ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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少し更新が遅れました。どうぞ


第十九話「火傷と誕生日」

「うわー、汗でベタベタ…」

 

起床時間になって宮藤が部屋から出てくる。その後ろからエイラとサーニャも出てくる。

 

「じゃ、汗かきついでにサウナに行こう」

「サウナ?」

「ほう、宮藤はサウナ知らないのか」

 

そう言って三人はサウナに向かう。

しかし、この時三人は知らなかった。サウナはお風呂場にあり、現在風呂場にはシュミットがいることを。

 

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シュミットは湯船に浸かりながら眠っていた。

そして暫くして彼は温泉の中に沈んで行く。

 

「ブクブク……」

 

そしてシュミットは起きて自分がお風呂の中で眠っているのに気づいた。最初は慌てて何もないところをつかんで上がろうとしていたが、少しして冷静になってからお風呂の淵をつかみ顔を出した。

 

「はっ!!ゲホッ!ゲホッ!」

 

シュミットは驚いて水を飲んでしまい咽てしまう。そして暫くして呼吸を落ち着かせる。

 

「……情けない」

 

そう言って手を頭にもって呟く。彼はお風呂で寝てしまっていたことに対して自分のことを情けなく思ってしまった。そして、このままお風呂に浸かっているのも駄目だと思いタオルを巻いてお風呂を出ようとした。

と、シュミットが手を掛け扉を開けたら、そこには予想外の人達がいた。

 

「…え?」

「へ?」

「ん?」

「は?」

 

四人とも固まる。シュミットの目の前には宮藤達が立っていた。勿論、全員が体にタオルを巻いている。対する宮藤達も固まっていた。更衣室にはシュミットの服があったはずだが、三人とも見落としていたようだ。そのため誰もいないと思っていたんだろう。

シュミットは頭の中がパニックになっていた。まさか自分がお風呂に入っているときに(もう出るが)、女性が入ってくるとは思わなかったからだ。

 

「…な、な、シュミット!?」

 

エイラが先に硬直から抜けだし声を出す。しかしエイラはあるものが目に入り手を出そうとしたのを止めた。因みにサーニャはシュミットを見た時に最初に気が付き、恥ずかしがるより前にそちらの方に意識が向いていた。宮藤は途中で気が付いていた。

 

「…オマエ、その“火傷痕”」

 

そこにあったのは、シュミットの体に走る大きな火傷痕だった。その火傷痕は、いつも彼が着ている服からは見ることのできないところにあり、現在上半身が裸だからこそ見えるものだった。

 

「ああ、これか。こいつは爆撃に巻き込まれたときに負った火傷の痕だよ」

 

シュミットはどうという事無いように言い、そのまま自分の服のところまで行った。後ろ姿の時も、背中には火傷の痕が残っていた。

残された三人はどう話したらいいか困って立っていたが、シュミットがそれに気づき振り向いた。

 

「……すまないが、私は着替えたいんだが」

 

それを聞いて三人とも赤くなり、急いで目当てのサウナに向かったのだった。

そして残ったシュミットは着替えながらこう思った。

 

(後で何か聞かれるんだろうな…)

 

そう思いながら、時間が余っているのに気づき彼は食堂へ向かったのだった。

 

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「ふあ~、これじゃさっきと変わんないよ~」

 

宮藤はサウナの中でぐったりしながら言う。

 

「スオムスじゃ風呂よりサウナなんダゾ」

 

と、エイラが説明する。そのエイラの横座っているサーニャを、宮藤が見る。

 

「…サーニャちゃんって肌白いよねー」

「何処見てんだオマエ!」

 

宮藤の純粋な感想にエイラが噛みつく。それに気づかずさらに言う。

 

「いつも黒い服着てるから余計目立つというか…」

 

その言葉にエイラの表情が変わり叫んだ。

 

「サーニャをそんな目で見ンなァッ!!」

 

と、サウナの中――基地中をエイラの大声が響き渡ったのだった。

その後、三人は基地の外の川に出た。

 

「こっちこっち。サウナの後は水浴びに限るんだ」

「確かに冷たくて気持ちいいけど…」

「恥ずかしがるなよ、女同士だろ?」

 

と、エイラに連れられて川に入る宮藤だが、少し恥ずかしいのか声が後半には小さくなっていた。

そんな会話をしている時、どこからか唄声が聞こえてくる。

 

「~♪」

 

その声に気づき、二人が声のする方向を岩の向こうから見ると、そこにはサーニャがいた。サーニャが座りながら唄を唄っていたのだった

 

「なぜだろう…なんだこう…ドキドキしてこないか宮藤」

「うん…」

 

と、エイラと宮藤が感想する。そんな二人に気づきサーニャが振り向く。宮藤は邪魔をしたと思い立ち上がった。

 

「あ…ごめん!」

「何で謝るの?」

 

サーニャは不思議そうに聞いた。

 

「その、邪魔しちゃったから…素敵だねその唄」

 

それを聞いてサーニャが少し嬉しそうに頬を赤くした。

 

「これは昔、お父様が私のために作ってくれた曲なの」

「お父様?」

 

そう言って、サーニャは説明をした。サーニャの父親はウィーンで音楽の勉強をしており、サーニャが雨続きで退屈しているときに作ってくれた曲だと言う。

それを聞いた宮藤はサーニャに言う。

 

「素敵なお父さんだね」

 

それを聞いてサーニャも言う。

 

「宮藤さんのお父さんだって素敵よ?」

「えっ?」

「オマエのストライカーは宮藤博士がオマエの為に作ってくれたんだろ?それだっけ羨ましいってことだよ」

「……せっかくならもっと可愛い贈り物のほうが良かったかも」

「ゼータクだな。高いんだぞあれ」

 

と、三人はそのあとそろって笑いだす。

そして、そのあと三人が食堂に行くと、そこにはキッチンで何かをしているシュミットがいた。

 

「何してるンダ?」

 

エイラが聞いた。その声に気づきシュミットが振り向く。

 

「ん?ああ、久しぶりにと思って作ってみたんだ」

 

そう言って、シュミットは水筒を手に取って見せた。それを見てエイラとサーニャが反応した。

 

「おっ、またミルクティカ?」

「え?なんで分かるんですか?」

 

唯一事情を知らない宮藤が聞く。

 

「宮藤さん、シュミットさんは前までこうやって私たちに差し入れを作ってくれてたの」

「その時に出す飲み物は全部ミルクティだがナ」

 

サーニャとエイラが説明して宮藤も理解する。そしてシュミットは水筒の蓋を全て閉めると、それを三人に渡した。

 

「えっ、私もですか?」

「おいおい、さすがに目の前で宮藤だけ渡さないのは無いよ…」

 

宮藤は自分に渡されると思っていなかったから驚いていた。それをシュミットは苦笑いで返した。その言葉に全員が笑うのだった。

そして、四人は再び夜間哨戒に出始めた。そしてしばらく飛んでいる間に、宮藤が思い出したように口を開いた。

 

「シュミットさん」

「ん?どうした?」

「さっきのお風呂でのあの火傷…どうしたんですかあれ」

「あっ、それ私も聞きたいゾ」

 

宮藤の質問にエイラも便乗する。サーニャも黙って見ていたが、火傷のことは気になり聞きたいと思っていた。

シュミットは何気なく言った。

 

「あれは、戦争での火傷痕だ」

「…戦争?」

 

宮藤は見当が付かず首をかしげたが、エイラとサーニャは過去を話してもらったことがあり思い当たることがあったのか顔色を変えた。

 

「そういえば、宮藤には話した事が無かったな」

「何をですか?」

「私が異世界から来たことだよ」

 

そういうと宮藤は黙ってしまう。シュミットの言っていることが信じられなかったからだ。

 

「…え、冗談ですよね?」

 

そう言って笑う宮藤だが、誰も答えなかった。宮藤はサーニャとエイラの方を見るが、二人とも首を振るだけで嘘だと言わない。

そして宮藤は今度こそ不安になった。そんな宮藤にシュミットが説明の続きをした。

 

「…残念ながら本当だ。私はこの世界とは別の世界から来た」

「…別の世界」

「ああ、そこにはネウロイなんていう敵はいなかった」

「えっ!?ネウロイがいないんですか!?」

 

宮藤はその世界にネウロイがいないことに驚いた。

 

「ああ、そうだ。代わりに、人と人とが醜い争いをする世界だったがな」

「…人と人がですか?」

「ああ、そうだ」

 

その突き付けられた残酷な事実に宮藤はショックを受けた。ネウロイがいなければ平和になる考えていた彼女の考えが否定されることを言われたからでもある。

 

「…どうして同じ人同士で戦うんですか?」

「領土、資源、思想の違い、戦争をする理由は様々だ。この世界のようにネウロイという共通の敵などを持たなくなると、人間は自分たちのことを優先に考えてしまう…」

 

淡々と言うシュミット。そして少し黙った後、再び口を開いた。

 

「…私の火傷は、ドイツ――こっちのカールスラントだな。そこのハンブルクという街がイギリスに空襲された時に出来た物だ」

「空襲…」

 

その単語だけで、宮藤は何があったのかをある程度察した。

 

「私はその時、空襲で焼けるハンブルクの街中をはぐれた妹を探していた」

「妹さんですか?」

「ああ…名前をアリシアっていうんだ。ちょうど今年で15になるな、見た目は何て言うか…」

 

そしてシュミットは少し言いにくそうにする。その様子はどうも恥ずかしそうだ。

 

「どうしたんダヨ」

 

エイラがシュミットの様子が変になったのを見て聞いてきた。そしてシュミットは、意を決して言った。

 

「…その、似てるんだ。サーニャに」

「えっ?」

 

サーニャは突然のことに驚く。シュミットは言ったと同時に顔を赤くしてサーニャから目を逸らした。

 

「…話が逸れたな。すまないサーニャ」

「いえ、大丈夫です」

「どうしてサーニャだけに謝るんダ!」

「すまんエイラ」

 

と、シュミットの謝罪にサーニャが赤くなったのを見て、エイラがシュミットに不満そうに言った。

 

「ともかく話を戻す。私は燃える街ようやくアリシアを見つけた。その時だった。焼けた建物の瓦礫が、私達のところに落ちてきたんだ」

 

その言葉を聞いて今度は全員が息を呑んだ。

 

「…そして気が付いた時には、私は病院にいた。気絶して、どういうわけか私は病院のベッドの上で体に包帯を巻かれて寝ていたんだ」

「…その、アリシアさんは」

「同じようにアリシアも病院にいた。だが、アリシアは私より重症だった。火傷で体中に包帯を巻かれて、空襲で出た有毒ガスを吸ってしまい、血液の殆どを交換することになった」

「そんなっ…!」

 

それを聞いて宮藤が声を上げる。彼女は医者の生まれだったため、その容体の深刻さを理解した。

 

「その後私は退院後、軍に志願した。私の両親もその空襲で亡くなってしまい、このままアリシアにしっかり治療をさせるお金を稼ぐために。そして私は戦闘機パイロットとして、敵対国のソビエトの兵士と戦っていた」

 

シュミットはさらに表情を暗くした。

 

「…だが、アリシアは私が軍にいる間に容体が悪化してしまい、そのまま亡くなってしまったんだ」

「っ!!」

 

それを聞いた全員が顔を下にした。そしてサーニャに至っては涙を流していた。

それを見たシュミットが慌ててサーニャのもとに行った。

 

「すまんサーニャ!こんな話をするもんじゃなかったな…」

 

そう言って彼はポケットからハンカチを出してサーニャの涙を拭きとり、話さない方がよかったかと後悔した。

宮藤とエイラはシュミットの過去を興味で聞いたことを後悔した。彼の過去の悲惨さをここまで知ることになるとは思わなかったからだ。

そして宮藤は場の空気を盛り上げようと思い、あることを思い出した。

 

「そ、そうだ!」

「ど、どうしたんだ宮藤?」

 

シュミットが思わず聞く。突然宮藤のテンションが変わったからだ。他の皆もそんな宮藤の方向を向いた。

 

「ねぇ聞いて!今日はね、私の誕生日なんだ!」

「本当カ?なんで黙ってたんダヨ!」

 

その言葉にエイラが反応するが、 彼女も内心では「グッジョブ」と思っていた。

 

「でも、私の誕生日はお父さんの命日でもあるの。なんだかややこしかったし、シュミットさんがあんな話をしていたから皆に言いそびれちゃった」

 

その説明をしてエイラが溜息を吐いた。

 

「バカだなオマエ」

「え?」

「こういう時は、楽しいことを優先したっていいんダゾ」

「そうかな?」

「そうだよ。シュミットの暗い話なんかよりよっぽど楽しいことじゃないか!」

 

それを聞いて、シュミットとサーニャも微笑みを取り戻した。

 

「そっか、宮藤はこれで何歳になるんだ?」

「15歳です」

「そっか。そいつはめでたいな」

 

シュミットはそう言ってバレルロールをしてぐるぐる飛行する。いつも堅いイメージのシュミットがそんなひょうきんな動きをしているのを見て笑い、その笑い声につられてサーニャとエイラも笑う。

シュミットはみんなに笑われてムッとする。

 

「おいおい、そんな笑わなくてもいいじゃないか…」

「だって、面白かったんですもん。シュミットさんがそんなことするなんて思わなくて」

 

そうして笑いあっているとき、サーニャが宮藤にあることをした。

それに気が付いた宮藤が驚く。

 

「あれ?何か聞こえる」

「ん?」

 

それに気が付きシュミットも耳を澄ませる。すると、そこには音楽の音が流れていた。

 

「…ラジオの音」

 

エイラがその答えを言った。

 

「夜になると空が静まるから、ずっと遠くの山や地平線からの電波も届くようになるの」

 

サーニャの説明を聞いて宮藤が興奮してはしゃいだ。

 

「へええ、すごいすごい!こんな事が出来るなんて!」

 

エイラは静かにサーニャの横に行った。

 

「三人だけの秘密じゃ無かったのカヨ~」

「ごめんね。でも、今夜だけは特別」

「…ちぇっ、しょうがないな~」

 

そう言って謝罪するサーニャにエイラも速攻で許した。ちなみにこの事はシュミットも知っている。

 

「えっ?どうしたの?」

 

宮藤はそんなエイラの反応が気になりサーニャに近づく。そんな二人の間に割り込むようにエイラが来る。

 

「あのなっ、今日はサーニャの…」

 

その先の言葉は続かなかった。突如、サーニャのリヒテンシュタイン式魔導針が警戒色に変化したのだ。異変に気が付いた全員が驚く。

 

「っ!?」

「どうしタ!?」

 

エイラが心配してサーニャに問う。ほかの皆もサーニャの方を見る。

すると突然、彼らの耳に謎の音が流れてきた。それはラジオの音ではなかった。

 

「何だ…!」

「…これ、唄だよ!」

「しかし、こいつはまるで…」

 

その唄は、501基地にまで届いていた。

聞いていたミーナと坂本も驚いていた。

 

「これがネウロイの声…?」

「サーニャを真似てるってのか!?」




血液の殆どを交換するって、現実で有名なのはニキ・ラウダですかね?

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