シュミットは現在、ユニットを履きながら基地の周辺を飛行していた。滑走路では数名の整備兵が上空を見たり、計測器を見ている。
現在行っているのは改造したFw190の調整だ。改造したことによってFw190は耐久力を上げたが、その分性能にピーキーな部分が生まれてしまった。そのため、今回の調整でそれを修正しているのである。
(しかし、すごい完成度だな)
シュミットはユニットの完成度に内心驚いていた。
『どうですか、中尉』
「ああ、短期間でよくここまで改造してくれた」
地上の整備兵からの無線にシュミットは答える。
現在シュミットは背中にMG151を背負い、両手にMP40を持っている。つまり彼の一番重武装の状態で飛行しているわけである。勿論その時にシュミットはユニットに強化を掛けているのだが、現在確認するだけでも特に目立った問題は無かった。
「こちらシュミット、これよりユニットに最大強化を掛ける。計測を頼む」
『了解しました!』
シュミットは地上に向けてこれから固有魔法を最大に掛けると言った。整備兵達は急いで計器に向き直る。
そしてシュミットは最大まで固有魔法を掛けた。急激に回転数を上げるシュミットのユニットは、勢いよく飛んでいく。そしてしばらくして、シュミットは加速が止まったのを体で確認してから整備兵に聞く。
「何キロ出た?」
『770キロです。ここから加速が止まっています』
整備兵の言葉を聞いてシュミットは宙返りをした。ユニットの耐久改造はスピードを犠牲にして行われたが、その速度の低下が彼の予想よりも少なかったため喜んでいた。
「次は空戦機動を行う!」
そう言ってシュミットは上空で強化を最大にしながら様々な機動で飛行する。
その様子をミーナと坂本がバルコニーから見ていた。
「すごい鋭い動きね」
「ああ、改造がうまくいったようだな」
ミーナと坂本はシュミットの鋭くなった動きを見て内心舌を巻いていた。彼は通常でも十分な機動をしていたが、現在の機動はそれを上回る動きだった。
しかしシュミットが飛行中、トラブルが起きた。
「なっ!?」
突如、高速旋回を行っていたシュミットがふらついたのだ。シュミットが急いでユニットを見ると、そこにはエンジンから黒煙を上げているFw190の姿があった。
シュミットは急いで高度を下げ、そして滑走路に着陸した。その様子を見て整備兵たちが駆け寄ってくる。
「どうしました中尉!?」
整備兵たちは突然シュミットが前触れもなく着陸したことに驚いていた。対してシュミットは足に穿いているユニットを見ていた。そこには、黒煙が出ていない普通のユニットがあった。
「いや、飛行中に黒煙が上がったんだ」
「なんですって!」
整備兵たちは驚く。シュミットはユニットを台に固定して足を出した。
「とにかく、何か故障しているかもしれない。急いで確認してくれ」
「分かりました」
そう言って、ユニットの分解をする整備兵達。その様子をシュミットは離れてみていた。
暫くして整備兵から掛けられた声は、シュミットの予想だにしなかった答えだった。
「変ですね…特に破損した部品が無いんです」
「…破損が無い?」
シュミットが整備兵に聞き返すが、整備兵は「はい」と首を縦に振った。
「エンジンと各種パーツを確認しましたが、どこにも異常がありませんでした」
「それは本当か?」
「はい。一応これから交換可能のパーツを新品に交換しますが……」
その説明を聞いてシュミットは不思議に思った。確かに上空でシュミットが感じたのは、何かが故障したような感覚だったのだ。
結局この件は、新品のパーツに交換することで暫く迷宮入りとなったのだった。
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「えっ!?海に行くんですか?」
ブリーフィングルームに宮藤の声が広がる。シュミット達は現在ミーナに集められていた。
「ああ、明日の午前からだ。場所は本島東側の海岸」
坂本の言葉に宮藤が喜ぶ。しかしシュミットは内心でこれが訓練であると理解していたため喜んでいなかった。それは他の隊員も同じだった。
(海で訓練か……宮藤達“あれ”をやるんだろうな)
シュミットはここに来て受けた海の訓練のことを思い出していた。
ふと宮藤を見ると、坂本に注意されていた。
「なんだ宮藤!訓練が嫌いなのか!?」
「いえ、そうじゃないですけど!」
その光景を見てミーナは笑っていた。シュミットはそんな様子を見て、(やっぱり中佐はお母さんだ……)と思っていた。
「シュミットさん。なにか変なことを考えて?」
シュミットは突然ミーナに声を掛けられドキッ!っとして首を振った。その時の声が怖かったからだ。
そんなシュミットを見た後、ミーナは全員に向き直った。
「集合はここ。時間は1000時よ。いい?」
『了解』
ミーナの説明に全員が返事をした。
「分かったわね、宮藤さん」
「はい!」
「では以上の内容をシャーリーさんとルッキーニさんに伝達してください。シャーリーさんは朝からハンガーにいるわ。ルッキーニさんは…基地のどこかで寝ていると思うから探してみて?」
「わかりました」
ミーナからの命令に宮藤は固く返事をする。
「宮藤、別に一日中訓練という訳でも無いぞ」
「えっ、そうなんですか?」
シュミットが宮藤に頷く。それに補足するようにミーナが言う。
「つまり訓練の合間にはたっぷり遊べるってこと」
ミーナの説明を聞いて宮藤が希望を見たような顔をする。
(最も、その体力があればなんだけどなぁ)
と、シュミットは少し意地悪く思っていたのだった。
その後シュミット達は解散し、宮藤はシャーリーのところに向かっていた。因みにシュミットも自分のユニットが気になり宮藤達と一緒に向かっていた。
ふと、リーネがシュミットに声を掛けた。
「そういえばシュミットさん」
「ん?何だい」
シュミットはリーネに声を掛けられ振り向く。
「シュミットさんって原隊はどこなんですか?」
「原隊?」
突然リーネから言われた言葉にシュミットは何のことか考えた。そして今度は本当のことを言おうかどうか迷っていた。
「原隊かぁ…」
そして決心して言おうと思った瞬間、突如大きな音がハンガーから聞こえてくる。
「きゃあ!!」
宮藤とリーネは驚いて互いに抱き合う。シュミットは「またか……」と呟いていた。
「ハンガーの中から?」
「行こう!」
そう言って宮藤とリーネは走ってハンガーに向かう。シュミットはその二人の後を歩いてついて行った。
宮藤がハンガーにいる人物に声を掛ける。
「シャーリーさん!」
宮藤に呼ばれたシャーリーは振り返って手を振った。
「よう!どうしたんだ三人とも!」
シャーリーは呑気に答える。よく見ると頭にはウサギの耳が出ていた。
シュミット達三人はシャーリーのところへ行く。そこには、内部メカむき出しのユニットに足を入れているシャーリーがいた。
リーネがシャーリーに聞く。
「あの、さっきの音は…」
「ん?これのことか?」
そう言ってシャーリーは自慢げに足元のユニットを指さした。
「ふふん、これはな……」
そう言ってシャーリーは台に固定されたユニットを始動させる。ユニットからはものすごい轟音が鳴り響き、プロペラを思い切り回転させる。宮藤とリーネはその音に両手で耳を塞いだ。シュミットは最初からこの音が来ることを分かっていたため既に両手で耳を塞いでいた。
宮藤がシャーリーに向かって声を掛けるが、あまりの轟音に声がかき消されてしまっている。
「うん、いい感じだ。もう少しシールドとの傾斜配分を変えれば…」
と、シャーリーはそんな宮藤の様子に気づかずユニットの改造をしている。
すると、宮藤が手を上にあげてブンブンと振っているのを見て声を掛ける。
「何を言っているんだ?」
「音が……あの……」
シャーリーが聞くがその声は宮藤に届いておらず、宮藤の声もまたシャーリーに届いていない。
仕方なくシャーリーはユニットを止める。すると
「静かにして下さい!!!」
宮藤の声がハンガー内に響き渡った。その大声にシャーリーも耳を塞ぐ。
シャーリーが宮藤に言った。
「……声が大きい」
「え、あ、ごめんなさい…」
宮藤はシャーリーに言われて慌てて謝る。
「ていうかなんなんですか?ハンガーで一体何をやっているんですか?」
「も~うるさいな~……」
宮藤がシャーリーに質問すると、別のところから声が聞こえる。全員が声のした方向を振り向くと、ハンガーの鉄筋の上で目をこすってシャーリー達を見ているルッキーニがいた。
「ルッキーニちゃん!?」
「ふぁ~、せっかくいい気持で寝てたのに、芳佳の大声で起きちゃったじゃない」
そう言ってルッキーニは鉄筋から飛び降りる。
「ルッキーニちゃん、あの音平気だったの?」
「うん。だっていつものことだし」
「いつも?」
リーネの問いにルッキーニは当然のように答える。それに対して宮藤は疑問に思った。
「シャーリー、またエンジンの改造をしたのか?」
「よぉシュミット、お前もいたのか?」
「ずっと横にいたぞ……」
シャーリーはシュミットの存在を完全に認識していなかったのかそう答える。シュミットは自分の影の薄さに内心傷ついていた。
「エンジンの改造って、どういうことです……」
宮藤がシャーリーに聞く。シャーリーはユニットを履いたまま格納庫の外に向かった。
「おいで、見せてあげる」
そして五人は格納庫の外に出る。
「あの、改造って……」
「魔導エンジンのエネルギーの割り振りをいじったんだよ」
「割り振りって、攻撃や防御に使う分のエネルギーを変えてるんですか?」
「そういうこと」
そう言ってシャーリーは手に持っていたゴーグルを掛ける。
「一体何を強化したんですか?」
「また速さか?」
リーネとシュミットが聞く。
「勿論、速度!」
それに対してシャーリーは当然のように答えた。
「シャーリー!」
「おう!」
そうして、シャーリーはスタートの準備をする。そして、
「ゴーッ!!」
そしてルッキーニの掛け声と共にシャーリーは思い切り加速した。
「凄い!」
「なんて加速…!」
「まだまだ!」
そしてシャーリーはものすごい速さで上昇していく。その様子をバルコニーで坂本とミーナ、ペリーヌが観測していた。
「おっ、一気に上がったな」
「高度1000まで50秒。今までにない上昇速度です、少佐」
「ピーキーに仕上げたわね」
「お手並み拝見だ……」
そしてシャーリーは魔力を強くする。
「行くよマーリン!魔導エンジン出力全開!」
そうして、シャーリーは急激に加速する。その様子を見ていたリーネは加速が止まらずに驚く。
「シャーリーさんまだ加速してる」
「時速770キロ!780…785…790…795…800キロ突破!記録更新だよ!」
そしてシャーリーは宮藤達の目の前を通り過ぎて行く。
「いっけー!!」
「いけいけーシャーリー!!」
ルッキーニとシュミットが興奮した様子でシャーリーにエールを送る。そんな見たことないシュミットの姿を宮藤とリーネは驚きながら見ていた。
(もっとだ…もっと!)
しかしシャーリーの思いとは裏腹に、ユニットが振動し始め加速はここで止まってしまう。
「加速が止まります」
バルコニーで計測していたペリーヌがそう言う。
「どこまでいった?」
「800を超えたあたりです」
「そうか、800を超えると伸びなくなるのか」
「やっぱり、これが限界なのかしらね…」
ミーナがそう言うと、坂本も目の前の光景を見て呟いた。
「音速はまだまだ遠いな」
その後、シャーリーは滑走路に戻ってくる。そのシャーリーと並走する形で宮藤とリーネ、ルッキーニが走る。
「シャーリー!記録更新だよ!」
「凄かったです!」
「おおっ、やったあ!」
シャーリーがそういうとバランスを崩して三人の上に落ちてきた。三人は下敷きになってしまうが、シャーリーはそんな様子を気にせず呑気にこう言ったのだった。
「あー、お腹減った~!」
そんな様子をシュミットも微笑みながら見ていたのだった。
久しぶりに投稿した気分です。なんて言いますか、シュミット君影薄いかも(汗)
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