「これなんですか?」
「グラマラスシャーリー新記録って、バイクの記録ですか?」
その後、ハンガーに戻ってきた5人。シャーリーがユニットを整備する横で、宮藤とリーネはシャーリーの写真が載った本を見ていた。シュミットは現在自分のユニットを見に行っている。
「シャーリーはパイロットになる前は、バイク乗りだったんだって!」
「へー、シャーリーバイク乗ってたのか」
ルッキーニの説明をちょうど戻ってきたシュミットが聞いて驚いた。尤も、彼は一度シャーリーがトラックを爆走させた時に、何かしらの陸の乗り物に乗っていたとは推測していたが。
するとシャーリーがハンバーガーを咥えながら振り向いた。
「ボンネヴィル・フラッツって知ってるかい?」
「ぼん…?」
「リベリオンの真ん中にある、見渡す限りすべて塩で出来た平原さ」
「そんな所があるんですか」
「ああ」
シャーリーの説明を聞いて皆関心する。
そしてシャーリーは思い出を語るようにしゃべり始めた。
「そこは、あたしらスピードマニアの聖地なんだ」
そして語り始めるシャーリー。シュミット達はその話を聞いて、シャーリーが速度に拘る理由を理解した。
「その日にあたしは軍に志願して入隊。で、今ここでこうやってるってわけ」
「それで、任務のない日にスピードに挑戦しているんですね」
「そういうこと。因みにシュミットは最速を競うライバルってわけだ」
「…誰がライバルだ?」
と、シャーリーの話を静かに聞いていたシュミットがツッコム。
「え?だって初めて最大速度出したとき、790キロ出したじゃないか!」
「あれは強化あっての結果だ。それに、ユニットはこの前改造したので最高速を落としたんだから」
と、シュミットが説明したのを聞いてシャーリーは驚いた。
「ユニットを改造したのか!でもなんで速度が落ちたんだ?」
「ああ、強化に耐えれるように耐久改造をした。おかげで最高速度は770まで落ちたがな」
そんな二人の会話を聞いて宮藤が口を開いた。
「最速かぁ、すごいなぁ。でも、それってどこまで行けば満足するんです?」
「そうだなぁ……」
そう言ってシャーリーは少し考えた後宣言した。
「……いつか音速――マッハを超えることかな!」
「へ?音速って何ですか?」
「音が伝わる速度のことだ宮藤」
「そう、大体時速1200キロメートルぐらいさ」
それを聞いて宮藤とリーネはその掲げる壁の大きさに驚いた。
「わぁ!」
「そんな速度を出すなんて本当に可能なんですか?」
リーネがシャーリーに聞いた。シャーリーは立ち上がりながら「さぁね」と言う。
「でも、夢を追わなくなったらおしまいさ」
そう言ってシャーリーは首にかけていたゴーグルを取りウィンクした。
「ま、今日はここまでっと」
そう言ってシャーリーはゴーグルを整備途中のユニットの翼に掛けた。
「ところで、二人は何か用かい?」
「え?」
それを聞いて二人は驚き顔を見合わせる。そして、思い出したように声を出した。
「あーっ、忘れてた!」
その後、滑走路へ歩きながら話す四人。ルッキーニはシャーリーのユニットのところで眠っていたのでそのままだ。
それがまさか、あのようなことになるとは誰も知らずに。
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翌日、晴れたブリタニアの空が501を照らす。尤も、全員の格好はいつもと違った。
「やっほーう!!」
シャーリーとルッキーニがはしゃぎながら海にダイブする。そして二人は豪快に海の中に水柱を立てて入っていく。
その奥ではバルクホルンがクロールをしており、それを追う形でハルトマンが犬かきをしている。
勿論、この日は全員水着を着ているのだ。
「肌がヒリヒリする……」
「腹減ったナ~」
浜辺ではサーニャとエイラが座っている。北国出身である二人は肌が日焼けに弱く、ブリタニアの暑い太陽に日焼け負けしていた。
すると、二人の座っているところが突然陰になった。二人が振り返ると、そこには大きなパラソルを持ったシュミットが二人に傘を傾けていた。
「北国出身だとここの太陽は暑いだろう」
そう言ってシュミットはパラソルを浜辺に差し込む。
「気が利くナ」
「まぁな」
そう言うエイラとシュミット。サーニャは声には出ていなかったがシュミットに向けて心の中で「ありがとう…」と思っていた。
ふと、エイラはシュミットの格好が気になり質問した。
「……ナァ、なんでシュミットは上着を着ているんダ?」
「ん?」
シュミットの格好は、下半身は水着なのだが、上半身はいつもの上着を着ていた。それもしっかりボタンを閉じている。
「ああ、これは「なんでこんなの履くんですか!?」……ん?」
シュミットが説明しようとした矢先、横から大声が聞こえて三人は声のした方向を振り向く。そこには訓練型のユニットを履いていた。
「何度も言わすな!万が一海上に落ちた時の訓練だ!」
「他の人達もちゃんと訓練したのよ。あとは貴方達だけ」
そう、宮藤とリーネはユニットを履いたままこれから海にダイブするのだ。ちなみにこの訓練はミーナの言う通り他の隊員もやっている。勿論シュミットもやったのだが、彼はあろうことか冬の海でやったのだ。
そのことを思い出したシュミットは何故か、夏なのに身震いをしていた。
「つべこべ言わずさっさと飛び込め!!」
そして坂本の掛け声と共に宮藤とリーネは海にダイブする。しかし二人は海に入った後懸命にもがくが、そのまま沈んで行く。
坂本とミーナは静かにその海を見守っている。
「……浮いてこないな」
「ええ……」
そして坂本は懐中時計を取り出し時間を見る。そしてその時間を確認した後呟いた。
「やっぱり飛ぶようにはいかないか」
「そろそろ限界かしら?」
ミーナは指を顎に当てながら言う。すると海の中から宮藤とリーネが出てきた。二人は懸命に酸素を求めるように顔を上げるが、何回も沈んでは浮き沈んでは浮きを繰り返していた。
「いつまで犬かきをやってるかー、こら。ペリーヌを見習わんか!」
と、坂本が言う。ペリーヌは懸命に犬かきをする宮藤とリーネの横に泳ぎながらやってくる。
「まったくですわ」
そしてペリーヌは宮藤とリーネを通り過ぎて行ったのだった。
「そんな……いきなり……むりっ……」
そして宮藤とリーネは再び海の中に沈んで行った。
「よーし、皆休憩だ!」
坂本の掛け声で全員が休憩に入る。他の隊員たちはまだ余力が残っており海で遊んでいるが、宮藤とリーネは海からユニットを持ってくるときには既にクタクタに疲れ果てていた。
「はぁ…はぁ…」
そして二人は砂浜に倒れた。
「…もう動けない」
「私も…」
「遊べるって言ったのに……ミーナ中佐の嘘つき……」
「すぐ慣れるさ」
二人の上から声が聞こえる。顔を上げるとそこには水着を着たシャーリーがいた。
「シャーリーさん」
「シュミットの時に比べたらまだ楽な方だぞ?」
「へ?シュミットさんの時って?」
宮藤が興味を持ち質問した。
「二人が来る前の時にシュミットだけ一人であの訓練をした時があったんだが……」
「だが?」
「……冬の海の中でやらされたんだ」
「えっ?」
それを聞いて宮藤とリーネは固まった。
「それって、本当ですか……?」
「本当だぞ。だから今の季節にやっているお前達の方がよっぽど楽なんだ。それに……」
そう言いながらシャーリーは宮藤とリーネの間に仰向けに寝転がる。
「こうやって寝てるだけだって悪くはない」
そう言ってシャーリーは両腕を広げて寝る。それを見て宮藤とリーネも両手を広げて寝転がる。
「お日様あったかい……」
「うん、気持ちいい……」
「だろ?」
宮藤とリーネの感想をシャーリーは賛同する。
暫く寝転がっていた三人だったがふと、リーネがシャーリーに聞いた。
「……シャーリーさん」
「ん?なんだ?」
「その、シュミットさんの原隊って解りますか?」
シャーリーはリーネの言葉を聞いてふと目を開ける。
「シュミットの?本人に聞けばいいだろ?」
「その、この前聞きそびれてしまって。シャーリーさんならわかると思って……」
リーネの話を聞いて、宮藤も聞いた。
「そういえば私も気になります。シュミットさんってどこの人なんですか?」
「何処って……芳佳ちゃん。シュミットさんはカールスラント出身だよ?」
芳佳の聞き方にリーネが苦笑いをしながら返すが、シャーリーは芳佳の聞き方を聞いて「鋭い言い方だな……」と、呟いた。
「え?何か言いました?」
「……なぁ二人共、パラレルワールドって信じるか?」
「ぱら……何ですか?」
シャーリーの突然のカミングアウトに宮藤が訳が分からず聞き返した。
その問題をリーネは答える。
「えっと、今いる世界とは別の隣り合った世界?だったような……」
「ああ」
シャーリーの質問に答えるリーネだったが、答えた後リーネは「まさか……」と心の中で思った。
「シュミットは……」
と、続けて言おうとしたシャーリーの言葉は続かなかった。彼女は突然太陽を睨み始めた。
突然会話を止めたシャーリーを不思議に思い、宮藤とリーネは起き上がった。
「……シャーリーさん?」
「どうしたんですか?」
二人の問いにも答えないシャーリー。すると、睨んでいた眼を急に開いた。
「……敵だ!」
「えっ!?」
「ネウロイ!?」
シャーリーの言葉に二人は反応した。するとシャーリーは立ち上がり、急いで基地に走り始めた。
宮藤とリーネは反応が遅れ、置いて行かれるかたちになった。
「シャーリーさん!」
すると、基地から警報が鳴り始める。それに反応して、他の隊員も動き始めた。
「敵は一機、レーダー網を掻い潜って侵入した模様!」
「っ、また予定より二日早いわね!」
坂本の連絡を受け、ミーナは愚痴る。
「誰が行く!?」
「既にシャーリーさん達が動いているわ!」
そうして、シャーリーはいち早く格納庫のユニットに行く。
「イェーガー機、出る!」
そして、魔導エンジンに魔力を流し急発進する。
「シャーリーさーん!うわぁ!?」
と、滑走路にいた宮藤がシャーリーが通り過ぎたことにより倒れる。
「芳佳ちゃん、私達も!」
「うん!」
そして、宮藤とリーネも格納庫に行き発進する。
その間にも、シャーリーは上空で地上からの連絡を待つ。
『シャーリーさん聞こえる?』
「中佐!」
『敵は一機、超高速型よ。既に内陸に入られているわ』
「敵の進路は?」
シャーリーがミーナに聞く。
「方角はここから西北西、目標はこのまま進むと――」
地図を広げた坂本が定規で印をつけ、そしてたどった先に遭ったのは。
「――ロンドン!」
なんとその先にあったのはロンドンだった。
「ロンドンだ!直ちに単機先行せよ!シャーリー!お前のスピードを見せてやれ!」
それを聞いてシャーリーは首にかけていたゴーグルを上げる。
「了解!」
そして、最大速度で目標に向かって飛び出す。そのスピードは先を飛んでいた宮藤とリーネをあっという間に通り過ぎるほどだった。
そして地上では、ミーナと坂本が空を見ていた。
「……頼んだわよ、シャーリーさん」
ミーナがそう言う横で、シュミット達が到着する。
「中佐!ネウロイは!?」
「今、シャーリーさん達が先行して行っています」
その時、ルッキーニがシャーリーの飛んで行った方向を見ていた。
「あ~、シャーリー行っちゃった…まさかあのままなのかな…」
と、ルッキーニが気になる単語を呟いた。すかさずシュミットが聞いた。
「ん?あのままって何だ?」
「えっとね、夕べあたしシャーリーのストライカーをね……」
と、話すルッキーニの言葉が途切れた。それはシュミットの横にいたミーナの雰囲気があからさまに変わったからだ。その変化にシュミットは蛇に睨まれた蛙のごとく固まった。
「あの、なんでもないです……」
と、ルッキーニが振り返るがそこには黒いオーラを出したミーナがいた。
「続けなさい?フランチェスカ・ルッキーニ少尉?」
と、目の笑っていない顔で言われルッキーニは青ざめた。
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ルッキーニの説明を聞いたシュミットは青ざめた。
ルッキーニは昨晩、シャーリーのユニットを壊してしまい、それをあろうことか適当につなげて戻したのだ。つまり、現在のシャーリーのユニットは奇跡的に動いていると言っていい。
その頃、シャーリーは上空で不思議な感覚に飲み込まれていた。
(何だ?全然加速が止まらない。今日はエンジンの調子がいいのか?)
『……せよ!…尉!』
坂本が無線を送るが、ノイズが入りシャーリーの耳に入らない。
(この感じ…似てる…似てる…あの時と!)
そしてシャーリーはスイッチが入ったのか、魔導エンジンにありったけの魔力を流し始めた。
「いっけえええええええええ!!」
そして急激に加速するシャーリー。その加速は止まるところを知らず、ついには音速の壁を突破する。
シャーリーは音の無くなった空間を飛びながら驚く。
(これは…あたし、マッハを超えたの!?これが超音速の世界……?)
シャーリーは目の前に広がる光景に喜び始めた。
「すごい!すごいぞ!やった!あたしやったんだ!」
シャーリーはうれしくてバレルロールをする。
『聞こえるか大尉!返事をしろ!』
「少佐!やりました!あたし音速を超えたんです!」
坂本の無線がようやくシャーリーに入るが、シャーリーは音速を超えたことで頭がいっぱいであり、本来の目的を忘れていた。
『止まれーッ!!敵に突っ込むぞ!!』
その言葉を聞いた時には遅かった。シャーリーは目の前のネウロイに驚きシールドを張り、そのままの速度でネウロイに突っ込んだ。
それを、追っていた宮藤とリーネが見ていた。
「敵、撃墜です!」
『シャーリーさんは!?』
「えっと……」
宮藤達が確認すると、ネウロイの破片の向こう側に飛行機雲が見えた。
「大丈夫です!」
「シャーリーさんは無事です!」
そう言って近づく二人だが、シャーリーの足のユニットが突如外れ、海に向かって落ち始めた。
「あれ?わああ!?全然無事じゃない!!」
そうして、宮藤とリーネは落ちて行くシャーリーに急いで向かう。そして、シャーリーが海に落ちる寸前にギリギリでキャッチする。
そしてキャッチした宮藤は驚愕した。
「ええええええ!?何で!?」
その声を聞いた基地では、坂本が宮藤に無線を飛ばす。その横にはミーナとシュミットがいる。
「どうした!何があった!?」
『シャーリーさんを確保しました!でもっ……!』
「でもなんだ!「ああ……おっきい……」」
その言葉を聞いて坂本はきょとんとした。隣で聞いていたミーナとシュミットは察したのか赤くなる。
「おい、状況を正確に説明しろ!」
しかしリーネは海の上で大きく叫んだ。
「説明できませーん!!」
こうして、ネウロイは無事(?)撃墜されたのであった。
というわけで、水着回でした。シュミット君は気配りができる子です。