ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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随分久しぶりに投稿した気がします。とりあえずこれでオリジナル回は終わりです。どうぞ。


第百三話「ロマーニャの奇跡」

「サ、サーニャ…?」

 

エイラは、射撃場にいたサーニャの姿に少なからず衝撃を受けた。エイラはてっきり射撃場にはシュミットがいると考え、サーニャの居場所を聞こうとしたらまさかの本人に出会ったのだから、予想外も予想外であった。

そんなエイラの呟きに近い言葉に気付いたのか、サーニャが振り返った。

 

「エイラ?何をしてるの?」

「あっ!え、えっと~…?」

 

突然名前を呼ばれて、エイラはたじろぐ。が、サーニャがいつも使うことのないMG42を持って射撃場にいるのかという疑問が再び浮上し、サーニャに質問した。

 

「な、なんでそれを持ってるんダ?」

 

エイラが手に持つ機関銃を指差して質問した。サーニャは一度手元を見て、再びエイラの方を向いた。

 

「エイラやシュミットさんも使っている武器だから」

「いや、そういう意味じゃなくてダナ…その、なんでいつも使わないのをサーニャが持っているのかって意味で…」

 

サーニャが勘違いして言うのでエイラは肩をがくりと落として訂正する。

その言葉にサーニャは首を傾げるが、エイラの言いたいことを理解したのか一度機銃を見て少し考える素振りを見せた。そして、サーニャは少しだけ頬を染めながらエイラの方を向いて言った。

 

「シュミットさんのためになりたいから」

「…シュミットの為?」

 

エイラは、サーニャの言葉の意味を理解できなかった。サーニャがMG42で射撃訓練をすることと、シュミットの為になることがどうつながるのかと。

しかし、エイラが聞き返す前に、サーニャが口を開いた。

 

「この前、シュミットさんに聞いたの」

「何をダ…?」

「私とエイラが離れた後のこと、そして頬に傷を作った理由を…」

 

そう言って、サーニャはエイラに話した。ブリタニアでシュミットが血まみれになって帰ってきた時の心境。そして、ペテルブルクで再会した後の安心と、その後にシュミットがまた負傷したことを。

シュミットはペテルブルクにいた時にサーニャと手紙でやり取りをしていたが、負傷したことを心配させないようにと考えて書かなかった。その結果、サーニャはロマーニャに来て始めてシュミットが負傷したことを知った形になり、逆にサーニャを不安にさせる形になってしまい、ロマーニャで集結した日の晩にペテルブルクにいた時のことを洗いざらい話す羽目になったのだった。

そして、サーニャはシュミットから話を聞き、自分の知らないところで彼が無茶をしていることを理解した。

 

「だから、シュミットさんが無茶をしないために――」

「特訓をしていたのカ…」

 

サーニャが言い終わる前にエイラが続きを言う。その言葉に、サーニャは小さくだが頷いたのだった。

話を聞いたエイラは、サーニャが何故射撃場にいるのかを理解したと同時に、彼女の想いを理解したのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「――エイラさん…エイラさん!?」

 

エイラの思考は、芳佳の声により数か月前から現在へと戻る。エイラが声のした方を向くと、芳佳がエイラの顔を困った様子で見ていた。

 

「な、なんだよ宮藤…」

「エイラさん、さっきからずっと固まったままだから…どうしちゃったんですか?」

「な、なんでもねえよ…」

 

芳佳は心配して聞いたのだろうが、エイラはそんな芳佳に悟られないようにそっぽを向きながら答える。が、少しして今度はサーニャたちのことが気になり再び上を向いた。

が、なにやら様子がおかしかった。上にいたシュミットとサーニャが困惑した様子で互いの顔を見たり、周囲をきょろきょろしているのだ。

 

「ん?…なんダ?」

 

エイラは疑問に思い二人の元へ上昇して向かった。それに気づいたシュミットが、何かを恐れた様子の顔でエイラの方を向き、次いでサーニャもエイラの方を向く。

それを見てエイラは、疑問に思いシュミットに聞いた。

 

「なにやってんだ?」

「エイラ…今、私たちはなにを…ネウロイは何処行った?」

「は?」

 

シュミットが突然、訳の分からないことを言いだしたのでエイラは思わず間の抜けた返事をした。

 

「何処って…今二人が倒したじゃないか…」

「…倒した?私たちが、か?」

「エイラ…どういうこと?」

 

二人の言葉に対して、ネウロイならさっき二人が倒したじゃないかとエイラは思った。

しかしシュミットと同じようにサーニャも困惑した顔をしており、二人がふざけているわけでなく真剣にエイラにネウロイの所在地を聞いていることを理解した。

 

「エイラさん、なにしてるんですか?」

 

とそこへ、三人の元へ芳佳がやって来る。芳佳はエイラが二人に対してなにをしているのかと思い質問するが、そんな芳佳にサーニャが聞いた。

 

「芳佳ちゃん、ネウロイはどこに…」

「宮藤、ネウロイは一体どこに行った?」

 

サーニャに次いでシュミットも聞いてきた。

 

「へ?ネウロイって…さっきみんなで倒したよ?」

 

芳佳の言葉に、二人は互いの顔を見合わせた。そしてネウロイが消えた理由を理解した。

しかし、どうしてネウロイが居なくなったのかは理解こそしたが、自分達が如何にしてネウロイを倒したのかについては理解できなかった。

 

「エイラ、なにがあったのかを教えて!」

「宮藤、一体私たちは何があった?」

 

サーニャとシュミットは、二人にネウロイ撃墜の経緯を聞いた。エイラと芳佳は疑問に思いながらも、二人が同じ動きをしながらネウロイのコアを同時に破壊したところまで説明した。

そして二人からネウロイ撃墜の経過を聞いたシュミットは、一度混乱していた頭を整理した。

 

「…つまり、私たちがネウロイを倒したのだな」

「おいおい、まさか…」

「もしかして、覚えてないんですか?」

 

エイラと芳佳は困った様子でシュミットに聞いた。そんな芳佳に、シュミットとサーニャは互いにアイコンタクトをし、そして今度は芳佳の方を向いた。

 

「…すまない、私もサーニャも全く覚えていない」

「じゃあ、あの時の動きは、偶然だったんですか?」

「…恐らく偶然だ」

「す、凄い…」

 

シュミットは少しだけ間を置いた後、正直に偶然であると告白した。その言葉に芳佳は純粋に驚きの言葉を零した。しかし、エイラの言葉は違った。

 

「ま、偶然なんだったら次は無いんじゃないか?取り合えず倒せたんだし、この話は終わりだな」

「エ、エイラさんそれはちょっと…もしかしたら凄い奇跡かもしれないじゃないですか」

 

エイラが割とそっけなくシュミットに言ったので、芳佳は見も蓋もないと言った様子だった。

だが、エイラは先程の光景が二人が偶然引き起こしたことに対してガックリとしたと同時に、二人の間に存在する()()に対して妬いたのだった。

偶然とはいえ、無駄の無い――シンクロとも言える統制の取れた動きでネウロイに接近し、合図も無く同時に攻撃、そしてネウロイの二つのコアを同時に破壊した。

そんなシュミットとサーニャの行動に、自分とサーニャ以上に深い信頼関係が存在していることを知らされたのだ。

エイラは以前、サーニャがシュミットの為に特訓していることを知った時、心の中の何パーセントかは追いつけないだろうという事を思ってしまった。それはサーニャの実力が決して低いからではなく、シュミットが常に異常な速度で成長していくモンスターのような存在だからだと、認めたくはないが思っていたからだ。実際、アフリカの星との戦いからも、シュミットはそこから学び成長しており、以前よりも格段にキレのある飛行をしていた。

そんな怪物のような成長をするシュミットに対して、サーニャの特訓に対して何処か不安を持っていた。もしかしたら、サーニャはシュミットに懸命に追いつこうとして、無茶をしてしまうのではないか――と。

しかし、そんなエイラの不安を余所にサーニャは成長し、そしてシュミットの隣に並んでいた。以前、サーニャは超巨大ネウロイ撃墜の為にシールドを張る特訓をしていたエイラに対し、出来ないからといって諦めるのは駄目だと言った。諦めてしまうから出来ないのだと。

その時エイラは、癇癪を起こしてサーニャの言葉に反発をしてしまった。そんなことは無理だ、出来っこないんだと思っていた。

 

「――だけど、サーニャは本当に出来た…」

「え?なにエイラ?」

「な、なんでもない」

 

突然名前を呼ばれたサーニャは何のことかと思いエイラの方を向くが、エイラが悟られないようにと誤魔化す。

 

(…サーニャの言った通りだ。諦めるから、できる事もできなくなるんダナ)

 

エイラは、あの時のサーニャの言葉が本当に正しいことを理解したのだった。その言葉をサーニャ自身が証明して見せた。いつの間にか、サーニャは一歩先に歩み出していて、自分はまだ立ち止まったままだったことを思い知らされた。

それと同時に、サーニャにとってシュミットの存在がそれほど大きなものであることも。

 

「…取り合えず、厄介なネウロイはこれで撃墜完了だ。基地に連絡して帰投するぞ」

 

そんなエイラの心境を余所に、シュミットは全員に帰投命令を出したのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

基地に帰投したシュミットは、三人を先にあがらせ、ミーナに報告をしに行った。

そして、報告を終えたシュミットは自室に戻ろうとするが、扉の前に来た時に突然ミーナから質問の声が飛んできた。

 

「シュミットさん」

「はい?」

「本当に倒したことをおぼえていないのね?」

「はい。私もサーニャも、ネウロイと途中まで交戦していた記憶はありましたが、倒した記憶は無く、エイラと宮藤が教えるまでネウロイが逃げたとばかり思ってましたから」

 

シュミットがその時のことを説明した後、ミーナは続けてもう一つ質問した。

 

「…その時、奇妙なことは何か起きなかった?」

「奇妙な事ですか?特に何も――」

 

無い。と言おうとしたシュミットだったが、探っていた記憶の中に一つだけ、思い当たる節があり言葉が止まる。

そんなシュミットの様子を見てミーナは目を僅かだが細めた。

 

「思い当たることがあるのね」

「…」

 

それに対してシュミットは返答しなかった。正確には、返答しようとはしたが何と答えたらいいのかと思い言葉を選んでいた。

そして、整理の付いたシュミットは口を開いた――ネウロイとの戦闘中にサーニャが次に動くイメージのようなものが頭の中に入ってきたことを。それだけでなく、サーニャが動くタイミング、攻撃をする瞬間、回避軌道をする時など、サーニャの行動パターンの全てが、会話など合図などをしてなくても分かっていたかもしれない――そんな時があった気がすることを、ミーナに話した。

そしてシュミットは、今度はミーナに対して質問を返した。

 

「…中佐、何か知ってるんですか?」

「いいえ、何も。だけど――」

 

ミーナが余りにもあっさり知らないと言ったのでシュミットは一瞬「あれ?」と思ったが、ミーナの言葉にはまだ続きがあったので再度意識を向けた。

 

「もしかしたら、それは二人が起こした奇跡なのかもしれないわね」

「…」

 

シュミットは、ミーナの言葉からどこかデジャヴに感じた。それは、戦闘終了時に芳佳がエイラに対して言った奇跡と被ったからであった。

 

「宮藤もそんなことを言ってました…奇跡だなんて、そんな大それたものでもないと思いますが」

 

シュミットはそう言って、執務室を後にしたのだった。

そして、執務室内で一人になったミーナは、シュミットの出て行った扉の方を見ながら、静かに独り言を呟いた。

 

「…いいえ、違うわシュミットさん。貴方がサーニャさんと起こしたのはまぎれもない奇跡なのよ」

 

その言葉は、静まり返った執務室に響き、そして誰にも聞かれる事無く消えたのだった。




イヤーキセキッテスゴイナー。
そして実はサーニャちゃんはいつの間にか強化されていたのであった。でも強化理由はちゃんとあるんです(大体狼のせい)
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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