見て、サーニャも動いた。サーニャは宮藤の背中に掛けてある九九式機関銃を構える。
「へっ?」
「なっ?」
「む?」
三人はその行動に驚くが、そのままサーニャは引き金を引いた。そしてネウロイに向けて三人の弾丸が飛んでいく。その弾丸を正面から受けたネウロイはコアまで削られ、ついにその姿を欠片に変えた。その距離はあと数十メートルという距離まで迫っていた。
「いよっしゃ!!」
シュミットはネウロイが欠片になる瞬間を見てガッツポーズをした。他の三人もついにネウロイが撃墜されたことを切っ掛けに張り詰めた力を抜いた。
そして四人はそのままホバリングをする。しかし、彼らはまだ気になることがありそのまま上空を見ていた。
「…まだ聞こえる」
「なんで?やっつけたんじゃ…」
「いや、さっきよりもノイズが無いぞ…」
三人はこの音が何なのかわからなかった。しかしサーニャはこの音に心当たりがあるのか理解した。
「違う…これはお父様のピアノ」
そう言ってサーニャは、片足だけになったユニットを再び始動させる。そしてそのまま高度を上げた。
「…そっか、ラジオだ。この空のどこかから届いているんだ!すごいよ!奇跡だよ!」
宮藤はその奇跡とも言えることに驚きはしゃぐ。しかしエイラが首を振った。
「そうでもないかも」
「えっ?」
「今日はサーニャの誕生日だ」
「そうなんですか?」
「ああ本当だゾ、正確には昨日かな」
「え…じゃあ私と一緒?」
宮藤はシュミットとエイラの説明に驚いていた。自分の誕生日がまさかサーニャと同じだなんて思わなかったからだ。
「サーニャのことが大好きな人なら、誕生日を祝うなんて当たり前だろ?」
「そうだ、大切な人のことを本当に思う人なら、誕生日を祝うものだ」
エイラとシュミットの言葉に、宮藤も言葉を奪われた。
「世界の何処かにそんな人がいるなら――こんなことだって起きるんだ。奇跡なんかじゃない」
「…エイラさんって優しいね」
「…そんなんじゃねえよ、バカ」
「ば、ばかって…」
エイラは宮藤に優しいと言われ恥ずかしくなる。そんな会話を聞きながら、シュミットは上空を見ていた。彼の視線の先には月を背にするサーニャがいた。そしてシュミットは、初めてサーニャに出会った時のことを思い出した。この世界に初めて来たときも、サーニャの後ろには月があった。その姿を見て、シュミットは心を奪われ、そして今回もそんな姿を見て心を奪われていた。
そんなシュミットにエイラが気付く。
「…なにボーっとしてるんダ?」
「いや、初めて会った時のことを思い出してな…あの時も月の綺麗な夜だった」
そう言って笑うシュミットだったが、彼がサーニャに対して恋愛感情を持っていることをエイラは知っていた。そのためエイラはムッとしてシュミットの顔を睨む。しかしシュミットはやはりサーニャのことでいっぱいなのか、その視線に気づいていなかった。
サーニャは上空で、遠くにいる両親に言葉を送っていた。
「お父様、お母様、サーニャはここにいます…ここにいます」
そして、宮藤がサーニャに声をかけた。
「お誕生日おめでとう!サーニャちゃん!」
「貴方もでしょ」
「へっ…?」
「お誕生日おめでとう、宮藤さん」
「おめでとナ」
「おめでとう、二人共」
全員がおめでとうと言いあう。そしてシュミットはふと、あることを思い出した。
「……よし」
「えっ、どうしたんですか?」
「いや、なんでもないさ」
シュミットは誤魔化して何なのかは説明しなかった。そして四人は、一緒に基地に帰投していくのだった。
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翌朝、リーネは厨房に入る。勿論、ウィッチーズの朝食を作るためである。
しかし、リーネはあるものが目に入りそこに視線を移した。そこには昨晩は無かったカバーのようなものがあり、その中には何かが入っていた。
恐る恐るリーネはそのカバーを取った。そして、中にあるものを見て吃驚する。
「へっ?」
なんとそこにあったのはホールケーキだった。白色のクリームを使い、上には果物が乗っている。
そして一番目についたのは、そのケーキの真上にあったメッセージカードだった。そこには『HAPPY BIRTHDAY』と書かれており、それが誕生日ケーキであると教えていた。
「え、え、えええええええええ!?」
リーネは驚きのあまりついに大声を出した。それを聞きつけて他のウィッチ達も食堂に集まってくる。
「どうしたの!?」
「こ、これって一体…」
隊員達がぞろぞろと集まってくる中で、リーネはそれを見せる。
「ほう、これはまた立派だな」
「リーネが作ったの?」
シャーリーとルッキーニが目の前のケーキを見てリーネに聞くが、リーネは首を横に振る。
「それじゃあ、一体誰が…」
「おはようございます…」
ペリーヌが誰が作ったのかを問おうとした時、ちょうど食堂に人が入ってきた。
「あっ、シュミットさん」
「ん?どうした、みんな揃って…ふぁ~あ」
入ってきた人物はシュミットだった。シュミットはまだ眠気が取れていないのか欠伸をしている。
「これを見てください」
「これ……あっ」
シュミットはこれと差されたケーキを見ず、何かを思い出したように声を出した。その反応を見てバルクホルンが聞いた。
「どうした?」
「いや、やっぱそこに置いておくのはまずかったかなと思って…」
『………はい?』
シュミットの言葉に意味が解らず全員が聞き返した。
「だから、そこに置いておくのはまずかったかと…」
「ちょっとまて、これお前が作ったのか?」
シュミットの説明を遮る形でシャーリーが聞く。
「ああ、私が作った」
そしてシュミット。さも当然のように真実を告げた。
それを聞いた他の隊員たちは固まった。そして、全員が一斉に声を出した。
『な、なんだってー!!』
シュミットはその大声に耳を塞ぐ。近くで聞いていたためキーンというふうに頭の中で響いたのか、彼の眠気はすっ飛んでいった。
「な、なんだよ…」
「だって!シュミットさんが作ったって!」
「そんなに変なことか?」
「いえ、イメージとかけ離れているというか…ケーキなどを作るなんて思いませんでしたわ」
ペリーヌの言葉にシュミットは内心傷ついた。
「…そんなにか?」
「だって、シュミットが料理しているの見たことないもん!」
ルッキーニの意見はもっともだ。彼は料理を作ることはほとんどない。夜食用のサンドウィッチを作ったりしているのは見たことある人はいるが、まさかケーキを作るなんて誰も思わなかったからだ。
「シュミットさんがケーキを作れるなんて意外でした。てっきり料理とか得意じゃないのかと…」
おまけのリーネの言葉に、シュミットはグサッといった。
「…そこまで言わなくてもいいじゃないか」
そうしてシュミットはがっくりと崩れるのだった。
その後、坂本達いなかったウィッチ達も集め、誕生日のメインでもある宮藤とサーニャを呼び、誕生日パーティーを開いたのは言うまでもない。
エイラもシュミットがサーニャを好きだということを気づいています。そして同時にサーニャもシュミットに対して恋愛感情らしきものを持っているので、エイラとしては複雑な心境ですね。
後シュミット君はケーキを焼ける子でした。