ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

103 / 110
少しゴタゴタがあり更新が遅れました。第百一話ですどうぞ!


第百一話「リベンジ」

「っ…ん…」

 

シュミットは僅かに唸り、そして閉じていた瞼をゆっくりと開いた。

 

「……」

 

そして、寝起きで未だに回らない脳を回転させながら目の前の光景を見る。閉じられたカーテンの隙間から僅かに光がこぼれるが、寝た時間が早朝であったため、今が夕方であると判断する。

続いて、部屋の中を見回す。部屋の中は眠る前と特に変わった様子はなく、床にはサーニャの服が散らばって…、

 

「――ん?」

 

ふと、シュミットは自分の頭の中で何か違和感を感じた。何故ここにサーニャの衣類があるのか?その答えはすぐさま理解する。

 

「…あっ」

 

頭の中で整理がつき、シュミットは自分の眠っていたベッドを見る。そこにはシュミットの手を握って眠っているサーニャの姿があった。その寝顔は、よく言えば安心している、悪く言えば無防備と言っていい表情であるが、そこにはシュミットだからこそという()()()()()()があるからこそ見せるサーニャの素の姿の表れであるといえるものであった。

そんなサーニャの姿にシュミットの心の中で掻き立てられたのは、彼女を守ってあげたいという『保護欲』とも言える思いだった。

 

「…フッ」

 

シュミットはサーニャに小さく微笑むと、部屋に掛けてある時計見て時刻を確認する。そして、そろそろ起きるべき時間だと確認すると、サーニャの体をゆっくりと揺らした。

 

「サーニャ。サーニャ」

「……うぅん」

 

シュミットが揺らすこと数回、サーニャは小さな声を漏らしながら閉じていた瞼を開いた。そんなサーニャの姿を見て、シュミットは微笑みながら言った。

 

「おはよう、サーニャ」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

数時間後、昨日同様四人で夜間哨戒が行われた。しかし、エイラはいつもとは違うサーニャの雰囲気に気づいた。

昨日まで暗い顔をしていたはずのサーニャが、今日はそんな表情を見せずにネウロイを探索している。エイラは今までサーニャと一緒に居た時間が長かったため、サーニャの些細な表情変化などに気づいていたのだ。そのため、昨日の今日で何ともないことに少し不思議に思っていた。

 

「サーニャ、反応はあるか?」

「いいえ、まだありません」

 

シュミットはサーニャに聞くが、サーニャは昨日同様まだネウロイの反応を捉えることができなかった。しかしそこには不安の表情は無く、彼女は意地でもネウロイを見つけると言った思いであった。

 

「それにしても、ネウロイ全然見つかりませんね」

「そうだナ…」

「なんだか前に一緒に飛んだときみたいですね」

 

芳佳はまだ見つからないネウロイに対してそんなことを漏らした。芳佳の言う通り、この状況は以前四人で夜間哨戒に出撃したときと似たようなことになっていた。尤も、メンバーは以前より戦い慣れしていると同時に、ネウロイも以前よりも強敵となっているといった違いはあった。

 

「でも、絶対見つけることできますよ!」

「そうだ。このままネウロイの好きになどさせないさ」

 

そう言って、シュミットは少し黙る。そして、何かを思いついたのか、今度はサーニャの方を向いた。

 

「サーニャ」

「はい?」

「手を出して」

 

シュミットの言葉にサーニャは一瞬何のことかと思うが、そっと右手を差し出した。その手をシュミットは左手で握る。エイラと芳佳もサーニャ同様突然シュミットがサーニャの手を握ったことに対して疑問を持つが、すぐさまシュミットが答えた。

 

「今から私が強化を使う。もしかしたら、サーニャの魔導針でネウロイを捉える確率が上がるかもしれない」

「…そっか!向こうが映りずらいならこっちが捉える力を強くすればいいのカ」

 

真っ先に察したのはエイラだった。以前シュミットはブリタニアで暴走列車を止めた際にペリーヌに自分に抱き着けと言った時のことを思い出し、サーニャの固有魔法にシュミットの固有魔法を使うことで相乗効果を上げようと考えたのだ。

しかし、あまりパッとしなかったのか芳佳はこんなことを言った。

 

「ええっと、つまり()()()()()()ネウロイを探すって事ですか?」

「…」

 

芳佳の言葉にシュミットとサーニャは互いに顔を見合わせる。しかし、互いに少し笑うと芳佳に言った。

 

「ええ」

「ああ、そうだな」

 

サーニャとシュミットは二人に対して言った。そんな反応に対して、芳佳とエイラは一体どんな反応をしたらいいのかと一瞬思った。

そして、シュミットとサーニャはすぐさま作戦を実行した。

 

「いくぞ」

「はい」

 

シュミットの言葉にサーニャが返事をする。そしてシュミットが強化を掛けた。それにより、サーニャの固有魔法は強化をされる。

 

「…」

「…」

「…」

「…」

 

シュミットとサーニャはそれぞれ固有魔法を使っていることにより黙るが、エイラと芳佳はそんな二人の様子に口を開くことも忘れてじっと構える。

数十秒間の時が流れる。このままネウロイを捉えることは出来ないのではないかと思ったまさにその時だった。

 

「見つけた!」

「来た!」

 

サーニャの魔導針が赤く光り、シュミットとサーニャは二人して反応する。それはネウロイを捉えたという証拠であった。サーニャはネウロイの位置を報告していく。

 

「南南西…高度7千」

「7千メートルか…丁度雲の中あたりだな」

 

全員はネウロイの方向へ向けて飛行を始める。その間にも、シュミットは相手からの奇襲を考えゼロの領域へと入った。その時だった。

 

「――え?」

「ん?どうした?」

「いえ…なんでもありません」

 

突然サーニャが何かに驚いた様子で声を漏らした。すぐさま横にいたシュミットがサーニャに聞くが、サーニャはなんでもないと言った。しかし、シュミットは彼女の言葉が嘘であると内心では悟ったのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

(…なに…これ?)

 

サーニャは現在困惑していた。いま彼女の前には見たことのない景色が流れており、その光景はこれまで見たどの光景とも合致しないものであったのだ。

そこには、さながら夜の星空と言うべき光景が広がっていた。そして、彼女にはこれまでにないほどの()()が送り込まれていた。一つは、自分のユニットから伝わるエンジンの音であり、その振動は今までに感じたことのないほど詳細が分かるものであった。そして二つ目に、シュミットのほうから聞こえてくるユニットのエンジン音。本来はユニットのエンジン音が二つ重なると、一つの音になって聞こえてくる。しかし現在サーニャは二つの音が別々に、そしてはっきりと聞こえてきていた。

そして、最後の一つにはシュミットの存在だった。彼が横に居るというイメージが、これまでよりはっきりとサーニャに感じさせていた。

その時、サーニャは新たな景色を見た。それは前方から伸びてくる赤い光であり――、

 

「っ!拙い!」

「あっ!」

 

突然シュミットがそんなことを言い、サーニャを握っていた手を放した。そして今度は前方へ向かって飛行すると、突然シールドを張ったではないか。

サーニャと芳佳は、シュミットが突然そんな行動をとったことに対して驚く。しかし、次の瞬間シュミットのとった行動に対して理解をした。

シュミットが張った大きなシールドは、突然前方から現れた赤い光――ネウロイの放った攻撃を遮った。攻撃はそのままシールドにぶつかると、貫くことができずに拡散していく。

この一連光景に唯一この事に驚かなかったのは、未来予知を使うことのできるエイラだった。エイラはネウロイの攻撃と同時に、シュミットが次に取る行動に対しても未来が見えたため、こうなることを理解していたのだ。

対して、逆に一番衝撃を受けていたのはサーニャだった。サーニャが先ほど見た謎の光景がたった今目の前で起こったのだ。まるでこれは未来予知と言っても過言では無かった。そして、彼女には今の光景が普通ではないことを心の中で若干感じた。

 

「やはり待ち伏せをしていたか…」

 

シュミットは先ほどの攻撃を受け、このネウロイが如何に危険かを再認識した。このネウロイは賢いのだ。自身の体をレーダーに映りずらくするだけでなく、雲の中に入ってウィッチが近づいてきたところを奇襲する。並のネウロイならまず取らない行動をとってくる。

シュミットはすぐさま背負っていた2丁のMG42を構える。今回は長期戦を予想し、いつもの火力特化から弾数を多くする作戦へとシュミットは変えた。

 

「来るぞ皆!」

 

シュミットの声と同時に、全員が武器を構える。すると、ネウロイは四人が自分の存在に気づいたと理解したのか雲の中から姿を現した。間違いなく昨日シュミットとサーニャが遭遇したネウロイだった。

 

「全員散開!エイラとサーニャは右翼、宮藤は私に続いて左翼を攻撃!」

『了解!』

 

全員が返事をし散会する。攻撃力の高いシュミットとサーニャを同じところに集めると火力の偏りが生まれるため、今回はサーニャをエイラと共に組ませ、シュミットは芳佳の技術不足をカバーする目的を兼ねて組んだ。こうすることでバランスを取り、ネウロイのコアを同時に破壊する作戦に出たのだ。

しかし、その作戦をもってしても、今回のネウロイは強敵に変わりなかった。

 

「…駄目だ、やはり息が合わないか!」

 

シュミットはそう愚痴った。ネウロイの両脇の翼のコアを露出させて同時に攻撃するという方法ははっきり言えば無茶な内容と言える。それはそれぞれコアを破壊する人同士が互いに息を合わせて行う。それもネウロイが攻撃を加えていく中を掻い潜りながらだ。

シュミットはなにか打開する方法は無いかと戦いながら懸命に探る。そして、ネウロイのある一つの特徴を見つけた。

 

(…まさか?)

 

シュミットは急降下をしネウロイの下部に行く。そして、ついに糸口となる部分を掴んだ。

 

「皆!下方は攻撃が薄い!裏側からコアに向けて攻撃するぞ!」

 

シュミットはネウロイとの戦闘でその特性を理解した。このネウロイは一方向に対して攻撃力が高い分、反対方向は攻撃を捨てている形だったのだ。

 

「そうと分かれっば!」

 

真っ先にエイラが動いた。それに続いて芳佳とサーニャも下方へと向かおうとした。

しかし、ネウロイは全員が下方へと向かおうとしているのに気が付いたのか、行かせまいと攻撃をウィッチ達に見舞った。

エイラは未来予知でその攻撃を回避しながらネウロイの下方へと行く。しかし、未来予知を持たない芳佳とサーニャは攻撃に阻まれた。

 

「くっ…!」

「うっ…!」

 

揃ってシールドを張り攻撃を防ぐ。しかし、この時点で芳佳とサーニャは分断され、先ほど四人で受けていた攻撃を二人で受ける状況になってしまった。

 

(しまった分断された…っ!拙い!)

「?どうしたシュミット?って、おい!?」

 

シュミットは分断されたことについて危険だと思ったその時、ゼロの領域は衝撃的な光景を映した。それはネウロイの攻撃を受けているサーニャのシールドが破れ、サーニャの持つフリーガーハマーに()()()()()()()光景だった。

そして、彼は急いで急上昇をした。エイラは突然上昇をして自分の横を通り過ぎて行くシュミットの行動に驚くが、シュミットはそんなのお構いなしに飛行していく。彼が向かっていく先にはシールドが今にも貫かれそうになっていたサーニャが居た。

 

「サーニャ危ない!!」

「え?きゃっ!」

 

シュミットは勢い良くサーニャを抱き寄せた。サーニャは突然シュミットが現れ体を引き寄せられたので小さく悲鳴を上げたが、その衝撃で手に持っていたフリーガーハマーが離れた。そして、シールドが消えたことでビームはそのままフリーガーハマーへ直撃した。

すぐさまシュミットはフリーガーハマーの方向へシールドを張りる。それと同時に、フリーガーハマーは内部でロケット弾が誘爆し、周囲に赤黒い炎と黒い煙、そして壊れたフリーガーハマーの破片をまき散らした。

 

「サーニャっ!!」

「シュミットさん!!」

 

エイラと芳佳が叫ぶ。二人の姿は、黒煙の中へ包まれたのだった。




本来ステルス機を捉える場合、レーダーは低周波レーダーを活用するという手段がある為、こんかい強化したら逆に強くなるんじゃないか?と思う人が居ますが、シュミットの強化は使用者の能力を『昇華』させるものと考えてもらえればありがたいです。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。