ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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最近1月間隔で小説を投稿してばかりですね。第百四話、今回からギャグ回に入ります。どうぞ!


第百四話「シュミットの災難」

 ステルスネウロイ撃墜の翌日、501は久しぶりの安寧を迎えた。

 朝日の差し込む基地は太陽の光に照らされ、501はいつも通りのスタートを切ろうとしていた。

 基地の一室では、自室のベッドで寝ていたシュミットが閉じていた瞼をうっすらと開けた。うつ伏せの体制から首を少し上げたシュミットは、カーテンの閉じられた窓の方向を向いた。

 

(……朝か)

 

 シュミットは朝になったと判断し起きようと――したのだが、あっさりとやめた。

 

(なんか怠いような、疲れてるような……)

 

 シュミットは覚醒したばかりの頭をなんとか働かせたが、深く考えるまでも思考は回らなかった。分かることは、なにかしらの理由で寝足り無く、疲れがとれていないのだろうということぐらいだ。

 そしてふと横を見ると、同じように――どういう訳か、シュミットのベッドで寝ているサーニャの姿があった。彼女は規則正しい呼吸で静かに眠っており、起きる素振りを見せなかった。

 

(そうだ…昨日ネウロイをようやく倒せたんだった…)

 

 ここでようやく、シュミットは昨晩の出来事を思い出し、そして理解した。数日掛けて追い続けていたネウロイをやっとの思いでようやく倒したから、今自分は疲れているのだと。

 

(……どの道今夜も哨戒だし、もう少しぐらい寝ててもいいな)

 

 いつもなら起きようかと考えるシュミットだが、今回ばかりは一段と疲れと眠気が彼を襲っていた。もう少し睡眠をとって次の哨戒に備える目的と、彼自身がもう少しだけ寝させてくれてもいいじゃないかというちょっとだけの甘えだった。

 そうして、シュミットは珍しく二度寝をした…自分の身に起こったことを知らずに。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 シュミットが二度寝した頃と同時刻、基地の食堂には既にウィッチ達が朝食を取ろうと集まっていた。

 

「よーっす!おっはようさーん!」

「おっはようさーん!」

 

 扉を開けて入ってきたシャーリーとルッキーニが挨拶をする。

 

「おはようございます」

「リーネ、ご飯なあに?」

 

 リーネが二人に挨拶を返す。シャーリーはリーネに献立を聞いている時、再び食堂の扉が開いた。

 

「おはようございますっ!ごめんリーネちゃん、遅れちゃった」

「ううん、大丈夫だよ芳佳ちゃん。昨日はお疲れ様」

「え、うん、ありがとうリーネちゃん」

 

 昨晩夜間哨戒に行っていた芳佳がリーネに謝罪しながらやって来るが、リーネは特に気にした様子は無く、逆に芳佳に対して労りの言葉を送る。実際、芳佳の他に朝食の席にやって来た夜間哨戒組は誰もまだ来ておらず、彼女が一番乗りである。

 その後、他のメンバーも次々と食堂に集まって来るが、シュミットとサーニャはまだやって来なかった。

 

「そういえば、シュミットが居ないな」

「まだ寝てんじゃないカ…?」

 

 エイラが眠たそうにしながら言う。

 

「昨日は大変でしたからね」

「全く、シュミットもたるんでる。カールスラント軍人なら、時間厳守は基本中の基本なはずだぞ」

 

 芳佳の言葉に対し、バルクホルンはいつもならすぐにやって来るシュミットがたるんでいると言う。

 

「でも、ハルトマンさんもいませんよ?」

「なんだ、カールスラント軍人なら規律ある行動をするもんじゃないのか?」

 

 と、シャーリーがバルクホルンに対して逆にカウンターを仕掛けた。これにはバルクホルンも少しばつの悪そうな顔をする。因みに、ハルトマンはいつも通りの寝坊だった。

 

「不純行為」

「……え?」

 

 はたして、誰が零した言葉だったか。しかし、たった一言とはいえあまりにも破壊力の高い言葉は一同の動きを固めた。

 

「まさかそんなこと…」

「っ!サーニャアアアアアア!!」

 

 ペリーヌが流石にそれはと言おうとしたその瞬間、突然エイラが勢いよく席を立ち、そして食堂の扉を勢いよく開けて外に行く。

 

「待てエイラ!まだそうと決まったわけじゃないぞ!」

 

 真っ先に復活したシャーリーが声を掛けながら後を追っていく。尤も、シャーリーは僅かに感じた「何か面白そうなことが起こりそう」という理由も含まれていた。

 

「行っちゃった…」

「全く馬鹿馬鹿しい…朝から騒がしいですわ」

「でも、結構大事じゃないんですか…?」

 

 芳佳は目の前で起きたゴタゴタにまだ整理がついていない様子で扉の方を向いていた。それに対してペリーヌは、特に心配することなしと意に介さない様子だが、リーネは若干不安になりながら質問した。

 

「…まあ、シュミットさんの事だから多分大丈夫じゃないかしら」

「ふむ…」

 

 ミーナも大丈夫だろうとは思ったが、その表情と若干空いた間が心配を表していた。そして、坂本も顎に指を置きどうだろうかと思考に入る。

 

「サーニャっ!」

 

 そして、エイラは勢いよくシュミットの部屋の扉を開いた。なぜ彼女が真っ先にシュミットの部屋に向かったのかは御愛嬌であるが、エイラはそのままシュミット達が眠っているベッドへ向かう。

 エイラが大声を出すので、一緒に寝ていたサーニャとシュミットは瞼を持ち上げた。

 

「…エイラ?」

「…エイラ、あまり大声を出さないでくれ。サーニャが起きる」

「お前!サーニャに変な事…し……て……」

 

 眠たそうに言うシュミットの言葉を遮って、エイラは問い詰めた――否、問い詰めようとしたが、その言葉が徐々に収まっていく。

 

「はぁ…はぁ…この私が速さで負けたなんて…ん?なにやってん…だ……」

 

 自慢の速さでまさか負けるとは思わなかったシャーリーが遅れて到着し、固まっているエイラに何をしているのか聞こうとするが、こちらも言葉が消えていく。

 二人共、揃ってシュミットの方を口を開いたまま凝視していた。そして、互いに顔を向き合わせると、これが現実かどうかを認識し、そしてもう一度シュミットを見た。

 シュミットは、寝ぼけた様子で目元を擦りながら聞いた。

 

「…二人共、私の顔に何かついてる?」

「シュミットさん…ソレ…?」

「えっ…ソレ?」

 

 突然、後ろから声を掛けられたのでシュミットは振り返る。振り返ると、いつもなら起きた時眠たそうにしているはずのサーニャが、今回は初めからしっかりと覚醒していた。それだけでなく、シュミットの胸元に驚愕と言った様子の視線を向けているではないか。

 シュミットは、そんなサーニャの視線につられて胸元を見た。

 

「……」

 

 そこには丘が見えた。着ているシャツの生地が、いつもより鮮明に見えていた。逆に、現在の体制なら見えるはずのズボンの見える範囲が狭かった。そして、シャツの隙間からは、その丘が二つの山で出来ているものだと理解した。

 

「……」

 

 何があるのかと思い、シュミットはそこにあったものが何か探ろうと手を伸ばしたが、あることに気づいた。

 着ているシャツの袖が、妙に長く、ぶかぶかとしていたからだ。

 

「…ん?」

 

 ここに来て、シュミットの頭の中は回転し始めた。先ほどから、妙に肩が重たいような感じがしてきたからだ。

 

(長いシャツの袖…肩の重さ…胸元…胸…元…っ!!?)

 

 シュミットは何かに気が付き、慌てて自分の両手をその丘に持ってきた。そして触れると、なにやら不思議な柔らかを感じた。決して悪いものでは無く、むしろ心地いいと言えるような。

 しかし、シュミットはそれの正体に気が付くと、顔色を青くした。そして、今度は慌てて両手を両足の付け根――股の所へ持って行った。そして、気が付いた。

 

「…な、無い」

 

 その時の表情を見たシャーリーとエイラ、サーニャの三人は、この時シュミットが見せた表情を忘れることは出来なかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ほ、本当にシュミットさん…?」

「…」

 

 固まってしまっている隊員たちの中でいち早く復帰したミーナがシュミットに質問するが、シュミットは真っ赤な顔に手を当てたまま言葉は返さなかったが、首を縦に振って肯定した。

 そこにいたのは、確かにシュミットの面影を残した()()が立っていた。顔立ちは女性らしく整っており、髪はうなじが隠れるほどまで伸びていた。体格は華奢になった為、その胸元に膨らんでいる物は特別大きいわけではないにもかかわらず少し目立っていた。また、元々細身な方だった脚はさらに華奢になり、どこからどう見ても女性の外見をしていた。

 

「背も低くなっているな」

 

 坂本の言葉の通り、シュミットの背は低くなっていた。例を挙げると、連れて来たシャーリーよりも高いはずの背が、頭のてっぺんよりも若干低くなっていたのだ。

 ミーナは頬に指を当てながら疑問に思った。

 

「でも、なぜこんな事に?」

「それが、どうやら私の使い魔が関係してるみたいです…」

「声も高くなってますわ…」

 

 羞恥が一周回って段々と落ち着いたシュミットがようやく口を開いた。その声を聞いた他の面々は、まさか声まで変化しているとは思わずまたも驚くことになった。

 あの後、シュミット達は医務室に行き、自分の身に何が起きてるのかを検査させられた。その結果、彼の使い魔がこの異常現象にかかわっていたことが分かったのだ。使い魔は基本的に、ウィッチが魔力を使う時にコントロールなどをサポートする存在である。しかし、シュミットの使い魔は通常の使い魔よりかなり高位な存在であり、彼との関係は密接な繋がりがあったのだ。

 そして、ここに昨日行われたネウロイ討伐が関わっていた。ネウロイ討伐の際、彼は魔法力を気付かぬうちに枯渇寸前まで消費していたのだ。それを感知した彼の使い魔が、日頃から少しづつ蓄えていた分の魔法力を逆流させることでシュミットに供給し、魔法力を失うことを防いだ。

 そこまでならよかったのだが、ここで問題が発生した。使い魔自身がそんなことを出来るということは認識していたのだが、如何せんそれを実行したのはこれが初めてだったのだ。その為、どの様な副作用があるかなど認知しておらず、使い魔の性別が魔法力ごとシュミットに上書きされてしまい、彼を女体化させてしまったのである。

 

「そ、そんなことが…」

「はい…」

 

 ミーナは説明を聞いて頬を引きつらせた。他のウィッチ達もそんなことがありえるのかと言った様子でシュミットを見ていた。そしてシュミットは、彼の横に現れた使い魔のシベリアオオカミが申し訳なさそうな顔をして頭を下げているので、そんな使い魔に対して「君は悪くない」と言った様子で頭を撫で続けた。

 皆が困惑していたが、ここで芳佳が質問した。

 

「で、でも、ちゃんと戻るんですよね?」

「一応比較的すぐに戻るらしい」

「それって、どのくらいですか?」

 

 リーネの言葉に、彼の使い魔はまた困った顔をする。シュミットはそんな使い魔の横にしゃがみ、その顔を見合わせる。

 ――時がたつこと十数秒、シュミットが話し始めた。

 

「彼女が言うには多分数日…でも、それがどれくらいなのかは分からないし、あくまで推測らしい」

「そっか…って、今聞いたのか?」

 

 シュミットの説明にシャーリーがどうしたものかと思ったが、一つ気になることがあった。たった今、シュミットは使い魔と言葉を交わさずに会話をしたのかと。

 シュミットは少しだけ考える素振りを見せ、そして説明をした。

 

「えっと、彼女が私の頭の中に直接言葉を送ってくる感じというか、言葉を交わさなくても会話ができるらしい。だよね?」

 

 シュミットの言葉に彼女は頷く形で肯定した。

 

「ふーん、じゃあアタシにも伝わるのか?」

「伝えれる?」

 

 シャーリーが疑問に思いシュミットの使い魔に聞く。シュミットも問うと、彼女はまたしても頷いた。

 

「へぇ…うわっ!?」

 

 感心していたシュミットが突然驚きの奇声をあげる。そして、シュミットに衝撃が加わる。いつもなら耐えれるはずだった衝撃だったが、体格が変わってしまいバランスを取ることができず尻もちをついてしまう。

 

「わっ!シャーリーの方がおっきいけど、凄く柔らかい…!」

 

 その正体はルッキーニだった。始めてシュミットと出会った際にやった時のように彼女は背後から飛び込んで胸を揉んでいたのだ。

 

「お、おいルッキーニ、そんなことしたら前みたいに怒られるぞ…」

「ふえ?なんで?」

 

 シャーリーはアフリカでルッキーニが胸を揉んだことで問題を起こしたことを思い出し、シュミットがさすがに怒るのではないかと考えた。対するルッキーニは、そのことを忘れているのか、何故と言った様子でシャーリーの方を見ていた。

 シャーリーは恐る恐るシュミットの表情を見た。しかし、そこには彼女の恐れていた表情では無かった。

 

「ちょ、やめっ…あぁ…」

『…』

 

 シュミットが、顔を赤くしながら妙に扇情的な声を出していた。彼にとっては今まで経験したことの無い不思議な感覚を堪えられずに漏らした声だが、その声が色っぽく思わず見ていた者たちは赤面してしまう。唯一、尻もちをついたシュミットの横に座っていた彼の使い魔だけが、目を細めなにか面白そうなものを見る様子で眺めていた。

 

「ん~!大満足~!」

 

 だが、シュミットのことなど気にしてないルッキーニは、その後も胸を堪能し、そして満足したのか手を離した。それにより、シュミットはようやく解放されたが、疲れた様子でへたり込んだままになってしまった。

 

「フランチェスカ・ルッキーニ少尉…」

「え?えっと…あの~…」

 

 だが、シュミットはそんな状態でも声を絞り出した。その声は、初めて胸を揉まれた時よりも低く、周りの温度を下げていた。その変化にはさすがのルッキーニもマズいと感じたが、もう遅かった。

 

「以前言ったよね?胸を揉むのは嫌がられるって…」

「…は、はい」

「ねえ、502で面白い懲罰を教わったんだが、体験してみるかい?」

「…イエ、エンリョシマス」

 

 ユラリと立ち上がったシュミットは、ルッキーニの方向を向きながらそんなことを言う。その言葉の端々から感じる謎の威圧に、ルッキーニは段々涙目になってくる。

 そして、頬を赤く染めながらも、シュミットはニヤリと笑った。だが決して、目は笑ってなかった。

 

「…遠慮しなくていいぞ、ルッキーニ」

「うにゃああああああ!!」

 

 混乱の501、朝早くからルッキーニの悲鳴が食堂で木霊したのだった。




というわけで、シュミットは女性になりました。
因みに、今回使い魔などの設定は『天空の乙女たち』を参考にしました。(喋るところとか)
そして、何故かシュミットが不純行為をしないという風に思えるペリーヌさんと、気が気ではないエイラ。この差は一体何処で生まれたのか…
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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